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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第1章 天才と怪物

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伏竜鳳雛

ユスティティア(勘違い)回です

「ユスティティアお嬢様。ランナーより報告が届いております」

 夕刻のエッジファセット公爵の王都屋敷。夕食前にポリヘドラ伯の資料を読んでいたユスティティアに、ゴルドナインが間者の報告を持ってきた。

 ランナーとは間者のことだが、名前でも間者スパイを差す意味でもない。隠語、符丁みたいなものだ。

 そしてそのランナーは、アンズランブロクール一派に入りこんでいる。学生の間者なので、それほど大げさなものではないが、子供の遊びの領域ではない。

 

 ランナーはその一人だけではない。

 ユスティティアは学園の大部分に息をかけていた。頭から抑える支配ではなく、隠れて手綱を握るために。 


 結果、アザナを取り巻く環境は非常に穏やかなモノになっている。すべてはユスティティアの功績だ。

 例外として、一匹狼のザルガラは全く制御できてない。制御の難しいアンズランブロクールも、ユスティティアや間者では完全には制御しきれていない。

 それが連日の騒動となっているが、ランナーを使って他の派閥を抑えていなければ、騒ぎはこの程度では済まなかっただろう。


「今日も新しい報告ね。なにかあったのかしら?」

 資料を置き、ゴルドナインの報告に耳を傾けた。


「はい。本日放課後、ザルガラ・ポリヘドラ氏がアンズランブロクール一派にある事件の情報の提供と、協力を申し出たようです」

「っ!」

 ユスティティアは絶句して椅子を蹴り立ち上がった。またも侍女が見事に椅子を押さえた。


「あのザルガラが? なぜよりによってアンズランブロクールと!」

 まさか自分が制御しきれない学園内の問題児たちが手を組むなど――。最悪のことを考えて、ユスティティアは眩暈さえ感じた。


「大丈夫でしょうか?」

「ええ。いいわ――。報告を続けて」

 もはや座って聞いてなどいられない。ユスティティアは仁王立ちして、ゴルドナインに報告するよう促した。


「アンズランブロクール一派に提供された情報は、昨日さくじつの商業区で起きた事件の概要についてでした」

「事件?」

「はい。商業区で何者かによって鍛冶屋組合長の馬車が破壊され、巡回兵が二名、古式治癒魔法を受けるほどの重傷を負わされた事件です」

「そんなのがあったの?」

 さすがのユスティティアも、市井の事件を網羅しているわけではない。

 巡回兵二名の負傷は、なかなかの大事件だ。大捕物の領域である。

 ユスティティアは鍛冶屋組合長の顔は知っていたが、直接話したことはない。事件に興味はないが、ザルガラがなぜその事件の情報を持っているのか、そしてなぜアンズランブロクールに伝えたのかが気になった。

 

「事件の概要は? まず巡回局が得てる情報で」

「はい。巻き込まれた者は、鍛冶屋組合長の長女ソフィと、その使用人。あと組合員の息子です。組合員の息子は、ユスティティア様のご先輩にあたるご学友でした」

「あら、そうなの?」

「はい。ペランドーという平民出の魔法使いです」

「へぇ……」

 鍛冶屋の家から学園に入学できる魔法使いがいるとは――。ない話ではないが、珍しいことである。


「そしてペランドーは、ザルガラ・ポリヘドラのクラスメイトとなっております」

「なるほど。そこで関係するのね」

 納得しながら、ユスティティアを報告を続けるよう顎で促す。無言でうなずき、ゴルドナインの報告が続けられた。


「まず馬車がローブを着た鎧の男によって破壊され、使用人が負傷。ソフィとペランドーが車外に放り出され逃走。騒ぎの近くにいた巡回兵が、ローブの男を確保しようとしましたが、不可思議な魔法と思われる攻撃で負傷。逃走した二人を追いかけたローブを着た鎧の男は、その途中で商店の看板などを破壊。騒動に紛れてペランドーとソフィは無事逃走しました」

「それでローブの男は?」

「はい。応援に来た巡回兵が、ガレキの中に作られた落とし穴に死亡していた正体不明の魔物を回収しております。その場にあったローブから、馬車を破壊し巡回兵を傷つけた犯人と判断されました。そして――」

 一瞬の間があり、ユスティティアはゴルドナインから衝撃の一言が出ると判断し、身構えた。


「二人が逃走した直後に、ザルガラ・ポリヘドラが目撃されています」

 予想外だが、ありえそうな報告だ。

 身構えて損した。と、ユスティティアは肩で息を付いた。 


 ゴルドナインの報告は続く。

 

「そのザルガラ・ポリヘドラが、事件の翌日にアンズランブロクール一派に接触。正体不明の魔物の情報を提供し、王都に警戒を促す提案を行っています」

 ザルガラの持っていた情報は、かなり具体的だったという。

 魔物の特性や特徴、外見や対策。目的などだ。

 一回だけの遭遇戦にしては、情報が完璧すぎると、ユスティティアは訝しがった。


「もしかして、実は彼が黒幕……ってやつかしら?」

「私にはわかりかねます」

 ゴルドナインは、いつものセリフで質問を躱した。


「――いえ、違うわね。お父様の話では、あのザルガラは……竜は伏せていただけ。アザナ様という鳳凰の雛を待っていた……と」

 信じがたい話だが、ユスティティアは父を信用している。

 ユスティティアの父、アイデアルカットはザルガラとポリヘドラ家を高く評価していた。

 ザルガラは評判こそ悪いが、彼自身は全く行動を取っていない。幼少期に少し活躍しただけで、以来は小さく大人しくしている。悪事はもちろん、功績を残していない。

 学園でもアザナが入学するまで孤立していた。

 その状況を、アイデアルカットは「社会的まっさらを維持している」と評した。

 友人もコネもない状態。ザルガラにとっては辛い状況だが、あえてそれを選んでいる。なぜならば、強大な力を持っていても――いや、持っているからこそ、かならず社会的にも人間関係でも染まってしまう。

 アザナとて、ユスティティア色に染まっていると言っていい。エッジファセット公に取り込まれ始めている。

 

 ザルガラにはそれがない。功罪ゼロで、畏れられているだけで敵も味方もいない。

 だが、彼は一気に動きだした。


 悪事をするなら、かならず周囲を有能か有益な人材で固めて置くはずだ。彼はそれを一切行っていない。よほど愚かでないかぎり、手の込んだ犯罪をするような事はないだろう。

 善事をするならば、平時より行っているはずだ。思い付いたように善事を行うなど、遊びみたいなものである。


 ザルガラの状況は、社会的にまっさらを維持している。

 それはまさに、機を狙っている姿だ。


 彼はなんらかの大きな目標を隠し持って、野に伏せている。それがアイデアルカットの評価だった。

 

 アザナの存在を知ってから、彼は確実に目標に向かって動き出していた。それは確かだ。


「もしや、その正体不明の魔物が……彼の目標……敵なのかしら。そういえば、彼は幼少期にわざわざ山を越えて魔物を討伐したらしいけど――それが関係あるのかしら?」

 その魔物討伐以来、彼は率先して魔物を狩っていない。せいぜい火の粉を振り払う防衛くらいだ。彼の実力にしては、考えられないことである。

 ユスティティアは推測する。


 幼少期の魔物討伐。それは、絶対に行わなければならなかった討伐ではないのか?

 以来、今まで魔物討伐しなかった。それは、必要がなかったから。

 そして正体不明の魔物が死亡している現場にいた。彼がその場にいたということは。


 絶対に倒さなければならない存在――ではなかったのか?


「正体不明の魔物に付いて、調べて見る必要があるわね。お父上のランナーも使わせてもらいましょう。頼んだわよ」

「かしこまりました」

 指示を受け、ゴルドナインは退室していった。

 部屋に残るユスティティアは、資料を片づけて目を伏せる。


「それにしても」

 報告を反芻して、ユスティティアは悩む。


「正体不明な魔物の情報を、アザナ様に出所を隠して優先的に流す。……やはりそういうことなのでしょうか? もしかして……」

 推測の範囲を出ないが、可能性の一つが浮かぶ。

 父に報告する懸案が増えたと、悩ましいと額を抑えて呟いた。


「アザナ様が魔物たちの天敵――勇者と知っているのかしら?」


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