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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第7章 二つ目のサイクロプス
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プライマリーゴーレムレース

新章開始です


 光の差し込まない迷宮の奥底。

 誰もいないと思われた大空間の一角で、大きな光球が膨れ上がった。


 無数の巨大な柱が暗闇に浮かびあがり、部屋の中にいる人間たちは小ささを思い知らされる。


「5時! 5時方向から攻撃だ!」

「隊列を3番に変更!」

「敵は巨大! 柱と見間違うなよ!」

「魔法だ! あのデカブツは魔法を使ってくる!」


 古来種の遺産を求め迷宮へと踏むこんだ10人の冒険者たちが、魔法の光を頼りに隊列を変え、不意打ちから立ち直ろうと各々が訓練と経験を生かした行動を取る。

 不意な一撃を耐えきった一行だったが、体勢は完全に取り戻せずにいた。黒い大きな影の猛攻に、終始押されている。


 そんな中、1人の魔法使いが右目を押さえて下がる。


「レイノルズがやられた!」

「なんだってんだ、この巨人ッ! どこから出てきた!?」

「そんな、あれは……あの巨人はおとぎ話のはず!」


 巨人の大きな目が1つだけ暗闇に光る。

 冒険者たちは巨人の大きさと、光る眼に気圧されていた。

 

 誰もが腕に覚えがある冒険者たちだ。魔法使いとしても名の通った者と、戦士として最高峰といって過言でない腕を持つ者と、遺跡の調査に長けた学者を兼ねた罠師もいた。


 そんな10人をもってしても、巨人を倒せない。それどころか戦いにならない。

 1人、また1人と目を押さえて戦線を離脱していく。

 中には片目のまま対峙するが、勇猛さで劣勢は覆せない。

 

 最後の冒険者が、左目に傷を負ってその場にうずくまる。


 それを見て満足したのか、巨人はだらりと両手を下ろし戦いの矛を収めた。


「見逃された……のか?」

 立ち去る巨人を見送り、一行のリーダーは警戒しながらも脱力してつぶやいた。

 冒険者たちは満身創痍。戦闘も冒険も継続不可能であるのは明らかだ。

 巨人の目的はここで追い返すことで、殲滅ではなかったのか?


 だが、自分と仲間たちの傷を見てリーダーは考える。誰もが右目か左目、片目を失うほどの大けがを負っていた。


「あの巨人……まさか」

 ありえない考えが浮かんだが、リーダーは首をふって否定する。しかし、その言葉を引き継ぐ仲間がいた。


「まさかあの巨人……仲間でも増やしたつもりなのか?」

 仲間が奇しくも同じ印象を抱いたようだ。リーダーは仲間の発言を聞いて、改めて巨人の姿を思い起こす。


 巨大な身体を全身鎧で包み、兜から覗く瞳はたった一つのガラス玉。


 あれは……おとぎ話に訊くサイクロプス、そのものだった。



   *   *   *

 

 エンディアンネス魔法学園の上空で、ぽんぽんと花火が弾けた。白煙が風に流され、青空の中に消えていく。

 そんな快晴な空を背景に、妙に快調な新生徒会会長テューキーの声が響き渡る。


『王都10万のゴーレムレースファンのみなさま、お待たせいたしました! 毎年恒例の第一回エンディアンネス魔法学園ゴーレムレースの開催です!』

 

 普段は人の少ない練兵場に、集まる生徒たちが歓声を上げた。

 そんな観客たちに紛れ、タルピーも跳ね飛びながら踊っている。


 練兵場の中央には8体のゴーレムが一列に並べられている。そのゴーレムの後ろに、オレを含めた製作者たちも整列していた。 


 周りの騒ぎを練兵場の中央で眺めながら、オレは生徒会長の発言にツッコミを入れる。


「第一回なのに、毎年恒例とかいい加減なことを言いやがって……テューキーのやつ」


「先輩はつっこみ解説として、アナウンサー席に座られては?」


 隣のレーンに居るアザナが、オレに解説役を薦めてきた。


「たぶん、つっこみが追いつかないぞ。公称定住者10万人の王都で10万人のファンって、全員かよ。それどこ情報?」


「そこはなんでも大きく言っておかないと」


「なるほど。……はったりか」

 アザナはテューキー発言の肩を持ち、オレも一応は納得した。そんな中、生徒会長の無責任な煽り文句は続く。


「ダメだよ、ザルガラくんはうちの大事な選手なんだから。ぼくじゃ新型ゴーレムの操作はおいつかないもの」

 最近、ちょっとぽっちゃり減少したペランドーが、己の技量を謙虚に訴えた。謙虚なのはいいことだが、特別クラスいる時点で、彼のゴーレムの操作も相応なんだ。他のやつらに聞こえたら、嫉妬されるぞ。


 ペランドーはサポーターとしてオレのチームにいる。アザナのチームは、フモセがサポーターだ。

 ちなみにオレのところのゴーレム製作はワイルデューのチームが行っている。

 アザナのところは……アザナの取り巻きたちがやったそうだ。あいつら、魔具製作はさほど得意じゃなかったと思ったんだが――。オレの記憶違いか?


『さあ今年も残すところあと6巡り。このゴーレムレース。まさに本年を締めくくるにふさわしいイベントですね』


 まるまる半分残ってるじゃねぇか、今年。ほんとうにいい加減なアナウンスするなぁ、テューキー会長。つっこみ解説として、あそこにいなくて良かった。たぶん話が進まなくなる。


『申し遅れました、進行司会を務めさせていただくテュキテュキーです。よろしくねっ!』

「うおー、会長ぉーっ!」

「テューキーっ!」

「きゃーっ!」


 テューキーのウィンク一つで、観客たちの声援が上がった。男子生徒、女子生徒に関わらずだ。

 エルフというマイノリティな立場なのに人気がある。王国のいいところだ。


 まあ、彼女自身の才能によるところも強いが。


『解説は、魔具作成科教頭のディオ・ファントウス先生です。本日はよろしくお願いします』


『ふむ。任されよう』

 

 紹介を受け、机に肘をつくファントウス教頭。うっとおしいほど長い髪が顔を隠し、陰鬱な雰囲気を際立たせる。

 当然というべきか、かわいそうなというべきか。テューキーとは違い、生徒たちの反応はまったくない。


『本日初めてのゴーレムレースとなりますが、ファントウス教頭先生はどのような感想をお持ちでしょうか?』


 歓声が無い分、すぐさまテューキーが司会の仕事を進めた。


『稼働時間と頑丈さを至上命題とし追い求められていたゴーレム研究の目が、正確な動作と速さに向けられたことは、たいへん喜ばしいことであります。またその停滞していたゴーレム技術が、わが校から発展を迎えることも誇らしいことです。この発展に学者として興奮し、拡張は技術者としても喜ばしく、実践と授与は教育者の誉れと言えるでしょう』


 さすがは5教頭の1人だ。テューキーのいい加減な発言と違い、非常にまともな解説である――が、観客の反応は薄い。

 

 ファントウス教頭の言う技術の発展とは、ここに並べられたゴーレムたちを差す。と同時に、ディータ姫の入っているゴーレムも含まれていた。 


 その問題いっぱい満載ゴーレム=ディータは、アナウンサー席の一段高い後ろの席で静かに座って練兵場を睥睨へいげいしている。その神々しく大人しくしている姿は、人ならざる器に入りながらもやはり姫様と思わせる何かがあった。

 

 現在、ディータの身体ゴーレム技術は、学園発の新技術として発表されている。

 以前、水軍士官から警告されたので、学園には利益を還元しつつ対応と責任などの壁役になってもらった。

 学園は問い合わせなどの対応で大忙しだが、おかげでオレは面倒ごとから守られている。もちろん学園側には技術を提供した。どちらも利益を得ている。


 身体が学園で厳重に保管。時々外出する以外は、以前通りオレの背後霊よろしく高次元体として行動している。

 ポリヘドラ家のエンディ屋敷の警備が不安な現在、ディータの器であるゴーレムは学園にあった方が安心である。オレといるとき、高次元体になっていればディータは何があっても安全だ。

 完成したとはいえ試作品に過ぎない。ディータの琥珀ゴーレムは未知数だし、稼働させたままというのも不安だしな。


 学園ならば最高の安全チェックとメンテナンスができる。オレはそれに協力するだけだ。


 それに外部の協力を得ているが、学園の技術も利用してるところが事実多い。ワイルデューたちなど学生の力も借りている。


 ここにアザナの技術も投入され、学園内のゴーレムの技術は大きく発展した。

 特に複雑で正確な動作と速さが伸びた。

 その成果を試しつつ競い合わせるため、生徒会はゴーレムによる障害走を企画。学園も協力し、普段は閑散としている練兵場がレース場へと早変わりした。


 足場の悪い砂地のコースや、蛇行する平均台とハードルが並ぶ。ここでゴーレムを走らせるわけである。

 レースの勝敗は成績に大きく影響しない。しかし関係各所から来客もあり、ゴーレム製作のアピールの場と期待されていた。就職先を探している魔具製作科の生徒たちには、格好のお披露目機会だ。


『それでは参加選手の紹介です!』

 テューキーが第一レーンから選手を紹介し始める。ちなみにオレは第二レーンだ。


『父の持つ偉業が息子の輝きとなるならば、父の持つ業が彼の罪となるのか? 北海の麒麟児!』


 第一レーンに立っていた新入生が、オレの横顔を見ながらにやりと笑い一歩前に出た。


『アァァァ~ンドレ・ゴッォォォォールドスケールジッドォオオオオォッ!!』


 テューキーの巻き舌紹介と歓声に手を上げる金髪の少年。

 普通にアンドレ・ゴールドスケールジッドって呼べよ、テューキー。

 

 アンドレは新入生だ。オレの二つ下、アザナの一つ下である。

 なのに生意気この上ない目でオレを睨んでくる。まあ入学早々、アザナとのケンカに巻き込んで泣かせてしまったオレも悪いわけだが――。


「入学式の借りをここで返してやるからな! ザルガラ!」


 短い癖毛の金髪とデコを光らせ、アンドレがオレを指差し言った。


「あの時は本当に悪かったな。すまん」

 

 軽く頭を下げるオレ。


「あ、あっさり謝るな! お、俺の振り上げた拳の行き場がないだろう!」

 

 つい素直に謝ってしまったら、アンドレが困ったように手を振り回して顔を真っ赤にさせた。

 いや、だってオマエは煽らなくても突っかかってくるし、本当にオレが悪いわけだし謝った方がいいかなぁと。


「安心しろ。レースじゃ手を抜かないから、心置きなくかかってこい」

「い、言われなくてもそのつもりだ! 謝ったってこっちこそ手加減しないから、覚悟しろよ!」


 きゃんきゃんと吠えたと思ったら、ふんっと顔を背ける。アンドレはまるで子犬みたいだ。ケルベロスのエグザ・アイ・リーを思い出す。

 性格が現れたきつい目付きだが、爛々としたオレと違ってキラキラしている。どういったらいいか、まっすぐすぎる。

 オレと違って捻くれた感じがない。そしてアザナと違って真面目だ。


 さてそんなアンドレだが、正直いうと前の人生では名前くらいしか知らない生徒だった。接点がまずない。二年も学年が違うわけだから当然だ。


 入学当初は成績で目立っていたので、アンドレという名前を前の人生でかろうじて覚えていた。しかし、すぐにいろいろあって彼はいじめられ、窮屈な学園生活を送ることになった。目立たなくなり、成績もまあまあ。オレはアザナにかかりっきりだったし、アンドレなど眼中になかった。

 今みたいに突っかかってくることもなかったしな。


 生意気だが、素直で真面目な彼がどうしていじめられるようになったかというと、その出自が問題だからだ。

 

 彼の父親は諸侯のまとめ役として、エデュアール・ゴールドスケールジッド。貴族連盟の盟主だ。

 そう、10年前に現王に反旗を翻した貴族連盟。その盟主を継いだ穏健派の長だ。


 穏健派とはいえ、王国貴族の中では正統派扱いされていない。400年前の帝国崩壊後、別の国についていた貴族たち。平たく言えば貴族連盟は外様アウトサイダーの寄り合いである。

 今でこそ王国は安定しているが、昔はその時々であちこちの国に寝返っていた経歴のある貴族だ。

 

 うちのようなのんきな譜代の貴族とは違い、ある意味で苦労と戦乱に揉まれついえなかった実力派たちである。


 穏健派であったゴールドスケールジッド一派は、王と矛を交えたわけではないが、政争ではいろいろあったようだ。そんな一派の息子が、中央も中央のエンディアンネス魔法学園に入学したらどうなることか。

 

 目立つならなおさらだ。


 能力と出自と性格が目立ち、有力貴族の子息に目をつけられたのだろう。


 しかしそんな彼も、現在はまるで違う立場にあった。

 

 金髪碧眼の美少年。まだ10歳ながら、将来はちょっときついが美男になることはまちがいないと、学園の女子生徒たちから人気である。

 現在、冷や飯食いのゴールドスケールジッド家だが、それを物ともしない財力があそこにはある。山脈を北方廻船貿易で財を成している。

 ……もっとも貴族連盟盟主の息子というのは大きなマイナス要素だが。

 

 今回、アンドレはいじめられてないようだが、なんでだろう?


 オレが首を傾げた時、アンドレの背後からとんでもない視線が飛んできた。

 いや視線のわけがない。

 

 なにしろアンドレの背後にいた人物の目を、オレは見ることができないのだから。

 

「ふふ……。やっと会えましたね、ザルガラさん」


 一つ目のマークを描いた布で両眼を覆う少女が、オレに向かってそんなことをいった。

 彼女は選手であるアンドレをサポートをする係なのだろう。オレにとってのペランドー。アザナにとってのフモセにあたる。


 しかし、彼女はなんとも……恰好が風変り……奇抜だ。

 周囲を棘で飾られた一つ目アイマスクが目立つ。眼帯どころではない。完全な目隠しだ。

 盲目なのかどうなのか知らないが、魔法的な補助で周囲をているのだろう。


 理由はわからないが、不気味だった。もちろん格好は変だが、変態を見慣れているオレにとって大したことではない。

 アンドレのような子供染みた対抗心など、オレ自身がその先駆者であって珍しくもない。だが、アンドレのサポート役として控える少女は底がしれなかった。


 放つ気配も尋常じゃない。アンドレのぶつけてくる敵意の比ではない。


 何者だ、こいつ。

 只者じゃない。


 隠されていない感情を表す口角が、にやりと上がる。覗く白い歯すら不気味に思えた。


 いったい、なんなんだこいつ……。


「やっと……巡り合えた」

 

「…………な、に?」

 アイマスクに描かれた一つ目で、熱い視線をオレに向ける少女……。

 オレは不覚にも気圧され、言葉を失ってしまった。


「私はイマリー。イマリー・プライマリー」

 イマリーと名乗った不気味な少女が、一つ目を描いたマスクに手を伸ばす。

 そしてそれを引き上げようとした時――。


『おおっと! ここでレギュレーション違反が判明!』


 選手紹介をしていたテューキーのアナウンスが響き渡る。

 そしてイマリーを指差して宣言する。


『アンドレ選手のサポーターであるイマリーが、学園外部の人物と判明しました!』


 ――え?


 ざわつく観客と選手たち。


『レギュレーション違反によって、アンドレチームは失格となります』

 

 え、なんだって?

 あ、そういえば制服着てないじゃないか、このイマリーってやつ。


『ではアンドレ選手、退場願います。執行部のみなさーん!』

「いーっ!」

「いーっ!」

「そ、そんなイマリー! 君はここの生徒じゃなかったのか!」

「いーっ!」

「ああぅ! 待って! せっかく会えたのにーっ!」

「いーっ!」


 謎の「いーっ」という声は、執行部の掛け声である。なんでこんな掛け声なのか、誰も知らない。


 生徒会執行部メンバーたちによって、追い出されていく謎のマスク少女イマリー。――と、アンドレ。

 彼らの製作したゴーレムが取り残され……あ、自動的にアンドレを追いかけて行った。がしゃがしゃと無機質な動きで退場していくアンドレチームのゴーレム。


 こうして第一レーンは空いてしまった。


 第一回からグダグダだな、このゴーレムレース。


「……たしか、部外者は製作にも携わっちゃいけないルールだったよね」


「あ……ああ、そうだ。もちろん部外者はレースにも参加できない。だからタルピーもディータもコース外にいるんだよ」


 ペランドーがレギュレーションの確認をしてきた。本来、説明するまでもないんだが、アンドレたちの様子を見て、ペランドーも思わず確認したかったのだろう。


 それなのに、アンドレのヤツ……何やってんだ。

 あとあの一つ目マスクも、一体全体なんなんだ?


「いったい、なんだったんでしょうね。先輩」


 呆れるオレの横で、疑問をアザナが代弁してくれた。


 本当にいろんな意味で、いったいなんだったんだあいつ。


ネット環境の都合で、数日ほど感想返しができません。申し訳ありません。

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