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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第7章 二つ目のサイクロプス
200/373

冒険者の港

本日は連続投稿しております。


朝の更新がありますので、夜の更新に気が付いて開いた方はお気を付けください


「……はっ!」


 王都から【霧と黒の城】へ向かう森の道を馬に乗り、器用にうたた寝しながら進んでいたら、イヤな感覚に目を覚ました。

 周囲を見回すと、護衛の騎士と兵がオレを見て驚いていた。後ろの馬車からもアザナがこそ……と覗いている。クラメル兄妹の乗る馬車は離れているため、気が付かれていない。


「ど、どうしたの? ザルガラくん?」


 すぐ隣で馬に乗るペランドーが心配して聞いてきた。

 オレは頭を振りつつ、鞍を押しながら座り直し答える。


「……それが、なんだかロクでもない夢を見たような……。誰かが面倒事を見て見ぬふりをしたような……具体的にはテューキー先輩が、確信に気が付いたのになかったことにしたような……。しかもそれはずいぶん前のことで……すでに手遅れのような……」


「ぐ、具体的だね」


 具体的な夢の話に、ペランドーがちょっと引きぎみに驚いている。

 

「ねえねえ、ところでザルガラくん」


 オレがうたた寝していたので、暇だったのだろう。夢の話を流して、ペランドーが会話を切り出す。


「ん? なんだい?」


「今回はどうして空を飛んでいかないの? ザルガラくんとかアザナくんとか、みんながいれば空くらい飛んでいけるんじゃない?」

 

 ペランドーは馬車や護衛を横目で見つつ、疑問を投げかける。


「あー、ちょっと思うところがあってな。ほら、オレ、最近、カタラン伯のところへ行ってるだろ」


「うん、戦争をしにいってるんだね?」


 辺境伯同士の戦いを思い描いたのか、純真なペランドーの目が輝く。


「オマエが思うようなもんじゃないけどな」


 それを切って捨てるの悪いが、あまり夢を持たせてもよくない。戦争とはそういうものだ。

 そもそも扮装だし。


「人数が多いから単純に飛んでいくの大変……てのがあるが、せっかくだから行軍を想定して練習も兼ね、旅と旅の準備を楽しもうと思ってな。……ペランドーはどうだい、旅?」


「楽しいよ」


 笑顔で即答するペランドーに反して、オレの表情は沈む。


「それは良かった。まあ……オレも楽しくなると思ったんだが、そうでもなかった。旅の準備……いや行軍を想定して準備すると、これがまあこれほど大人数の差配が大変だったとは……」

 

 オレとアザナくらいならともかく、クラメル家とルジャンドル家の子供たちがいるので、護衛まで確保されていた。カヴァリエール家の騎士の姿もある。

 つまり人数が増えた。

 そのせいで旅の準備が思いのほか大変になってしまった。


「これがさぁ、計算したらびっくりびっくり。馬に駄載ださいできる食料って意外と少ないんだな」


 オレは馬車の後ろを進む3匹の駄載獣である駄馬を顎で指した。


「そうなの? あんなに積んであるのに?」

 

 ペランドーは「あんなに」と言っているが、実は規定量以下の駄載だ。かつかつな商人や軍の行軍なら、3倍近くは積むこともあるだろう。

 あれでも加減してる。


「そう思うだろ? そうでもないんだよ。あれで3日分なんだぜ」


「そんなちょっとなの!」


 ペランドーが驚くのも無理もない。オレも試算段階で驚いて検算してしまったくらいだ。

 オレたちとアザナ一行にクラメル兄妹。その護衛や従者と使用人を合わせて総勢25名の小行軍。こんな程度を管理するなんて簡単だと思ったらそうでもなかった。


 25人の糧食と旅用品と生活用品は、想像以上の重量であった。


 各々個人で携帯している糧食もあるが、それは予備程度のものだ。合わせても5日分とならないだろう。しかもそのうち1日分は、まずい固形食だ。


 こういう仕事を差配するカタラン伯のところのオーバラインとか、もっと大軍で切り盛りしてるんだよな。感心する。そりゃ1人でやってるわけじゃないが……。


「貴族のオレが言うのもなんだが、貴族様って無駄な荷物あるし……折り畳み式テーブルとか椅子とか……、まあそれはいい。想定していた」


 食器や生活必需品。

 荷馬車があればいいのだが、そこまで用意するような旅じゃない。


「驚いたのは、食べ物って糧食に加工してあっても重いしかさばるし、人間て意外に一日食べる量も多いんだな。金はかかるし、荷馬はクラメル家の持ちだしだからいいが、もし買うなり借りるなりしたら相当な負担だし、馬まで借りたらもうそれだけで……」


 なんか愚痴になってしまった。

 ペランドーの笑顔がひきつっている。つまらない話をしてしまったな、とオレは反省してため息の後、話を変えた。


「まあ、なんだ。冒険って実際にやってみると夢が枯れるな。快適にしようと思えば、金がかかるとは気がついてたが……。まさか思った以上に不都合がでてくるとは……」


 もっとも金の出どころはクラメル侯爵家とルジャンドル子爵家、そしてベデラツィ商会からだ。オレの家の懐はほとんど傷んでいない。いやまあベデラツィ商会からウチに払い込まれる痩せ薬の分け前から天引きされているので、実際にはオレも払っているわけだが。

 そのベデラツィ商会は商売の関係相手から買い付けているので、かなり安く上がっているはずだ。


「それに馬の水飲み場は道中確保されてるから、馬の水はまあそれほど用意しなくて済んだんだぜ」


 これも今は、だ。【黒と霧の城】の解放がおぼつかない当初は、水飲み場など設置されていなかった。


「多分、今回の旅でちょっとした家庭の年間収入はかかってるな。もちろん、護衛兵の給金や手当無しの計算で」

「そんなに」


 言葉少なに驚きを表すペランドー。

 オレも試算を始めようと請求書の束を見始めた段階で、ゾッとするものがあった。


「冒険者が地元まで発掘品を持ち帰らず、現場の開発局へ売る理由がわかったよ」


 小物や携帯できる装備ならまだしも、荷物として駄馬に載せるような代物では、運搬費だけで儲けが吹き飛ぶだろう。どこそこならば高く売れるからとか、地元の発展やら余計な考えをせず、金に換えた方が効率がはるかにいい。


「まさか馬があって、25人が3日しか移動できないなんて……」

「しかも訓練されたクラメル家とルジャンドル家の騎士と兵士だから、行程にまず問題が出ないんだ。これが頼んで雇った護衛だったら、日程通りにいかないだろうし、無駄な出費もあるだろう」


 それに物資をくすねる奴も、家人や騎士ならいないだろうしな。


「ま、とはいえ足りないものはオレが魔法で作ればいいんだけど」


「ずるい!」


 水や栄養食を片手間に造りだすと、ペランドーが指を差して言った。

 ずるいって……そんなこと言われても。


「いやー、でもペランドーだってちょっと材料あれば、日用品を使い捨てできるほど作れる領域じゃん。魔力に余裕があるからゴーレムを荷物持ちにできるだろ?」


 今回は行軍準備の練習なので、そういった裏技や個人の力に頼る手段は考慮しなかった。魔法はつくづく素晴らしい。


「そ、それはそうかもしれないけど……」


 ペランドーは成長途中である。このままいけば、一角ひとかどの魔法使いになること間違いない。


 オレには遠慮してたが、以前の冒険では白銀同盟がペランドーに熱い視線を送っていた。しかし学園の特待生ともなると、冒険者になるようなモノ好きはまずいない。

 ペランドーだって家を継ぎつつ、街士として地元に貢献していくはずだ。

 もしかしたら将来的に日曜冒険者として、遺跡の発掘に赴く趣味を持つかもしれない。白銀同盟はそれを期待しているのだろう。


 ――こうして旅は、オレが愚痴を言うくらいで何事もなく進んだ。


 途中、ディータがアザナの取り巻きと揉めたが、すぐに仲直りしたので問題ない。

 しかしあの女子たちは、なんでオレとアザナの勝敗ではなく、攻撃と防御のことで揉めるんだろうか?

 会話の意味がいまいちつかめないのでわからないが、オレとアザナの勝負に独自ルールと解釈を見出しているらしい。


 ちょっと気になるが、女の子の会話にするりと入り込める自信がない。

 あとでアザナに訊いてみるか。

 

「ん? なんですか?」


 馬車の中にいるアザナの横顔を見ていたら気付かれてしまった。


「いや。別に」

 

 【霧と黒の城】の入口が見えてきたので、とりあえずこの質問は後に回そうと誤魔化した。

 

 冒険者街に入り、オレたちは入口近くの馬屋に乗って来た馬を預けた。開拓が進んで街のようになっているが、まだ冒険者街か開拓街である。馬で乗り入れられるほど整備はされていない。

 馬車も同様なので、ここでお別れだ。


「では、我々はここで」

「後で治療院にもいらしてくださいな」


 クラメル兄妹もお別れだ。彼らは冒険にきたわけではないので、目的地が違う。


「怪我するようなこともないでしょうから、遊びにいくね」

 

 アザナがそう言って見送ると、治療院は遊び場じゃないとクラメル兄妹たちは言い返した。

 しかしそれだと怪我してこいとでも?

 面倒くさい奴らだ。


 クラメル兄妹とその護衛たちを見送り、オレたちは【霧と黒の城】の入り口を目指す。


「おー、ずいぶんと変わったなぁ」


 冒険者街は仮住まいのテントや天幕が一切なくなり、小さいながらもレンガや石造りの家が立ち並んでいる。すっかり街らしい街へと変貌していた。


「そうなんですか?」

 

 オレの前を跳ねるように歩いていたアザナが振り返って聞いてきた。

 アイツは以前の様子を知らないので、現在の冒険者街が普通だと思っているのだろう。


「前は天幕で宿屋をやっていたところもあったくらいだからな。解放が遅れてて、なかなか開発が進んでなかったんだ」


「そうなんですか。見たかったなぁ、その当時の」


「誘ったのにこなかったのオマエじゃん」


 もっともアザナにも事情があったから仕方ない。

 そんな観光気分で【霧と黒の城】の外郭門を潜ると、健康的な小麦肌の少女がオレたちに駆け寄って来た。


「おまちしておりましたー! ザルガラ様!」


 ターラインの1人娘、アンだ。 

 客商売に最適な明るい笑顔と素朴な顔つき。そして以前より育った身体は、大人と少女の狭間にあった。


「本当に……おまちしておりました。ザルガラ様」


 なぜ2回言った?

 大きな胸の前で手を握り合わせてから、なぜ繰り返し言い直した?

 

「ふーん……」


 そしてなぜアザナの目は細くなった!?


『……わたしも詳しく聞きたい』


 さらになぜ、ディータはオレの首を絞めるように、腕を絡めるんだ!?


 昔TRPGをプレイしてた頃、作者も似たような計算してびっくりしました。ザルガラと同じく計算しなおしました


 作中の馬は80kgから100kgくらいの少な目な駄載を想定しています。(スタミナに余裕を持たせるために)

 25人が一日に飲料水も一部含め2.5kgを消費するとして、65kgです。まさかの馬一頭で一日分ちょっとです。130kg駄載したとしても一頭で二日分です。

 3頭中、1頭分は馬の食料を積んでる設定ですが、計算は特にしてないです(サボり)。もしかしたら足りてないかもしれません。

 最低限のカチカチなパンとかレーションならもっと軽いでしょうが、多少は快適な旅を考えているので2.5kgで計算してみたらこの事態です。


 乗用の馬車に食器など生活用品を載せているとしても、駄馬2頭では足りないですね。


 ではなぜ荷馬車を出さなかったかというと、3トンの積載とすれば今度は重量に余裕が出過ぎるのでおそらくコスト的に利用しないのではないか?と作者が考えた次第です。


 ではカート(小荷車)を利用しては?

 と思われる方もいらっしゃることでしょう。

 しかし計算したときの驚きを表現したかったので、あえてカートも出しませんでした。

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