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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第5章 It if and only if you.
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予測不能な子供たち

 遠近感を失う非常灯に照らされる客船の廊下は、オレンジ色の異世界の光か、それともわずかに光が届く静かな湖の底か。


 モジャモジャ頭の乗員に案内されながら、酔いそうな色に染まる通路を進む。

 

 タルピーを護衛代わりとして、広間に置いてきたのは失敗だったかな?

 アイツは人の一杯いるところのシャンデリアで踊れるのを喜んでたが、こうなると警戒の目として欲しい。


 今のところオレはモジャモジャ頭の観察をしている。

 そうしていると、だんだん彼が乗員なのか疑わしくなってきた。

 歩き方が軍人らしくない。かといって客船での接客作法を身に着けた者のソレでもない。


 アザナも気が付いているのか、歩き方を注視するオレに目配せしてきた。

 静かにうなずくオレ。やっぱり、とうなずき返すアザナ。


 ――やった!


 少なくともオレとアザナは目配せで意志確認ができるぞ!

 オマエなら分かってくれると信じ……いや、待て。

 そういうのはまずペランドーからで、アザナとはもっとケンカを重ねてから互いの理解を深め――。


「こちらです」

 モジャモジャ頭がオレの思考をさえぎったこの野郎。

 ノックも無しにモジャはドアを開け放ち、オレたちにどうぞとうながす。

 

 まずオレが入室し、ぴょんぴょんと跳ねながらアザナが部屋に入った。どうも肩越しに中を覗きたかったらしい。

 ちょっと落ち着こうか?


「誰もいない……」

 アザナが呟いた瞬間、部屋の中心がパッと明るく照らされた。


 そこに細目の男性が、ぼうっと浮かび上がる。

 亡霊かと思ったがそういった気配はない。生気溢れる顔がはっきりと見えるのも、また幽霊でない証拠である。

 共和国の貴族の出で立ち――。

 これは普通のお話じゃないなぁ。まあ古竜のお話も普通じゃないが、とびきり厄満載という意味で普通じゃない。

 常人ならざる気配を持つ細目の男に、圧倒されてると思われるわけにはいかないから先制させてもらおう。


「思わせ振りな登場でカッコいいな、おい。誰だ?」

「自己紹介の前に、突っかかられるとは思わなかっ……」

「せ、先輩! ザルガラ先輩! 空間への立体像の投影ですよ、これ! スモークも衝立もない! 本当のホログラムです!」

 騒ぐな、アザナ。

 相手の言葉が最後まで聞こえなかったぞ。

 

「初めまして、ザルガラくんに……アザナくん。私はティコ・ブラエ。見ての通り共和国で下位種ダイモンたちを預かっている」

 誰かの騒ぎを意にせず、貴族然とした態度を崩さない細目の男が自己紹介をした。

 しかし下位種を預かってる、という表現で来たか。

 自分たちが古来種の代理人という自負か、それとも驕りか。

 たかが管理人の中位種チューンドを、絶対的な支配者と思い込んでる共和国貴族らしいといえば共和国貴族らしい考えだ。


「……ブラエ? おいおい。ブラエ侯爵家って共和国の4大貴族じゃねーか。ここにふわふわした姿で迷い出ていいのか」

「魔法を使っている人の気配はない……。どこかに魔具がっ!」

「はっはっはっ。聞いていたとおり、なかなか見事な跳ね返りっぷりじゃないか。この目で見れて嬉しいよ」

 ブラエ候の細い片目が笑みを伴って僅かに開かれた。 

 グルグルおめめ。同心円の赤い瞳がそこにあった。

 タルピーを置いてきて正解だったぜ!


「あんた……その目」

 珍しいがそれほど珍しくもない【精霊の目(ダイアレンズ)】の目を見て、あることに気が付く。

 同じ【精霊の目(ダイアレンズ)】でも、虹彩に微妙な差がある。


 オレはこの目をした人間を2人知っている。

 騎士爵を持つ癖に、うちでメイドの真似事をしているティエと……あの吸血鬼の忌々しい握手ハンドシェイクをしたとき見た夢の中の人物――。


 ティエと無関係ではないだろう。恐らく遠い血族か?

 同一人物ということはないだろうが、無関係ではないだろう。


「あっ! ありましたよ! ザルガラ先輩! これがたぶん投影する魔具です!」

「思い出したかね? コールハース」

「その名前……」

 夢の中で、オレを呼んだ黒髪の青年……。アイツもたしかダイアレンズ持ちだったが――。


「……オマエ、誰だ?」

「ザルガラ先輩……。いいです、ボクが先に見つけたからボクが先に調べますね」

「はっはっはっ。姿が違うとはいえ、友人である私の名前を忘れたのかね、コールハース」

「あいにく、名家とは名ばかりのポリヘドラ家は、共和国の貴族様との交流が大変浅い状況にありましてねぇ」

「工具がないけど……こんな時には……。ピコン! ピシャピシャピシャー! 十徳ナイフぅー! ……6つだけどね」

「……今の名は君には関係ないだろう、コールハース?」

「だから誰だよ、コールハース? なんかの夢で聞いたことがあるが、それはオレの名前じゃないぞ」

 首を捻りざるえないオレ。

 それが癪に障るわけではないだろうが、空間に投影されるブラエ候がいきり立って怒鳴った。


「バカなッ! 貴様はザルガラである前に、コールハースだ!」

「そうは言われても……どういうことだ? オレはオレ。ザルガラ・ポリヘドラだ。どこにもコールハースなんて名前が入る余地ねぇよ」

「これはこうして開けて……。ッ! これはアクリルキューブ!」 

 ブラエ候の像が歪み、顔がぶわっと膨らむ。


「その身体はこの世界の中位種だが……。そうか……、まだ目覚めてないのか? 思い出せ! お前の精神――真の精神はコールハースだ」

「やめてくんない? まさかとは思いますが、コールハースとは、あなたの想像上の存在に過ぎないのではないでしょうか?」

「学園でもアクリル版しかなかったのに! まさか、共和国ではアクリルを生産しているの!?」 

「……ふざけているのかね?」

 オレからすると、ブラエ候がふざけているように思えるんだがね。


「記憶……だけもどっていないのか? しかし……精神はコールハース……」

 ぶつぶつと呟く歪んだ像のブラエ候。

 困ったように言われてもオレも困る。


「だから知らねーよ。誰だぁ? 大陸に名を轟かせるブラエ侯爵家の現当主様は、妄言虚言でハッピー話ですか? 古竜がいるときに、わけ分からんこと言われてもホント困るぜ」

「ふむふむ。魔石はあくまで起動用の動力で……。投影される像のデータと同時に魔力を……。そうか! 共振する回路をアクリルキューブに投影してるのか!」

 オレのふてぶてしい態度に冷や汗をかくブラエ候。いや、もしかしたら思った通りにならない焦りからか?

 

 しかし、わざわざこんなところに姿を見せてまで、妄言をいうようなヤツではあるまい。

 もしかして本当にオレをコールハースって人物だと思ってるのか?


「すまないが確認させてくれ、ブラエ候。そのコールハースって本当にダレなんだ?」

「彼は、私の友人であり同志で……」

「ということはどこかに中継器が……、湖上だとすると船がどこかに?」

 よほど動揺していたのか思わず情報を口走るブラエ候。情報を与えまいと口を噤んだがもう遅い。


「へえ、じゃあもしかしてオレの身体を乗っ取るつもりだったのかな? そのコールハースってヤツは?」

「……」

「あ、これはもしかして指向性の受信機? パラボラとも違う?先輩! みてみて! この受信機、中継器と常時接続できるようになってる!」

 ブラエ候がオレを睨みつける。

 悪いな。オレにはちょっとしたインチキ知識がある。

 2人のアザナから聞いた未来の情報だ。


 古来種たちは精神の侵略者という事実。


 これとブラエ候の話から類推するに、恐らくオレを乗っ取ろうとした古来種かそれに準じる存在がコールハースって人物なんだろう。


「当てが外れたって顔してんな、侯爵様」

「ふふ……、まさかこんなことになっていようとはな。コールハース……いや、ザルガラ・ポリヘ――」

「ザルガラ先輩! ほら、これ! この技術を応用すれば魔力中継魔具を完成させられます!」


「「うるせぇっ!」」

 オレとブラエ候の声が重なった。


「ちょっと事情が込み入って来たので、アザナくん。君は少し静かにしていてもらえないかな?」

「アザナ。オレたちは今、駆け引きとかして情報引き出そうとか、そういうのしようかなぁって段階に入ってるんだ。あっちの隅へ行ってろ」

「ぶー」

 オレとブラエ候に諭され、不満げに口を尖らせるアザナ。


「わかりました……。静かに解析してます」

「あ、でもオレも後で調べるから壊すなよ」

「善処します」

「いや壊されたら、君たちとの会話がね……」

 不安げなブラエ候の立体映像がぶれる。

 おーい、本当に壊すなよ。

 オレがまだ調べてないんだから。


「わかりました。あとで一緒に調べましょう。あ、でもこれはボクのものですからね」

「貰う気か、君たち……」

 ブラエ候が信じられないという顔をしている。


「え? 貰えないの?」

 アザナが信じられないという顔をしている。


「後で返してくれってことだろ?」

 オレも信じられないって顔しているだろう。勝手に貰うなよ、アザナ。

 せめて「コレ、ちょーだい」って言ってからにしろ。


「いやいや、それは貸しもしない……いやいい。好きにしろ……」

 あきらめた。

 ブラエ候あきらめた。


 オレがコールハースではないと気が付いた時より、頭を抱えて落ち込んでる。


「あー、おほん」

 ブラエ候は咳払いをして早々と気を切り替えた。


「改めて訊ねる。君は君なのか?」

「質問の意がわからない」

「君の力は……、コールハース由来のものではないのかね?」

「だからその名前がわからん」

 夢で聞いたことがあるが、それだけだ。


「まさか……。ザルガラ! 貴様は私の――」

 ブンッ。


 不愉快な弓鳴り音が室内に響き、ブラエ候の映像が歪んで掻き消える。


「あ……」

「……おい」

 しまった、という顔のアザナと目があった。


「す、すみません。回路を見るため、魔胞体石をちょっと捻ったら……」

「おいおい、直せ、直せっ! アイツ、いま何か重要なことを言おうとしてたぞ!」

 慌てて駆け寄り、散らばっている部品を集めアザナに手渡す。

  こんなので連絡が途切れたら眠れないぞ、オレもブラエ候も!


「た、たしかに今の途切れ方は、女性名と思ったが男だったという不用意な一言を口にしたがために、エリート人生のすべてを失ったライバルキャラの最後の台詞みたいで、気になりますよね!」

「ダレだよ、ソレ!」

 コールハースといい、その不遇な人とか、ダレだよホント!

 

アザナ「中の人が……わさび? 誰ですかそれ」

ザルガラ「今日はダレがダレなのかよくわからない話が出てくるな」

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