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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第5章 It if and only if you.
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グレープジョーカー

『ザルガラさまー。こうかいひょーかかい、どうだった?』

「別に何もねーよ!」

 控え通路でタルピーを一蹴。


「あ、ザルガラくん! 先輩たちの公開評価会どう……」

「別に何もねーよ!」

 校舎脇に戻り、ペランドーの問いを一蹴。


『……ザル様。公開評価会でどうでした?』

「何もね……って、オマエは見てただろうが!」

 ゴーレムの前にふわふわと浮かぶディータから、からかいを受けて思わず怒鳴りつけた。

 怒鳴られたっていうのに、ディータはビクつく様子もない。何食わぬ顔でふわふわと浮いてやがる。

 タルピーとペランドーに公開評価会へ協力した様子を聞かれたが、ディータまで調子にノッて尋ねてきやがった。

 無かった事にしたかったのに、なんかいろいろ蒸し返しやがるな、コイツらぁ~。


「……あれって誰に向かって言ってるの? ゴーレムがなにか言ったの?」

「たまにザルガラくん、左肩とかへ向かって話すんだよね」

「そう……」

 ヤバい、ディータに怒鳴る姿をテューキーに見られた……。あとペランドーは知ってて見ぬふりをしてくれていたらしい。

 抑揚のないテューキーの声と、生暖かい目線が辛い……。

 

 いやな沈黙の中、マイペースにお尻をふりつつ新型ゴーレムを登るタルピー。オマエ、どうして高いところで踊りたがるの?

 いや、火ってそういうものか。

 ――などと見ていると、ゴーレムの太い足の向こうから太い人影が姿を現した。


「おう、戻ったか。こっちは準備万端だぞ」

 いつの間にか公開評価会を終えたワイルデューが、こっちに来てチェックを終えていたらしい。オレたちが作ったゴーレムの鎧をコツンと叩き、自信満々に言って見せた。

 どっしりとしたこの新型ゴーレムは、ドワーフであるワイルデューを拡大したしたかのような鎧姿だ。

 まるでワイルデューの体形をモデルにし、鎧を着せたかのように思える。


「ところで、こいつの名前はどうする?」

 似てるなー、とゴーレムを見比べていたらワイルデューが、コンコンと鎧を叩きつつ聞いてきた。

 

「そういえば、名前なんて考えてなかったな。……もう、ゴーレム1号でいいんじゃね?」

 簡単でいいだろうと思って名前を提案すると、3人から白眼視された。

 なんか分かってないなぁ、コイツって視線が痛い。そんなに駄目なことなのか、これ?

 魔法じゃないんだから、名前なんてなんでもいいんじゃん――。 


 オレがたじろぐ中、ペランドーが手を上げて提案する。


「ぼくはキャラメル1号……」

「却下じゃの」

「ペランちゃん。それ今食べたい物言ったでしょ?」

「オレのと変わらねーだろ、それ」

 一斉に否定され、ペランドーが手を上げたまま縮こまる。


「だって……最近、出回ってるキャラメルにはおもちゃのオマケが付いてて……、それがこのゴーレムに似てて……」

 なんかペランドーが言い訳してるが、キャラメルはねーだろ、キャラメルは。

 それからなんかキャラメル1号とか2号とかナンバリングしていくと、途中で6号の存在忘れたりして、8号を7号として押し通した挙句、観客から指摘されて9号の表記が変なことなりそうだから却下だ。


 まだ何か言っているペランドーに代わり、テューキーが一歩前にでて提案する。


「葡萄孤児院から取って、グレープ1号……」

「却下じゃの」

「それってぼくと同じようなものじゃないか!」

「もうオレのゴーレム1号でいいだろ!」

 協力してくれた葡萄孤児院に敬意を表し、名前を取るのは良い案だがそれはない。


「なによ、みんな! じゃあ、ワイルデュー! あんたは何がいいのよ!」

「む……。そ、そうじゃな。鉄音……葡萄……ロベリア……ええっと……」

 ダメ出ししまくってた癖に、当のワイルデューは難しい顔をして考え込み、今にも煙でも吐きそうになっている。

 こういうのは苦手なのだろう。無骨な技術屋って時々、言葉で表現するのが苦手なヤツ多いしな。


 結局名前が決まらず、4人で名前をどうしようかと黙り込んだ時――。


「命名! グレート・ザ・ブドーッ!」

 新型ゴーレムの向こうから、一際明るく通る少年の声があがった。

 

「んだよ、アザナか。つか、その名前はわけわからん」

 コッチの様子でも見に来たのか、アザナはいきなり命名論争に参加してきた。


「敬愛するグレート〇タのオマージュと、なんとなくゴーレムの巨体と体形のシルエットの似たビッグ・〇・ブドーからインスパイアを受け、トリビュートさせて換骨奪胎しつつ葡萄と武道をかけてみました」


「……今まででとびっきり何いってるかわからねぇぞ、アザナ」


 オレは何度もアザナの意味分からん発言を聞いてるからいいが、慣れないペランドーたち3人はポカンとしているぞ。


「それからオマエに命名権はない」

「ぶーぶー、なんでですか! 無関係じゃないはずですよ、ボク」

 頬を膨らませ、ととととっと走ってきてオレのマントをひっぱるアザナ。やめろ、そういうアザトイの。


「ちょっとよいかね? ザルガラ君」

 急に命名してきたアザナには同行者がいた。

 針のように細い教師、ベクター・アフィン教頭だ。もちろん女装などしていない。


「おや、教頭さん。評価会から離れてまで、オレたちになにか御用で?」

 またケンカを仲裁しにきたのかと思い、不満の声をあげるアザナへ無理矢理に腕を回し、わざとらしく肩を組んで見せた。


「見てのとおり、ケンカなんてしてねぇぜ」

「……え? あ、はい。うん……仲良し……です」

 ケンカはしてませんよ、とアザナと仲良しアピールだ。

 この急な行動に、アザナのヤツは少し戸惑ったようだがすぐに口裏を合わせてくれた。

 なぜかディータが悲鳴を上げたが、取りあえず無視。


 しかしそんなアピールは無用、とベクター教頭は手をかざして見せる。


「いや、私は別にそんなつもりで来たわけじゃない。ちょっと頼み事にきたんだ」

「教頭みずから?」

 申し訳なさそうに発言するベクター教頭など始めて見る。5教頭は実質、この学園の動かしているヤツらだ。それがオレたち生徒に、遠慮しながら頼み事なんて珍しいこともあったもんだな、おい。


「悪いのだが、君とアザナ君の公開順を最後に回してもらえないかな?」

 頼み事をする側であるベクターの表情が、なんとも腑に落ちてない。その表情を見て、オレは1つの可能性を口にしてみる。


「来賓者からの要望……ってところか?」

「こういう大人の事情や、裏側というものにさといようだね、ザルガラ君」

 ベクターの表情が少し和らいだ。笑っているようにも見える。だがそのツラで、オレを褒めているようなそれでいて褒めてないのって発言はちょっと気に入らない。


「権威ある教頭先生も権力には弱いようで」


「そう言うな、ザルガラ君。で、その要望というのは、アザナ君の作ったゴーレムと、君のゴーレムの直接対決を見たいとのことだ。むしろ順番の変更より、損傷の可能性がある対決というのが問題かもしれないな」


「なぁるほど。飽きてきたお偉いさんは、余興をお求めって事か。でもまあ、教頭先生さんよ。損傷とか壊れるとか、そんな物をオレが気にすると思うかい?」

 余裕の笑みを見せてやると、ベクター教頭は驚いたのち、すぐに納得したようで肩から力を抜いた。


「そうか。君たちは望むところ……、というわけか」

「ああ、それにこれならケンカじゃないし、教頭先生があんな格好する必要もないんだぜ」

 こういうと、なぜかベクター教頭は残念そうな顔をした。

 なんでだよ!

 女装なんてしなくて済むんだぞ、いいことじゃねぇかッ!


「ていうか、アザナ。オマエは『魔力中継魔具』を作ってたんじゃねぇのか? なんでゴーレム造ってるんだよ」

「そういうザルガラ先輩だって、こんな戦闘用のゴーレム造るつもりじゃなかったんじゃ?」

 課題変更にツッコミを入れたが、逆にオレがツッコまれてしまった。


「……オレは……その、どうしてもうまくいかなかった」

「ボクは、まあつまりその、失敗しました」

「そうか……」

「そういうこともありますよね……」

 アザナがいくら天才だろうと、失敗がないなどありえない。誰しもが何度も失敗するように、アザナだって失敗くらいする、ということだ。


「でも、アザナはゴーレムの部品とかどうしたんだ?」

 製作は孤児院の子供たちに頼んだのだろう。しかし、ゴーレムの基軸部品はそうはいかない。

 アザナのゴーレムは形が独特なので、外装や素体は特別製だろう。それは魔力中継魔具製作を決める以前から、用意されていたものだと推測できる。

 だが、胞体石や可動部位などの基軸部品はあの火事で破損したはずだ。


「あー……それはザルガラ先輩の用意した部品をちょっと失敬して……」

「ちょ、おまっ! ふざけんなよ! 毎回、うおっ! なんか部品の数が合わないな!? とは思ってたがオマエが原因かよ!!」

 慣れない孤児たちが壊してしまって、バツが悪いから隠してたのかと思ってたよ!

 アザナ! オマエだったのかっ!

 疑って悪かったな、子供たち。


「ところで名前どうするの?」

 オレがアザナを追及しようと思ったところで、まったく脈絡もなくペランドーがどうでもいい話を蒸し返してきた。


「ああん? じゃあ『グレープジョーカー』でどうよ」

「……! いいですね、それっ!」

 適当に言ったつもりだったのだが、なぜかアザナが食いついてきた。


「グレープジョークと葡萄孤児院をかけたんですね! さすがです、先輩!」

「お、おう」

 あまり力を入れてなかった命名なので、そう褒められるとなんかムズ痒いぜ。

 アザナがいいと言うなら、悪くないかもしれない。


「じゃ、じゃあ、グレープジョーカーにしようぜ」

 一応、ペランドーたちにも同意を求めた。

 なぜか3人はあきれ顔である。


「あー、アザナちゃんに褒められたからって……」

「反対するとごり押しされそうじゃのう……」

「ぼくは、それで……」


 なんでそんな微妙な反応なの、オマエら?

 反対するならしっかり反対しろよ。



次回はいよいよザルガラとアザナのロボレス対……じゃなかったゴーレム対決です!

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