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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第6章 右手の魔弾と左手の右手
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淑女協定+1

「最近のアザナ様は、どうかされてます!」

 エンディアンネス魔法学園にほど近いカフェテラス。目隠しに植えられた垣根を背にして、ユスティティアが不満そうに言った。

 公爵姫の立場があっても、我慢の限界なのだろう。比較的、自分を抑えることに長けたユスティティアが、少し感情的な声色を出していた。


「……アザナのやつ、いったいどうしたんだろうな」

 タルピーに踊る場所を提供するため、ケーキスタンドを横に寄せながらオレも首を捻った。なお、3人娘たちに事情を話して、タルピーはマスコットスタイルのままみんなにも見える姿になっている。ちょっと炎のエフェクトが多めだが、集まっているユスティティア、フモセ、ヴァリエの3人もちゃんと視認できているはずだ。

 アザナに憑りついている上位種たちを知っている彼女たちは、とりわけイフリータの存在には驚かなかった。


「私の方でも言ってはいるのですが、前にも増して話を聞かなくなっております。申し訳ありません、ユスティティア様」

 なんの憂いも無くタルピーがテーブル中央で踊り出したころ、フモセが申し訳なさそうにユスティティアに謝った。


「いいのよ、フモセは。いくらあなたでもアザナ様がわがままを言い出したら、あの方はなかなか――」

「ほう、そうなのか」

 アザナも取り巻き連中にいろいろ迷惑をかけているようだ。たしかにアイツは独断専行する節があるし、何かと取り巻き4人をないがしろにしてしまうところがあった。

 危険な勇者の仕事に巻き込まないように、って配慮もあるんだろうが……。


「なんにしてもアリアンマリですよ! あの子ったらどういうつもりなの? アザナくんを独り占めにして!」

「それな」

 普段、表面上大人しいヴァリエが、鼻息荒く取り巻き仲間アリアンマリの不満を上げた。オレも独占に思うところがあるので同意する。


「どうしたのかしらね、アリアンマリったら。フモセは何も聞いてない?」

「いえ、私はとくに……」

「そう……。ヴァリエは?」

「聞いていたら、リアンマを殴ってます」

「そうよねぇ。どうしてアリアンマリったら、アザナ協定を破ってまで夜遊びしてるのかしら?」

「アザナ協定?」

 なんだそれ、とオレが呟く。するとフモセがアリアンマリの擁護に口にする。


「遊んでいるわけではないようですよ。協定ではアザナ様との2人きりのデー……遊びは順番性ですが、作業協力などは、協定のうちではありませんので」

「そう……本当なら協定違反ではないけど」

「ユスティティア様、これからは互いへの報告義務を、協定に組み込むことも考慮されては」

「そうですわね、ヴァリエの言う通りかも。いまのところ、協定は独占したいためだけのものですし」

「へえ、アザナと2人きりで遊ぶことに関する協定かぁ」

 さながら淑女協定といったところか。取り巻き4人もいろいろ距離を測っているようだ。仲良し4人組とおもっていたが、多少の軋轢と規定があるらしい。


「あの、ちょっといいですか?」

 サッと手を上げ、ヴァリエが発言の許可を求めてきた。上げた手をオレに差し向け――。


「なんでこの方、女の子同士の会話に混じってるんですか?」

 ――などと刺激的で苦痛を伴う冷徹なツッコミを入れてきた。

 ここにいちゃダメなのかよ、オレ。


「………………呼ばれてきたのに、ひどいな。アザナに放置され気味なのは、オレも一緒なのに」

 今日も放課後、アザナに絡もうと思ったら華麗に逃げられました。

 あいつ帰るの早いし、物理的速度も速すぎだろ。

 そんなわけで途方に暮れていたら、話があるとユスティティアがオレをこの茶会に誘ってきたわけだ。

 いろいろ気まずいんだぞ、女の中に男が1人状態で、さっきからチラチラこっちを見る通りがかりの学生たちがいるし。


「とにかくオレも呼ばれたからには会話に参加させろよ。さっきから微妙のオレの発言が空回ってて、心が苦しいんだぞ」

『……あ、わかってたんですか?』

 ディータが意外だと驚く。その一言、追い打ちだぞ。

 1人で寂しいからとタルピーに姿をさらしてもらったが、ディータの姿も見えるようになれば、少しは居心地悪くなくなるだろうに――、いや女比率が上がってもっと敵地感が出てくるな。


「いてもいいのですが、ちょっと無理に会話に入り込んでいるような気がいたしましたので」

「おい、そんなのことないだろ。ちゃんとした同意と自然な発言だったろ? ……え? ……ないよな?」

 目線を逸らすな、ユスティティアとフモセ!


「確かにこれはどちらかと言えば私たちの愚痴のようなものなので、殿方は気まずいでしょうが――」

「邪魔なら帰るぞッ!!」

 呼ばれて来たのに、ひどいさらし者だ。

 オレは極力感情を抑え、静かに言い放つ。


「お待ちください! アザナ様の興味を私たちへ戻すためにも、一度はアリアンマリから引き離さなければなりません。ザルガラ様も協力していただければ、不利益はないかと思います」

「……アリアンマリの独占を阻止できれば、オレも絡みやすくなる――わけか」

「油を以て油煙を落とす……」

 ヴァリエがなにか引っかかることをボソッといったが、オレもユスティティアも聞こえないふりをした。フモセは空気となっている。立場の弱いフモセはフモセで、オレとは違う気まずさを感じていることだろう。


「実は……最近、オレのところにちょっと変わった調べ物の依頼があってな。それをアザナに見せれば、興味を示してくれるかもしれない」

 オレはクラメル兄妹のことは伏せて、胞体魔法陣を貫通したという弾丸について説明した。一度、ヴァリエとフモセで連絡不行き届きを起こした事案だが――、アザナには有効だと思われる物品だ。


「なるほど。そのようなものがあれば、アザナ様も関心を示してくれるかもしれません」

 ユスティティアはそれも手だと納得してくれた。


「とりあえずアザナの気を引ければいいんだろ? アリアンマリの抜け駆け関係はソッチで処理してくれよ。オレはかかわりたくないからな」

『……ザル様がアザナ様の気を惹くため熱心に』

 ディータがホワンと中空を見上げているんだが、何を考えているんだかよくわからん顔だ。


「……それにしても、変わった魔具? ですね、これ」

 アザナの影響か、魔具に理解のあるフモセが、レピュニットが転写された弾丸に興味を示した。


「フモセもそう思うか? これはレピュニットを利用した投影魔胞体陣が転写されててな、転写されてても見てみろ魔法陣が一貫してる。これはな、回文素数を利用したものであって――――」

「は、はあ」

「でな、つまり5次元と4次元への干渉を繰り返しても影響を受けない魔法陣として――」

「……え、ええ」

「わかりやすくちょっと投影してみよう。この通り面と胞を展開させて視点を変えても回文素数は同じ配列をしている。レピュニットに至ってはなんど繰り返しても変化せず、素直に魔法を――といっても複雑な魔法を発動させるには構文が長くなるんで、簡単な魔法ですら3角陣をいくつも必要とし、同時に使用魔力も増えることに――」

「それは大変ですわね……」

「だろぉ? でな……って、おいタルピー。なんで踊りやめてるんだ?」

『え? あ、うん。ちょっとキモかったから』

 ……座ろう。いつの間に立ち上がってたんだ、オレ。あ、茶を飲むか……。

 茶、冷て。

 

「と、とにかくここはやはりアザナ様と、どこかそっくりなザルガラ様に一つお願いしてみましょう」

「そっくりでしょうか? ……いえ、今のはちょっと似てました?」

「今ほどアザナ様は早口ではありませんが……ああ、小さい頃は早口でしたね、アザナ様も」

「協力しねぇぞ、オマエら」

 言いたい放題だな、このかしまし娘たち。

 

「い、いえ! さすがアザナ様と通じると感じ入っているわけですよ! さすがですわよね、みなさん」

「さ、さすがです。ザルガラ先輩!」

「さすがですね、ポリヘドラ様!」

『なんだかわかんないけど、さすがザルガラさま!』

『……さすが?』

 ユスティティアたちがとっさに言いつくろった。ディータとタルピーも、ノリでさすがという称賛を口にした。

 このさすが連呼、とても嬉しくない。


「ま、まあ、日々、アザナのヤツに対抗する魔法を考えてるからな」

 一応、話を合わせてやる。そういう事にしておかないと、さっきの早口が独り言になっちまう。

 するとユスティティアが、この話に乗ってくれた。


「そういえばドラゴンの子を招きいれているとか? それもアザナ様への対抗ですか?」

「ん? ……ああ、まあな。ほとんど子守りかよって感じだが」

 本当の対抗手段はオティウムの古来種の力だが、それは隠しておく。実際、空間跳躍の魔法は会得しつつある。このアドバンテージは秘匿しておくべきだろう。


「ヴァリエのとーちゃん……カヴァリエール卿からもちょっと調べ物頼まれてるし、学年末のテストもあるし、アザナの興味も引かなくちゃいけないし、琥珀のゴーレムも作ってるし……。はあ、まったく忙しくて大変だぜ」

「琥珀のゴーレムですか」

「ああ、完成したらこれにアザナも興味を持つだろうな。レピュニット弾丸が空振りしたら、琥珀ゴーレムを引き出してやるよ」

『……わたし、おとり?』

 ディータがちょっと不満なのか、口をとがらせる。


「あのちょっといいですか?」

 またヴァリエのヤツが挙手した。また冷徹なツッコミがくるのか、とオレは身構えた。


「……なにか?」

「いつ寝てるんですか?」

 意外にも素朴な疑問だった。


「授業中」

 だって2度目の人生だし。


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