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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第5章 It if and only if you.
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フルーツバスケット


 古竜の叫び声と暴れる轟音が聞いて、落ち着き始めていた乗客たちが騒ぎ出した。

 

「お、おい……。声がさっきより大きいぞ!?」

「なんでよぉ~」

「どういうことだ! この船は港に向かってるんじゃないのか?」

「まさか……この船が追いかけられてるのか?」

「どうなっているんだ!」「避難してるんじゃないの?」「だれか説明してくれよぉっ!」


 慌てふためく乗客たちが、満身創痍だが未だ冷静なリザードマン水兵たちに詰め寄る。リザードマンというだけあって、この事態でも平然としているが、一介の水兵では事情がわからないので対応に困っていた。

 そんな水兵たちに代わり、このオレが状況を説明する。


「そうだった……。操船が奪われてるらしくって、【ぬけがらの遺産(エンプディ・シェル)】の近くまで来てるんだよ、この遊覧船」

「な、なんでそんな重要なこと言わないのよ、あんたーーっ!」

 今までおとなしかったテューキー先輩が、エルフ耳を怒りでおったててオレに詰め寄ってくる。

 ワイルデュー先輩が抑えてくれるが、そうでなかったら飛びかかられただろう。


「しょうがないだろ、まずコイツらなんとかしないといけなか……」

 テューキーの追及を受け流そうと、襲撃者を指さしたら――。


『すっかり大きくなったね、ぼくのイチゴちゃん』

「オーラ様もお変わりなく」

『いやいやだいぶ変わっているだろ?』

「変わっていませんわ。わたしの目にはいつもの姿が見えてますのものぉ」


 蹴っ飛ばしてやろうか、この負債満載夫妻。なにがイチゴちゃんだよ、お互い歳を考えろ。


 などと、いたずらしあうネーブナイト夫妻たちのせいで、いたずらに気力を奪われているオレの背後で、怪我の少ないリザードマンたちが乗客たちを避難誘導を開始した。


「そういえば……」

 古竜の存在と共に、なぜかオレはある母娘を思い出す。

 やたら神秘的な母親と、不可思議極まりないオレをパパと呼ぶ幼女。たしか乗客たちにいたはずだが、どうも見当たらない。

 甲板では確かにいたはずなんだが?

 この船は遊覧船などとはいうが、選ばれた客層しかいない少人数相手の客船だ。ぱっと見回していないとなると気になる。


「ちょいと聞くが、これこういう母娘が見えないようだけど?」

 近くにいた水兵に尋ねると、そいつは表情を変えず……変わったのかもしれんがわからない……首を捻ってみせた。

 人間の外見を説明しても、異種族であるリザードマンでは判断がつきかねるのだろう。


「名前はわかりませんか? しゅー」

「名前? ……あれ? なんだっけ?」

『エト・インとオティウムですね』

 あー、そうだそうだ。

 ディータのフォローで名前を思い出したオレは、それをリザードマンに告げる。


「オティウムっていう女性と、エト・インとかいうおかしなガキだ」

「っ!」

 滅多なことで動揺しないリザードマンが、びくりと驚いたような反応をしてみせた。

 

「そ、そういえば……いない? おい、みんな! アンティクームのおふたりを知らんか? シュー!」

「見ていない!」

「騒動の最中みてないか?」

「おおごとだしゅー」

 

 あんてぃくーむ?

 言葉の意味も分からないが、彼らのこの動揺具合はなんだ? 

 2人は重要人物なんだろうか?

 どうも納得がいかない。しっくりとこないというか、好き嫌い関係なく推測やら推理やら推論やらを重ねてしまうオレにしては、どうやっても納得できる解がつかめない。

 かと言って詳しく聞く気も時間もない。


「ど、どうやら2人ともいないようでしゅー」

「なんてことだ。申し開きできないぞ。しゅー」

「とにかく今は乗客たちを。お二人は手すきのヤツに探させるしゅー」

「操舵を奪われてるなら、まずは脱出を考えるべきだしゅー」

「人数分の救命艇を確保しておこうしゅー」


 しゅーしゅーいいながらしっぽを振り、慌てて対処にうつるリザードマンたち。オレには一言「いない」と説明しただけである。

 無礼だぞ、オマエたち。そのしっぽをブレイカーしちゃうぞ。


 それはさておき。

 

 あの母娘はどこに行ったのだろうか?

 まさか鼻長ブラエ候の仲間……なんてことはないだろう。


 となると、親子がどっかに行ってしまう理由となると……子供がどこかで迷子になったか?


「そういえばあのガキ……。警備の厳しい琥珀採取の海岸で、悠々と泳いでいやがったな」

 あの調子で、古竜のいるぬけがらの遺産にでもいったか。

 なーんてこと、ない……か?


 普通の子供なら無理な話だが、普通じゃない子供ならできないこともない。

 オレという証拠がある。

 5歳児のオレが、山一つ越えて危険な魔物の巣を襲撃したことあるわけだし。


 だから可能性としては……ある。

 あのガキはどこか普通じゃなかったからな。いったん気になると気になってしかたないから、確認くらいはしておこう。


「マトロ先生。ちょいと気になるんで、甲板へ出て古竜の様子を見てくる」

「な、なにを言い出すんですか!? ポ、ポリヘドラさん!」

 マトロ女史にそう告げると、彼女は一瞬驚いた顔を見せた後に、しゃんと背筋を伸ばしいった。


「仕方ありません。わ、わたしもついていきます。ここはテューキーさん。あなたに任せます」

「いや、別に来てもらっても……」

 引率者としての責任感を出してきたのか、オレについてくるとか言い出した。

 迷惑な話だな――って、待てよ。

 なにかあった場合、生徒や水兵たちへ連絡してもらうのに人手はあったほうがいいか。


「わかった。よろしく頼むぜ、マトロ先生」

 この場はタルピーとテューキー、それに解体に夢中なアザナに任せるとことにした。

 すると――。 


「では、うちのヨーファイネもつけよう」

 カタラン伯もそんなことを申し出てきた。


「いやいらないけど」

 確かにヨーヨーの実力は折り紙付きだが、別にいらないよソレ。 


「わが家ももう無関係ではありませんので」

 ヨーヨーが乗り気で床から立ち上がった。カタランがうむ、そうじゃのという顔をしている。


「え? なにか関係あるのか?」

 オレが首を捻ると、ディータが背後から抱き着いてきて、耳元で囁き始めた。


『……ここは互いの領内から逸脱した場所で、水軍や私たちが巻き込まれたとはいえ、今回の騒動は辺境伯と辺境伯が起こした騒動の延長。巻き込まれた。だから、そこに割って入ったまではいいです。ですが、そこで許す許さないなどと他家の貴族が言い出すなんて、非常識極まりません。いいですか、ザル様? 辺境伯は諸侯以上に独自の差配ができるのです。辺境伯同士の戦争は、国家間の戦いに含まれません。つまり、ザル様は完全に無関係な上に、立ち入ってはいけなかったのですよ。議会ですら手を出せず、王家ですらせいぜい口を挟める程度。そこにザル様は「気にいらない」と割って入ったのですよ? まるで「婚姻受けて家に入るからオレに任せな」と、宣言してしまったようなものです。わかりますか? わかりましたか? 私が顕現してうやむやにしようとしたのに、また割って入って宿敵宣言とか、完全に婿に行く気みたいじゃないですか? ぶっちゃけ嫉妬です。怒ってます。タルピーさんに負けないくらい、燃え尽きるほどヒートです。しかも邪魔されたから、本当に怒ってます。ぷんぷんという感じじゃなくて、メンツまで潰して本当にちょっと許せません。あとでお詫びとご褒美を要求しますからね?』


「え、あ、うん。ごめん」

 怖いので、つい謝ってしまった。


 ――姫様のほの暗い説教が、陰影の定かでない口からだらだらだらだらとこぼれてきた。なんか怖いぞ、ディータ。

 ぼそぼそ耳元で説教されるなんて、生まれて初めての経験だった。


 ……だがディータのいうことは、姫様として至極まっとうなことだ。

 巻き込まれたから、つい気に入らないからと立ち入ってしまったが、王国の貴族として許せなくても他家の事情にまで口を出したのは軽率だった。

 大人なら――少しは貴族として腹芸ができるなら、許すことも必要だったかもしれん……。


 オレはカタランとネーブナイトの事情に、婿さん候補的な感じでほいほいと顔を突っ込んだようなもんだ。

 ちくしょう、無関係装って距離置けばよかったぜ!


 だから説教は嫌いなんだ。

 説教したからには責任とらないといけないから……。


『自業自得』

 ディータ、オマエもオレに説教したんだから責任取れよな。


『……どちらかというと、お詫びが必要。私と同じ存在になって』

 それは無理な相談だな。古来種様に頼んでくれ。


 ネーブナイト夫人はほとんど戦闘継続能力を失っているが、一応、オレたちについてきてもらう。お隣で続く護衛船での戦闘を止めてもらう必要があるしな。

 未だ大人の姿で踊っているタルピーに乗客を任せ、ネーブナイト夫人とオーラ=ゴーレムを先行させて甲板へと出る階段を昇る。


「ザルガラ様」

 甲板にでる階段を上っていると、ヨーヨーが声をかけてきた。


「万が一の場合、あの古竜と……一戦を構えるつもりですか?」

 あのヨーヨーですら、古竜と聞くと震えあがるようだ。それも仕方ない。古来種に匹敵するなんて噂する奴らもいるくらいの相手だ。

 彼女の反応は当然である。


「まあな。だが安心しろ。後先の面倒を考えなければ、余裕で倒せるぜ」

 いくら古竜とはいえ、その実力は最上位種の域を出ないし、攻撃と物理特化型だから戦いやすい。

 単体ならなんなく倒せるだろう。

 だが、そんなことをすれば、西の霊峰にいる古竜の一族がどうでるか……さすがに千の群れで東に進まれたら共和国のみならず、王国へも被害が出るだろう。

 その点は留意しなくてはならない。


「ほんとうに戦えます?」

「ほんとうに戦えるし、倒せるって」

「余裕?」

「しつこいな。朝飯前だよ」

 突き放して答えるが、ヨーヨーは食い下がる


「どんな条件でも?」

「ああ、どんな条件でも不覚を取るようなことはない」

「イシャン先輩のような姿で戦えますか?」

「おう、余裕……って、待て待て! その全裸条件いるか!?」

「やっぱり無理じゃないですか!」

「全裸が無理なの! 古竜とのファイトはぜんぜん余裕なのっ! この状況で、オマエも余裕だな!」

 義務感だけでついてきてるっぽいマトロ女史なんて、後ろでブルってるというのに!

 などと言い合っていたら、先を進むネーブナイト夫妻たちが微笑ましそうな表情でオレたちを見ていた。


『仲がよさそうだ、彼らは』

「ええ、彼が隣人になると楽しそうねぇ」 

「おいおいおい、やめてくれよ。オマエら少しは物理的な立場と情勢的な立場考えろー。後ろから吹っ飛ばすぞー。生暖かい見守る視線はいらないから、とっとと昇れ」

 優しく笑う2人を追い立て、オレたちは甲板へと出た。

 夜の闇を震わすような古竜の雄たけびが、オレたちの全身を叩く。


 ヨーヨーとマトロ女史はもちろん、あのネーブナイト夫人ですらびくりと身体を震わせた。

 オーラ=ゴーレムはわからん。無機物すぎる。


「ネーブナイト卿。あんたらは護衛船との戦闘を止め――って、止まってんな」

「とまってるわねぇ~」

 護衛戦とネーブナイト夫人が乗って来た船を指さしてみたが、古竜に怯えたのか戦闘が中断されていた。

 どうやらアッチの船は逃げ出す算段をしてたらしいが、夫人を置いていくわけにもいかず遊覧船付近を周回していたようだ。

 護衛船は遊覧船に近づけさせぬように、共和国の船を追いかけている。

 互いに船体への損害は少ないようだ……が、その向こうの【ぬけがらの遺産】で暴れる古竜のせいで、船体がびくびくしているように見えた。


「す、水軍の船は? どこ?」

 マトロ女史が縋るように水軍の艦船を探す。


「あー、暗くてよくわからんが、多分あっちの方で光ってる衝突防止魔具灯がそうかな」

 マトロ女史が探している方向の真反対を指さす。衝突防止魔具灯の数からして、5隻くらいだろうか。


「か、数が少なすぎません? 増援はくるの? 水上艦って古竜の攻撃に耐えられるのかしら?」

 水軍の少なさに、動揺を隠せず引率者にあるまじき不安を口にした。オレたちが軟弱な子供だったら、マトロ女史の姿を見て不安になってしまうだろう。


「そこらへんは水軍に事情があるんだろう」

 単純に近くにいる船が少なかったか、あの共和国の鼻長貴族の妨害を受けているか、そんなあたりだ。

 取りあえず、邪魔なものにはさっさと帰ってもらおう。


「ネーブナイト卿。あんたらは邪魔だからとっとと帰れ」

「……あら? 本当にぃ? いいのかしらぁ?」

「推測だが、あの鼻長おじさんのヤツ。あんたらも始末するつもりっぽいから、なんか思い通りにさせたくないんだよ。うまく逃げてくれ」

 いまだ旧体制然とした王国ならともかく、共和国にとっては前体制の遺物である辺境伯だ。もろとも始末するって可能性は高い。事実、北などの辺境伯を再興させようとせず、中央の息がかかった方面軍でカヴァーしている。

 

「……そう。恩にきるわぁ」

「くりかえす。思い通りにさせたくないだけだ」

 ネーブナイト夫人が笑ったが、オレは視線を逸らして鼻で笑う。


「そういうことにしておくわぁ」

「くりかえす。思い通りにさせたくないだけだ。くりかえす、思い通りに……」

 壊れた魔具みたいに、同じセリフを念入りに繰り返す。

 彼女たちは納得してくれたようで、救命艇を一つ拝借して遊覧船を後にした。


「あの古竜の名は、【名声と(ファーマー・)強大なる武力をインゲンス・インゲンティオル持つ者(アルミース)】よぉ」

 去り際に、ネーブナイト夫人が古竜の名を教えてくれた。名前を知ってもしかたないんだが、全く知らないよりはまだいい。


「さあて、見たところデッキには問題ないが……。あっちのほうはどうだろうか?」

 遠見の魔法を使おうかと思ったが、【ぬけがらの遺産】には光源がなかった。

 いくら金色の古竜がぴかぴかしていようと、光源がなければぼんやりした影にしかみえない。

 偵察用の目と魔法の光源でも、島へ向かって飛ばそうかと思案していたら――。


「あ、どうも地面を転げまわってるようですね」

 魔胞体陣で顔を包んでいたヨーヨーが、そんなことをいった。

 見れば精度の高い遠見の魔法に、わずかな光を増幅する魔法を重ねかけしているらしい。単純な新式でも見慣れた古式でもない。おそらくヨーヨーの独式だ。


「すげぇ独式魔法持ってるな、ヨーヨー」

 素直に感心した。


「はい、覗きに使えますので」

「そんなこったろうと思ったよ」

 素直に軽蔑した。


「北校舎から職員用の更衣室もデュフフ……覗けましてね。きりりとしたマトロ先生のだらしない身体が……」

「ヨーファイネちゃん。あとでお話がありますね」

 怖い顔したマトロ女史に襟首をつかまれる。


「ヨーヨー、ちょっとコイツを借りるぜ」

 捕まったヨーヨーの魔胞体陣をひょいっと借りて、古竜の様子を覗いてみた。

 他人の投影した魔法陣なので、ちょっと魔力供給術式を書き換えないといけなかったが、独式とはいえその辺は古式と同じだったのでなんなく書き換えることができた。


「くわぁ……、これりゃそうとう名のある古竜だな」

 たしか【名声と(ファーマー・)強大なる武力をインゲンス・インゲンティオル持つ者(アルミース)】といったか?

 さすが古竜。立派なものだ。

 そこらで古来種の財宝を守ってる新竜とは、大きさも鱗の質も角の勇ましさもまるで違う。


「あれは…………いたっ!」

 丘ほどある古竜の巨体からすると、豆粒のような小さい金髪の女の子が、島に上陸している姿が見えた。

 エト・インだ。 

 そして、その一目散に古竜へと向かってかけていく。

 あのバカガキが!

 あれが危険だと理解できないのか!


 オレはイラ立ちながらヨーヨーの作った夜間覗き用魔胞体陣を投げ捨て、飛行魔法を使って島へ飛ぶ。


「ああっ! ポリヘドラさん! まちなさーい!」

 マトロ女史が呼び止めるが無視。時間がない。

 子供の足とはいえ、距離はあっちが圧倒的に近い。


『助けるの?』

 オレから離れられないディータが、肩に捕まりながら不思議そうに訪ねてきた。


「ああ。今回はいいところなしだからな。ちょっといいことしてみたい!」

 カタランとネーブナイトの問題に割り込んだのは、オレの勇み足だった。

 こうなったら被害者を徹底的に減らして、共和国の鼻長侯爵の鼻をあかしてやる!


「間に合うか!?」

 古竜がエト・インに気が付かないことを願いつつ、水しぶきを立てつつ真っ暗な水上を低く飛ぶ。

 ぐらりと古竜の巨体が揺らぎ……暴れる首がエト・インへと向かっていく。

 まずい! 巻き込まれる!


 オレはアザナ謹製の加速魔法を使って空を駆り、同時に「ぶっ飛ばす」ことだけに特化した魔法を準備する。


「おめぇの席はそこじゃねぇからっ!! 『除け者は床に座れ!』」

 

 右腕に魔胞体陣を纏わせ、拳を握りしめる。

 大きく振りかぶって、空中でフルスイング。魔力から生じる反動や衝撃や音などを、すべて「除ける」力へ変換する魔法を、古竜の横っ面めがけて放った。

 殴った音すらない。オレの手に反動もない。飛んできたオレはその場で急停止し、すべてのエネルギーが古竜を吹き飛ばす力となった。


 不気味なほど静かに古竜の身体が吹き飛び、がらがらと地面の上を転がった。地面を巨体が転がるのに、振動どころか音すらしない。

 なにもかも、すべてが古竜を「そこからどかす」ことだけに作用する。仮に古竜が貧弱な肉体だったとしても、一切のダメージがない。毛の一本すら抜けないだろう。とても頭皮に優しい。


 ダメージも何もない代わりに、オレがその場所を奪って、どんな巨体だろうと固定されていないかぎり、相手はその場を退いて、不本意だろうがなんだろうが地面へと転がる羽目になる。そういう魔法だ。

 ちなみに回避されると無効。


「あ、パパがパパを殴った」

「あん? なんだって?」

 なんにも理解してなそうな地上のエト・インが、宙のオレを指さしてそんなことをいった。

 意味がわからず、オレは古竜を殴ったポーズのまま宙で止まった。


 ふと視界の隅で、吹っ飛ばした古竜の巨体が土煙の中に消える。

 

「なんだ!?」 

 古竜から反撃がくるか? と、オレはエト・インを庇うため地上に降りた。

 警戒し防御魔胞体陣を念入りに投影するが、攻撃も咆哮の一つもこない。

 やがて晴れる土埃。

 そこで――


「あああああっ!!」

 人の姿となって、のた打ち回るたぶん古竜だったらしきモノがいた。

 その姿は、成長したオレの姿にそっくりだった。


「……え? オレ? コレ、オレ?」

「うん、パパ、パパだよ! ……こっちもパパ?」

 エト・インがオレとオレに似た何かを交互に指さし、首をかわいらしくひねってみせた。


 ばたばたと、のた打ち回っていたオレに似たソイツは、大地に抱き着くようにしてぴたりと止まった。

 そして叫んだ。


「ああああっ!! ママの残り香ぁぁっ!! くんかくんかくんかぁ!!」


「え、なにコイツ……」

 オレとしたことが、思わずたじろぐ。

 カルシウムの塊みたいな地面の匂いで、歓喜にのた打ち回る……ような古竜の人間形態。


 なまじオレに似てるので、嫌悪感が半端ない。


「おい、テメェ。ふざけてるのか? なにがママだよ、ガキじゃねぇんだぞ!」

 魔力弾を一発、顔面へお見舞いしてやると、オレに似たソイツは一瞬にして正気を取り戻した。

 そしてオレを睨み言い放つ。


「ママを嫌いな男などいない!」

「オレの決め顔で、全世界の男を貶めるようなこというなっ!!」




ちょっと5章が間延びしてしまって反省。

そのかわりと言ってはなんですが、変態ネタ……じゃなかった短編ネタがいっぱいたまりました。災い転じて福となすです。

5章が終わったら一杯変t…じゃない、短編が続きます。


古竜の名誉のため言っておきますが、ブラエ侯爵の魔法で幼児退行してるだけで別にマザコンなわけではありません。

まあマザコンなんですが。

ところである場所のある動画で、とあるバブみのあるキャラに向かって「こいつは俺を孕んでる」というコメントを発見し、そのパワーワードに圧倒され世の変た…才能ある人に嫉妬します。

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