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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第7章 二つ目のサイクロプス
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首狩りと首なし


「魔物とかモンスターのたまり場って聞いて、びっくりしちゃったよ」


 いったい、どこのデカイやつが歩くのだろう、と思うような高い天井の廻廊を進む中、ペランドーが雑談を投げかけてきた。

 ここは【霧と黒の城】の遺跡の中で、中央の城へ通じる地下通路だ。今は解放されて、ある施設へ向かう道として使われている。

 オレたち以下、護衛を含めた12名は、安全なこの廻廊の奥底へと向かっていた。


 モンスターサロン(モンスターのたまり場)。オレたちの目的地はそこだ。


「ちょっと言い方が悪かったな」


 道中、暇を持て余し、廻廊の柱の数をかぞえ、それを歩数と人数で割りながら歩いていたオレは、そんな無駄な計算をやめてペランドーの雑談にのった。

 

「そりゃモンスターや魔物がいっぱいいるところって言ったら、どう考えても戦うのかと思うよな」


「え……そうじゃないのですか?」

 

 アナザの右隣りと歩く殴り合い大好きなヴァリエが、握っていた拳を解いた。

 まだそう思っていたようだ。

 アザナの左隣りを歩くアリアンマリが、呆れたようにため息をついた。彼女は勘違いしていなかったらしい。

 いくら強くても、有力貴族の初心者を、そんな場所に連れていくわけがない。護衛も看過しないだろう。


「それでどんなところなの? そのたまり場って」


「そうだなぁ……」

 ペランドーの質問にのって、オレは最初から説明することにした。


「遺跡が解放されていくと、どんどん古来種の命令から解放された魔物たちが増えてくる。そういったやつらの集まってる場所だ」


「命令から解放されたからって、魔物も生き物。消えてなくなるわけではないですからね。ああ……霊体のアンデットは消える場合ありますか……」


 真後ろのアザナが補足する。

 

「その魔物たちって、この【霧と黒の城】の全区画が解放されたらどうなるの?」


「だいたいは自分の生息場所に合った場所に帰る……いや行くというべきか。野生に戻る感じだ。オークみたいな亜人はコミュニティコロニーに合流する。なかには人間と共生していく場合もあるな。それから……ほら、アンズランブロクール家……イシャン先輩のところのワイバーンなど魔獣のほとんども、もとは解放された魔物である場合が多いんだよ」


 もちろん、人間の支配下になってから世代を重ねている魔物もいるのだが。


「じゃあ、もしかして魔獣従属の古式魔法を知っていたら、魔獣とか魔物をペットにできるの?」


 ペランドーが何かを期待して、笑顔を浮かべていった。


「ああ。それを望んでいる魔獣もいるくらいだからな。ヘルハウンドとか番犬に欲しがる貴族もいるし、ヘルハウンドもそういう飼われる立場を喜ぶ。……だがしかし、良く考えろ」

 

 炎を吐く大型犬の魔獣を例に出し、ペランドーに警告をする。


「だがしかし?」


「魔獣の管理にかかる金……。計算したほうがいいぞ」


 最近、赤い月巡りごとに我が家にくるケルベロスの餌代が、バカにならなくなっていることを実感するオレが警告した。


「ああ……そっか……」

 

 そういってペランドーは肩を落とす。

 彼の家は鍛冶屋で、道に面した店舗があり庭がない。中庭はあるが魔獣を飼えるとは思えない。餌代だけではなく、スペースも問題になりそうだ。


『ザルガラさま、ザルガラさまー』


 先行してオレたちの向かう道を照らしつつ、自由に踊っていたタルピーが振り返る。


『火の精霊とか……いる?』


 ちょんちょんちょんと、跳ねながら戻って来たタルピーに、オレは現実を伝える。


「前も言ったがそういう実体のない精霊とか神霊とかそういうのは、ほとんど古来種についていっちまったからなぁ……」


 どういうわけか古来種は肉体を持つ生命体より、情報生命体を優先する節がある。

 人間は優先されているほうだが、精霊たちほどではない。

 精霊などの自然に直結した情報生命体は、古来種と相性が良かったのだろう。つられて高次元へと行ってしまった。


『そっかぁ……』


 タルピーは寂しそうな顔で、踊るため前に歩いていった。


「ぎゃお! エトがいるじゃない!」


 うなだれるタルピーを気遣って、エト・インが一緒に飛び出していった。安全が確保された遺跡とはいえ、普通の子供なら先行させるのは危ないのだが、古竜の子供を心配する必要はまったくない。

 結局、お子様2人はそのまま先頭を進んでいく…………あれ? タルピーは一万歳以上だったか?


『……女の子の年齢詮索。それはいけないこと』

 ディータがオレの思考に割ってはいってきた。

 まあ、タルピーの年齢などどうでもいいので、詮索する必要もないだろう。


 やがて高い天井の回廊は終わりを告げた。


 数体の竜が並んで歩けるほど幅があり、巨人より大きな柱が並ぶ回廊は、天井の高さをそのままにして先細っていく。

 その終点に巨大な両開きの扉があった。

 

『ほぇーー……』

「ぎゃぁお……」


 先行していたお子様2人がバカみたいに口を開けて、天井まで届きそうな扉を見上げる。


「大きいですねー、ザルガラ先輩」

「巨人でもいるんでしょうかねぇ、アザナ様」

「ねえねえ、アザナ! 巨人がいたらどうします?」

「肩に乗せてもらおうかなぁ」


 後続のアザナたちも、扉を見上げて似たような反応をしていた。

 

「よし、じゃあ開けるぞ。普段、戦う相手の魔物たちがどんな生活してるか楽しみだ」


 オレは開門の魔法を使って、人間の力では押し開けることができない巨大な扉を開いた。

 重く空気を震わし、ごうんと扉が押し開かれる。


 内部は明るかった。広かった。

 そして玄関ロビーと化している真ん中に、ちょこーんと立つウサギがいた。


 高い天井の回廊に巨大な扉、広い玄関ロビーと続いたせいもあって、ことさらそのウサギは小さく可愛らしく見えた。


「かわいいーっ!」

「わー、うさぎさんだ!」

「ザルガラ先輩、ザルガラ先輩! ウサギさんですよ!」


 大半を占める女子勢が、待ち受けていたウサギの可愛さにメロメロだ。ティエもディータも、メロメロだ。やっぱり女の子だなと感じさせ……って、アザナもメロメロだな!

 

 二足歩行というよりは、遠くを見るため立ち上がったかのような仕草。

 愛らしい眼はオレたちを見つけると、友好的な態度で右手を上げる動作を見せ――。


「はーい! はじめまして! すがたかたちが古来種の創造主と似てるからって、奴隷の癖に優遇されてるお猿さんたちーっ!」


 などとほざきやがった。

 これにはドン引きの女子勢たち……。アザナの笑顔もひきつっている。

 さすがティエは警戒すらし始めていた。


「皮剥いで古来種のいる世界に焚き火ごと転送すんぞ」


 なんかウサギにケンカ、売られたので買うことにした。


『……なんだかさらっとすごい真実が暴露されたような』

 ディータが思案顔になっている。

 このウサギ、なにか重要なこと……言ったのか?

 古来種の創造……主?

 造られた?

 いや、それより古来種よりさらに上なる存在がいるというのか?


 ディータの声で詮索を始めたオレだったが、直後にウサギの一言で遮断される。


「お? お猿さんたちばっかりだと思ったら、子豚さんもいるようだねぇ」


 ウサギの毒舌は止まらない。ペランドーを見てそんなことを吐きやがった。


「ひどい!」

 

 ペランドー泣きそう。


 あとフモセとヴァリエが互いを見合っている。一瞬、どっちが言われたのか気になったのだろう。擦り付け合うな。

 

「ペランドーのことだと判明して胸を撫で下ろしてるのか」

「ち、ちがいます!」

「そ、そんなこと思ってません! ……ご、ごめんなさい」


 激しく否定する2人だが、微笑みかけるアザナの視線に負け、しゅんとしてペランドーに謝った。


「大丈夫だよ」


 ペランドーは許した。こいつ、女の子に優しいな。

 ……あのツンツンワガママなソフィと一緒にいたら、そういう性格にもなるか。


「さーて、このウサギ。どうやら、もてなしの材料らしいから美味しく料理してやろうぜ」


「ちょ、ちょっとまって! なに言ってるのよ、このウサギ!」


 オレが腕まくりをしてウサギを懲らしめようとしたら、ガシャガシャと鎧を鳴らして女騎士が走って来た。

 その騎士には首から上が無い。

 首がない。

 きれいさっぱり頭がなかった。


「ひっ!」

 首のない騎士に、ペランドーがちょっと驚く。


「ちょっと、ちょっと! お客さんたちに何いってるのよ! もう戦う必要はないんだから、怒らせなくてもいいでしょう!」


 頭がないのに、どこから声を発しているのか。女騎士は毒舌を吐くウサギを、そっと抱きかかえて窘める。


「え? 忙しいから挨拶は任せるっていったじゃん!」

「いまのどこが挨拶なのよ! みなさんすみません、うちのウサギが失礼なことをいいまして」


 ウサギと女騎士は仲良さそうだ。仲間のようだが、毒舌ではなく常識もあるらしい。

 首はないが、騎士らしく立派な所作で詫びを入れてきた。ので、オレも振り上げた拳は下げることにした。


 オレが矛を収めると、アザナが代わって前に出て女騎士に問いかける。


「えっと……あなたはデュラハン、ですよね?」

 

 アザナは勇者という特質上、魔物について詳しい。一目見て首なしの女性をデュラハンと見抜いていた。


「やあ、ボクは首狩りウサギだよ!」


 毒舌ウサギが割って入ったが、女騎士デュラハンがきゅっと耳を掴んでぶら下げ黙らせた。 


 だがおかしい。

 デュラハンって、自分の首を小脇に抱えてるはずだよな。

 首なし馬の引く馬車に乗り、家を訪問する不吉な不死者アンデットであるデュラハンは、首が胴と離れていても、なくなっているわけではない。

 馬がこの場にいないのは、まあわかる。

 しかし目の前で首狩りウサギと仲良く小芝居している首なし女騎士は、どこにも首を持っている様子がない。


「はい、勇者様。わたしはデュラハンです」

 

 鎧をかちゃりとならし、胸を張って解答するデュラハン。

 やはりデュラハンか。じゃあ――


「じゃあ……首はどうしたんですか?」

 

 オレたちの誰もが抱く疑問をアザナが投げかけ、首なし騎士はあたふたと体のあちこちを探って言った。


「いけないっ! 慌てて鎧を着てきたら、頭を忘れてきちゃった!」


「それ、一番忘れちゃいけねぇモンじゃねぇか?」


「そんな帽子を忘れたみたいな言い方で首を……」

 

 いたずら大好きな勇者アザナも、このおっちょこちょいデュラハンに苦笑いで呆れるしかなかった。



ただいま!

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