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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第5章 It if and only if you.
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修理の毎日

「いけっ! そこだっ!」

「負けるなっ! 押し返せっ!」


 ある日の放課後。

 鉄音孤児院の庭にテーブルを持ち出し、その上に小さな闘技場を用意して、紙で作ったモノゴーレムを戦わせる子供たち。

 オレはそんな子たちを横目に、グレープジョーカーの修理をチマチマと続けていた。

 こんな修理作業が、早くも七日目だ。


 組み立ての手伝い……要するに道具を取ってもらうとか、部品を保持していてもらうとかそういうのは頼めるが、修理となると子供たちはいくらなんでも役に立たねぇな。

 ペランドーは裏で鎧部分の板金中だ。ワイルデューも一緒にいるだろう。


 もちろんテューキーは何もしていない。……いや、生徒会の仕事で学園にいるわけだから、ゴーレム関係で何もしてないってことで、アイツ自身は仕事をしている。


 しかしなんだなぁ……、つくづくゴーレムの製作場を、ここで確保していてよかったと思うぜ。

 アジトじゃ狭いわ無駄に高い位置だわと環境良くないし、エンディ屋敷じゃ場所がない上にペランドーたちが気軽に出入りできない。

 かと言って、借りモノの施設じゃ気ままに改装などできない。

 ちょっとインチキっぽいが、孤児院の子を手伝わせる名目で併設して正解だった。


「う~ん。それにしても最近、ここに入り浸ってるなぁ……オレ」

 庭の片隅に座って壊れた胞体石を取り除きながら1人呟くと、ふわふわと頭上に浮いていたディータがオレの隣りに降りてきた。

 

『……ここなら友達がいっぱいいる気分になれますよね』

「おい、どういう意味だコラ? オレにそんなつもりがあると?」

 オレが友達に餓えてて、孤児院の面倒みる振りして孤児たちを子供たち友達に見立ててるとでも言いたいのか、姫様よ?

 そんな思いも込め、牙を剥き出しディータ姫を睨む。


『私が……ですよ』

 そんなオレを真正面から見つめ返し、ディータは何事か分からないと小首を傾げてみせる。


「あ……、いや。すまん、勘違いだ」

 いかん、いかん。ついオレのことかと思ってしまった……。

 いや、自覚あるからオレのことかと思ったわけじゃねぇんだよ、ホント。

 そうか。

 ディータ姫って友達がいないわけだもんな。

 ――ま、早いところ作ってやるか。

 ディータが乗り移って操作できる新型ゴーレムを。


『紙でもゴーレムとして戦わせられるんですね』

 気を使ってくれたのか、もう興味を無くしたのかわからないが、ディータは話を子供たちの紙ゴーレム戦に向けてくれた。

 これ幸いと、その話に合わせることにする。


「ああ。オレも結構、驚いたぜ。子供って遊びの天才だな」


 魔法使いがゴーレムを作って、戦わせるとなったら普通は土か木だ。

 それこそ吹けば飛ぶような紙の人型を、戦わせるなんて誰も思わなかった。

 なまじ魔法の才能があるが故に、土か木を使って製作して模擬戦をするからだ。


 オレの紙ゴーレムを製作する魔法、【小さい事はいいことだ】はその良い例である。偵察用くらいにしか使えない、と思ってた。


 しかしながら、その軽い紙ゴーレム同士ならいい戦いになる。

 ってことは、ゴーレム操作の練習にはちょうどいい模擬戦となるわけだ。


 子供たちは、どうすれば強い紙ゴーレムができるのか? ――と、必死に創意工夫をしている。

 単に厚紙を使ってデカくして、魔力足らずですぐタダの紙切れに戻ってしまったり、小さいながらも形を工夫して切り抜き、人型として軽快に動かす子もいる。

 最初から関節にあたる部分を折っておき、一定方向への稼働速度を速くしているのは参考になった。

 もっとも動きが固定されるけどな。


「アザナくん、ずるーい!」

「げーっ、つよすぎんだろーっ!」

 孤児たちのゴーレム戦に途中参加したアザナのヤツが、念入りに折って人型にした頑丈な紙ゴーレムを投入して無双している。

 大人げないなー。いや、子供だけどさ、アイツ。


 群がる紙ゴーレムを、文字通りちぎっては投げちぎっては投げと無敵状態だ。

 孤児たちの中では一番強いローイのゴーレムだが、紙を切り出して造る人型では強度が弱い。

 だからといって厚紙で作れば魔力切れが速い。

 反してアザナの紙ゴーレムは出来が違う。

 四角い一枚の紙を、丁寧かつ念入りに折ってつくられた人型の紙ゴーレムは軽くて丈夫だ。


 持ち前の魔力。それに魔胞体陣から作られた複雑な操作を可能とするゴーレム。そこへ丁寧に折られた紙ゴーレムを投入したら、子供たちは誰も敵わない。


 ほらみろ、遊んでた子供たち全員の紙ゴーレムから集中攻撃を受けてやがる。 


 …………って、それを全て倒すなよッ、アザナ!

 どんだけ大人げねぇの?

 いやアザナも子供だけどさ。


「アザナくん、ひどーい!」

「こんなの勝てないよ……」

 楽しく遊んでいただけなのに、子供たちの紙ゴーレムは虐殺の憂き目にあってしまった。

 とんでもない虐殺現場だよ。

 子供たちのテンション下がりまくりだよ。


「ごめん、ごめん。つい本気になっちゃって。ごめんねー。紙ゴーレムの折り方教えるから許してね」

 アザナはそういってフォローしようとするが、何人かの子供はへそを曲げてしまっている。


 虐殺した紙ゴーレムの修理や作り直しを手伝い始めるアザナだが……、オマエはオレの修理手伝わないのか?

 オマエがぶっ壊したんだよ、このグレープジョーカー。


 いや、まあそれはいいか。

 手伝われたら手伝われたで、なんか変な仕掛けを仕込まれそうだ。

 むしろ触らせないようにしよう。


 さて、修理だ修理。

 作業を再開しよう。


 並べられたパーツを見下ろし、オレは腕をまくった。

 もちろん壊れたパーツは総とっかえだ。

 砕けた琥珀製の胞体石を取り出し、新たに魔胞体陣を刻んだ琥珀の胞体石に取りかえる。


 胞体石とは宝石に刻み込むとできるわけだが、グレープジョーカーは課題用ということもあり琥珀を利用している。

 ルビーやダイヤモンドなど高価な宝石を使えば耐久力が高い。宝石そのものが硬いし、刻んだ魔胞体陣の劣化がほぼない。

 琥珀は西の大湖で大量に採取できることもあり、大陸中央では安価だ。半面、熱に弱く耐久性が低い。

 長期間使ったり、強力な魔胞体陣を使用すると、わりと早めに劣化する。

 熱であぶったらあっという間に劣化してしまう。


 まあ飾りつけが重要な宝剣などの魔具じゃないし、末永くつかうものでもない課題の魔具なら琥珀で充分だ。

 市販品の魔具も琥珀が多く使われ、貴族の気取った魔具は各種高価な宝石が使用される。 


 一個一個、胞体石を刻みながら、パーツを修復……。

 ディータはこの作業に興味がないのか、子供たちの紙ゴーレム製作とその戦いを眺めている。

 一方、珍しくタルピーがこの作業に付き合ってくれていた。

 胞体石の元となる琥珀を、適応するサイズを選んでオレに渡してくれている。


 せっせと作業を続け、今日の分を終えた頃、子供たちに特製紙ゴーレムの折り方を教えたアザナが、オレの元へと駆け寄って来た。


「せんぱーい。そろそろ終わりますか」

「ああ、終わるぜ。オマエに壊されたゴーレムの修理が」

 皮肉を言ったんだが、アザナはそんなこともお構いなく隣に座る。


「さっき聞いたんですが、カタラン辺境伯の小競り合いは収まったようですね」

「あー、そうなんだ。辺境で取った取られたは風物詩だが、カタラン領じゃ珍しいよな」

 なにしろ英雄カイタルの領地だ。領土が削られたこと自体が初めてだろう。


「ヨーヨーのヤツは課題が免除されて良かったな」

 さすがにお家の領地で騒動が合った上に、親が大怪我してれば学園も手心を加える。

 

「でも次の課題じゃ評価の目が厳しいでしょうね」

「しゃーねぇよ。そんなもんだ」

 エンディアンネス魔法学園は融通が効く。だが同時に魔法への評価が厳しい。

 オレやアザナが好き勝手やってるのに、なんだかんだ学園に見逃されてるのも魔法の才能に正当な評価を下し、ある程度は目をつぶってくれているからだ。

 逆に、魔法の才能が低く成果を出さなければ、遠慮なく学園はその生徒を見捨てるだろう。その辺は厳しい。

 

 それに学園から去ることになっても、魔法で立身出世しようって気にならなきゃさほど問題にはならない。

 貴族なら地元で細々やって行けばいいし、平民でも地方都市の街士としては引く手数多だ。


「まあなんだかんだいって、あのヨーヨーなら大丈夫だろう」

 アイツはあんな性格だが、こと魔胞体陣の投影と魔法陣のコピーなら希代の才能の持つ。

 仮に学園に居られなくなっても、あの似顔絵才能で生きていけるだろう。実家だって辺境伯だしな。

 つか、アイツが巡回局とか王都騎士団へ行ってくれないかなぁ……。

 最近、オレを頼ってくるんだよ、変な事件で……。

 変態事件とか、ホント勘弁して……

 

 そんな将来の心配をしつつ、最期の胞体石を刻んでいたら、生徒会の仕事を終えたテューキーが孤児院へと駆け込んできた。

 門扉を叩き開け、庭へと駆け込んできて叫ぶ。


「大変、大変大変、大変だよ!!」

 大変を何度も繰り返すから変態事件かと思ってびっくりしたが、どうやら違うようだ。

 あんまり大騒ぎして駆け込んでくるもんだから、裏にいたペランドーたちやアマセイたちも庭に顔を出してきた。

 みんなに見守られながら、テューキーが息を整えている。


「どうした、テューキー先輩?」

 呼吸が収まった頃に訊ねてみると、パッと顔を上げたテューキーが大声で叫んだ。


「お2人の造ったゴーレムが王国水軍の目に止まりましたッ!!」

「す、水軍?」

 王国水軍とは、西の大湖を拠点としている軍である。南の海にも艦隊を持っているが、大湖での活躍が多いため海軍ではなく水軍と命名されている。

 なぜ水軍なのだろうか?

 大部分が鉄や鋼鉄で作られたゴーレムだぞ。

 水に浮かないし、船に載せても邪魔で重い。


「水軍の元帥から、お声がかかってます!! 元帥ですよっ!!」

「声がでけーよ、テューキー先輩」

「なんでそんなに冷静なんですか! げ、元帥ですよ! 大将より偉いんですよっ!」

 テューキーのよく通る声が、向こう三軒どころかむこう10軒まで轟き渡っている。

 ほらみろ、塀の向こうにいるモジャモジャ頭のヤツが、驚いてどっかに走って行ったぞ。


「学園からも後で正式に通達があると思います! アグリコラに向かう準備をしてください!」

 アグリコラとは湖岸にある王国第三の都市で、水軍の本部があり琥珀の一大産地として有名なところだ。

 テューキーの話から推測して、あのゴーレムのせいでそこへ呼び出されてるってことかな?

 

 テューキーは1人興奮しながら、早く早くと言っているが――。


「あのー、テューキー先輩さんや。ちょっといいかい?」

「何っ!?」

 髪を振り乱して反応するテューキー。


「そういうなら、修理を手伝ってもらえますかね?」

「生徒会で忙しいのっ!」

 

 はい、さいですか……。


 あとで泣かすぞッ、このダメエルフ!!



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