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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第6章 右手の魔弾と左手の右手
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最強と最弱


 納得。合点が行った。

 いやはや、すっきりした。なるほど、そういうことか。


 アリアンマリはアザナの取り巻きかしまし娘の中で、もっとも才能ある人物だ。

 才能で言えば現在の学園内で、開きはあれどオレの次くらいだろう。

 しかし、素質という意味では最低といえる。飽きっぽく、堪え性がなく、探求心と向上心があまりない。

 才能を持ち腐れにしてしまう性格の素質だ。


 そんなアリアンマリ……、そんな女に惚れた奴が一度目の人生にいた。ペランドーだ。


 ペランドーはああ見えて、ちゃんと女って存在を観察している。おそらく幼なじみソフィーのせいだ。

 あんな幼なじみがいたら、たとえ可愛い女の子でも警戒し委縮してしまう。そんなペランドーがアリアンマリに惚れて、そして振られた。

 不思議で仕方なかったが、理由がわかった。

 あの時、アリアンマリの中身が変わっていたんだ。


 そんな偽物アリアンマリに、ペランドーは惚れて利用され捨てられた。いや、ペランドーが幻滅したのかな?

 一度目の人生で、アリアンマリが別人のようになった事件の記憶がオレにはない。


 たぶん一度目の人生でも、あのアリアンマリを古来種が乗っ取った。

 アザナに夢中だったオレはそれに気が付かず、ペランドーは中身の違うアリアンマリに惚れて騙されフられる。

 そんなこんなしているうちに、アザナあたりが乗っ取られたアリアンマリを解放したのだろう。オレの知らないところで事件が進行し、オレが気が付かないまま解決した……ってあたりか。


 考えてみれば、アリアンマリのことを良く知ったのももうちょっと経ってからだ。一度目の『今頃』はアザナに夢中で取り巻きをよく見てなかった。そんなオレが、アリアンマリの変化に気が付くわけがない。

 そういえば一度目の今頃、ペランドーがオレに接触してきたな。時系列的に、オレの推理に合致する。


「おおっ! あれが古来種カルテジアン様のお力だッ!!」

「素晴らしい!! なんたるお力!!」


 鍛冶屋の方にいる変な集団が、宙に浮くアリアンマリを崇拝し称えている。彼らの背後には黒い馬車が止まっていたが、廃墟を破壊するほどの魔力弾に驚いて逃げ出していた。ほったらかしである。

 彼らはアリアンマリを馬車に乗せてきたものたちだろう。あの灰色装束は招請派のトレードマークである。


 白で気取らず、黒で悦に入らず、古来種様と比べたら薄汚いネズミでございます。という意志表示だ。


 おそらく、彼らが【終焉開発機関】の連中だ。


「アリアンマリ……嬢、どうしてこのようなところに?」

 最初、カヴァリエールはアリアンマリに「ちゃん」付けしようとして、いろいろ鑑みて嬢付けにして問う。

 相手が相手だけに、フランシス・ラ・カヴァリエールと騎士団員は、剣を抜くか判断に迷っているようだ。

 この2人は張り込みを目的していたため、鎧を身に着けていない。はっきり言って、現状では防御力に不安があるので困る。


「……あれ? アンタも知り合い、なわけ?」

 アリアンマリは首かしげた。

 短いセンテンスで切る独特なしゃべりだ。これはアリアンマリのモノではない。なによりあの邪悪な笑み。確実に中身は別人だろう。


「アリアンマリ嬢! ここでいったい何をしているのだ!?」

 娘の友人ということもあり、遠慮しながら義務感を持ってカヴァリエールが、宙にうくアリアンマリのようなものに問いかける。

 これに対し、アリアンマリのようなものが居住まいを正して吠えた。


「言葉を、慎めっ、中位種チューンド!! お前らは今、真の支配者を、前にしている、のだぞ!!」

「な、なにを言って……」

「そうだ、そうだ! 騎士が偉そうにしてるんじゃねーぞ!!」

「控えろーっ!」

「控えおろーっ!!」

 偉そうに笑うアリアンマリを見て、カヴァリエールが怯む。ここぞとばかりに【終焉開発機関】が、怯む騎士団たちをはやし立てる。


 スラム上空でオレたちを睥睨し、高らかに笑うアリアンマリにムカついた。なので右手をアリアンマリの背後へ跳ばし、【終焉開発機関】の奴らからよく見えるよう、スカートの裾をめくってみた。


「奇跡の風キターーーーッ!!」

「うおーっ!!」

「クマ―ッ!!」

 ……実はただの幼女趣味集団かもしれない。


「はっはっはっー」

 パンツに沸き立つ男たちの声を、称える声と勘違いしてアリアンマリのようなものはさらなるドヤ顔を見せてくれた。


『……なんでそういう女の子が嫌がることをするんですか?』

『イジメっこー、ザルガラさまのイジメっこー』

『アザナ殿とは違う性格の悪さよのぉ~。はどうしてこういう意地悪をするのか……』

 女子勢から猛烈な批難を受けてしまった。

 ま、これであのアリアンマリのようなものの実力は知れた。中身がどうあれ、ネーブナイト夫人ほどの戦い上手じゃない。

 パンツ晒されても、実力を悟られぬように素知らぬ演技ができる役者かもしれんが。


「ところでどういうことだ? 絶望の精霊さんよ」

 名前を間違えそうなので、あえて二つ名を使ってフェアツなんとかにこの状況について訊ねた。

 もちろんアリアンマリが最大の謎だが、ここにフェアツなんとかもなぜいるのか? それも説明してもらいたい。


『絶望の女王なのじゃが?』

 ……なんかすまん。間違えてた。ほんとすまん。


『まあ、よい。広義には精霊でもあるからな。今のアリアンマリは姿形の事じゃな。端的に言って古来種に精神を乗っ取られておる』

 やはりそうか。わかってたけど。タルピーがアリアンマリを見た瞬間に『古来種様だー』と言ってたし……でも、コイツはオレを古来種と見間違えたし信用ならんか。


『あの小さき者を心配したわらわは、アザナより袂を分かって古来種の高次元物質を間借りして、アリアンマリの精神を守って来た』

「おい、分離して平気なのか?」

『そなたがおるであろう』

「……上位種様に信頼されるとは光栄なことで。じゃあ、救う手段を知ってるわけだな」

『うむ、今から説明しよう……』

 

「ザルガラ君。き、君は誰と話しているんだい?」

「――より、一万年、われわれは、この世界を、再びとーちする、ために――」

 未だなにか口上を述べるアリアンマリを警戒しながらも、オレの奇行を心配するカヴァリエール。しかし、フェアツヴァイフルングの説明を聞くのが忙しい。

 アリアンマリのようなものは勝手に演説し始めてる、オレはカヴァリエールの質問を無視するし、傍からみるとひどい光景だな、これ。

 

「ふむふむ……そういうことかい。ま、それならなんとかなるだろう」

『任せたぞ。わらわが離れたからには、あまり時間がないであろうからな』

 解決手段をフェアツヴァイフルングから聞き終え、防御力の乏しいカヴァリエールたちから離れるように斜め前へ出た。


「すべての民を、われわれの下で、等しく、差別なく、みなが幸せに、暮らせる世界を、約束しよー」

「よう、アリアンマリ!! その話はまだ続くのか?」

「アリアンマリでは、ない。わたしの名は、空間を削り取る者!! コールハースだっ! 聞くがいい。これよりは、古来種が、この地を支配する、だろう。まずは従え。それから、考える、のだ!」

「…………聞いたことあるぞ。その名前」

 オレはカヴァリエールたちを巻き込まないよう、さらに少し斜め前へ出る。小声で出るなと言われたが、タルピーを具現させて2人の前に立たせた。上位種に遮られ、さすがの騎士団も口出しを止める。


「共和国の鼻長侯爵が、オレのことをその名で呼んでいたが……アリアンマリの中身は、そのコールハースなのか?」

 どういうことかわからないが、古来種が乗り移る相手を間違ったのか?

 オレがこの質問を投げかけると、いままで邪悪な笑みを浮かべていたアリアンマリ=コールハースが、不満そうな表情でため息をついてみせた。


「その、コールハース様よ。様をつけなさい。ほんと困ったわよ。まさか、乗り移りやすい、幼少期を狙ったのに、追い出される、なんて」

「悪かったな」

「まったくよ。よくも追い出した、わね」

「追い出したことは謝らねぇよ。追い出したことを覚えてなくて悪かったって意味。あとまだ思い出してもいない。幼少期って具体的にいつごろ? 何年何日何時何分、月が何回入れ替わった時?」 

「ッ……、この」

 この古来種、こんな挑発で怒るのか?

 オティウムからも絶対者のイメージが感じられないが、コールハースも同様に人として余裕なさすぎではないだろうか。

 

 アリアンマリ=コールハースから放たれる魔力弾を、横に払って防御する。古来種時代からの石畳が、大きく抉れて周囲の石が反動を受け立ち上がった。

 

「やっぱりな」

 魔法の能力は高いが、戦い方が雑すぎる。大上段に構えて力任せといったところか。クラメル兄妹の超すごい版だな、コイツ。


「あんた!! わたしに、勝てる、と思ってるの?」

「負ける気がしないんだよ。誰を前にしても」

 アザナ以外には!


「こ、このっ!!」

 まっすぐ正直に、オレを狙って撃ちだされた魔力弾の雨。それを『王者の行進』の高速移動を使って避ける。


「おいおい、どこ撃ってるんだよ」

「逃げるな、中位種!!」

 続く追い打ちもまるでダメ。まっすぐ狙って外すというバカっぷりを見せている。

 動いてる相手に対し、いた場所へ向かって撃つとかどんだけ射撃が下手くそなんだ。


 ちゃんと狙い撃てよ。予定が狂うだろ。なんて内心で毒突いていたら、すぐにアリアンマリ=コールハースの目の色が変わる。やはり古来種もバカじゃない。いや頭だけはいい。

 なにやらアリアンマリ=コールハースの右手に握られた板がぼんやりと、淡い不思議な光を放つ。遅れて超々立方体陣が投影された。

 たぶん、アレが王都地下の魔力プールから魔力を受け取る端末だ。

 あの地下魔力プールから供給を受ける場合、平民家族が慎ましく暮らす程度の広さの部屋に、匹敵する大きさの魔具がいる。


 裕福なものなら屋敷の開いた部屋に置くか、離れでも作って魔具を収めればいいが、平民たちの街ではそうやって配置された裕福な家の魔具から、おこぼれ供給してもらうほかない。

 しかしあのアリアンマリ=コールハースの持つ板状の魔具は小型かつ軽量。遠目なのでどうやって制御してるかわからないが、おそらく使用者本人が制御装置として超々立方体陣を投影して制御しているのだろう。


「喰らえェッ!! 【五月雨時雨、すべて雨】!!」

 地下から供給された魔力を超々立方体陣へ充填され、見たこともない魔法が発動した。

 さきほどから降っていた雨が、魔力弾へと変換されて加速し、オレに向かって殺到する――っておい、狙うんじゃなくて弾幕かよ!!

 降りしきる雨を魔力弾に変換したのは驚きだが、あまりにも雑すぎんだろ!!

 頭をちゃんと使って行動予測とか、超々立方体陣を自立させ制圧射撃して回避行動を誘導とか、なんか少しは考えた攻撃しろよ。


 ――でもまあ、こうしてやっと強力な魔力弾の雨が、オレの魔胞体陣へ真上から直撃する。


「あははははーっ!! なによ、結局、これでオシマイ、じゃない!」

 倒壊する周囲の廃墟群。巻き上がる土煙と、スラム街の全ボロ家を揺るがす衝撃。

 その上空で、小さなアリアンマリ=コールハースが高らかに笑う。


 オレはガレキに埋まりながら、あまりのことに衝撃を受けた。


 な……なんだと。

 まさかこれほどとは――。


 この古来種――まさかまさかまさかっ!!


 こいつ、オレがワザと魔力弾を喰らって、衝撃を利用し地下に潜ったことを気が付いていない!?


 演技なのか、本当に間抜けなのか。大丈夫ですか、古来種様?

 これじゃあ、ただ魔力がデカいだけのおバカちゃんだろ。


 アリアンマリ=コールハースは、さっきスカートめくりに全く反応できていなかった。

 典型的な「目に見える物と前しか見ていない」タイプだ。能力は高いが、それだけと言っていい。


「ああっ! 鍛冶屋が……倒壊してるーっ!!」

「しょ、証拠隠滅に決まってるだろ!!」

「そ、そうか! さすが、コールハース様!」

「さすがだっ!!」

「さすが、コールハース様ッ! 味方がいても容赦がねぇっ!!」

 【終焉開発機関】の連中が騒いでいる。どうやら魔法弾の雨の余波で、スラムのモグリ鍛冶屋の工房が倒壊してしまったらしい。


「そ、そうよっ! 決まってるでしょっ!!」

 そんな「さすが」でいいのか、アリアンマリ=コールハース。

 まあこういう奴は迷惑だ。早々に片づける必要がある。


 オレは呆れながらも決意し、親友であった音の魔術師ターライン謹製静音魔法を使いながら地下を掘り進む。やがてアリアンマリ=コールハースの真下まで到達し、ガレキを押しのけて地上へ出た。


『……ザル様のエッチ』

『エッチー』

よのぉ』

 女の子の真下に出てしまったので、女性陣からまたも批難が噴出した。

 でも真下とはいえ、暗いからスカートの中は見えないぞ。


『まあよいわ。よし、今じゃ!!』 

 完全に油断するアリアンマリ=コールハースへ向け、絶望の女王の手助けを受けながら右手を高次元へと飛ばす。

 高次元物質となった右手は、絶望の女王と共にアリアンマリ=コールハースのいる真上へと転移した――あ、ディータもくっついていった。


 如何にアリアンマリ=コールハースがおバカで抜けているとはいえ、攻撃の意志を持った絶望の女王フェアツヴァイフルングの接近には、さすがに気が付くだろう。……たぶん。

 そこで油断した時を狙い、オレの右手を転移に合わせて飛びかかる。ディータはオマケだ。


「……え、あ?」

 突如現れたフェアツヴァイフルングとディータに抱き着かれ、アリアンマリ=コールハースは硬直してしまった。どこまでも対応というか反応というか、即座に適切な行動ができない古来種である。


『……捕まえた』

『任せたぞっ!!』

「よっしゃ!」

 合図と共に、オレはガレキの中から飛びあがる。そして女に挟まれた女の子状態のアリアンマリ=コールハースの顔面めがけ、高次元物質化した右手つきこんだ。

 

「ああっ!! コールハース様!!」

 【終焉開発機関】の男たちが悲鳴をあげる。

 見た目の光景では、オレの右手がアリアンマリ=コールハースの顔を貫通しているようにしか見えないからだ。

 実際のところは違う。

 

 指先から肘近くまで高次元物質化し、右手はアリアンマリの肉体は通過。

 そして高次元物質化した右手は、アリアンマリの精神に居座っていたコールハースの顔面を掴んで後頭部から突き抜けた。  


『う、そ……なっ!!』

 顔面を鷲掴みにされた少女が、アリアンマリとは似ても似つかない顔で驚き戸惑い、怯える大きな目でオレを見つめた。

 オレより1つか2つ上? 

 そんな12、3歳の異国の少女を、アリアンマリから引き剥がす。

 少女は必死に暴れるが、余計な行動はできないように、フェアツヴァイフルングとディータががっちりと抱き着いたままそれを抑える。


 貧弱で不健康そうな痩せた黒髪の少女。長い髪はバサバサで、目の下には隈がある。輝くような美少女のアリアンマリとは正反対の、暗く気怠いそばかす少女だった。


「それがオマエの本当の姿か、コールハース」



一章からじんわりじんわり重ねた伏線をやっと回収しました。


Q.古来種弱い?

A.ザルガラが中位種でも特別で、コールハースが古来種の中でも特別に弱いだけです。


コールハース「さいきょーの魔法使いの肉体を奪うぞ!!」

幼ザルガラ「なんか、頭がふにふにするな」バーン!

コールハース「……おいだされた」


格が違いすぎます。

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