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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
タイムエラプス 番外編
188/373

分水路の迷宮 2


 白銀道場。

 子供でも冒険を体験できるその安全性は、古来種が施した仕掛けによって確立されている。


「つまり古来種が事故防止のため作った装置が残ってるわけなんだね」

 順番待ちで入口近くのベンチに座り、ソフィの入れたお茶を飲みながらペランドーが頷く。


「そうそう、そういうこと」

 ラウはペランドーたちの油断を誘うため、【分水路の迷宮】に仕掛けられた安全装置について説明した。


 地下迷宮内のほとんどが、取水路となっているこの施設は、もしもの事故に備えて一方通行の短距離【転移門】が施されている。

 この仕掛けによって通路から水路へ落ちれば、即時に入口へと戻される。


 古来種が施したこの安全装置を利用し、初心者用の迷宮は造られていた。

 落とし穴や突き飛ばしの罠で水路に落とし、【ふりだしにもどる】を再現しているのだ。

 安心の古来種設計。信頼の古来種ブランド。その信用度はこの上ないものである。


「でもちょっと嫌ねぇ。……それって一度はずぶ濡れになるってことでしょ?」

 説明をペランドーの隣りで聞いていたソフィが、髪をかき上げ口を尖らせる。

 いくら動きやすく汚れてもよい野外活動用の服とはいえ、濡れネズミは限度を超える。


「だいじょうぶだよ。落ちなければいいんだよ。いざとなったらぼくが助けるから」

「そ、そう。ま……任せるわ」

 ペランドーはこともなさげにいって見せた。以前であれば疑うところだが、今のソフィはペランドーを信じている。


「でも、もしものことがあったら承知しませんからね!」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

 ソフィが照れ隠しを含め念を入れるが、ペランドーはこれまた余裕の態度だ。


 完全に油断したな――。しめしめ、とラウたち3人はほくそ笑む。


 と、そんな5人の少年たちへ近づく青年がいた。

 魅力的で精悍なまなざし。質素ながら高品質な鎧を纏ったその青年は、素人目で見ても只者ではない。


「あ……」

 最初に気が付いたのはラウたちだった。

 

「あの人は白銀同盟のリーダー……」

 拠点でもある白銀道場は、チームメンバーの休養地でもある。いわばホームだ。彼がここにいてもおかしくない。


「ラウ! もしかして白銀同盟の知り合いって!」

「おい、マジかよ! チームリーダーとかよ!」

「い、いやそれは」

 勘違いし興奮する手下たち。しかしラウは困り顔だ。

 それもそのはず。ラウの知り合いは白銀同盟の下部組織員に過ぎない。ラウはリーダーとあいさつしたことすらない。

 沸き立つ手下に気圧され、ラウは否定しきれないでいた。そうこうしているうちに、近づくチームリーダー……。


「さすがラウさ……ん?」

 手下から期待の目を向けられるラウの脇を、白銀同盟のチームリーダーすたすたと通過してしまう。そして彼はペランドーに声をかけた。


「やあ、久しぶりだねぇ」

「お久しぶりです!」

 ベンチから立ち上がり、ペランドーが返答する。

 手下たちは混乱した。


「ど、どういうこと……」

「ぐぬぬ……」

 手下たちの疑問を受け、唸ることしかできないラウ。

 まさか白銀同盟のチームリーダーと知り合いだったとは――。ほぞを噛み、悔しがるラウ。


 白銀同盟はただの冒険者チームではない。財力と人材で、各所に影響力を持っている。最近では【霧と黒の城】で区画を次々と解放している急先鋒だ。

 飛ぶ鳥を落とす勢いの組織である。

 そんな白銀同盟リーダーと懇意にするペランドー。

 冒険者の家系であるラウに取って、妬ましい限りだ。


 朗らかに会話をするペランドーたちを、ラウは嫉妬の眼差しで睨む。


「今日は誘われて学園のみんなと遊びにきたんですよ」

「ああ、そうだったのか。ペランドーが引率するなら大丈夫だろう」

 もともと安全なコースだが、それでも怪我くらいするかもしれない。しかしそんな心配もないな、と白銀同盟のリーダーはペランドーを見て判断した。


 ラウたちは白銀同盟リーダーの信頼を受けるペランドーを見て、言葉を失った。


「じゃあ、そこのガールフレンドと共に楽しんでいってくれ」

「ガ……そんなのではありませんわ!」

「ははは、じゃあお嫁さんかい?」

「なにをいってるんですのー!」

 いつの間にか、ソフィとも打ち解けている。


 紹介こそされたがラウは話しかけるきっかけを失い、会話に割り込むにも尻込みをしてしまった。そうこうしているうちに、白銀同盟リーダーは仕事があるからとこの場を後にした。


 すぐさまペランドーへ詰め寄るラウ。


「お、おい! お前! リーダーと知り合いなのか!」

「うん。【霧と黒の城】で一緒に冒険したんだ。区画も1つ、一緒に解放したよ」

 まさか……と青ざめるラウ。区画解放と簡単に言ってのけたが、それは冒険者として栄誉の1つである。

 いくら共同とはいえ、達成できる冒険者は一握りだ。


「お、おまえ……ガチの古来種の遺跡に行ったのかよ!」

「うん、この前の試験休みの時に、ザルガラくんと……」

「おや? ペランドーさん」

 詰め寄るラウの声が大きく目立ったのか、少し離れた場所にいた女性がこちらに気が付き声をかけてきた。


 名のある騎士が身に着ける立派な板金鎧。長い前髪で目元が隠されているのに、かなりの美人と一目でわかる。

 腰に佩く剣は飾りこそ少ない。しかし魔法使いであるラウたちの目で見れば、相当な魔具であることが伺い知れた。


「ティエさん! どうしたんですか?」

 そんな女性に、臆する事なく声をかけるペランドー。


「白銀同盟のお仕事を少し手伝ってきたところです。ペランドーさん。ソフィさんといらしていたのですか?」

 ティエは親しげに、微笑を持ってペランドーと談笑を始めた。


 その様子をぽかんと眺めていたら、手下の1人がラウに耳打ちする。


「……ティ、ティエって確かあの」

「ああ……冒険者たちじゃ知らない人がいない……王国でも有名な鑑定者だ」

 古来種の発掘物は多岐にわたる。

 難しい本や複雑な魔具、雑多な日用品に見当もつかない不思議な芸術品、時には古来種の日記などなど。

 

 ティエはそれらに詳しく、なおかつ【精霊の目(ダイアレンズ)】持ち。しかも魔法の才能があり、剣の腕は武官としても冒険者としても通用する。

 現地で重要な遺物を選別できる彼女の能力は、冒険者たちにとって垂涎の的だ。

 しかし彼女はどこの冒険者チームからも求められながら、どこにも所属しない。あくまで貴族に仕える使用人だからと、臨時の協力者という立場を取っている。


「な、なーに、どうせザルガラ関係で、し、知り合いなだけさ」

 そういってラウは目の前の出来事を矮小化させた。

 事実ラウが想像する通りでもある。だがティエと白銀同盟リーダーはペランドーと肩を並べて戦った仲だ。彼は目を逸らすが、ペランドーの戦歴は変わらない。


 ティエと挨拶を終え、彼女に見送られながら、一行は初心者クラスの迷宮へと入った。


 ついに迷宮内――ソフィは傍目からも興奮していた。


 だが、いざ道場の中に入ってみれば、拍子抜けするようなモノだった。

 古来種の遺跡ということで、そういった見ごたえはある。ソフィも古来種の残した建造物と装飾に興味を惹かれっぱなしだ。

 しかし、冒険者として挑むと施設は非常に貧弱である。

 

 まず魔物などいない。解放エルレーゼンされているので当然といえば当然ではあるが……。

 魔具式で組み変わる通路は、多少迷うが法則性があるので学園の学生ならば簡単に突破できる。

 ……ソフィは説明されても、いまいちわかっていないようだったが。


 パズルのような仕掛けもあったが、学園でよくでる問題の応用だった。おそらく白銀同盟にエンディアンネス魔法学園の卒業者がいるのだろう。

 一般客にはちょっと手ごわいが、学園の学生ならば「ああ、あれか」となってしまう。


 扉の錠前は単純な仕掛けで、針金でちょっと弄れば開いてしまう。鍵も探せば簡単に見つかる。

 体力勝負の仕掛けは、ちょっと運動神経のよい子供でも越えられる程度だ。

 

「ちょっとした野外運動場みたいな感じだね」

 室内がすべて複雑なジャングルゾムと化した部屋を抜け、ペランドーは課外実習で経験したことを思い出して感想を言ってみた。


「まー、初心者クラスだからな」

 同じように課外実習を思い出しながらラウも同意して、またペランドーの油断を誘う。


「そうだね。でもソフィがいるからちょうどいいと思うよ」

「たしかにちょっとした運動になりますわね」

 長い髪の毛を縛り上げ、活動的になったソフィが汗を拭きつつ答える。

 ペランドーもソフィも遊びの延長と油断しきりだ。


 かかった。


 ラウたちはほくそ笑む。

 次に待ち構える罠は初見殺しで有名な初心者振るい落としだ。


 その罠がある部屋は水路の上に迷路のような橋がかかる大部屋だった。

 曲がりくねった通路の下は、生活用水を人夫街へ分水する水路となっている。

 ところどころ点検のためか、安全のためあるべき手すりがない。また通路は狭い。薄暗い道をうかつに歩けば手すりの隙間から落ちる……などということも、一見したところありえなさそうだった。 


 部屋の東西南に1つづつ、計3つのドアがある。

 ラウは自分たちで書き込んだ地図を見ながら、さも考慮したように南のドアを目指すように勧めた。

 疑うこともなく、ペランドーは南のドアを目指す意見に頷く。ソフィもそれに従った。


 ……のだが、どこをどう間違ったのか、一行は西のドア付近へとたどり着いてしまった。


「……あれ? どこかでルートを間違ったのかな?」

「ここ、西よね?」

「まあ、いいんじゃないか? せっかくだからその先がどうなってるのか確認くらいしようぜ」

 ペランドーとソフィは南のドアへ向かうことを考えたが、ラウはそのまま西のドアへ進む案を理由をつけ提示した。


「そうだね。調べてから、南のドアに行くかを考えよう」

「……そうですわね。それも悪くないですわね」

 ペランドーは疑うことなく、ラウの案を受け入れる。

 以前とは違い何事にも一歩引いた態度を示すソフィは、またもペランドーに従う。


 ラウには1つのアイデアが浮かんでいた。


 彼はこのドアに仕掛けられた罠を知っている。

 ドアを不用意に開けると風が吹き出て、正面にいる者を吹き飛ばす仕掛けだ。


 だが学園の生徒たちでは効果がないだろう。現に手下も新式防御陣の貼っている。

 新式手帳を使った防御魔法なので、投影された防御専門でもない平面陣の防御にも劣る。だがそれでも突風くらい完全に防ぐ。


 横から不意打ちでもないかぎり、学生が落ちることはないだろう。

 魔法がなくとも手すりのない背後が危険だとわかっていれば、落ちないように身体を紐で括るなどいくらでも対処方法はある。


 そんな目の前の光景を見て、ふとラウに作戦が浮かんだ。


 先行する手下そのいちが横に避ければ、ペランドーが罠の突風を受けて落ちる。間違いない、いい計画だ!

 ラウは手下に合図を送り、目で「今だ、やれ」と訴える。


「え? 急に何、ラウ……? て、うわっ!」

「きゃっ!」

 思いついただけなので計画性はない。それが手下に通じるわけもない。

 むしろ離れた位置にいるラウに注意を引かれた手下が、横を向いてしまって罠を側面に受けることになってしまった。


 空気の塊に押され、落下する手下そのいち。それに巻き込まれるソフィ。

 この2人落ちそうになれば、ペランドーが手を伸ばすのは当然ソフィである。


「だいじょうぶ?」

 ぽっちゃり体形のせいもあるのだろうが、思いのほかがっしりしたペランドーがソフィを受け止める。


「え、ええ。あ、ありがとう……ですわっ!」

 吹き飛ばし罠の衝撃とペランドーの男らしさにあっけに取られたソフィだったが、すぐに正気戻って跳ねるとうに飛びのいた。

 ――そんな甘い2人の背後で、あわれ悲鳴を残して水路へ落ちていく手下そのいち。


「あーあ、1人、スタートに戻っちゃったねぇ」

「知りませんわ。あんな罠に引っかかって……いい迷惑です」

 ずぶ濡れになるだけで、特に怪我をすることもないので、ペランドーたちの反応は淡泊だ。

 

 一方、ラウは自分のミスを自分の中で誤魔化していた。


「……く、くくく。ヤ、ヤツは我が配下の中でも最弱」

 最強と最弱しかいない。

 あまり差はなさそうだ。


「最強の方にされたのはうれしいけど、あと俺しか残ってないんですけど、ラウさん」

 2人しかいないのだから当然ではあるが、究極二元のわかりやすさである。

 差があっても関係なさそうだ。


   *   *   *


 しばらくののち――。


 ペランドーとソフィは徒歩でスタート地点へ戻り、脱落したラウたちを回収した。

 ……実に4度目である。


「ちょっとアンタたち! ペランドーの足を引っ張んないでよ! ぜんぜん! ぜんぜんっ! ぜーんぜん前に進めないじゃない!」

 3人が脱落するたびに、ペランドーは出発地点に戻ってラウたちを回収し、再出発していた。

 ペランドーはみんなでクリアすることが目的だ。だから、だれかが脱落すると、わざわざ徒歩で戻るという無駄な行動をしていた。

 ……ソフィは2人でクリアしてしまった方が良いのだが、その辺の機微をペランドーは察することができない。

 恋する乙女にとっては横に置けない事情だが口に出せない。

 ゆえにペランドーの横に置けない友情が、今のところ優先されている。


 さてそのソフィだが……彼女は何もしていないわけではない。

 天下に名を轟かせる天才彫金士の娘である。金属加工と指先の器用さは、ペランドーにも引けを取らない。


 細かい作業はペランドーよりも得意なので、本格的ではない子供騙しな罠や鍵などちょっとした慣れと買った道具で片づけてしまう。

 本当の遺跡冒険では実力不足だろうが、子供向け施設では充分通用していた。


「そ、そんなバカな」

 今回、脱落したメンバーはラウである。

 ずぶ濡れのままスタート地点で膝をつき、打ちひしがれている。


 冒険者の家系であり、自らも遺跡へ足を運んだことある自分が、こんな子供騙しの施設で振り出しに戻るなど――。とラウは屈辱と寒さで身を震わしていた。

 手下たちは何もせずそれも見下ろす中で、ペランドーが1人気を使ってラウへタオルをかける


「っ! なにをする!」

 情けをかけるな、そういった意味でタオルを振り払った。


「え? だってすぐ出発しないと時間がないよ」

 きょとんとした顔でペランドーは答えた。

 ペランドーは優しさだけでタオルをかけたわけではない。

 身体を拭いて、はやく迷宮を攻略しようよ。という意味もあるのだ。

 ちょっとひどい。

 天然ってひどい。


「まったくですわ。こんな初心者クラスに何度も挑戦するなんて、悪目立ちもいいところよ。次こそは脱落しないでくださいね!」

 スタート地点は係員や参加者の目が多い。

 そんな中、何度も何度も振り出しへ戻るラウたち。

 好奇の目が向けられるのに、ペランドーはそんな視線も気にせず戻ってくる。気にするのは脱落者であるラウたちだけだ。

 ペランドーは意識していないが、ラウたちはいいさらし者であった。

 ソフィに至っては、気が付きながらその好奇の目をラウに擦り付ける。


「な、なぜだ」

 ラウはなぜ自分たちだけが罠にハマってしまうのか、と今更ながらに考え始めた。


 罠も仕掛けもペランドーは回避してしまう。

 それも当然だ。

 まず魔力の量が違う。その上、ペランドーはいつの間にか立方体陣を投影できるようになっていた。

 ペランドーは常に身を守りつつ、それを維持できる魔力を持つ。余裕がある分、ソフィを援護できる。


 そしてさらにラウはミスをしていた。

 油断を誘うため、ここはすべて安全な仕掛けだとペランドーに伝えた。

 だから、ペランドーはラウたちが水路に落ちかけても、無理に助けるなどしなかった。どうせスタート地点に戻るだけなのだから――。

 水に濡れることを嫌がったソフィは本当に一般人なので意識して助けた。彼女が嫌がり、ペランドーはそれを助けると宣言したのだから当然だ。

 そのしわ寄せが、すべてラウたちに及んだわけである。


 またラウたちは投影がおぼつかない。ラウがやっと正3角形の平面陣を1つ出せるだけだ。

 当然そうなると、魔法は新式手帳に書かれた魔法陣に頼りきりである。

 

 その頼みの新式手帳も濡れてしまい、いくつかの魔法陣は水で滲み使えない。


 水に落ちる度に、ラウたちは不利となる。


 しかもペランドーはスタート地点へ戻ることを厭わない。


 すっかり白銀同盟の迷宮案内係員も「またか」の目でラウたちを見ていた。

 遊びに来ている他の客たちも、ラウの顔を覚えてしまったくらいだ。微笑ましく笑っている彼らに、あざ笑われていると思い込むラウたち。 


 これではどっちがいじめられているのかわからない――。


「あなたたち! もっとペランドーに協力しなさいよ! 邪魔ばかりしてそれでも学園の学生なの?」

「まあまあ、きっと慣れてないんだよ」

 ダメ出しするソフィと、ラウが同じ冒険者であることをすっかり忘れて無意識追い打ちするペランドー。


「……わ、わかった。まずはここをクリアすることを目的にしよう……」

「ラ、ラウさん」

 初心者クラスで躓いている自分を、白銀同盟の人たちに見せたくない。そんな思いから、ラウはクリアを優先させることにした。

 ラウたちの本意をしらないペランドーたちは気が付かないが、それは折れたことを意味する。


「大丈夫だよ。ソフィが慣れてきたから、これからはぼくがラウくんたちの援護をするよ」

「そうね……。わたしくも自分で自分を守るくらいできそうですから、ご安心を」

「そうだ。ぼく、多めに魔石持ってきてるんだよね。ラウくんたち、これ使って!」

「え、ええ。そ、そうですわね。あなたたち! ペランドーの好意なんだから受け取りなさい」

「それから予備で持ってきたぼくの新式手帳を貸すよ!」

「ええ…………。ほ、ほら! ペランドーにお礼くらい言いなさいよ!」 

「あと3歩先の身代わりくんゴーレムもラウくんたちにつけよう!」

「………………。えぇ…………」

 打ちひしがれるラウたちに、次から次へと厚意を与えるペランドー。

 そのプライドをへし折る追い打ちを見て、さすがのソフィも引き気味だった。


 ペランドーの無意識追い打ちはまだまだ続く――。 


   *   *   *


 エンディアンネス魔法学園のとある教室で、登校してくる新入生たちを眺めながら愚痴を洩らす少年がいた。

 長い前髪を左右に垂らし、この世界では珍しくもメガネをかけた一癖ありそうな少年である。


「最近さぁ……ペランドーのやつ……生意気だよなぁ」

「まったくですね! あのぽっちゃり野郎!」

「ほんとうっすよね! なんであんなのが筆頭クラスなのか、学園の先生はおかしいっすよ」

 ペランドーに差をつけられたある学生たちが、悪意を口に昇らせていた。

 

「しかもアイツ、彼女がいるらしいっすよ」

「マジかよ、あのぽっちゃりに彼女とか笑わせるぜ! どんなのだよ」

「ソフィとかいう――、それがラウに聞いたところによると、結構いいところのお嬢さんで可愛いとか」

「ありえねぇっ! ウソだろっ!」

 そんな仲間の会話を聞いて、メガネをかけた少年が嫉妬を爆発させて立ち上がった。


「よし! そのソフィって女の前で、ペランドーに恥を欠かせてやろう。なぁに、僕には知り合いで『西方の風』っていうちょっと名の知れた冒険者がいて――」



ペランドーの無自覚プライドブレイク攻撃がまだまだ続く!


次回はティエの過去話でも――

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