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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第6章 右手の魔弾と左手の右手
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逆にして裏返し

作中、ザルガラがややこしいわけわかんないことを言いますので、周囲にいる登場人物たちと同様に生暖かい目でスルーしてあげてください。


 オレは天啓を得た!!

 興奮してそれをみんなに伝えたのだが、誰もがポカンとオレを見上げている。


「レピュ……ニット?」

「なんですか?」

「ぎゃお?」

 優秀なユスティティアですら反応が薄い。エト・インも知らないようだ。


「わからんのか? 単位反復数だよ」

 言葉を変えて言うと、いぶかしがる表情を解いてユスティティアは納得した顔を見せた。


「ワン!」

「ワン!」

「ワン!」

 同時にエグザ・アイ・リーも反応を見せた。


「おう、わかってるじゃねぇか、ケルベロスの癖に! 111。すべて桁が1の数字。それがレピュニットだ。しかも111は二進数では回文素数だ。それなんだよ! 中位種の獣の癖にわかってるじゃねーか」

『ただ順番に吠えただけじゃん』

 タルピーが拗ねて言ったが、オマエは引き算も怪しい。やっかむな、やっかむな。

 オレはエグザ・アイ・リーの3つの頭を、順番に撫でようとして2つ目で噛みつかれた。が、それを見事に躱す。

 ふふん、すごいだろ、オレの反射神経。


『……いつも噛まれてましたからね』

 それをバラすなディータ。にしし顔をするなタルピー。その顔見てると……くそ、治したはずの傷がうずく。


 ――咳払いを一つ。

 ここは偉大なオレ様が説明してやろう。

 聞き逃すなよ。とくにユスティティア。オマエは運がいいぜ。歴史的瞬間に立ち会ってるんだからな!


「さて、どういうことか……っていうと――4次元以上の図形、胞体は時間や視点によって裏がひっくり返って表に出てくるんだ。このときに胞体の面に描いた魔法陣が裏返る。これを利用して魔法に多様性を与えているわけだが、こいつが曲者だ。4次元の胞体くらいまでなら、才能なり努力なりで把握できるが、古来種が使うような超々立方体である5次元になると、裏返った上に一部の面が裏返る。4次元なら10進数の素数、なおかつエマープの自然数を使って魔法陣を描いた場合、裏返った面は表記が変わって、それでも反対から数えてもそれは一つの素数だ。5次元の超々立方体でこれをやると、さっき言ったように一部がひっくり返ったときにエマープが崩れてしまう。そこでレピュニットの出番だ。2進数で111は10進法に変換すると7の素数だ。2進数で11111に至っては、10進数に変換しても31の素数、これはエマープだ! すげー数字だ! 5次元の面がまたひっくり返って13となったそしても、素数として別の魔法陣として組み込める。レピュニットじゃないが100111001なんてもっとすげーぞ! 10進数に直すと313だぜ! 100111001の10進数表記でも素数だぞ、おいおいおいっ! すげーよ。どっちもなんどひっくり返してもエマープなんだぜ! うひょう! こうして高次元に干渉しあって魔法陣がひっくり返しを繰り返しても、数回の回文素数やエマープを保持できるわけだから、これを利用して高次元に一度干渉してひっくり返った魔法陣を利用したまま転移できる! つまりこうして、こう……で、だ……ほらみろ! イチゴダーイフクァが転移したぞ、わかるか、おい! 大きいものは無理だが、これくらいの物質なら……見える! 見えるぞ、古来種! オレにも高次元が見えるぞ!」


「ではまた次の色違い月に参りますわ」

「エグザ・アイ・リー! またねー!」

「ばるっ!」

「ばすっ!」

「ばうっ!」

『ばいばーい!』

『ばいばい』

 誰も聞いてなかった。ユスティティアはケルベロスを抱えて、門へと去っている。エト・インを始め、タルピーとティエも見送りに行ってしまっていた。

 辛うじてディータは残っているが、姫様はオレから離れられないだけである。


「……オレの独り言かよ」

『……聞いてた』

 おお、そうか! さすが姫様!

 人の話をよく聞く王族は好感度高いぞ。


『キモかった』

 やめろ、今思い出すと確かにそう思うから、反省してるから改めて言わないでくれ。


「ザルガラ様。ユスティティア様からの伝言です」

 戻って来たティエが、心苦しそうに口を開いた。


「なんだ?」

「証明を飛ばすのは悪い癖だ、と。その説明ではマトロ先生から評価されないとも言われておりました」

「追い打ちかよ。うーむ…………。証明のやり方、練習しておくか」

 何事も、勉強である。


「ところでザルガラ様。そろそろトポロゴス様がいらっしゃるお時間です」

「トポ……ああ、裁縫士ギルド長の。もうそんな時間か……」

 ちらりと時計魔具を見るが、まだまだ時間はあった。しかし支度の時間というものがある。さすがにエト・インと暴れて汚れ、背中にエグザ・アイ・リーの肉球スタンプがある状態で合うわけにはいかない。

 まして相手は裁縫士ギルドの長である。みっともない恰好はできない。


「よし、ティエ。これぞっていう服を用意してくれよ」

「かしこまりました」

 ティエはなんだかんだと、ポリヘドラ家の浪費家道楽爺さんに付き従ってきた。さまざまな家に出入りして、そのときそのときの流行に触れ、目と感覚が研ぎ澄まされている。

 出迎え準備は彼女を信頼して任せ、オレはエト・インとタルピーを子供部屋へ放り込む。一般人に見えないタルピーはいいが、礼儀作法に問題があるエト・インは好ましくない。

 

「ぎゃお? ザッパー、うわきにいくの?」

「いやはやほんと、エト・インの家庭が心配だぜ」

 聞き分けのいいエト・インだが、理由を浮気と思っている納得姿は痛々しい。あとで古竜には、説教パンチをぶつけて反省してもらう。なにが哺乳類のぬくもりだよ、家庭をないがしろにする冷血動物め。


 かわいそうなエト・インをタルピーに任せ……。


『ザルガラさま、エト・インはもう眠そうだよ』

 タルピーはそういうが、見たところエト・インが眠そうというふうには見えない。それに昼寝の時間よりも少し早い。

 元気な顔で魔具を作る工程でできた廃材を使い、答えのないパズルとしていろいろ組み立てている。


『体温がね、寝る前のかんじ』

「ああ、なるほど。温度に関してはその道の王者だからな、オマエ」

 無尽蔵に熱を生むサラマンダーを、監視するため生み出された存在であるイフリータはその道の専門家だ。

 だが熱を下げる技を持たない。

 ――役にたたねーじゃねぇか。


「じゃあエト・インのことは頼んだ。寝たらティエに連絡してくれ」

『わかった』

 エト・インと仲の良いタルピーは子守りを快諾してくれた。エト・インは手のかからない子なのだろうが、体力が並の人間ではない。真正面から付き合えるの今のところ彼女だけだ。

 タルピーもそれをわかっているのか、よくエト・インの面倒を見てくれる。

 

 さて、子守りから解放され、オレはオレの仕事に取り掛かる。

 軽く顔を洗って油性おしろいを塗る。まだ子供だからかさついてもいないので、油性おしろいなどいらないのだが、これは香油がわりだ。礼儀として付ける程度のものである。おしろいといっても白く塗るわけじゃないぞ。


 ティエの用意してくれた服は――、フロックコートか。子供用ってこともあって、わりとカジュアルだな? まあオレにはセンスがわからんのだが、それなりによく仕立てられたものだ。成長期のオレに合わせ、ぴったりとさせるだけで服には金がかかる。

 男でこれだから、女のおしゃれなど終わりがない。

 おかげで街の古着屋は仕入れに困らないわけだ。経済はこうして回る。


 最近のオレは、こういう洒落た服を着ることが多くなった。貴族の付き合いとか面倒なんだが、友人が増えてくるとそういうわけにもいかない。かー、面倒くせーなー……と、いいたいが、友人関係に問題が出ても困るので、ここはグッと我慢だ。

 いくら反骨精神旺盛なオレでも、友人関係を壊すような付き合いの悪さを見せるつもりはない。


 すぐ脱ぐことで有名な素衣原初研究会のメンバーの1人で、オレの先輩にあたる人が裁縫士ギルド長の息子だった。

 彼は魔作科まっさかの生徒で、イシャン先輩の友人でもある。友人の友人は友人である。そんな理由で紹介してもらった。

 孤児院では裁縫士を目指す女の子が多い。古来種の代入先として、葡萄孤児院からさらわれたフミーなどがその例だ。

 オレは素衣原初研究会を伝手にして、服飾ギルドの長であり裁縫士のトポロゴスに連絡を取った。オレがモノを頼む側だが、そこは階級の問題。

 郷士でも士族でもないあちらが、オレの家にうかがうこととなった。


『……服をきない方の父親が、裁縫士ギルドの長ですか?』

 タルピーが近くにいないこともあり、全裸のディータが他人の全裸に疑問を持った。


「オレもその点は疑問なんだが……。服飾ギルド長の息子がなんで素衣原初研究会に入ったんだ?」

 ティエに身だしなみを整えてもらいながら、ディータの疑問に同意した。


『……これは陰謀が感じられます』

 ディータの疑問が飛躍して、陰謀論へと行きついた。なにを姫様の脳内で起こったのか、とりあえず説明を聞く。


『……間接的に服を破壊する魔法。裁縫士は新しい服を量産せざるえなくなり、彼らのギルドは潤沢な資金を得て――』

「そもそもその魔法使うヤツが、世間にそんなにいねぇから」

『そんなにいないということは、いるんですね?』

「いや、いるけどさ。しかし、いないと断言できないとか、この国が恐ろしいぞ。オマエの国だろ、なんとかしろよ」

『私の父の、です』

「そういうやオマエのオヤジ、そういう魔法喰らったな!」

 ついこの前、衣服へダメージを逸らす魔法が悪用された嫌な事件があったばかりだ。

 結果的に陛下が考えを改めてくれたので、良かったといえば良かったが――。


 ディータと無駄話をしている間に、オレの身支度は終わった。

 さすが素材がいいだけあって、ピシっと決めると様になっ――鏡の前を横切るなディータ。全裸で!


『……えっち』

 とか言いながら、隠す様子もなく飛んでいく。自分で横切ったんだろうが。

 まったくこの視界を邪魔するディータをなんとかしないと、古竜インゲンスと戦った時のように思わぬ不覚を取るかもしれない。


「お相手がお相手なので、新調したシャツで組み合わせてみました」

 ティエはどこか自慢げだった。服飾に疎いオレでも見違えたと感じるのだから、やはり任せて正解だった。


 相手は服飾ギルドの長。どれほど洒落た伊達男か。

 

 鏡の前でポーズを取っていると、家令のマーレイがやって来た。


「トポロゴス様がいらっしゃいましたので、応接室にお通しいたしました」

「そうか、早速行くぞ」

 きたか、伊達男トポロジ氏! 

 楽しみだな。

 オレはティエを伴って、決まったファッションで服飾士トポロゴスの審美眼に挑みかかる。

 応接室のドアを開け放ち、服飾ギルド長トポロゴスにオレのファッションを見せつける。

 さすがザルガラ様! センスがいい! と、褒めていいんだぞ! 

 服飾ギルドの会誌モデルだって、気が向いたら必ず受けてやる!!


「ようこそ、トポロゴスさ……」

「お初にお目にかかります!」

 トポロゴス氏はひっくり返っていた。


 何を言ってるかわからないかもしれないが、トポロジーの服はひっくり返っていた。

 

 流行りのスーツは前後ろ反対、しかも裏返し。服の襟タグが、顎下にあるわけだ。襟タグはご丁寧にトポロゴス服飾ギルド会のマーク入りなので目立つ。

 ボトムも裏返しで裏地が見える。かつ前後が逆。きっと背中側にネクタイをしているんだろう。裏返しで。

 もちろんシャツも裏返しだ。靴は……辛うじてマトモに履いていた。


「……トポ」

 あまりの事態に、声が出ない。


「驚かれましたかな?」

「ポト?」

 驚かれたかと聞かれたら頷くしかない。

 そりゃおどろくよ。

 つい最近まで服をろくに着ない原始生活をしていたエト・インだって、そんな服の着方はまずしない。可能性はゼロじゃないが、全部裏返しで前後逆なんて狙わないとできないだろう。

 だから、トポロゴスはわざとこういう着方をしているはずだ。バカにしてんのか?


 ちらりと控えるティエの様子を見る。

 彼女も動揺しているところを見ると、この格好に驚いているようだ。大丈夫、オレだけがおかしいわけではない。

 マーレイは?


 家令のマーレイを見ると、無表情な中にどことなく羨望の眼差しが見えた。

 なに、これ?

 こーいうの流行ってるの?

 

「ザルガラ様ともあろうお方ならば、このファッションの素晴らしさがわかるかと思いますが?」

 驚き戸惑うオレに、トポロゴスが機先を制するかのごとく言ってきた。これは暗に「かっこいいですね!」と言わせるつもりか?

 しかしオレは自分を曲げない。

 変なものは変と言う

 変態には変態と言う。


「いや、おかしいだろ。笑わせようという趣旨か? それとも超々立方体陣が暴走して、服の位相空間がひっくり返ったのか?」

 初対面だが、おかしいとはっきり言わせてもらった。


「そうですか。わかりませんか……」

 残念そうなトポロゴス氏。期待に沿えなかったオレは、つい思ったことを口にしてしまう。


「もしかしてアレか? 着用者から見て服がってことか、ソレ」

 少しでも相手を理解してしまう悪い癖が出た。

 そんなオレの気遣いから出た推測を、トポロゴスは笑顔になりながらも首を振って否定する。


「これはこれは残念。それもなかなかのご推察ですが……ザルガラ様。これは『対偶が真』ということです」

「……論理学的に服を着ると変態になるぞ」

 トポロゴスの言わんとするところ理解し、オレは呆れ気味のツッコミをいれた。挨拶したばかりの初対面だが、変態には容赦しない。

 変態相手には、どんなツッコミも許される。


 トポロゴス氏は何を思って、こんな逆で裏返しという服の着用法をしているのか?


『……ザル様。また証明を飛ばしてる』

 え?

 この状況を証明してみろってか?

 じゃあこの服の着用方法だけ、論理的に証明してみるか。


 まずジャケット。


 ジャケットは裏地を肌につけ、ボタン側を前に着る。これが真だ。基本の着用法だな。

 この命題、つまりジャケットを裏返しにする。すると――。


 ジャケットは表地を肌につけ、ボタン側を前にして着る。これは間違いだ。つまり偽。


 最初の命題を逆にすると――。


 ジャケットは裏地を肌につけ、ボタン側を後ろにして着る。これは偽。論理的に逆だからな。


 ならば対偶では?


 ジャケットは表地を肌につけ、ボタン側を後ろにして着る。対偶は真であるから、この着用方法は間違いではな――ふたぐん? 


 いやいや待てやー。

 やっぱり確実に間違ってるだろ、これ。

 論理的に「対偶は真」という事になっているが、これは間違ってると思う。間違ってるぞ、絶対。論理的な概念として否定はできないんだが、間違ってる。


「概念としての裏返しと逆を、実際の服の裏表逆に当てはめるなよ……」

「……え?」

「いや、もういい」

 心底わからないという顔で返されたので、いろいろひっくり返っているトポロゴスの格好は無視することにした。気にしたら負けだ。


 ああ、なるほど。こんな親じゃ全裸にもなるな。

 オレは服飾ギルド長の息子が、全裸になる理由がわかった。

 まあとにかく、このトポロゴスというおっさんにフミーたちのことをお願い――――していいのかなぁ?


 孤児院の子供たちが、服を裏返しに着てる光景を想像して、思わず天井を仰いでみた。


『……えっち』

 なんでディータはいつもそこにいるんだよ。おちおち空も仰げない。

 



前回、恥ずかしい素数のミスは、今回のネタを前回利用しようとして説明長くなるのでカットして、わんわんわんのネタだけ残したらやらかしました(言い訳


シャツを裏返して逆に着るという対偶の真は数学ジョークだそうです。論理学の説明は省いてしまいましたが、なんとなくの理解でいいと思います。そういう変な着方してるだけというネタなので。いつか使おうと思ってましたが……裏返しの逆で着る程度、たいした変態ではないですね。

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