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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第6章 右手の魔弾と左手の右手
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真の魔弾


 オレたちは3次元の存在である。

 そして古来種たちは5次元に去ったと言われているが、もともとどの次元の住人であったか定かではない。


 さて……アザナの攻撃方法に説明する前に、2次元の話をしよう。

 

 2次元の『手書きの丸さん』と、『なんとなく四角さん』がケンカをした。お互いは2次元というフィールドで向かい合う。


 丸さんは得意のボール投げで、四角さんを攻撃しようとした。一方、四角さんは壁を作っておいた。

 この壁は3次元視点ではただの太い線。オレたちから見れば線なので壁に見えないが、2次元では立派な壁である。だから丸さんの投げたボールを弾き返すことができる。

 残念、丸さんの攻撃は壁に阻まれた。

 

 いくらボールを投げようとも、高さのない世界で「線」という「壁」は絶対だ。もちろん物理の法則があるから破壊は可能だろう。しかし「上」に投げて通過させるということはできない。


 もしも丸さんが、オレたちと同じような魔法を使えるとしたら?


 丸さんには魔法使いになってもらおう。魔法使いとなった丸さんは、3次元の図形である立方体陣を投影する。

 

 壁をまたがるように正三角錐を投影。四角さんには突如、三角形が現れたように見えるだろう。2次元人にとって正三角錐は、交差している切り取ったような面しか見えない。


 2次元にとってその陣は、外周が3辺ある存在に見えるはずだ。だが実際は違う。3次元方向、つまり上と下の高さが存在する。

 2次元人には見えないが頂点へ向かって狭まる面と、底辺へ広がっていく面だ。彼らに高さを認識できないが、ちゃんと存在はしてる。


 ここで丸さんがボールを投げる。


 投げたボールは壁の前で正三角錐に取り込まれる。ここで3次元の存在である陣を縦回転させる。すると面付近にあったボールは、立方陣の動きに合わせて3次元側を移動する。


 このとき、丸さんにも四角さんにもボールが消えたように見えるだろう。正三角錐が回転したため、斜め上方向という2次元にはない軸へ移動したからだ。

 ついでに正三角錐は回転したため、2次元では辺の長さが変化する二等辺三角形に見えることだろう。回転によって2次元に接している面が変わるからだ。


 そして半回転したところで、ふたたびボールが2次元へと戻ってくる。みごとボールは正三角錐陣の力を借りて、線という壁の「上」を越えたわけだ。

 

 ただし半回転したことにより進行方向が反対になってしまうので、レピュニットなど回文素数を使った魔法で2次元時点の運動エネルギーなどを維持しなくてはならない。


 このとき四角さんには突如目の前にボールが現れたように見えるだろう。


 3次元と4次元の関係もこれと思えばいい。

 4次元の図形である胞体陣も3次元において形を変えるが、これは4次元軸で回転して3次元に接する面や胞が変わるからだ。

 オレたちの目では接している面と胞しか見えないから、形が変化しているように見えるわけだ。


 しかし実際には俺たちは4次元の壁、つまり胞体陣をつくれる。これを4次元の仕掛け、胞体陣で超えることはできない。


 超えるには超胞体陣、5次元の魔法陣が必要となる。


 オレの転移をコレだが、アザナ=マダンの弾丸は違う仕掛けで胞体陣を越えている。

 おそらく魔法陣に反応して、5次元側を通る仕掛けだ。魔法陣に触れるか近づくかすると、5次元側を迂回する術式なのだろう。


 つまり何が言いたいかというと、いかに教頭たちが有能であっても4次元である胞体陣では、アザナ=マダン相手には分が悪いということだ。


「避けろ! 実体の壁を造って併用しろッ! 胞体陣だけで防ごうと思うなっ!」


 あの弾丸は実体には反応しない。

 あくまで4次元以下の攻撃に対しての防御魔法を想定した弾丸だ。


 物体に対してほぼ無敵の防御魔胞体陣。その安心感を逆手に取った攻撃か。あの弾丸を作ったヤツは、まったく性格の悪いヤツだ。


 オレは学生という立場だが、指導者の長たる教頭たちへ指示を飛ばした。彼らは命令するなと怒るかもしれないが、それどころじゃないんだ。

 教頭たちは戦闘慣れしているわけじゃない。危険を察知する能力は、残念ながら低いだろう。


 オレの命令ともとれる生意気な指示に従い、3人の教頭はちゃんと反応して高速移動での回避や石の壁を造るなどの対処を行った。

 1人は流れるように投影魔胞体陣を書き換え、視界を失い移動が制限されるが物理の壁で自らを囲む。2人は光を伴って左右に揺れる。

 普段ならば無駄な魔力を使うだけの行為だが、今回ばかりは違う。


 その3人は無事だった。

 マダンの弾を回避するか、弾の方が石の壁を回避した。アザナ=マダンは弾丸を自由自在に操れるようだが、さすがに威力を維持できる速度では制御しきれず大きなカーブを描いている。

 

 しかし2人は反応が遅れたのか、オレの指示など聞けなかったのか、そのまま防御魔胞体陣に魔力を注ぎこみ、真正面からマダンの攻撃に耐えようとした。

 結果、弾丸は防御魔胞体陣の裏側へ反転・・して入り込み、まっすぐ飛んで2人の教頭を戦闘不能にした。


 吹きあがる血と倒れる教頭を見て、騒然となる学生たち。


『まずいことになったのぉ』

 マダンの取り押さえ要員として、オレの内部に潜んでいたフェアツヴァイフルングが語り掛けてくる。いままで冷静に黙っていたが、さすがの上位種も焦りを感じ始めたようだ。


「ああ、そうだな」

 同意してため息をはく。雨のせいで、教頭たちが不利だ。

 投影時に胞体陣の複雑な図形とその中に描かれる魔法陣。それを降りしきる雨粒が掻き乱す。


 いくら優秀な教頭たちでも、降雨への対処が負担になっていた。あとから新しい胞体陣を貼る場合は、雨の攪乱でどうしても遅れがちになる。


 2人の教頭が戦線離脱し、2発の弾丸が自由となった。これでオレたちを襲う攻撃の手が2つも増えたわけだ。

 

 オレ以外から始末するつもりなのか、教頭たちを余った2発が執拗に追いかける。

 雨が邪魔だ。教頭たちの新たな魔法陣は、どうしても反応が遅い。結果、みんな後手後手だ。


 オレも空を縦横無尽に飛び回り、追いすがる弾丸を回避し続ける。


『ザルガラさまー! もう一発に注意して!』

「タルピーはこの後に及んで、そんな計算間違いを――」

 ……と、そこまで文句を言ってから、オレは相棒タルピーの言葉を信じたい気持ちにかられた。同時に走る背中への冷たい空気の流れ。

 理由もなくオレは下へ向けて飛んで(・・)、地面に激突しながら伏せて背後からの攻撃を躱した。


「…………へえ、この攻撃を……躱すんだ」

 感心したような、苦々しいようなアザナ=マダンの声が上空から降りかかる。

 残っていた3人の教頭たちを、戦闘不能にした弾丸が集まってアザナ=マダンの周囲を飛び回っていた。


 磁気に操られた全部で6発のレピュニット弾丸。だが、もう1発……制御されている弾丸の気配が感じられた。


 なるほど、あの磁励音はフェイクか。


 6発の弾丸を操りながら、最後の1発の音を誤魔化す。さらにその最後の1発は、磁気による操作ではなく魔法を使った直接的な制御。

 もし6発の弾丸を磁気で掻き乱そうとも、安心したところで5次元に潜んでいた最後の1発がトドメを刺す。


 まさに……まさに魔弾。


 タルピーは計算間違いをしたわけじゃない。

 7発目をちゃんと数えていたのだ。バカにせず信じてよかったぜ。


『あたいってば、てんさーい! なんかブンブン飛んでるかんじしたんだよねー』

 まったくだ。目で物事に捕らわれず、感覚で事象を数えたわけだ。すげーや、タルピー。


 しかしオレは無事でも、残りの3人はそうはいかなかったようだ。オレが無事回避した直後、順番に廻った7発目(魔弾)が教頭たちを撃ち落としていた。

 全員が重傷で戦闘継続は不能。無理をしてくれと頼んでも、アレで動いたら死にかねない。


 オレがアザナ=マダンを誘導し場所を移して、教師か誰かに治療をしてもらったほうがいいだろう。


 教頭たちを休ませるため、アザナ=マダンをおびき寄せていると、隠れていた学生が騒ぎ始めた。


「教頭先生がやられたーっ!」

「誰か、『門』の方にいる騎士団を呼んで来い」

「ダメだっ! 呼ぶな! こいつの目的は『ゲート』だ! 呼ぶんじゃねーっ!」

 駆け出そうとした学生に対し、必死に叫んで止めた。

 ゴーレムなどの別行動部隊がいるとも限らない。『門』は死守。絶対条件だ。アザナが『門』を潜ったり、どうこうしたらオレたちの――いや、オレの負けだ。


「1人で戦う気ですか?」

 降る雨を防御魔胞体陣で弾くアザナ=マダンが、オレを見下ろし言った。


「見えない……。いえ、この次元に存在しない弾丸をどうしますか? 先輩」

 アザナ=マダンの魔弾は、今頃5次元を元気に飛び回っているのだろう。いつでもどこでもアザナ=マダンの命令一下で、この次元へ降りて飛来しオレを襲う。

 タネがバレても絶対優位。それをアザナ=マダンは確信している。


 なにしろ見えない。ユスティティアの弟ユールテルから、手長足長のカトゥンが掠め取った【五次元の目】でも使うか、超々立方体陣で疑似的に造ったレンズでもないと無理だ。


『……ごめん、わたしも無理』

 高次元体となっているディータへ期待の視線を向けたが、彼女の目をもってしても無理らしい。というか弾丸を肉眼で見るって、そっちがまず無理だな。


 仮に見えたとしても、対策は超々立方体陣を使って弾丸に干渉しなくてはならない。超々立方体なんて魔力プールと直結している時か、死を覚悟するレベルで脳と魔力をフル回転して挑む技だ。

 なんかいろいろオレ死にそう。


 だがオレは諦めが悪い。かなり悪い。


「……まだまだオレにはがあるぜ」

 そういってオレは半身に構え、右手を隠した。オレの持つ5次元に干渉する手段。あの事件以来、5次元を通過する能力を持った右手だ。


「なんだ、その『手』ですか」

 バレているんですよ、と呆れた表情を見せるアザナ=マダン。見下しバカにするその態度は、オレの得意技であってアザナがやるべきことじゃない。

 そんな憎たらしい顔は、オレの方が似合うからな。オマエがその見下しをしたら、された相手が変な趣味に目覚めそうだ。

 ……オレは目覚めないよ、絶対。


 アザナ=マダンの死角から、掴みかかるオレの右手。


 が、あっさりアザナ=マダンの左手に掴まれた。


「その『手』はとっくに誰もが知って……」

 アザナ=マダンはオレを撃ち抜くレピュニット弾丸を想像していたのだろう。

 だが、その現実は訪れない。


 背後からオレに迫る魔弾。背中に胞体陣を投影しながらオレは思い耽る。


 オレは……まだオマエにレピュニットを利用した転移を見せていなかったな。

 普段だったら、自慢げに喜々として早口で説明しながら、手の内を晒していたことだろう。

 だが、そうはならなかった。

 

 運悪くこのところオマエとは、ちっとも遊べなかったもんな。


 見せていたらしっかり対処されて、絶対にこのは通じなかっただろう。

 オマエが【終焉開発機関】に入り浸っている最中に、オレは空間跳躍を覚えていた。

 

 今、オマエが魔弾で撃ち抜いた胞体陣は、防御魔胞体陣ではない。

 アザナがこの学園に作り出した『ゲート』と違い、物体限定一方通行の跳躍魔胞体陣。


 『跳躍門ハイパージャンプ』だ!


「この手はとっくに誰もが知ってあ、ぐっ!」


 勝ち誇っていたアザナ=マダンの防御魔胞体陣すべてを通過し、背後から魔弾が脇腹を撃ち抜いた。


 オレの背中を撃ち抜くはずだった弾丸は、『跳躍門』を潜ってアザナ=マダンの背後へと跳んだ。レピュニットによって運動エネルギーを維持した弾丸は、アザナ=マダンを貫通――。


 鮮血は雨曇りの空に広がった。雨と血が混じって飛び散り――オレを包む魔胞体陣へ当たって滴下血痕を描く。

 これが全部、アザナの血……。

 

 すまん、アザナ! 

 マダンを引っこ抜いたら、すぐに治療するからな!


「い、いまだ行け!」

『あいな、ザルガラさまー』

『うむ、任せるがよいぞ』

『……頑張る』

 上位種2人と姫様がアザナ=マダンへと飛びかかる。


 さすがのアザナ=マダンも、重傷状態で上位種たちに組み付かれたら抵抗しきれないようだ。

 

 アリアンマリに憑りついていた古来種は陰鬱な少女だった。コリンに憑いていたのはおっさんだった。


 さあて……マダンの本当の姿はどんなものか――


『うんしょ、うんしょ! こいつーおもたーい!』

『……これは』

『む、むむ?』

 期待半分、こわさ半分で様子を見ていたら……タルピーが必死にマダンの身体……腕? を引っ張りだし――。


「え? マ、マダン……お、おまえ……なんだ、な……なんなんだ、お、おまえ……」

 ディータとフェアツヴァイフルングとタルピーによって、引っ張り出されたマダンの姿は――。


 


魔弾の神話とか伝承っていくつかあるんですよね。

元ネタの魔弾の射手では「6発は望む相手に、最後の7発目は悪魔が望むところに」で、猟師の間に伝わる伝承だと「最後の一発」か「最後から2番目の弾」が必ずあたる(お守り代わり)とか。


さて今回、説明半分回なのです。

図解を描こうとしたのですが、図形描画ソフトの利用規約の問題で描いた図を手書きで写すことに。

ところが描画ソフト側で三角錐を回転させようとしたら、そのとたんなぜかエラーをはいて止まる……。


というわけで途中です。


挿絵(By みてみん)

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