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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第5章 It if and only if you.
147/373

たった1つ


 オレの発言に、周囲の連中がおののいている。


 誰が?

 カタラン伯や乗客たち、それとマトロ女史とか学園の生徒たちだ。

 まあリザードマンの水兵たちは冷静だ。あとヨーヨーは悶絶してるし、アザナとペランドーはぽかんとしているので、この場にいる全員ではない。


 もちろん一番動揺しているのは、首を差し出せと言われたネーブナイト夫人本人だ。


 先ほどまでの勇ましい……というか、怖いくらいがむしゃらだった姿はどこへやら。

 中身が正体不明の新型ゴーレムに縋りつき、ソレを失うのが恐ろしいという顔をしていた。


 ところでこのゴーレムの表情ってのは、当然まったくどうやってもわからないモノなので、いまいち何を考えているかわからない。

 中身が本当にオーラ・ネーブナイト辺境伯なのかもわからないが……、そいつは露出した魔胞体石を輝かせ、オレに語り掛ける。


『待ってくれないか……少年よ……』

「ザルガラだ」

『は?』

「ザルガラ・ポリヘドラだ。覚えておけ」

 名乗るとゴーレムはこくりとうなずき、ネーブナイト夫人を抱き寄せるという人間らしい仕草をしてみせる。

 この時、オレはわずかに情が浮かぶのを感じた。

 オレだって人間だ。貴族の子とはいえ、まだ爵位もないし、嫡男予備筆頭な次男だ。

 たたき売りにでもありそうな命乞いならともかく、なにか素敵な発言でもされたら心が揺らぐかもしれない。


 場合によっては王国の臣下としての考えや心構えなどより、人としての情が勝つだろう。だから、このゴーレムと会話するのは危険だ。

 そう判断して、オーラ=ゴーレムからの発言は、すべて受け流すと決める。


『しばし待ってくれないか? この状況を引き起こした我々ではあるが……しばらく……待ってくれないか?』

「わかってるんじゃねぇか。待つのはいいとして、そのあと――どう落とし前をつける?」 

 オレは隣りに並ぶリザードマンたちを指し示す。

 ゴーレムとネーブナイト夫人の攻撃で、致命傷こそないものの傷だらけだ。


「見てみろ、そこのリザードマンの水兵たちを。乗客を守る任務のためにボロボロだぜ。護衛の船じゃ同僚たちに死人が出てるかもしれない。楽な遊覧船の護衛かと思ったら、一転してひどい話だ。許せないよなぁ?」

 状況を説明しつつ、同意をリザードマンたちに求めた。

 水兵たちは武器を降ろし、互いの顔を見合って答える。


「いや、別に」

「我々は任務を遂行した」

「同族の死は悲しい。だが、それを評価してくれる軍があるシュー」

「死を意味のあるものとしてくれるシュー」

「同族たちも淡々と状況に対応し、上官の命令に従っただけだシュー」


 水兵たちの反応は非常にたんぱくだった。


「ドライだな。さすがトカゲそっけない」

 話を振ってなんだが、オレはちょっとひどいことを言ってしまう。


「ほめられたシュー」

「照れるシュー」

 いやぜんぜん照れてるように見えん。あとまったく褒めてないから。


 生来、リザードマンは冷淡である。

 卵生ということもあって、親子の情も希薄と聞くが、同僚友人ではさらにその情も希薄だ。

 こういった性質もあって軍属に……特に兵卒や下士官に向く。


 そんなコイツら、きっと友達とかいなくても大丈夫なんだろうなぁ……。

 それはさておき――、なんというか悪い相手に話を振ってしまった。


 見渡せば、乗客たちが「ならいいんじゃないか?」という顔をしている。まあオマエらの被害は、せいぜいクルージングと夕食の邪魔をされただけだしな。

 そりゃコレは目をつぶってもいいだろう。しかしカタラン領での今までの被害ってのがある。

 取った取られたが日常とはいえ、このネーブナイト夫人の無謀な行為がなければ失われなかった。


「あー、それでもだな。平時とはいえ軍属の船に乗り込んだ。それ相応の対処はしないと……」

 ひとまず拘束するなりするかと、胞体陣を投影した瞬間、ネーブナイト夫人が反応した。

 今までとは違う意志を持った目で、対抗するかの如く胞体陣を投影してくる。両腕はボロボロで武器も持っていないが、そうまでされちゃあ、オレも手加減できない。


 オレは魔力弾を撃つため、右手をかざし――って、オレの右手が無い!


 どこに行ったオレの右手! と、見回すとディータがオレの右手を握りしめて天井付近に浮かんでいた。


「おい、なんのつもりだディー……」

『……ガブッ』

「あいてっ!」

 ディータのヤツ! 

 オレの右手を思いっきり噛みやがった!


 なにをするんだ、と再び叫ぼうとした瞬間、ディータの姿が強く輝き、タルピーの造る炎のドレスを吹き飛ばした。


「な、なんだ?」

 カタラン伯がよろめき、光から目を守るように手をかざす。ネーブナイト夫人も目を閉じ、投影魔胞体陣が消えうせる。

 この光はカタラン伯たちだけでなく、ペランドーや乗客たちにも見えていたようだ。

 みなが、光をよけるように頭上に手をかざしている。


 そしてオレやネーブナイト夫人の魔法ではないと悟った周囲の人々は、その光の眩しそうに眼を細めながら呟く。


「おお……あれは……」

「なんと神々しい……」

「もしや……あのお姿……」

「まさか、姫様……」


 みんな……見えてるのか? 

 光だけじゃなくディータの姿そのものが?

 数人は光の中にいるディータの正体に気が付いているようだ。まあそうだろうな、遺体を公開したからよく知ってる民も多い。

 ディータはオレの右手を血が出るほど噛んだようだが……、そこから高次元物質を体内に取り込んで、誰からも姿が見えるように物質を体内に配したのか?

 まったくの憶測だが、あながち間違いでもないだろう。


「まちがいないよ! お姫様だよ!」

 オレの隣りにいたペランドーが、不遜にも指をさして叫んだ。

 まずいと思ったのか、慌ててペランドーは指をひっこめて膝をつく。


 彼を見習い、乗客たちもマトロ女史にワイルデューたちも膝をついてこうべを下げる。いつもは生意気なテューキーだって例外ではない。

 異種族であるリザードマンたちも、彼らなりの敬意を表している。

 古来種の影響を受けている中位と下位の人類は、みなこのディータに敬意を払う。

 ネーブナイト夫妻も、やはり敬意を払って頭を垂れている。敵国であろうと、さかのぼれば元は同じ国の貴族。さらにさかのぼれば、同じ古来種の奴隷。影響からは逃れられない。


 誰もが神々しいディータを見上げることができずにいた。一方、光に包まれたディータは、裸身を隠す様子もない。


 平然としているのは、オレとアザナとタルピー。例外中の例外のような連中だけだ。


『……わたしは』

 臣下の礼に尽くす人々を見て、ディータも少々困っていたようだ。

 オレの右手を返してくれねぇかな、と頼みたかったがそんな空気ではない。

 小さな口を開こうとするディータ。

 やめてくれ――、下手なことは言うなよ。


『ディータ……ディータ・カトプトリカ・エウクレイデス』

 あ~あ、言ってしまったか。

 ディータは名乗ってしまった。偽物だとしても、それを証明できないかぎり、オレはこのディータを姫様として対応しなくてはいけない。

 いや本物だけどさ、コイツは。


「どういうつもりだ、ディータ」

 その名を出したら、オレも畏まらずにはいられない。

 古来種が王族の祖に与えた圧力を前に、抵抗できていたオレとアザナですら膝を屈する羽目になった。

 タルピーは上位種なので、関係ないと光を浴びながらひょうひょうと踊っている。完全に部外者のソレである。


「おお、ディータ殿下。おひさしゅうございます! 奇跡の後にまたさらなる奇跡を見て、この老体が震えております! 覚えておいでですかな? カタラン、カイタル・カタランにございます」

 空元気だろうが、カタランが頭を下げたまま勢いよく前に出た。

 無理をしているのはディータもわかっているのだろう。それ以上無理をするなと、手をかざして優しく語り掛ける。


「……覚えています。いつぞやの療養では世話になりました」

「いえ、お役に立てずもうしわけございません!」

「気になさらずに……さて」

 ディータはカタランに用はないという仕草を手で見せ、オレに向き直る。

 何を言い出すかと戦々恐々としていたら、ディータはとんでもない


「……ザル様。ここは矛を収めていただけませんか?」

 ディータ、オマエもか。

 一時の感情と物珍しさに流されて、過去を見ずに流せと?


 いや、まあオレは今回の騒動だけで迷惑被っただけで、カタラン領領民たちにこれといった責任とか義務とかあるわけじゃないが……。


「お言葉ですが殿下。現状において、なかったことをするのは禄を食む貴人の1人として、許されるべきではないかと存じます」

 あー、面倒くせぇな。公式な場じゃねえし、普段は気楽に話してるし、とうに王家への敬意が売り切れてるオレが、なんで頭を下げて面倒な申し開きをしなきゃなんねぇんだ。

 あとで覚えてろよ、ディータ。


 オレのイラつきが含まれた意見に、ディータは真正面から答える。


古来種カルテジアン様の支配から解放されてしまったその時から、私たちは連綿と争いを続けてきました。それは悲しいことであり、それらを回避し、被害を減らし、止む終えぬ場合を敵を討ち、民を慰撫するのが私たち王族の役目であると確信しています」

 もっともらしいこといってるが、当然のことでもある。

 ディータの言葉を聞いて、カタランや乗客たちがその通りだと感銘しているが、特にすごいことは言ってないぞ、みんな。

 法には赦すという概念はほとんどないが、人治であるこの国は許すと上の者が言えば、下は従うほかない。

 ディータは許すといえる存在だ。ましてこんな姿になって、古来種のように見えてしまう。

 何を言い出すかとオレが歯ぎしりしていると。


「ですが今、ここに一つの奇跡があります」

 ディータはオーラ=ゴーレムを指示し言った。


「かつてそうであったから、慣習的に敵の蛮行を見逃すわけにはいかず、民の慰撫を忘れて利益や仇討ちを選ぶなどと王としても臣下としても、また当の民だとしても望ましいことではないでしょう」


 これまたもっともらしいが、大したことは言ってない。上に立つ者が、もっともらしい物言いをしているだけだ。

 しかし、次の言葉はオレでも心動かされる。


「古来種様の手を離れてから1万年の中でも、ただ一度足りとて起きなかったこの目の前の奇跡。その手で握りつぶすのですか」


 1万年――。

 そうだ、1万年。

 未だかつて、死者がゴーレムに宿るなどということがあっただろうか?

 

 たしかにアンデットはいる。亡霊ファントム幽霊スペクターもこの世界にはいる。

 だが、それらはすべて古来種が、そういうものとして作った存在だ。

 オレたち中位種の誰もが、いつの時代でも再現できていない。

 あとは吸血鬼など上位種が作り出す配下の下位アンデットとか、未来でオレとターラインがぶっ潰す共和国のディッドヴァイタイムとかいうやつが管理する研究所のゾンビくらいだ。

 

 たしかに――そういわれると心が動く。


 あのオーラ=ゴーレムは、誰も見たことのないたった1つの奇跡だ。


 だが、それでも――。

 人の生き死が相対的に見たら小さいというか?

 執政者の視点ではそうだろうが……。


「……ぐぅ……この」

 しかし、オレとしたことが逆らえない。

 人間の中位種チューンドを円滑に管理するため、さらに改造チューンドされた存在を祖とする王族。

 ディータは父親のエンクレイデルより、その力を大きく引き継いでいるようだ。

 

 理屈や感情が強ければ、抗することもできそうだが、少しだけディータの言い分に納得してしまった。

 そのほころびを起点とし、一気に王族の持つ精神支配の力がオレに圧力をかける。


 ……っ!

 そうだ!

 王族の持つ魅力強化チューンドの影響を受けず、さらに高い権限を持つ真の管理者である上位種アドミニストレータがいるじゃねーか!

 オレは近くをふらふらして踊っているイフリータのタルピーに望みをかけた。


「おい、タルピー!」

 見上げてみると、タルピーが頭を抱えた奇妙な踊りをしつつ、頭上に黒い煙を出していた。


『あううーん、不完全燃焼~。むずかしいおはなしはよしてぇー』

「話、聞いてた?」

『うん、でもわからなかった。ここはパスで』

「オマエに頼ろうとしたオレが浅はかだった」

 さっきはオレの台詞奪って、偉そうなこといったのに、今はこれかよ。

 というか、タルピーって処理能力を超えると不完全燃焼するのか。

 頼むから一酸化炭素は出すなよ。


「……ザル様。ここはわたしに免じて」

 それを言いやがったか、ディータ。

 オレの高次元物質を間借りして存在してるだけの残り滓が、それを言うか!

 ディータの身体を、ゴーレムに乗り移らせる可能性があるのに、それを見逃せというのは見上げたものだ。

 アレを解体して原因を突き詰めれば、奇跡じゃないと証明できる。

 だというのに、手放せというかディータ!


 ちくしょう――逆らいたい。

 理屈じゃなくて、単純に逆らいたい。

 ディータに仮初とはいえ肉体を与えたいという意味ではなく、ただただ逆らいたい。


「承知いたしました!」

 逆らいたいオレは、物分かりよさそうに叫んで、精神支配によってどうあがいても上げられないこの頭を床へと叩きつけた。


「っ!」

 ディータだけでなく、誰もが驚いてオレを見た。

 オレの頭がおかしくなったわけではない。


 硬い床板から受けた衝撃でくらりとしたが、頭は結構冴えている。


「委細承知! ですが、その奇跡。ならばその奇跡。本当に奇跡なのか、いつまで奇跡として称賛されるかを……この目で、この手で、何度もいつまでもどこでも、これからずっと確かめさせていただきます」

「ど、どういうこと……」

 王家の魅力強化を放ちながらも、王族らしからぬたじろぐ姿を見せるディータ。そのうろたえ方がとても気持ちいい。

 逆らいたいから、逆らっただけの価値が、その姿にある。


「なーに、簡単なことだよ」

 一度逆らうと、口がよく回るようになってきた。

 これならいつもの調子でしゃべれそうだ。

 もう膝をつく必要もない。理由はわからないが、王家の精神支配から逃れられることができた。

 頭を上げ、膝を床から離して立ち上がる。


 そしてオレは喜々として、ネーブナイト夫妻に向け言い放つ。


「マイカ・ネーブナイト、ならびにオーラ・ネーブナイト! これからちょくちょく遊んでやるよ! せいぜい、オマエんところの所領を困らせてやる! 今回は見逃す代わりに、その奇跡をオレの魔法でじっくりなぶってやる! 一万年の奇跡っていうなら、その奇跡! 絶対に絶やすなよ!」

 今まで関係のなかったネーブナイト家だが、これからは宿敵認定してやる。

 粘着して、ネーブナイト領の力をそぎ落としてやる。

 嫌がらせして、その神経をすり減らしてやる。

 ついでに、オーラ=ゴーレムを研究しまくってやる。

 

「今日は許すが、明日からは許さねぇっ! オレの力で折れるような奇跡なら、一万年に一度の奇跡も大したことないしな。愛しい旦那様を解体されたくないなら、頑張って身を挺することだ!」

 高らかに宣言すると、みんながみんな「何をいってるんだコイツ?」という顔でオレを見上げていた。

 ディータはすまし顔だが、内心ではそうとう動揺しているようだ。放つ光が瞬いている。

 アザナは……「先輩、ズルい」とか言っている。どうやらオレの意図に気が付いているようだ。

 悪いなアザナ。

 オーラ=ゴーレムの非破壊研究の権利はオレの物だ。


 これからは気が向いた時にお邪魔して、オーラ=ゴーレムと遊びながら、その奇跡の出来栄えをオレ自ら確かめてやる。

 本当に奇跡っていうなら……、ただの力で消えたりしないだろう。


 いや、まあ手加減するけどね。本当にオーラ=ゴーレムが消えるのは、オレももったいない気がするし。


「……は、はははっ!」

 最初に反応したのはカタラン伯だった。

 ふらふらと立ち上がって、見たことないようなさっぱりした笑顔を見せている。


「協力いたしますぞ。こちらもやられっぱなしというわけにもいかんからな!」

 あれ?

 カタランが喜んでるのって……。


「……わたしも協力いたします」

 いつの間にか復活したヨーヨーが、とととっと駆け寄って来た。


「遠まわしな婿入り、素敵」

「なにいってんだ、ヨーヨー……あっ!」

 あ、そうか。

 オレってなにげに辺境伯領で頑張って戦うよ、って宣言したようなもんじゃん!


「いや、待て。別にカタラン伯。貴下の兵とか援護とかいらねーから。オレ、すげー強いからだいじょうぶだって」

「なんとザルガラどの、そうでありますか?」

「そうでありますよ!」

「いやはや、そんなすげー強い危険な方を我が領や、力関係が微妙な国境で野放しにするわけにはいきませんなぁ~」

「ですなぁ~」

 カタランの悪い顔に、ヨーヨーが同調した。

 ぐはっ!

 しまった、そりゃそうだよな。

 その地方では権限さいきょーな辺境伯のお膝元で、他領の次男であるオレが好き勝手できるわけがない。

 バカ、オレのバカ!


 てかおい、カタラン。オマエ、さっきまで死にそうだったのに、なにツヤツヤした顔してんだよ。

 なんかちょっとマッチョになってきたし。


「そ、それは……く、今の無――」

「ネーブナイト家の奴らへ目に物をみせてやりましょう。参った、というまでな」

 カタラン伯が愉快にそう言うと、受けて立つといわんばかりにネーブナイト夫人がふらりと身を起こす。


「これはぁ……負けていられませんわねぇ……。この屈辱をぉ……陸の上でみごと晴らして差し上げますわぁ」

『熱烈な歓迎を用意いたしましょう。礼を兼ねまして』

 オーラ=ゴーレムも乗って来た。ちょっとまって、おかしいよね?

 オレの独断場だったはずだよね?


 いや確かに全部うやむやにしておきながら、ネーブナイト夫妻を許さないまま、オレがオーラ=ゴーレムをいじくりまわすつもりだったけどさ。


『ザルガラさまー。たぶんですが』

 不完全燃焼が収まったタルピーがやって来て言った。


『これってみんな損してる』

「……ああ、なるほど」

 ディータは権威を振りかざしながらも、オレが逆らって面目丸つぶれ。

 ネーブナイト夫妻はディータに借りを作った上に、オレが粘着。

 カタランは紛争を扮装するのに突き合わされて、英雄形無し。

 オレはオレでヨーヨーに熱烈歓迎。

 ――ん?


「……いやいやヨーヨーが損してねーよ」

「してます、してます」

 ヨーヨーが顔の前で手を振って反論する。

 

「好きでもない人との婚約が決まりそうで、とっても損」

「奇遇だな、オレもなんだ……って、おい! かなり凹むぞ、それ!」

 男として立ち直れない可能性あるぞ!

 ヨーヨーに言われたから安堵って意味で平気だけど、プライドが平気じゃない。

 やだ、オレの損が多すぎ!


 怒鳴るオレの隣りで……ざっ! と、アザナが立ち上がった。

 思わず息を呑んでしまうオレ。


「お、おうなんだ、アザナ?」

 不機嫌そうなアザナ。

 冷たい横目がなんか怖い。


 アザナは小さいため息の後、半眼でオレを睨めつける。


「終わったようなんで、ボクは解体作業します」

「お、おい待て待て」

 今までの流れを聞いてなかったのかよ。アザナが不機嫌そうにツーンとした顔で、ネーブナイト夫人とその旦那ゴーレムに向かって歩き出した。

 慌てたオレは足で壁を蹴って、アザナの進行方向を塞いだ。

 ディータに噛まれた右手の収まりを確認していたので、つい足が出てしまった。 


『……おぐ、なにそのシチュ』

「足壁ドン!」

『なんと!? そのように申すのか!?』

 ディータとヨーヨーとフェアツヴァなんとか……絶望の精霊が、にわかにうるさくなったが無視。


「なんですか? その短いのをどかしてください」

「み、短くねーよ! だいぶなげーよオレ! てかオマエ、なんで解体とかいってるの? 今回は見逃すってことになったじゃん!」

「そっちじゃないです、むこうですよ」

 アザナはネーブナイトとその旦那であるオーラ=ゴーレムではなく、その向こう……オレの『子供部屋より野蛮な世界』の世界より向こうを指さした。


「ああ、そっちか。って、叩くな」

 オレはペシッと膝小僧をアザナに叩かれたので、進行方向を塞いでいた足をどかした。

 叩かれなくても、ちゃんとどかすよ……っておい、さらっとオレの『子供部屋より野蛮な世界』を通過すんな。そこは確かタルピーのものすごい余熱があったはずなんだが?

 どうして簡単に通過するの?


 なぜか不機嫌なアザナを見送ると、ふわふわ浮いていたディータがオレの肩の上に降りてきた。


「ところでザル様」

「なに? まだ元に戻ってねーの?」

 なんの用だよ、姫様。

 そろそろもとに戻れよ、面倒だから。


「外の古竜、どうします?」

「……あ」


 キュゴオォーーーーンッ!!!!


 その時、遊覧船を揺るがすほど大きな古竜の雄たけびが響き渡った――。



サブタイトル!どなたかサブタイトルをお持ちでありませんか!?

サブタイトルがいちばん難産です。


ザルガラ「逆らうことばっかり考えて、うかつなことを言ってしまった…」

ディータ「うまいこと言って寝返らせようと思ってたのに」

ティコ・ブラエ「寝返ったら寝返ったで待機させてた軍勢差し向けたのに……」

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