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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第5章 It if and only if you.
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子供部屋より野蛮な世界


「真正面からの魔法戦ってのを、しっかりたっぷりやって見せ、効かせてみせて味わわせるぜっ!!」


 未亡人の襲撃者を相手に取り、乗客たちを安心させるためにも大見得を切って見せた。

 乗客も水兵たちも、オレの見得を見て安堵の顔を見せている……って、なんでリザードマンの表情がわかるんだ、オレ?


『……ザル様、私の記憶が確かならそれ、さっきも言った』

「いいんだよ、再利用だよ。オレの精神に優しいだろ?」

『でも、バレたらかっこ悪い』

「いいんだよ、バレなきゃかっこ悪くないんですよっ!」

 ひそひそとそんな会話をディータとしていたら――。


「あら、坊やぁ~。それさっきも言っ」

「タルピー! 援護するぞ!」

『え? あ、うん、はい? ザルガラさま!』

「あの、ちょっとぉ……」

 ネーブナイト夫人がツッコミを入れる前に、大声でタルピーに呼びかけた。ふう危ない、再利用が暴露されるところだった。


 ごまかし……じゃなかった、援護のためタルピーと共和国のゴーレムを投影魔立方体陣で包む。耐熱使用の魔法と冷却魔法付き。もれる熱も防ぐし、内部の熱も利用できる魔法だ。

 これでタルピーの発する熱を封じることができる。


「タルピー。全力は出すなよ。冷めるまで待つのは面倒だからな」

『あいさ、ザルガラさま!!』

 延焼対策がなく、おどおどと組み付いていただけのタルピーが、満面の笑顔となって眼前のゴーレムを抱きしめる。

 途端、彼女たちを包む魔立方体陣の中が、カッと赤々と輝き始めた。

 タルピーの火力はすごいな。

 あの魔立方体陣は完全に熱を外へ逃さないはずなのに、顔を照らす赤い光がほんのりと熱を帯びるのを感じた。


『ゴ、ゴゴゴ……イチ……』

 骨格のないヌイグルミのように、ゴーレムの関節がだらりと下がる。

 発声装置に不具合を起こしながら、その立派な鎧姿が崩れ落ちていく。

 いかに外装が高熱に耐えられる鋼であろうとも、接合部や内部の胞体石は無事には済まない。

 タルピーに抱きしめられながら、共和国のゴーレムはその活動を止めた。


『ふん、どうだっ! 見たかっ!』

「よくやった、タルピー。だが悪いがしばらくその中にいてくれ」

 タルピーとゴーレムを包む魔胞体陣の中は、今頃トンでもない熱さとなっている。解放すればあっという間に炎が噴き出すことだろう。


「すごいよ、ザルガラくんっ!!」

 なんかその褒められ方、なぜかうれしくないなペランドー。


「オマエも投影立方体陣できるようになったら、こういう手を覚えておきな」

 一応、お返しに上から目線で教授しておく。しかしコイツもそろそろ立方体陣を投影できるだろう。

 あっちでやっと3角形陣を1枚投影して、盾となり前に出て乗客を守ってる必死のフモセと比べたら、ペランドーの方が立派な魔法使いだ。

 3角形陣とはいえ、いつの間にか3枚投影できるようになってるし、本当にペランドーは実戦で伸びる男である。


 厄介な新型ゴーレムをタルピーが破壊したことにより、追いつめられていた水兵たちも怪我をした仲間を救出し、態勢を整え直した。

 乗客たちも、オレに過度な期待を寄せる目をしている。あまり期待されても、ムズかゆいんだけどねぇ。


 そんな乗客たちの視線とは別に、オレへ角の立つ過度に熱い視線を向ける敵がいる。

 ネーブナイト夫人だ。

 彼女は鉄球を回しながら不敵に笑う。


「ふふ、やるじゃなぁい」

「ぶんぶん鉄球回しながら言われるとさすがに怖いな。自宅でも寝室でも食事中でも回してんのか、それ」

「叩きつぶしたい相手がいたらぁ、どこでも回すわよぉ~」

「ふ~ん、トイレで虫でも見つけたら大変だな」

 軽口をぶつけてみるが、ネーブナイト夫人は余裕の様子で受け流す。

 ティコ・ブラエと違って、なかなかおちょくり難い相手だ。


「あははぁっ! じゃあ虫さんを見つけたからぁ、叩きつぶしてあげるわぁっ!!」

 ぶんぶんと振り回す鉄球を、廊下の壁や飾りや燭台に叩きつけながら鎧女が前進してきた。

 砕かれ飛び散る破片は彼女の周囲を回って加速し、オレへと向かって打ち出されてくる。もちろん魔胞体陣で防げるのだが、まぎれて魔力弾も飛ばしてくるのでこの攻撃はかなり厚い。

 なるほど、下手な平面陣数枚程度の薄い防御陣ではこれには耐えられないだろう。


 さながら【花の嵐】といったところか。


 余裕綽々でネーブナイト夫人の猛攻を押し返すオレだが、なにもしないってのは礼儀に反する。

 ちゃんと戦ってやらないとなぁ。


「さーて、こっちもいくぜ。【子供部屋より野蛮な世界!!】」

 オレとネーブナイト夫人の間を中心とし、膨らむ魔胞体陣。包まれた空間内にあった破片は暴れることを止め、静かに床へと落ちる。


 ネーブナイト夫人は懲りずに鉄球を振り回して壁に叩きつけるが、白木の板はびくともしない。


「あら? なにをしたのかしらぁ?」

「この魔胞体陣内の物質は、すべてオレの支配下だ。これでオマエはこの中の構築物を壊すことはできないぜ」


 被害も減らせるし、破片を纏った【花の嵐】の脅威もなくなった。


「オマエが頼れるのは、その無骨な鉄球と己の魔法だけだ」

「なるほどぉねぇ~。これがあなたのいう真正面、ってことぉ」

「それが違うんだなぁ。【裏切れ大地!】」

 状況を理解させるために、早とちりするネーブナイト夫人の足元へ向かって簡単な新式魔法を放つ。

 破壊できないはずの床がめくれ上がり、鎧女の足をすくった。


「なによぉ! ちゃぁんと壊れるじゃない!」

 盛大にめくれ上がるスカートの向こうから、態勢を崩した夫人が文句を言ってくる。

 恐ろしいことに、平らな頑丈な足元という絶対的な信頼への不意打ちに対し、あの鎧女は反応してみせた。

 片足はすくったが、スカートをめくる程度の効果しか得られなかった。

 ああ、パンツは見えないよ。がっちりスカートの下も重装備だから、この鎧女。


「いい忘れてた。説明しよう。オマエはこの空間内の物質を破壊できないが、オレは思い通りに破壊できる」

 めくれ上がった床板を見て、構え直したネーブナイト夫人の不敵な笑みが薄くなる。


「……そう。ズルいわねぇ~。……つまり、あなただけの空間ってわけねぇ」

「その通り。ここはオマエみたいなガキが暴れる子供部屋より危険な、オレだけが暴れることを許された独壇場。これが【子供部屋より野蛮な世界】という魔法だ」

「はん、どっちがお子様かっ!!」

 ネーブナイト夫人が遠心力で加速させた鉄球を放つが、いくら魔力を乗せようとこんなシンプルな攻撃なら、魔立方体陣程度で対抗できる。痛くも痒くも疲れもしない。


 圧倒的な火力で叩き伏せる。魔法使いとして格上なら簡単だ。

 圧倒的な魔力差で消耗させる。魔法使いの実力があるなら簡単だ。

 だが今回のやり方は――


 圧倒的な魔法の効果で何もさせない。

 魔力と才能と知識と魔法の活用、何から何まで勝った者だけができる真正面からねじ伏せる戦い方。


「オレだけがこの世界の物質を掌握してる。つまりだ……」

 ネーブナイト夫人が目を見開き、振り回すモーニングスターを引き戻す。数歩よろめき、異変に気が付き、苦しそうに喉を掻き毟る。何か文句でも言うつもりだったのだろうが、吐き出す息のか弱い音しか聞こえない。


「空気とかそういったものも、オレの思うがままだ」

 酸欠でよろめくネーブナイト夫人。

 後ろに控えるペランドーは言葉を失い、乗客たちや水兵までも驚愕で目を見開く。


「さてさて、どうする?」

 優位を確信するオレは気楽な態度で、苦しみもがくネーブナイト夫人に尋ねる。

 対抗する手段は、圧倒的な魔法で【子供部屋より野蛮な世界】を形成する魔胞体陣を壊す。もしくはアザナのように、魔法陣の隙間を縫って投影したゾム(点と線)を潜りこませ、順序立てて解体するか書き換えるほかにない。


 書き換える器用さと頭の良さも、破壊するだけの力もないなら――。


「どうする? 窒息死か? それとも這いつくばって泣きながらオレには勝てません参りましたと、30階乗かいじょうまわってバターになるかい?」

『……バターになる方がひどい』

 ディータがかわいそうとか言い出した。でもな、こいつは敵なんだよ、姫様。

 敵に情け容赦無い仕打ちをしない、なんてのは情けないってもんだ。


 対抗策のないネーブナイト夫人は、ついにモーニングスターを床に置いて膝をつく。

 いよいよ痙攣し始める鎧女を見下し、トドメを放つため手を振りあげる。魔力を形にし、振り上げた右手に宿らせると、その気配を察したのか夫人がオレを睨み上げた。

 その顔へ向かって言い放つ。


「どうだい? 血しぶきと泥を跳ね上げて剣と鎧で火花を散らす方が、お上品な戦い方だって身に染みたろう? 【稠密切……】」

「待ってくれっ!!」

 いい気分で魔法を発動させようとしたオレに、誰かが叫んで呼び止めた。

 

ちょっと分割しましたので短くなってしまいました。

できるだけ早く次回更新いたします。たぶん月曜くらい?予定は未定。


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