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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
タイムエラプス 番外編
190/373

王国の様子 1

遅くなりました。申し訳ありません。

数話ほどザルガラとアザナがやらかしたせいで、王国や街がどうなっているかの様子を描きたいと思います。


 王都で一際異様な建造物であるラブルパイル城。

 穴あきチーズを積み重ねたがごとき外観は、普通の城を知る者からすれば異形という他ない。


 しかし、さすが古来種の造ったものだけあって、この城の機能性と防備性は高い。

 直接的な攻撃にも自然災害にも強く、内部での敵対行動も制限される。


 穴があるように見える部分は、この次元から見えないだけで高次元物質に置換され存在している。そういった部屋はすべて特殊な利用法ができ、通常の物理現象では決して劣化せず壊れぬという副次効果を持っていた。


 季節外れの長雨が止んで月がひと巡りし、空気が乾燥するある日。

 ラブルパイル城の小ギャラリーと呼ばれる部屋に、王国の重鎮が集まっていた。


 パーティーやお披露目などに使われる大ギャラリーに比べ、小ギャラリーはより多目的に使われる。身内のパーティーや秘密の会議や緊急の避難所などと多岐にわたる。

 この部屋は高次元物質に置換された部屋であり、外からみると穴あきチーズの何もない部分にあたる。空間が隔絶されているため、盗聴対策など防犯に優れていた。


 内外各所担当の大臣や中央に近い将軍職、高級官僚が集まり、国家主席の登場を待っていた。


 やがて侍従長が奥の間に続く扉を開けて現れ、告知係がエンクレイデル王の入室を告げる。


「畏くも畏くも胞体をあまねく大陸へ配し、畏くも畏くも知と治で世界を満たし、貴くも貴くなる至尊古来種カルテジアンより統治を委任され、隔絶なることなく316の間、そのおん係累をその身に受け、中つと人民に 御姿のいでましーー!」

 

 膝をつきこうべを垂れ、告知を受ける臣下たち。

 奥の間に続く扉より近衛を引き連れ王が姿を現した。

 ケープを払い小ギャラリーに据えられた略式の玉座に座り、おもてを上げよと号令する。


「陛下。お言葉を賜りますようお願い申し上げます」

「うむ」

 侍従長が深く礼をして、重々しく口を開く王。

 口舌を待ち、身構える臣下たち――。


「では、ヨーカンはつぶか、はたまたこしか、さもなくば新鋭の豆か栗か? はっきりとさせようぞ」

 王の発言1つで小ギャラリー内の空気が張り詰めた。

 親交のある者同士ですら、互いに見合って意志をぶつけ合う。どうやら譲れない思いがあるらしい。

 空気が変わる中、冷静に侍従長が王の発言を正す。


「陛下。畏れながらお間違いになられております。このたびはディータ姫殿下とポリヘドラ家次男の扱いについての審議にございます。ちなみに私はこしです」

「うむ、そうであったな。余はつぶだ。そなた、あとで話がある。……では改めて。此度、集まってもらったのはほかでもない。すでに触れたように、わが娘ディータが姿こそ変われど帰ってきてくれた。そこで――」

 違った意味で小ギャラリー内の空気が張り詰める。

 改めて王の言葉を待つ家臣たち。


「……余としてはディータを次期女王に据えたい」

 この発言には単純に王朝の維持ではなく、娘としての関係を修復したいという気持ちが多く含まれていた。

 居並ぶ臣下たちは言外に含まれた胸懐きょうかいを察し、政治的な考えを除外して応えようとした。

 ざわざわと周囲の人間と相談し始める。

 どうすればまず人ではなくなったディータを迎え入れられるかを議論する。


「葬儀もしてしまったわけだし……」

「それはまだ取返しが付く話だ。その問題はあとに回していいだろう」

「王族としてまず民に認められるかが問題か?」

「至尊古来種様方の施された王としての証、中位種統制能力カリスマチューンは残っておりますので、王族と証明するのは容易いかと」

「しかしそれだけでは、ディータご本人様と証明は無理ではないのかね?」

「そこは陛下がご確認されたと」

「陛下にご負担だけとは参るまい。そこは多角的な見地からの証明を」

「交信会に頼み、至尊方々にお言葉を貰うというのは?」

「古来種様の方々のお手をこれ以上煩わすわけには……」

 

 議論をする会場としては不適切な小ギャラリーだが、椅子に座っていない分、人があちこちへと動くことができる。

 系統だった論議はできないが、さまざまなアイデアが浮かぶ場としては適していた。

 

 その中から使える提案を拾い上げ、ディータ姫を再度迎え入れることは可能と判断された。

 王位そのものや継承の問題は先送りとなる。  

 

「その場合、をどういう扱いにいたしましょうか?」

 1人の大臣が新たな問題を提起した。

 ディータを姫として城に迎えいれること自体は問題ない。しかしゴーレムの製作者であり、実質的な保護者となっているザルガラはどうすべきか?


 ゴーレムという素体に入っているが、あまりザルガラと離れることは安全性好ましくないと、詳しくはないが概略を臣下のものたちは知らされていた。


「幸いにも彼は次男。まずは城にて内勤という形で召し抱え、いずれはポリヘドラ子息を王配のお立場にて迎えいれ、姫様の傍に置くとというのは?」

「婿とするというのか!?」

 やや飛躍した話に、場が騒然とした。

 出仕や内勤だけでもかなりの調整がいるというのに、婿は話が飛び過ぎだと多くの者が感じた。


 ポリヘドラ家は経済面で没落しているとはいえ、建国以来の名家である。さすがに王位などからは遠い上に、古来種が施した中位種管理能力カリスマチューンはないが、それでも家格は相応だ。

 しかし話が飛び過ぎる。

 すぐに反論が出た。


「考えそのものは悪くはない。しかしそれでは配偶者としての扱いであろう? 古来種とほぼ同じ存在となり、子を生せぬ殿下の今の姿ではそれは方便にもなるまい」

 真正面から否定せず、現実的ではないという反論だ。

 王配とは婿であり夫ではあるが、女王が世継ぎを子を生すために必要とされる配偶者だ。

 権威はそこそこ、権力は元の爵位に準じる形で、王宮内では窮屈な立場となる。

 王族ではあるが王ではないので、敬称は陛下ではなく殿下だ。


「陛下。ここは古い才人のどれかを復古させ、姫殿下の心を安らかとしザルガラ殿を置いてみては?」

 屋内でありながら丈のあるマントを纏ったアトラクタ男爵が提案する。その姿を見て、普段は顔色を変えない王が眉をひそめた。

 

「お前、公式の場では服着ろって余はいったであろう?」

「し、しかと着用しております!」

 アトラクタ男爵が慌ててマントを払うと、たしかにやや古臭いデザインの服を身に着けていた。 


「……なにぶん服を着ているのが恥ずかしいもので」

「気持ちは分かるが、屋内でそれはやめよ。いつものお前ならばまさか……と思うからな」

「まことに申し訳ございません」

 すぐさまマントを脱ぎ畳む。その様子を呆れつつ見守る大臣の1人が、アトラクタ男爵の意見に首肯した。


「しかし……まあ、アトラクタ卿の提案も悪くはない」

「まて、招き入れる前提で話すのもなんではないか?」

「そうだ。ここは彼に頼らずとも殿下を王宮に招く案を模索しても良いのでは?」

 中にはザルガラを排除しようとする意見もあった。彼らはザルガラの敵でもポリヘドラ家に遺恨があるわけでもない。滑沢な意見が出るためだ。これも致し方ない。

 思惑もあるだろうが、異論を発言するものにも利があった。


「だがな、皆の者よ。ここ数日、ディータと過ごした中であやつが言ったのだ。もしもザルガラと引き離すようなことがあれば、彼と共にこの世から消えることを選ぶと」

「な、なんと!」

「姫君がそのようなことを申されたのか!」


 ザルガラを王宮に呼びつけた際、王はディータと数日間を過ごすことができた。王は久々に親子の時間を取り戻した。

 その際のディータの発言は、単純に王宮にある高次元物質が新しい身体に合わないためだ。

 王城には各所、高次元物質の供給場所がある。しかしそれはすべてラブルパイル城維持のための施設だ。

 人間に例えると、ひたすら非生物を食べさせられるようなものである。


 ディータにとってザルガラと離れ王宮に住むということは、まともな食事ができないことに等しい。


「姫殿下がそのようなことを……」

 それを拒絶したディータの発言は、王やその臣下たちに勘違いされて受け止められる。


「つまりザルガラ・ポリヘドラは古来種様方の世界へ行けるすべを?」

「まさか同等ということなのか?」

 古来種の法では犯罪者とはいえ、古来種をいとも容易く退けたザルガラである。実力も能力も古来種と同じと考えてもおかしくはなかった。


 高次元世界へ駆け落ち――。


 王朝の終わりという問題だけではない。

 醜聞という下卑た問題でもない。


 古来種へと至る道を、あのザルガラが得た。それが問題なのだ。

 彼がいまだ高次元へ旅立たないのは、そちらに魅力がないから、こちらにまだ未練があるかなのかわからない。だが、理由があればその力を行使する可能性がある。

 しかも姫をつれて――。


 実際はディータがザルガラを連れ去るつもりなのだが、その点が知られても家臣団の不安はぬぐえない。


 古来種に直接接触する術を持つザルガラをそのままにするわけにはいかない。家臣団はそう考えた。


「これは……彼をなんとも我が方に取り入れなければなりませんな」

 王を含め、この場にいる者たちすべてが同じ意見を持った。


 この場にいる者は、思惑あれど誰もが王と同じ方向を見ている。

 家臣たちを見回し安堵すると共に、王国の臣ながら王には面従腹背の貴族連盟の者たちを思い起こす。

 エンクレイデル王が王位に就くにあたり、内戦とまでなった相手だ。いくら主だった者たちは罰を受け、今は力を削がれた連盟といえど、その結束はまだ硬い。


 潜在的な敵であることは変わりないのだ。


(そういえば、あやつが会談を申し込んでいたな)

 愛娘との暮らしより先に、貴族連盟首魁との会談を解決させねばと、決意する王であった。



4つほどの話を短くして一話にしようと思ったのですが、普通に一話分の量になってしまいました。

4つの話を同時進行で書いてたので、無駄に時間もかかるという失態。


補足

いままで古来種の尊称がなかったことに気が付き、至尊を利用してみました。

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