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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第5章 It if and only if you.
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電撃反省

 公開評価会が無事に終了しなかったので、オレとペランドーは学園が常時ストックしているゴーレム用の石で、モノゴーレムを製作してグレープジョーカーを持ち帰ることにした。


 モノゴーレムは大きく欠損すると、崩れてただの素材に戻るが、グレープジョーカーのようなメイドゴーレムは大きく壊れてもその形が崩れることはない。

 アザナのコウガイによって、上下泣き別れにされたグレープジョーカーだが、頑張って修理すれば充分に再稼働できるだろう。

 ざっと見たところ、致命的な破損はない。


 まあ、別に急いで直す必要もないし、のんびり改善しながら修理しよう。


 ペランドーのモノゴーレムはグレープジョーカーの上半身を、オレのモノゴーレムは下半身を抱えて運ぶ。

 タルピーは頑張れ、頑張れと言いたげに、グレープジョーカーの半身の上を行き交い、様々な踊りを披露してみせている。

 ディータは珍しくふわふわせず、グレープジョーカーの半身に乗っかって、ぺたぺたと魔石や胞体石を触っていた。彼女なりにゴーレムを研究しているのだろう。 


 やがて日が沈むころ、オレたちは孤児院へとたどり着く。道中、いろいろ注目されたが別に気にすることはない。

 鉄音通りは鍛冶屋街だし、なんだかんだこういう物品を運ぶ人は多いからな。

 恒例とはいわないまでも、変な光景ではない。


 孤児院にたどり着いたオレたちは、まずグレープジョーカーを裏手の工房へと放り込む。

 もともと倉庫だったので大半を孤児院に改装しつつも、一部はオレの製作工房へと改造した。

 ある意味コレって公私混同なんだが、工房は孤児院の内職にも使われるので、よほど役所にツッコまれない限りはセーフである。

 

「ひゃー……、疲れたよ」

 グレープジョーカーの上半身を作業台に載せ、ペランドーはモノゴーレムを素材の石へと戻した。

 工房の片隅に、ひと塊の石の山が築かれる。このままにしておけば邪魔だが、モノゴーレムを作れるオレたちなら片づけるのも容易だ。

 ゴーレムの歩調に合わせ、学園に登校しなくてはいけないが――。


 ペランドーのモノゴーレムは力不足で精密操作に問題があるが、オレのモノゴーレムとほぼ変わらない稼働時間を持つ。

 水魔法などが得意なペランドーだが、しっかりした基礎力のお陰で各種魔法も高い効果をだせる。


「よう、なんか飲み物とお菓子でも貰ってこようぜ」

「うん、そうしよう!」

 とりあえずグレープジョーカーの修理は後回しだ。オレが飲み食いを提案すると、疲れたと床にへばっていたペランドーが元気よく立ち上がった。


 裏口から孤児院の台所へと入り、勝手知ったるなんとやらで、戸棚にお菓子を発見して獲得し、飲み物を確保して多目的ホールへと向かった。

 そこに子供がいたら分けるつもりでいたのだが――。


「反省してください、アザナ様!」

「反省してるよぉ……」

 膝を折って床へ直に座るアザナと、腕を組んで直立不動のフモセがいた。

 あの座り方は正座と言うらしい。アザナが考案し、ソーハ家の反省ポーズとして定着していると聞く。主に座らせられるのはアザナだ。

 ――って、おい。自分で考えておきながら、自分でその仕打ちを受けるとかマゾかよ。


「あ、ポリヘドラ様!」

「ザルガラ先輩ぃ……、助けて~」

 フモセがオレに気が付くと、いつも以上に深々と頭を下げてきた。

 一方、アザナは涙目で救援を求めてくる。


「もぐもぐ……、なにしてんの?」

 焼き菓子を食いつつ状況を聞いてみた。


「アザナ様には反省して貰ってます。勝手にポリヘドラ様のご用意した部品を使って申し訳ありません……。私からしっかり言い聞かせておきますので」

「ああ、そういう事ね。じゃ、どうぞ続けて」

「ザルガラせんぱーいっ!」 

 悲痛な声を上げるアザナに背を向ける。

 多目的ホールには数人の孤児たちがいたので、呼び寄せて焼き菓子を配……ろうと思ったら、夕食前だからと断られた。

 なんだ、コイツら?

 教育、行き届いてるな!?


「ひどいです! ザルガラ先輩が一言許すと言ってくれば、ボクは解放されるんですよ!」

「許さない」

 別に怒ってはいないが、やすやすと許すわけにはいかない。


「鬼、悪魔ー!」

 アザナは正座のままオレをなじる。立ち上がろうとしたが、フモセに額を押されて果たせない。


「いや正直いうと部品の流用より、オレたちのグレープジョーカーを真っ二つにした方が許せないな」 

 手近の椅子に座り、アザナが説教される光景を眺めることにした。


「ぐ、そ、それは……。レール代わりの方盾スクウェアシールドが歪んで、腕を狙ったつもりが軌道がズレてしまって、その……」

「もぐもぐ……」

「あー、とにかく真っ二つにするつもりはなかったんです! 食べてないで何か言って―っ!」

 アザナは涙目で言い訳を述べる。

 あー、なんか痛快な光景だな、これ。


「そりゃあ、アザナがオレたちに華を持たせてくれたのはわかるよ。アレって最初から射出すれば、オレを完封できたわけだから」

 アザナのコウガイはグレープジョーカーの接近を許さず、即本体発射という大技を使う余裕があった。それをせず、まずはグレープジョーカーに殴らせ、高機動を実演させてくれた。

 もっとも先手と攻撃を許したせいで盾が歪み、軌道がズレたわけなんだろうが。


「そ、そうですよ! だから、許してーっ!」

 アザナが許しを乞うが、オレは受け入れない。


「オレだって意地悪で許さないわけじゃない」

「だ、だったら――」

「でもテューキーが帰ってくるまでそうしてろ」

「ぐ……」

 テューキーの名を出すと、アザナは言葉を失った。

 グレープジョーカーが真っ二つにされた時、いちばん怒って泣いたのはテューキーだった。

 アイツはあんまり製作にかかわってない癖に、「私たちのゴーレムが壊されたー!」と嘆き悲しんだ。

 あまりに無様に泣くもんだから、オレたちは気勢が削がれてアザナの破壊行動をあまり責められなくなってしまった。

 なんとかテューキーを宥めたが、たぶん彼女はまだアザナを許していないだろう。


「そのうち生徒会の仕事も終わって戻ってくるだろうから、それまでそうしてな」

「うう、ひどい……。テューキー先輩、早く帰ってきてぇ……」

 アザナは不平を訴えつつも、フモセに見張られて正座を続けた。


「ていうかさぁ、アザナ。オマエっていろいろ発明して、あのエッジファセットが流通に乗っけてるんだろ? そこそこの資金とか製作の伝手とかあるんじゃねぇの?」

 これ幸いと、以前から疑問だったことを聞いてみる。すると答えたのはフモセだった。


「聞いてください、ポリヘドラ様! アザナ様ったらお金があったら、あるだけ使っちゃうんですよ」

「あー、いるよね。そういうヤツ」

 オレは焼き菓子を食べ終えると、椅子から立ち上がって正座するアザナの後ろに回り込む。

 そしてアザナの尻ポケットにある財布をそっと抜き出した。


「ああっ! ダメです! み、見ないでっ! いやぁっ! 広げないでぇ~!」

「バ、バカ野郎、変なこと言うな! ……って、おいおいマジかよ」

 足がしびれているのか、アザナは妙な格好で追いすがろうとしてくる。それを振り払って財布を開いてみると、そ、こ、に、は……。

 まるで給料日前の妻子持ち木っ端役人の持ち歩くような軍資金が収まっていた。


「うわぁ……、子供の小遣いかよ。いや、子供だけどさ」

 低空飛行艇に乗って、昼飯を食べたらおやつも買えないくらいの資金だ。 


「あるだけ使うので、お金の管理は私がしてます」

 足がしびれているアザナを、むりやり再び座り直させるという鬼畜のような行為をしつつさらりとフモセが言った。


「まあ、金の管理は家令や筆頭家臣の仕事だしな。オマエも大変だな、フモセ」

 羽のように軽い財布を投げ返す。それはアザナのしびれる足の上に落ちた。


「やぁ……」

 足に響いたのか、アザナが艶めかしい声をあげた。


「さ、財布見られたくらいで、泣くんじゃねぇよ……」

 妙にそそる声に動揺したオレだったが、なんとか軽口で誤魔化した。なんて声出すんだよ、この男は!


「あら、ザルガラ様たちもいらしてたんですか?」

 騒ぎが気になったのか、アマセイが多目的ホールを覗きに来た。


「ああ、お邪魔してるぜ。今日は裏口から入って来たんだ」

「そうですか。そろそろ夕食の準備をしますので、お待ちして頂けたらご一報しますか?」

「うん、食べます!」

 オレより先にペランドーが返事をした。

 断る理由もないので、オレも付き合うことにした。


「あの~……」

「ダメです」

「はい」

 立ち上がろうとしたアザナだったが、フモセは許さない。


 こうして食事を始める事になったのだが、その途中ではたとアザナが何かに気がつき叫ぶ。


「ちょ、ちょっと待ってください! テューキー先輩はこっちに来ないんじゃないんですか?」

「……あ」

 そうだった。

 テューキーはロベリア孤児院の出身だし、今は学園の寮で生活している。理由もなく、鉄音孤児院にくることはない。


「あ~、そっか。フモセ。アザナを解放してくれない?」

「そ、そうですね。さ、アザナ様。充分反省しましたね。はい、立ちましょう」

「立てと言われても、あたたた……」

 アザナは立ち上がれず、床に転がって脛を懸命に擦る。短パンから伸びる脛が、赤く染まっていた。

 やっと解放されたアザナだったが――。


「こんばんわー! わー、いい匂いがしますね!」

 玄関からテューキーの声が聞こえてきた。

 どうやら、なぜかこの孤児院へとやって来たようだ。

 なんで、こっちにくるんだよ!


「おい、アザナ。ステイ、座れ! 反省してる振りしろ!」


 オレは慌ててアザナを抱き起こす。

 そしてむりやり正座させ――、ええい、抵抗するな、アザナ! 


「ひ、ひどい!? ザルガラ先輩の鬼! 悪魔ーーーーっ!」


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