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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第5章 It if and only if you.
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逃した情報は竜よりデカい

「パパ、パパッ! もうママにゆるしてもらったの? でもママ、まだおこってたよ?」


 なにげに家庭の事情を暴露している怪異濡れ幼女にしがみつかれ、オレはどうにか追っ払おうと苦戦するのだが……なんというか、どういうわけかこのガキはやたらと力が強い。

 いや……考えたら今のオレもガキなので、力の差が大きくないのかもしれない。かといって肉体強化魔法を使うのも男として屈辱だ。

 意地になって引き剥がしにかかるが、全裸ゆえにつかみどころの幼女をどうしても突き放せない。

 うわっ、オレの腕力、低すぎ……?。

 

「そ、そんな……旅先で生徒が子供を作ってしまうなんて……。引率者としてどうやって責任を取ったら……」

「いやいやいや、マトロ先生さんよ。ちょっと冷静にオレの年齢と、この子の推定年齢を引き算してしてみようか?」

「……11歳引く推定8歳。っ! なんてことなの! 父親がまだ3歳なのに離れ離れに引き裂かれる親子なんて!」

「わざとやってんのか、おい」

 この教師、緊急事態にこんな弱かったのか?

 どう考えたってオレの子供のわけねぇだろ。

 濡れ幼女に抱き付かれたまま、オレは勘違いするマトロ女史に歳を数えろと諭す。


「先生! お、落ち着いて!」

 ちょっと慌ててるペランドーが、大いに慌ててるマトロ女史を抑えてくれた。


「まあ勘違いじゃろうな」

「人間の子供がすぐ大きくなるなんてないし」

 一方、エルフとドワーフは冷静に事を察してくれている。

 気の利くテューキーはマントを裸の幼女にかけてくれた。面白みがないようだが、亜人たちがこういう反応をしてくれて、人間が狼狽えるとかどうよ?

 よく見ればローイは驚いてはいない。まああっけにとられてるって風にも見えるが。

 もしかしたら、オレと接点少ないから衝撃が少ないのかもしれない。


「え? 勘違い? ああ、そうですよね……」

 当初、驚いていたフモセも、ワイルデューたちの反応を見て落ち着きを取り戻していた。

 とりあえずテューキーが幼女をマントでくるんでくれたので、全裸という問題は消えた。やっぱ、孤児たちを相手しているだけあって、子供の扱いが上手いなテューキー。

 しかし濡れっぱなしの幼女に抱き付かれ、制服が湿ってコレがまた気持ち悪い。

 

 問題の幼女はテューキーに身体を拭かれながらも、身をよじってオレに抱き付いてくる。


「パパ、おかえりなさい」

「いや、何度も言うがオレはパパじゃねぇし、よく見ろ」

「ぎゃお? ……パパ、ちいさくなった?」

「別人なんだよ。人間は大きくなることはあっても、小さくならないんだよ」

 顔が似ているのかもしれない。そういうことはあるだろう。


「だってにんげんは小さいよ……」

「はーい、ママですよー」

 幼女が不思議そうな顔で、不可解なことを言いかけた瞬間、アザナが手を伸ばしてふざけた発言をかましやがった。


「……ママ違う」

 幼女はそう言ってマントを手繰り寄せ、アザナの手から逃れてようとオレに身を寄せてきた。


「ぶぅ……。ザルガラ先輩がパパなら、ボクがママのはずなのに」

「なんでだよっ! 絶対、本気でそんなこと思ってないだろオマエ!」

 マトロ女史はともかく、絶対アザナはふざけてやってるに違いない。

 うん、オレわかっちゃうんだ、そういうの。


『……両方、パパという可能性も』

 ねーよ。うるさい黙れ、ディータ。

 ありえないことを言う姫様を一睨みして黙らせる。


『おー? ここはアタイの指定席だよ』

 頭の上にいたタルピーが、よじ登って来ようとする幼女に待ったを掛けた。

 そんなこと言っても無駄だろうと思っていたが、幼女は見えないはずのタルピーをジッと見つめ――。


「うん」

 と、素直にうなずいてオレの頭に登る手を止めた。


 もしかして、このガキ……。タルピーが見えるのか?

 【精霊の目(ダイアレンズ)】を持つなら、その目はティエと同じように同心円状の虹彩となっているはずだ。だが、この子はそんな目をしていない。

 どういうことだ?


 採取許可が無ければ、足を水につけることすら許されない場所で遊んでいたガキ。

 どうやって入ったかも不思議だが、タルピーとコミュニケーション可能な点からして、そこらのガキじゃないだろう。

 そんなそこらのガキじゃないヤツが、どうしてここで違法遊泳していたのか……。

 思考を巡ら、おいこら、鼻を引っ張るなガキ。とにかくそんな思考を巡らせていると、堤防の向こうから1人のリザードマンがやってきた。


「おい、お前ら。いったい何事だ?」

 頭に水草を乗せたリザードマンだ。そんな不思議ファッションなリザードマンがオレたちに事情を求めてきた。

 働く採取士たちをお前ら呼ばわりすることから、ここの責任者だろう。

 頭に水草なんてもの乗っけてるけど。


「あ、親方。それが浅瀬の採取場で泳いでいた子を捕まえましてね」

 水草リザードマンに問いかけられ、幼女を捕まえたリザードマンが応えた。


「おい、こんなヤツとオレを間違えたのかよ」

 リザードマンってだけじゃなく、頭に水草乗せるようなヤツだぞ。

 水草頭に乗っけると親方なのか?


「世の中には自分に似た人が3人いると言いますからね、先輩」

「よりによって、その1人がリザードマンかよ。似てると思うか?」

「ここで似てるといえばザルガラ先輩が怒って面白いんですが」

「おい」

「正直、人間の目からするとわからない事なので茶化しようがありません」

 アザナに慰められたのか茶化されたのかわからんが、その慰めを読み取ると少なくても人間の目では似ているようにみえないようだ。


 一方、親方リザードマンは、ちろちろと舌を出し入れしつつ、子供の様子をまじまじと観察し始めた。


「んん? 金髪に……幼体のメス……。人間? いや……違う? もしかして……う~ん。おい、お前」

 何か思い当たる節があるのか、親方リザードマンはついてきた部下に何かを指示した。うなずき部下のリザードマンが堤防の向こうへと走って行った。四足になって。まあ、砂地ならあっちの方が速いのだろう。

 親方は部下を見送ってから、幼女に頭を下げるような仕草をしてみせた。


「しばし、待っててくれよ、お嬢様」

「おい、その間オレはこの状態かよ」

「パパですからね」

「アザナ、あとで話がある」

 

 などとふざけているうちに、堤防の向こうへといった部下リザードマンが1人の女性を連れてきた。

 白い簡素なラップド・ドレスを来た美しい金髪の女性だ。

 そしてよく見なくてもわかる。

 この鬱陶しい幼女の母親……断定するには早いか。近しい肉親に違いない。


 この子を大きくさせれば、あーいう美人になるだろう。


「うちのエト・インがご迷惑をお掛けしました」

 こちらにやってくると、それはそれは丁寧に頭を下げてくれた。

 この子はエト・インって名前なのか――。変わった名前だな。

 古来種由来として思い当たる言葉がまったくない。

 古来種たちの名でも、古来種たちが残した数学の用語でもない。

 同じ事に気が付いたのか、アザナもチラリとオレへ意味ありげな視線を飛ばす。オレもアザナも思い当たる節がない言語か、それとも――。


「ママ、パパがかえってきたよ」

「え? あら……」

 幼女がオレの頭をバシバシ叩きながら、パパ帰って来たと主張する。しかしママと呼ばれた美女は、恐縮する様子もなく笑って言う。


「エト。この方はパパに似てるけどまったく違う方ですよ」

「ぎゃお? だってパパとおなじだよ」

 なにが同じなんだ?

 訝しがるオレの視線と、美女の警戒する目が絡んだ。

 ――ああん?

 やんのか、コラ?

 てめぇのガキのせいで、こっちはお召し物がお湿り物になってんだぞ。


「やめてください、ザルガラ先輩。美人さんを警戒する気持ちはわかりますが――」

「いやそういうわけじゃねぇんだが」

 オレのガンつけを制止するアザナの言葉に反論しようとすると、先に美女が頭を深々下げてきた。


「申し訳ありませんでした。エト・インが貴族様に多大なご迷惑をおかけしました。さ、エト。いらっしゃい」

「はーい」

 エト・インは素直にオレから降りて、母親である美女に飛びついた。

 やれやれ、やっと肩の荷が降り……たところで、ディータが代わりに圧し掛かって来た。まあ、姫様は重さがないからいいんだけどな。

 

「たく……なにがあったんだよ」

「申し訳ありません。観光をしていたら、この子とはぐれてしまいまして」

 濡れた服を引っ張りながら事情を尋ねて見ると、ありきたりな言い訳を美人母が口にした。

 オレはともかく、それで納得できるような採取士たちかな?

 それとなく周囲のリザードマンを見ると、誰もが親方の言葉を待っていた。


「迷子の話を先ほどこの奥方から聞いてな。もしやと思ったのだが……。採取場に入るのと本来ならば……そう、まあ罰金くらいあるのですが、ここは子供ということでオティウム様、大目にみましょう」

 親方はあっさりと子供の違法行為を許して見せた。まわりのリザードマンたちも、親方が言うなら仕方ないという顔で作業に戻って行った。


 しかし……オティウムか。これまた聞いたことのない名前だ。

 あと、なんでこの親方は様付けでこの美人さんを呼ぶのだろうか?

 でもまあそんなことはどうでもいいか。

 残る問題は、オレの濡れた服だ。


「そっちはそうだろうが、オレの服――」

「それは、別にすぐ乾くからいいですよね」

「ぼくも服を乾燥させる新式魔法を練習してみたいし」

 オレが絡もうとしたら、アザナとペランドーが割って入って来た。

 ペランドーは善意で割って入ったのだろうが、アザナは絶対違う。


「チッ……、わーったよ。ガキのやったことだとあきらめるさ」

 アザナだけならともかく、ペランドーが割って入ったから引き下がってやる。

 あとは仕方なく通り一変の詫びと礼を受け入れて、母娘とは「さようなら」だ。

 母親に手を引かれながら、エト・インは身体を捻って手を振ってきた。なんで子供ってああやって強引に身体を捻るんだろうか?


「パパ、またねー! ぎゃーおー!」

「違うって言ってんだろっ!」

「律儀に反応しなくてもいいのに……」

 否定したらアザナにあきれられた。

 

 立ち去る母娘は、楽しそうに会話を始めた。


「ねえママ、パパをゆるしてあげたの?」

「いーえ、まだよ。旅行中に黙って勝手なことするパパは、旅行中には許してあげません」

「そうなんだ。じゃあ、帰るまでバイバイなんだね。パパ、バイバイ」

 何をしたのか知らんが、せめてゆるしてあげようって言ってやろうよ、お嬢さん。

 

 不思議な母子を見送り、振りかえってみんなに尋ねる。


「なあ。ところでオレ、何しにきたんだっけ?」

 みな反応に困っている中、アザナが目を閉じ顎に手を当てて答えてくれる。 


「たぶんですが、観光がてらにクズ琥珀や削って粉になった琥珀の買い付けじゃないですか?」

「ああ、たぶんそうだったな」

 そうだった。

 モノゴーレムの実験を1つ、やってみたかったんだ。思い出したよ、ありがとうアザナくん。


「よかった、なにごともなくて……、では観光を再開しましょう」

 マトロ女史も正気に戻ったようでなによりだ。


 テューキーとワイルデューは、あっちだ、こっちへ行きたいと言い出し、勝手に歩きだす。それをオレたちが追う形となった。

 そんな中、アザナの姿が無かった。

 オレの後ろにいるのか――――っ!?


 沸き上がった気配に気が付き振り返ると、アザナに憑りついているガレキで出来たゴーレムみたいな上位種が姿を現していた。

 そして大きな体をかがめ、小さなアザナに耳打ちをしている。

 

「オティウムってそういう意味なんですか。エト・イン? アルカ…………エゴ?」

 ゴーレムの出来そこないみたいなヤツの声は聞こえなかったが、アザナの声は途切れ途切れに聞こえた。

 そうか。ああしていろいろ上位種から情報を得ているのか。

 うらやましいような、インチキっぽいような――。


 複雑な思いでひそひそ話を眺めていたら、こちらに気が付いたアザナがとてとてと砂を蹴って小走りにやってきた。


「先輩、先輩! すごいことを聞きました!」

「ふーん、よかったな」

「……なんですか? 興味ないなら教えませんっ!」

「たく、ひねくれてんな」

「お互いさまですっ!」

 アザナはぶぅと頬を可愛らしく膨らませてそっぽを向いた。

 上位種から聞いた情報を無邪気に教えたかったのだろうが、インチキ染みた知識への拒絶と単純な嫉妬がオレの素直さを邪魔した。

 

 

 後悔すると分かっていれば、素直に聞いたのによ――――。



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