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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第6章 右手の魔弾と左手の右手
160/373

魔弾を放つ者

新章です

短いですがプロローグなので。



「ローリン。お前は逃げろ……」

 煤にまみれた滑稽な姿で、クラメル兄妹の兄コリンは、後ろで震える妹のローリンに告げた。

 王都の片隅に残る古来種の塔型遺跡で、コリンとローリンは追いつめられていた。外では季節外れの雨が降っている。そのせいでただでさえ遠い夜の街の音が、なおさら遠くに聞こえてしまう。

 塔型遺跡の中層階で、物置部屋でクラメル兄妹は息をひそめていた。


「なにをいうのですか、お兄様! お、囮になるなら、防御に長けたこのわたし……」

「逆だ」

 防御魔胞体陣を展開するローリンの訴えを、コリンは一言で切り捨てる。


「防御に長けるからこそ、逃げるんだ。この状況では、攻撃するものが囮になるほうがいい。その力でなんとしてもまず逃げ延びてくれ。そして、その後でお前がこの兄を助けてくれ」

「し、しかし……」

 食い下がる妹を後ろに下がらせ、追撃者から庇う兄コリン。

 戦い慣れていないコリンでも、追撃者が近づいてきていることを察知できた。

 2人を追いつめる追撃者は無警戒な気配を放っている。相手は遊びと余裕を持って、もてあそぶようにクラメル兄妹を追いつめているのだ。がその気であれば、2人はすでに死んでいるだろう。


 追撃者はそれほど手ごわい。手ごわいなどという言葉では足りない、と2人は知っている。

 敵は強大、単騎ならば無敵に匹敵。

 2人を追う存在は、そういう人間だ。


「さあ、あの窓から行くんだ」

「で、でも……あいつを相手に助けを求めるなんて誰に……」

「決まって……」

 コリンの発言を、木製のドアを突き破って飛んできた魔法が吹き飛ばす。


 クラメル兄妹が魔力を合わせ、ローリンが念入りに練り上げた防御魔胞体陣がやすやすと削られていく。2人が作る防御魔胞体陣は、学生の領域にとどまらない。王国で匹敵する防御力を持つ防御魔胞体陣を作れるものは、10を数えないだろう。

 その防御を、敵はたやすく削った。ごっそりと魔力も霧散した。


 しかしコリンも負けてはいない。闇の向こうで見えない追撃者に反撃を試みる。ローリンも兄の手助けをしながら、なんとか防御魔胞体陣を張り直した。


 撃つ、守る、しのぐ、撃つ、守る、守る、喰らう、浴びる、倒れる、受ける、立ち上がり撃とうとして潰され辛うじて守る。


 相手は遊ぶような片手間の攻撃で、クラメル兄妹を圧倒している。

 魔力弾と共に繰り出される鉄の礫に押され、2人は物置小屋の隅まで追い詰められた。そこは窓のすぐ近くだ。兄妹は申し合わせたように、その窓から逃げ出そうとするが、追撃者は2人の行動を手伝った。


「【魔獣のかいなと美女の吐息!】」

 爆音と衝撃が、クラメル兄妹の包んでそのまま突き抜けた。


 追撃者の放った破壊槌の魔法が塔の外壁を破壊し、続く突風が2人を突き落とす。

 外壁の残骸と降りしきる雨粒が、衝撃波で粉々に砕かれながら同心円を描いて吹き飛んでいく。その中で、防御陣を張っているクラメル兄妹たちだけが、形を保って重量に引き寄せられる。 


「うっ……、【呼吸するように生き残れ(サバイバー)!】」

 落下しながらも、衝撃を和らげるためローリンが平面陣を地面に向けて投影した。

 2人は平面陣に受け止められ、なおかつその傷が癒される。クッションを兼ねた複合治癒魔法だ。通常は前衛の背に掛ける魔法だが、落下中に使えば衝撃も和らげることができる。

 

 わずかに回復した兄妹は、塔を見上げて追撃者の姿を探す。


 完全に追撃者は遊んでいた。塔に穿たれた穴から2人を見下ろし、どうやって遊ぼうかと思案している様子だ。なんとも可愛らしく、無垢な子供の姿だ。それがよけいに憎らしく恐ろしい。

 周囲に誰もいない古来種の遺跡群の中、屋外に放りだされた2人ぼっちの兄妹を見下ろす小さな影は、逆光の中で笑っていた。


「忌々しいが、あれに……なぜか『マダン』と名乗ったが……あれに対抗できるのは……ザルガラ・ポリヘドラしかいない」

 知っている名と違う名を、あの少年は名乗った。兄妹たちは、いまだあの追撃者の正体に困惑している。

 だが、勝てる相手は、ザルガラ・ポリヘドラしかいないと確信していた。


「頼んだぞ!」

「おにいさ……」

 コリンはローリンを胞体陣で包んでから河に突き落とし、水を操る攻撃魔法を利用して、妹を守るように渦と波で隠した。


 逃げられる様子を上から見ていた追撃者は、さほど困った態度を見せていない。まるで「それも面白いな」、という態度だった。

 躊躇なく追撃者は中空に足を差し出し、魔法も使わず落下する。


「くふふ……」

 魔法無しで音もなく、足の屈伸のみで着地した追撃者は、小さく笑いながら立ち上がる。そしてコリンに向き直る。


 コリンに対峙する小さな追撃者が、右手に握った黒鉄の魔具――かどうか判別不可能な筒のようなものを突きだす。

 そこからは魔力弾と共に、破壊的な礫が吐き出されるからくりになっている。

 仕掛けがわかっても、コリンに対抗手段はない。


 黒い鉄の魔具を睨み、コリンは臍を噛む。


 ――ザルガラしかいない。

 このマダンと名乗る、アザナという追撃者に対抗できる存在は。


次話は日曜くらいに更新します!


サブタイ間違えてたので入れ替え

すみません。

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