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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第1章 天才と怪物

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忘れていたカタランの悲劇

ちょっと数学ネタが出ますが、そういうなんかすげー図形だと思って読んでください。

 

 大敵者は危険である。

 特にオレやアザナのように、強力な魔法使いに対しては初見殺しと言われるような存在だ。

 強大な魔法を最初の一撃に使えば、雑音魔法で引き起こされる暴発や反発で致命的なダメージを受ける。

 事実、あのアザナもそれで死にかけていた。

 あのアザナが、だ。

 いや、あのアザナだからだ。

 

 一度目の人生の時、たしかオレが18歳の時――南方の土地で初めて大敵者の存在が確認され、たまたま近くの街にいた17歳のアザナが調査にいった。そして、大敵者と交戦。

 初撃の魔法が暴発し、なまじ強大な力を持っていたため、アザナは生死を彷徨うような怪我を負った。


 幸い、ユスティティアや優秀な護衛がいたので、即時撤退して彼は一命を取り留めた。

 まあその一回で、アザナは個人に対策を練って、二戦目はまともな戦いを挑んだのだが――、それは17歳のアイツの話だ。

 もしも――。もしも10歳のアザナが大敵者と出会ったら?

 17歳のアザナは体格的に恵まれていた。周囲も彼のお陰で、魔法技術が高くなっていた。治療も離脱も比較的容易だったろう。

 しかしアイツが10歳児の今、自ら魔法の暴発を受けたらどうなるのか?

 彼自身の体力も低い。重大な障害が残るかもしれない。周囲の取り巻きだって、少ないしまだまだ弱い。

 最悪の場合は――。


 結果を想像して、オレは身震いした。


「ゾッとしねぇな」

「ん? なんだい? 見惚れたかい? 脱ぎたくなっただろう?」

「ゾッとしたら服を着たくなるわ」

 渡り廊下で、いまだ全裸でいるイシャンを睨みつけ――ると、見たくないモノを見るハメになる。

 

「イシャン……先輩。礼したいってなら、ちょっとオレの相談にノッてくれねーか? 頼み事もあるんだが」

「おや? 入会の相談かい? 入会の頼みかい? 脱ぎたくなっただろう?」

「脱がねーよ。だが、ちょっと一肌脱いで貰いたいところだ!」

「望むところだ!」

 イシャンが乗り気過ぎて少し怖いが、アンズランブロクールの力は借りたい。


「全裸から一肌脱ぐ! 形而上的にさらに脱ぐとは、これはもう全裸の範疇には収まらなくなるな! あえて言うならば『全能裸』か! うむっ!」

 うるせー。「うむっ!」じゃねーよ。


 頼みたくないなぁー。

 でもアザナのことだ。もしも大敵者の騒動を聞きつけたら、正義感と出しゃばりの性格で飛び出していくだろう。それで大怪我でもしたら大事だ。

 イシャンみたいな変態に協力を申し出るのは……嫌だが、正直いって彼らの社会的地位は魅力的だ。彼に信頼できるモノたちを、放課後までに集めておくよう頼み、オレはアザナ探しを再開した。

 イシャンは「かしこまり」と言い残し、上級生たちがいる東校舎へと立ち去った。

 

 結局、この騒ぎのせいで下級生たちは移動してしまい、アザナを探す行動は失敗に終わった。


 そりゃ全裸の男がうろうろしたら、みんな遠くに行っちゃうよな。

 


   *   *   *


 魔法学園の第三実習室。

 放課後、自習名目でそこを借りたオレは、来るであろうイシャンたちを待った。

 実習室の外が騒がしくなってきた。イシャンたちが来たのであろう。


「いやぁ、待たせたね。クラスが違うからみんなを集めるのに手間取ってしまった」

 笑顔のイシャンが、釈然としない生徒たちを引き連れて入室してきた。

 イシャンは怪物と呼ばれるオレに、ずいぶんと協力的だ。


 きっと、これはもう友人と言っていい。そうに違いない。そしてイシャンが連れてきた8人もオレの友達といって過言ではない。


 しかし、こいつらを友人枠に入れていいのだろうか?


 ――よし、こいつらは亜友人だ。

 先輩に対してひどいような気がするが、まあいいだろう。


「さて、改まって私たちに相談ってなんだい?」

 イシャンは極自然に、オレの前の席に座った。

 うむ、友人っぽいぞこれ。


「ああ、ちょっとトンデモない事件が起きてな」

 イシャンは協力的だが、他8名は大人しいがオレを怪訝な顔で見ている。


「そういう顔で見ないでくれ。この国の一大事かもしれない事件なんだ」

 これは本当だ。それが伝わったのだろう。イシャン一派も、しぶしぶ席についた。


 オレは八年後、起きるであろう未来の事件は伏せ、大敵者についての情報を話した。

 昨日、オレの友人が襲われた事――ここで、「ザルガラに友人いるの?」 って空気になったが黙殺。そして大敵者と交戦して、その異常性に気が付いた事。彼らが卵を取り返そうとした事。などをだ。


「うーん。そんな魔物聞いたことないけどね」

 イシャンは腕を組んで、目を閉じた。納得はしてないが、信じてくれたようだ。それから厳密には魔物ではないのだが、そう思ってもらうことにした。


「ザルガラくん。その虫みたいな魔物ってどれくらいの強さなんだい?」

 キモイパワードファイブの一人、マッチョが質問してきた。


「裏切り魔法が無ければ、ちょっと硬いオークくらいかな」

 オークは巨体とパワーが売りの魔物である。雑食で性格が荒く、そこそこ知能が高い。

 一般兵士一人では敵わないが、三人で当たれば互角といったところか。


「ふ、そんな程度か。魔法が封じられても、肉体強化してからかかれば脅威ではないな」

 イシャンは含み笑いをして、余裕だ――とつぶやく。


「形態がちょっと違うから、加えていうと、全身鎧を着た四本腕の空を飛べる知能の高い連携の取れたオークってところだ」

「なんか付随要素のせいで、オーク要素が薄々になった気がするが……」

 そこに気が付かれましたか。

 イシャンの顔から余裕が消えていた。


「で、なんでまた私たちにそんな話をするのかね?」

「あんたらはなんだかんだで有力貴族の身内だ。積極的にこの話を広めてほしい。虫型の魔物を見たら、いきなり武器を出したり、強力な魔法をぶつけないこと。ってね」

「なるほど、警告だね。信じなくても、知ってるか知らないかでだいぶ差がでるだろうからね」

 イシャンの地頭は悪くない。

 耳に情報が残ってれば、いざというとき対応できる。もし間違って魔法をぶつけようとして、暴発したとしても、周囲の人間が知っていれば「思い出して」対応できるはずだ。無能でなければだが。


「ザルガラくん。それにそういう話が広まっておけば、そういった存在を知ろう、探そうとするモノ好きもいるだろう。悲しいことに被害は出るだろうが、それによって情報が増えるかもしれない。そう考えているね」

 ――これは予想外だ。

 イシャンはオレの思惑を読んだ上に、効果と被害まで算出している。そして、オレの功罪も指摘した。


 いい掘り出し物だ。

 イシャンは裸でも貴族である。優れた貴族になるだろう。

 ちょっとはっきり言いすぎだが。


「まあ、その辺は私のほうで、よりよい方向に持っていくことにしよう。被害を抑える手段もあるだろう」

「助かる。そういうのが出来る先輩がいると」

「ふふふ、ザルガラくん。脱ぎたく」「なんねーよ」「……そうか」

 これさえなければ、この男は優秀なんだろうが……珠に傷だ。


「それから、この情報。できればアザナに……オレが伝えたいという話を伏せて、誰かが教えてやってくれ。なるべく、迂回して早急に」

「アザナくんに……か。ザルガラくん。それはなんでまた?」

「べ、別にアイツを心配してるわけじゃねぇ。あの正義感バカは勝手に首を突っ込みそうだから、事前情報あれば、怪我しないだろーな、って話だ。アイツを痛め付けるのはオレ! アイツはオレのモノなんだよ!」

 そうオレが言い切ると、イシャン以下全員が押し黙った。


「…………あ、ああ、そうか。そういうことにしておこう」

 動作の戻ったイシャンが、呆けた顔で頷く。

 なんか引っかかるな。まあいいや。納得してくれたなら。


「それと――誰か、警備兵や巡回兵……できれば、騎士団にツテのあるヤツいねぇか?」

「あ、うちの父が巡回ところで巡察やってるぜ」

 キモイパワードファイブの短髪が手を挙げた。巡察の父か。エリートだな。巡察は単に巡回兵の上官ってだけじゃない。軍属でありながら捜査権まで持っていて、独自行動ができる士族だ。


「そうか。オヤジさんに、正確な大敵者の情報と対応を流してくれねぇか?」

「……情報の出所を聞かれたら?」

 短髪が難しい顔して訊いてきた。


「オレの名前を出していい。とりあえず、つなぎを取って欲しいんだ」

「わかった。必ず伝えて置く」

 しっかりとした顔で短髪は頷く。好感度高いぞ。脱がなければな。


 そして最後に、重要なコレだ。

 オレは正24胞体陣(イコシテトラコロン)という超立体の古式魔法陣によって、厳重に封印した大敵者の卵を取り出す。

 赤黒い石は鈍い反射光で、イシャンたちの目を吸い寄せた。


「それと、これがヤツラの狙ってる卵だ。これをどこかで見つけたら、即封印措置を取って欲しい。新式のフォーキューブ封印じゃだめだ。せめて古式のオクタコロンで封印だ。出来ればイコシテトラコロンがいいな」

 新式では三次元的に『固定された魔法陣』にしかならない。古式の投影魔法陣ならば、状況に合わせて変化する超立方体の魔法陣が描ける。 


「オ、正8胞体陣(オクタコロン)が精いっぱいだよ! な、なんだよ! イコシテトラコロンって!」

「ていうか、フォーキューブって立体魔法陣じゃないか! 新式でも最高難度だよ!」

「教頭が正24胞体陣(イコシテトラコロン)を使ってるのをみたことあるが……。やはり、ザルガラくんも使えるんだな」

 イシャンが珍しく渋い顔をしている。


正24胞体陣(イコシテトラコロン)が使えると楽なんだけどなぁ。最大で独立した正三角形が96になるから、術式詰め込まなくてもいいし」

「いやいやいや、ちょっとまってくれザルガラくん。学生レベルの話じゃないぞ、それ。全部で正3角形が96? 正8面体陣にしたら24個か!?」

 イシャンの出した計算に、会員たちが顔を引きつらせる。 


「え? つまり新式魔法で使う正8面体陣の24個分なの? それ」

 生徒の一人が、恐る恐る発言した。

 やっぱり、怪物だ……。という声が聞こえてくる。まずいな。

 アザナの例を出して、オレの脅威を薄めよう。


「ちなみにアザナの野郎は正120胞体陣……。たしか新式にすると正12面体陣120個ある古式魔法陣を立体投影できるぞ」

「計算するのが怖いな…………ええっと、十二面体が120個で、面が12で展開されてないと半分だから……120かける12の半分で! 正五角形が720枚! 五芒星720枚分の魔法陣だとっ!!」

「ぶぅっーーー!」

 会員たちが一斉に噴き出す。


 だいたい新式の五芒星の魔法陣一つで、実戦的な魔法の火矢を一本撃てる。

 つまりアザナの魔法陣は720発を同時に制御しつつ撃てるか、720発分の威力を出せる計算だ。もっとも相乗効果で、さらに効果が上がるので、一概に計算できるものではないが。

 残念ながら今のオレでも、死ぬ気で振り絞ってやっと同等の正600胞体(ヘクサコシコロン)を立体投影するのが限界だ。

 ちなみに、これは前の人生で最後に放った魔法であり、アザナはこれを端から解除していった。

 恐ろしいヤツだ。アイツは。


 イシャンたちが、アザナの実力に愕然とする中――。


「あのぉ~」

 素衣原初魔法研究会の会員ではないが、アンズランブロクール一派の一人である男子生徒が一人、おずおずと手を挙げた。


「それ、ぼくみたことあるんですが?」

 大敵者の石を指差し、そいつはとんでもないことを言った。


「なんだとっ! どこでだ!?」

「カ、カタランです。ぼくの一番上の姉がカタラン伯婦人なんですけど……、新年の挨拶で会いに行ったとき、カタラン領ランズマって鉱山で見つかったと、いくつか見せてもらったことがあるんです」

 おずおずとしたこの男子生徒の姉が、カタラン伯爵の婦人?

 なにげに大貴族なのか、こいつ。

 いや、そんなことより卵についてだ。


 これをカタラン領で見ただと?


 カタラン……ランズマ?

 ランズマ……カタラン……鉱山――事件!


「思い出した!」

 カタランの悲劇。

 そう呼ばれる事件が、オレの学生時代にあった。

 それを思い出した。


 カタラン伯領の街が、一夜にして謎の全滅を遂げたという事件を――。

 



正八胞体とかoctachoronとかでググってみてください。

動画で多次元的に変化する立体図が見れます。劇中では単純に変化し動き続ける魔法陣としてデチューンして取り入れてます。

動画の見た図形の面に魔法陣や、辺に魔法数字が並んでるのを想像して頂けたら幸いです。

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