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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第6章 右手の魔弾と左手の右手
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子供から見た大人とは?



「試験前に呼び出してすまないな、諸君。今日、集まってもらったのは他でもない。アザナのことだ」

 エンディアンネス魔法学園の空き教室で、オレはガラにもなく教壇に立ち、席へまばらに散らばって座る友人たちに向かって切り出した。

 ペランドーやイシャンに原初研究会の面々たち、それからアザナの取り巻きとヨーヨーまで呼んでおいた。

 そんな彼ら彼女らの顔を見回し、現状を考える。


 オティウムへの追及が失敗したオレは――


『……失敗ていうか、あれは早とちりで勘違いして思い込み』

 そうとも言う。でも黙っててくれディータ。


『たりらりら~』

 タルピー、オマエはそのまま教卓の上で踊っていていいや。生徒の机の上を渡り歩いてもいいぞ!


 とにかくオレは古来種への対策を、実務的に対処せざる得なくなった。

 騎士団や巡回局への報告や、学園側への事情説明など非常にありきたりな対応だ。

 オティウムが古来種であったならば、そこから招請会に接触していくつもりだった。しかし彼女が真限竜とかいう聞いたこともない存在と判明し、その計画は頓挫してしまった。結局、招請会【終焉開発機関】への対応は、騎士団と巡回局へ任せきりとなっている。


「新聞や街の噂で知ってのとおり、現在の王都であちこちで【終焉開発機関】への摘発が進んでいる。古来種を呼び戻すという招請会の主張そのものに、共感するヤツもここにはいるだろう。それを否定するつもりはオレにはない。だが、あの【終焉開発機関】は別だ。アレは共和国とのつながりがある反王国の集団だ。だから王国の敵だ。その辺は理解していて欲しい」

 古来種にこちらに来てもらって、大陸を支配してもらうという招請会の思想と主張そのものは別に悪いもんじゃない。


 この主張は現体制への叛意ではあるが、その現体制も強く批判できない。信奉する古来種を否定することにつながるからだ。

 しかし、アポロニアギャスケット共和国と裏で繋がっていては話は別だ。王国の転覆や混乱に終始し、古来種支配への回帰を行わない。事実、アリアンマリに憑りついていたコールハースとかいう古来種は、あの共和国の鼻長ブラエ侯爵と繋がっている。明らかに王国の敵だ。


 コールハースとブラエ侯爵の関係を説明すると、王国は【終焉開発機関】の摘発を決定した。

 前より何かあったら、と準備していた中央官ルジャンドル子爵は、可愛い孫娘が巻き込まれたということもあって、摘発の指揮を執って奮闘したらしい。

 そのかいあって【終焉開発機関】は壊滅寸前。わずかな中心メンバーが残っているだけだという。


 だが、その中にアザナらしき人物がいる。


 この情報を騎士団から得て、絶望の女王フェアツヴァイフルングからの要望もあって、オレはアザナ救済に動いた。

 1人でできることなどたかが知れている。外見こそ子供だが、中身は大人であるオレはそれを知っている。


 学園側への説明と根回しも済ませたオレは、アザナと関係する学生を集めて協力を求めるつもりだった。


「そ、それはいいんだけど、なんでぼくまでいるの?」

 孤島のような一番前の席に、ひとりで座るペランドーが小さな声でオレに訊ねた。 


「たしかにオマエはアザナとそれほど親しいわけじゃない。だがオレの仲間だ。だから仲間外れはいけないだろ? ほら、そこにもヨーヨーですらいるし」

「まって! ですら、って何? それって外す候補一番手がわたし?」

 中段廊下側のヨーヨーが納得いかないと挙手した。


「うん、そうだ。不本意ながらアザナとは関係者だから呼んだだけだ」

「不本意!? 婚約者のこのわた――」

「婚約の話はそっちが舞い上がってるだけで、まだ家同士の話にもなってないからなっ!」

 ヨーヨーが余計なことを言い出したので、正しい状況を説明して釘を刺した。勘違いされるくらいなら、話が全くないとまで否定しないほうがいい。


「いやはやザルガラ君もずいぶんな言い方をするねぇ。婚約がまだとはいえ、カタラン嬢もレディだ。相応の扱いをしてあげないといけないよ」

 窓際の席を陣取る5人の素衣原初研究会の会長イシャンが、まったくひどいねぇと首を竦めてみせた。

 レディに優しく……なぁんて文句は、ありきたりでどんな本を開いても、どこかしら書いてありそうで、老若男女とわず誰に聞いても口に出しそうな戒めの言葉だ。しかし相手はイシャンなので素直に聞いておこう。


「努力させてもらうよ。で、アザナのことなんだが――」

「アザナ様のことで進展がありましたのっ!?」

 後方中央に固まるアザナの取り巻き3人が、身を乗り出して訊ねてくる。特にユスティティアの反応が強い。

 現在、王都は【終焉開発機関】の取り締まりで大騒動だ。王都の各所で膨れ上がった組織を、騎士団と巡回局が掻き剥ぐように潰している。

 【終焉開発機関】は、ただ単に古来種を崇拝していただけではない。

 どうも怪しげな実験を繰り返していたらしく、それにはアザナが関わっているようなのだが――。

 

「それについては今から説明する」

 オレは出来得る限りすべてを語った。


 クラメル兄妹が襲われ、ローリンが大けがをして、コリンが捕らわれの身になったこと。アリアンマリに古来種が乗り移り、操っていたことなど、知りうる情報をすべて伝えた。

 特に重要な話、アザナがアザナであってアザナでないということも暴露した。

 下手に隠しても仕方ない。アザナを元に戻すのに、アザナの人格が別人同然であることを隠しては話にならないからな。

 一応、勇者であることは隠した。これだけはアザナ本人から許可を取らないといけないだろう。


「そんなことがあるのか?」

「別人格が代入? 古来種とは違うのか?」

「ねえ、アザナくんも被害者なの?」

「というか、古来種を倒したの? ザルガラって」

「古来種が大したことないのか、それともザルガラさんがすごいのか……」

 ある程度事情を知っていたアザナの取り巻き3人はともかく、イシャンたちやペランドーは信じられないといった態度だった。古来種の弱さも信じられない、という声もあったがそれはまあいいや。


「ハァハァ……。アザナ様の身体が奪われてるなんて……。あの身体が他人に……」

 ヨーヨーはどうでもいいことを妄想しているようだ。だが、他人ってわけではないらしいぞ。まあコイツもどうでもいいや。

 

「古来種が残した仕掛けの一つらしい。アザナの力が強い理由も無意識下、そういった他人格との相互間の思考並列処理とか、そういうものがあったんだろうな」

 アザナが勇者であることはボカシて、古来種の技術的産物であるという説明する。まだ6人は納得いっていないようだ。


「あまりに突拍子がなくて、受け入れられないのだが……」

「そういわれると思って、ゲストを呼んである」

 オレに憑いている状態なので、呼んであるもないもないが。

 絶望の女王フェアツヴァイフルングの姿がオレの隣りに現れ、ユスティティアたちを除いて教室内が騒然とした。


「こ、これは驚いた。上位種の精霊か」

 腰を浮かせたイシャンがそう言って、フェアツヴァイフルングに礼をする。それに倣って素衣原初研究会も頭を下げた。


『アザナ殿の事情については、もうこれは信じてもらうほかないのう。わらわに免じてそういうものだ、と理解していただきたい』

 フェアツヴァイフルングはアザナの事情を説明し、上位種が言うのならば信じるほかないと、イシャンたちはそれ以上の質問を引っ込めた。

 いささか強引だが納得してもらったところで、オレは改めて学園側の現状を伝える。


「これらの話は教頭たちにも通してある。アザナの処遇は無しにしてもらえる方向でまとまって――」

「教師の方々に!? 教頭先生方にも話されたのですか!?」

 今まで黙って聞いていたユスティティアが、取り巻きたちと一緒に立ち上がって叫んだ。


「え? だってある程度アザナに責任はないってことを、前もって伝えて置かないと処罰くらっちまうだろ?」

「それはうまく隠せばいいではないですかっ? アザナ様は教頭先生方に、どんな扱いを受けるか……少なくても心象が悪くなります!」


「しょうがないだろ。退学喰らうよりはマシだよ。そういう力を持っていると理解してもらって、別人格が騒動起こしたって事実も知ってもらえば――」


「ですから、勇……そういう力があっては教師の方々にどんな印象を抱かれるかを、ザルガラさんは考えなかったのですか?」

「今でも充分、目をつけられているんです、アザナ様は」

「なぜ、そんな……勝手に……」

 取り巻き3人は、オレを恐れず糾弾する。 


 勇者の力については隠したんだけどなぁ。

 なんでこの3人は過剰反応してるんだ。アザナの落ち度は最小限であると根回ししておけば、反社会的活動をして試験ぶっちぎり、の言い訳も立つだろうに。


「事実だし、仕方ないだろ。アザナのことを考えたら――」

「貴方にアザナ様の何がわかるのですかっ!」

 バンッと荒々しく机を叩き、ユスティティアは怒りをオレにぶつけてきた。

 さすがにそこまでされると、オレも腹が立つ。


「何がわかるも何も、じゃあアザナが退学になっていいのか? オレはイヤだぞ」

「アザナ様の気持ちを考えて、と言いながら、ご自分が嫌だからという理由ですかっ!?」

「アザナが『退学になる』ことを考えたらって意味だよ! わかんねぇーヤツだなっ!」

 白熱するユスティティアたちに、受けて立つオレ。しばらく言い合いはかみ合わないまま、平行線が続いた。


「もう、お話になりませんわ! みなさんっ、いきますわよ!」

 ここに集まる生徒の中で、もっとも家格の高いユスティティアがそう言い残し教室を後にした。フモセはもちろん、ヴァリエも従った。


 彼女たちとほぼ無関係であるイシャン以下素衣原初研究会の面々は、困惑しつつもこの場に残る。

 ペランドーはおどおどしながらも、オレの前から動こうとはしない。えらい。


 ヨーヨーは悩んで腰を浮かせている。やがてなにやら思いついた表情を見せ、オレに向かってウインクしてきた。そして席を立ちあがり、ユスティティアを追って教室を後にする。

 ――なに? 気持ち悪いんだけど?


『……ザル様、あれはあちらの様子をうかがってきますよ、というサインですよ』

 え、ああそうか……って、わ、わかってたよ、そのくらい!

 い、いやアイツの考えがわかるのはイヤだけどな!

 

 こうして残ったの男たちだけだ。

 素衣原初研究会の面々が、脱いでないのが幸いである。


「あーあ、行っちまっ……た」

 透けるディータと天井を仰ぎ見つつ教壇から降り、オレは近くの椅子に座った。

 代わってイシャンが席を立つ。

 立ち去るのかと思ったが、イシャンはオレを厳しい目で見つめて言った。


「全裸は激怒した」

「どういう会話への導入だよ、先輩」

 全裸になりながら、イシャンが分けわからんことを言った。

 たいへん怒っていらっしゃるのはよく分かったが、その表現はどうよ。あと脱ぐな。追随して他の面々も脱ぐな。


「ザルガラ君……キミは妙に大人びたところがあると思っていたが、まさか大人・・の根回しまでするとはね」

 まあそりゃ中身が大人だしな。前の人生でも、多少なりとも根回しというのはした。貴族に背を向け、裏街道に入れば入ったで、そちらの世界でもそういう礼儀とそっちのやり方がある。

 その穏便に済ます方法を、今回は行っただけだが……。どうもお嬢さん方にも、イシャンにすら不評だったようだ。


「彼女たちは五教頭、引いては教師陣を恐れているのだよ。わかってあげてほしい」

 イシャンがユスティティアたちの擁護を口にした。その思惑を測りかね、オレは唸った。


「ぅん~~~~? 子供の敵は大人、とでも?」

「いやいや、そこまで大袈裟な話じゃない。なんていうか……どんなに立派なお嬢さんだろうと、まだ大人は怖いものさ」

 全裸は激怒した、と言ったイシャンだったが、今は穏やかにオレへ語り掛けている。

 年長者としての態度だ。実際はオレの方が年上みたいなもんなんだが。


「小さいころ、私も大人が怖かったものだよ。背丈は見上げるほどだし、力もあるし、社会的に強い立場だし、服を着てるし」

「いや最後はおかしいだろ」

 突っ込みを入れたが、イシャンのいう事は一理ある。服のくだり以外は。


 2度目の人生であるオレは、背が小さくなって周囲の大人たちに圧迫感を感じた。まるで巨人の世界に紛れ込んだかのような錯覚さえ覚えた。

 不思議だよな、子供のころは大人ってのは大きくて当然と受け入れていたので、その体格差に対応しながらも変とも思わなかった。


「ザルガラ君が教師に話をつけていようと、大人が介入してきてアザナ君が怒られるのでは? いずれ罰を受けるのでは? と怖いものなのだよ。……子供にとって大人とは、そういうものなんだ」

「ああ、ザルガラくんは怒られるのも罰を受けるのも怖くないって感じだもんね」

「あのな、ペランドー。まるでオレが反省しないみたいじゃないか、それ?」

「……え?」

 違うの? という純心な眼差しでオレを見るペランドー。

 

「違う……と言いたいが、これは本題じゃない。イシャン先輩、話を続けてくれ」

「言いたいことは以上だよ」

 イシャンはそう言って座った。終わったなら服を着ろ。


「……わかんねぇな」

 オレはイシャンに一目置いている。わかりにくい話でも聞くくらい我慢するが、どうもいまいち何を言いたかったのかわからない。

 そんなオレの様子を見て、言いたいことは以上だとしたイシャンが再び語り始める。


「しょうがないねぇ、君は。きっと頭もよくて強いからこそ分からないのだろうな。じゃあザルガラ君。キミが大人にされてイヤだったことを想像してみなさい」

 イシャンに想像して見ろといわれ、遠巻きにされて避けられる過去のオレを思い起こす。


「そう、それだよ。ザルガラ君」

 微妙に表情が変わったのだろう。イシャンがオレの顔を指さしていった。


「大人たちにそういう目にあわされるのでは? 良い子も悪い子も子供というのは、いざとなるとそういう気持ちで大人と距離を取ってしまうのだよ」

 ――ああ、そういうことか。

 やっと理解できた。


 子供は大人の顔色をいつも見ている。

 ウソをついて怒られないように失敗を隠す子供。怒られるのがイヤだから、良い子を演じる子供。いたずらをして逃げ回る子供。

 大人に怒られるというのは、子供にとっては大事だ。


 そうか。オレだって例外じゃない。力を無駄に振るわず大人しく何もしないで、畏れられないように息をひそめるのと同じ――ってことか。


「なるほど、な。そうか。アイツら怖かったのか」

 アザナが大人たちに怒られる。アザナに共感して、それを拒絶したかった。そういう事なのか。

 理解できたオレだが、腹立たしくもあり頭を掻いて唸る。


「ぐぅぅぅ~。まったく、面倒くせぇな、ガキは」

「ザルガラ君も子供だと思うのだが?」

 15歳のイシャン、あんたもだよ。


 そうか……教頭連中にうまく話が通ったのは、相手が大人だから――か。子供たちだけ集めて、面倒になるのも当然だ。

 ユスティティアは子供にありがちな感情に捕らわれ、オレも大人のやり方を突き通すという子供相手にふさわしくない対応をしてしまった。


「そういうことか……」

 あー面倒くせぇ、子供社会。大人混ぜると硬直してしまうのか。

 先にユスティティアたちに相談して、アザナが大人たちに罰を受けると過度に脅して、オレがそうならないように話をつけると言っておけばよかったのかな?

 今となっては遅いんだが、珍しくオレは反省をした。

 

「おや、アレは?」

 甲羅干しならぬ全裸干しをしていた素衣原初研究会の1人が、校庭に何かを見つけて指さした。


「アレって、アザナ君じゃないか?」

 素衣原初研究会員の視線につられ、外を見た窓際のイシャンが驚きながら言った。


「アザナだとっ!?」

 オレは跳ね飛ぶように窓際に寄り、アザナを探す。

 何かの間違いか?

 だが、何事もなく7人目の人格から解放された可能性を期待して、イシャンの指さす方向を見た。


 そこには、アザナがいた。


 間違いない、アザナだ。


 同時にアザナもオレを見つけ、手を振りあげ――


「お久しぶりです、ザルガラ先輩!」

 と、満面の笑みであいさつをした。


 なんで笑っているんだよ、アザナ。

 こっちは安堵してるのか不安なのか、自分でもわからない状況だ。

 なあ、オマエは――どっちなんだ?


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