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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第5章 It if and only if you.
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ぜんらのぎゃくしゅう

 

 イシャンからの素衣原初研究会へ協力要請。

 略して、友人からのお願い。

 ぜんぜん略してねぇ気がするが意訳だ、意訳。


 演習場へ続く控え通路でイシャンから説明を聞いて、わざわざオレに頼んだ理由を納得した。


「そりゃ確かにオレ以外にはできねぇな」

 教師陣に頼めば別だが、生徒でできるようなヤツはオレとアザナくらいだろう。

 イシャンたちの要求とは……。


「素衣原初研究会メンバーの5人が防御立方体陣を張る。それに対し、3角形陣にして1枚相当をちょうどぴったり破壊するくらいの威力で、魔力弾をそれぞれに撃ち込んでほしい」

 つまり単純な威力を下げるだけでなく、防御立方体陣の1枚だけを綺麗に破壊して欲しいというなかなか細かい要望だ。

 それを魔力量――つまり3角形陣の防御力が、各々違う5人相手同時に、だ。

 教師か有力な魔法使いならできるだろう。だが学園の生徒たちでは難しい。これならオレに頼む理由も分かるってもんだ。


「最初はそんな細かい調整しなくても、おおざっぱな攻撃魔法で公開できるだろうと思っていたのだが……。見通しが甘かったよ。評価会の禁則事項に引っかかるのでできなくなった。同時でなければ、インパクトも少なくて評価に影響がでるだろうし……」

 説明を終え、納得したオレにイシャンが残念そうに語る。

 公開評価会ではいくつか使用を禁止されている魔法がある。

 広域範囲魔法とか、毒や腐食系魔法、精神操作系などだ。もともとこれら危険な魔法は、課題として選べない。

 副次的に、それらに対抗する魔法や魔具などは、公開評価会に向かないので選考から外されてしまう。

 外部からの評価を気にする生徒は、それらへの対抗は魔法など課題に選ばないだろう。


 それに視覚的インパクトとか、そういった一定効果の得られる提示方法は評価に影響するのでバカにできない。

 発動が同時である必要性があるのだろう。


「まあ事情はわかった。どんな新式防御魔法なのか、楽しみにしてるぜ」

 こうして素衣原初研究会とイシャンの要望を受け入れることにした。

 集まる素衣原初研究会の連中も、今日は服をちゃんと着ている。ちゃんと――と、言ってもみなイシャンと同じ作業着姿だ。汚れてもいいように、準備しているんだろうな。


 これが全裸へ協力ってのなら断ったが、こうして服を着ていることから真っ当な魔法を課題として選んだのだろう。


「よろしくお願いしますね、ザルガラ君」

 ハンマー・チェンバー巡察官の息子である、ジャンニーがわざわざ頭を下げてきた。


「いや、アンタの父親さんにも世話になってるからな。こんな協力なら軽い軽い」

「はい、父にも言っておきます」

 いい笑顔の好青年ぷりを見せて、チェンバー巡察官へよろしく言うことを約束してくれた。

 実際、ホントに世話になっている。

 想定外の孤児院の開設にあたって、チェンバー巡察官へ法務にかかわる書類を丸投げしてしまった。巡察官の仕事が忙しいだろうに、その書類をさっさと仕上げてくれたことには感謝しているくらいだ。


「おや? コリンとローリンの公開評価が終わったようだ」

 高学年で暫定トップのクラメル兄妹の公開評価があったようだ。演習場がちょっと騒がしい。


 通路からちょっと覗いてみたが、確かにあれは評価に値する。

 たぶん、コイツらしかできない芸当だ。

 

 通常の防御魔胞体陣へ、自動反撃用の魔胞体陣を組み合わせるという独式魔法で、四次元である胞体の利点を上手く利用している。

 胞体ってものは見る視点、時間によって形が変わる。


 ただの防御魔胞体陣に攻撃したつもりが、ちょっとした時間や地点の変化で自動反撃用の魔胞体陣にぶつかり、反撃の魔力弾が飛び出してくるという仕掛けだった。

 クラメル兄妹2人で投影する魔胞体陣なので、実質この兄妹専用の独式魔法といっていい。

 たぶん、アザナやオレが1人でマネしようとしても無理だな。双子だからできる芸当だ。


 クラメル兄妹たちは高評価を得たのだろう。

 2人は嬉しそうに控え通路へ、意気揚々と戻って来た。


「おや、ザルガラ。なんでここに?」

 いつもは攻撃的な双子だが、高評価を得てちょっと上機嫌で言葉が柔らかい。


「ああ、ちょっとイシャン先輩に頼まれて、研究会コイツらのお手伝いだ」

 敵意も当てつけがないなら、オレも攻撃的になる必要もないので無難に返事をした。


「あら、そうなの? ……仲がよろしいわね」

 ローリンは一瞬、皮肉か何かを言おうとしたのだろう。言葉が詰まったが、すぐに何気ない一言で誤魔化してきた。

 まあ、皮肉いったら無駄にイシャンたちも巻き込むことになるから、よい判断だ。 


「しかし、ザルガラ……きみは――」

 コリンは腕を組み、納得できないという顔でオレを睨む。


「なぜ、独式や新式の魔法課題を修めず、魔具の……それもゴーレム製作なんて選んだのですか?」

 妹のローリンが兄に変わって疑問を投げかけてきた。


「あー、それは流れというかちょっと試してみたかったとか――」

 ちらりと肩の上に手をかけ、顎を載せるディータの横顔を見て――。


「人のために役立つようなモンを作りたいと思ってな」

「顔に似合いませんわ」

「顔は関係ないだろ!」

 ローリンに言われると腹が立つ。オマエだって女にしちゃ目つき悪いぞ!


「ザルガラには似合わないな」

「オレを全否定かよ!」

 コリンからはまさかの評価が来た。いやガラに合わないとは思うが、そこからかよ!


「似合わないとかいったら、テメェらの名前はそのツラと似合わんだろ!」

「顔のことはやめなさいよ!」

「オマエが先に言ったんだよ!」

 険悪な雰囲気に成りかけたとき、イシャンがオレたちの間に割って入って来た。


「さあ、3人とも仲がいいのもいいが」「よくねーよ」「ちがいますわ」「心外だな」「研究会の出番なんでそろそろ移動しよう」

 イシャンのもっともな解散理由から、オレとクラメル兄妹は互いに矛を収める。


 イシャンを含め、5人の素衣原初研究会員たちがまず第一演習場へと出た。

 続いて俺も出る。なるべく遅れて、な。

 悪いけど同じ研究会の人間と思われたくないし……。


 ちなみにタルピーは通路に置いてきた。流石に来賓者の中には【精霊の目(ダイアレンズ)】を持つヤツがいるかもしれない。

 彼女は1人でも特に問題なく、いつまでも踊れる精神を持つ。まあタルピーは元を正せば火だから、いつもいつまでも消えない限り延々と、ゆらゆらメラメラしてて当然と言えば当然なんだが。 


 いつもながら胞体陣で出来た半透明の天井。そしていつもと違う観客席。

 いや、観客席というより来賓席か。

 公開評価会では、演習場内に椅子が設けられ、近くから生徒の課題実演を見えるようになっている。

 なにしろ観客席からでは遠くてよく見えないし、生徒の説明は聞こえないし、来賓者も質問もできないもんな。

 

 危険な魔法は広範囲魔法が公開評価会で使用禁止になっている理由は、こうして教師たちと来賓者が近くにいるからだ。

 

 教師と国の高官やら大貴族の前で、いよいよ公開評価が始まる。

 イシャンではなく、別の素衣原初研究会メンバーのジャンニーが挨拶をし、課題の説明を始めた。ジャンニーは武官の一族だが、大貴族や高官を前にして物怖じしない。さすがあの巡察官の息子である。


「今回、僕たちが課題として製作した新式魔法は、新しい防御立方陣として各所で活躍することとなるでしょう」

 自信に溢れるジャンニーのうたい文句。本当なら大したもんだ。


「まずは通常通り立方体陣を投影します。課題の新式魔法はその後に使用します」

 ジャンニーの説明の後、素衣原初研究会会員たちは防御立方体陣を投影した。彼ら全員が、ありふれた正方形陣に包まれる。半透明に光る5つの箱に、5人がそれぞれ収まった形だ。

 そして新式魔法を発動――ん? これはオレが教えた【光とガラスのレンガ職人】に似ているぞ。


 案の定、彼らの前面が色とりどりのブロックで覆われる。オレの【光とガラスのレンガ職人】との違いは、人間にではなく正方形陣の前面が光のブロックで覆われた点だ。


「この前面の光のブロック……僕たちの間では、モザイクと呼んでますが、これに攻撃魔法を当てることで新式魔法の効果が発揮されます。ただし、威力が高すぎると分かりにくいので、防御立方陣の1つがちょうど破壊されるくらいの魔力弾で実演してご覧にいれます」

 説明が一段落し、ここでオレが紹介される。


「紹介します。今回、協力してくれるザルガラ・ポリヘドラ君です」

 ジャンニーに紹介されて、オレは一歩前に出て軽く礼をした。


「……彼が」

「あの次の英雄世代と……」

「聞いた通りの……」


 なんとも微妙なひそひそ話を始める来客者たち。あからさまに怪物とか言い出さないで、言葉は選んでいるようだが、その顔付きはあまりよろしくない。

 これでも、結構マシなんだぜ。1回目の人生の時は、5回の公開評価会で露骨に警戒されたり嫌そうな顔された経験があったから――。

 思い出すと、ちょっと辛い。忘れよう。今回の人生は違う道なんだ。


 さて、そんな来客者たちの顔ぶれだが、ほとんど知らない人たちだ。あんまり高官となるとあったこともないからな。

 辛うじて、王都騎士団団長の顔だけはわかる。来客者の中でも特に高齢なので、またわかりやすい。


「では、ザルガラ君。お願いします」

 オレと素衣原初研究会の会員5人は、適度に距離を取って対峙する。彼らの前面がアザナでいうところのモザイクというモノになっており、その向こうの様子がオレからよく分からない。

 こっちから見える面を通すと、見えるモノが細かいブロック状なので、おおよその色と人の形は分かるが装備や人相がわからなくなっている。

 一種の視覚妨害だ。

 反してあっちからはモザイク状に視覚妨害されず、オレの姿が見えているはずだ。これだけでも結構なアドバンテージがある。

 

 評価会の来賓者である(評価にちょっとは口を出すから、厳密にはただの来客者じゃないが)その中からも、視覚妨害の利点を言及する声が聞こえてくる。

 といっても、「なるほど」程度の反応だ。評価としてはよくない。


「じゃあ、行くぜ」

 オレは5発分の魔力弾を発射するため、威力を調整した5種類の魔胞体陣を投影する。

 古式魔法を使うには、かならず投影にしろ手書きにしろ魔胞体陣使わなくてはならない。そして古式魔法で放つ魔力弾は、威力の調整を細かく設定できる。

 古式であれば、アザナの防御魔胞体陣を1つ吹っ飛ばすくらいの最大威力から、そこらの魔法使いが投影する防御平面陣をやっと壊せる程度の最低威力まで無段階調整できるのだ。

 あー、もっともそんな幅で使えるのはそうそういないだろうけどな。


 これを以て、5人の防御立方体陣を平面3角形陣相当を1枚づつぎりぎりぶっ壊す!


『【これでもくらえ!】』

 ジャンニーたちの合図を見て、威力を調整した5発の魔力弾を5人の立方体陣へと放つ。

 独特の風切り音を立てて、居並ぶ素衣原初研究会の会員たちが張る防御立方陣へ同時に激突した。同時にぶつかるようにしたのは、ちょっとしたおまけの制御だ。


 正3角形陣をきっかり1枚、吹き飛ばす。

 ……はずなのに、オレの魔力弾が弾かれ四散するッ!


「なにっ!」

 オレが驚きの声をあげると同時に、パンッと音と立ててモザイクのブロックが一つと、素衣原初研究会の作業着が一部吹き飛んだ。

 モザイクが抜けた四角の向こうで、地肌がさらされている!


 イシャンのモザイクなんてちょうど胸のあたりが弾け、そこから無駄にピンク色な乳首がさらされている。

 男のそんなモン見ても嬉しかねぇよッ!

 ひたすら憂いしか感じねぇよッ!

 でも、モザイクかかってる中、唯一ちゃんと見えるところだから視線誘導される! 

 くやしいっ、ちくしょうッ、やられたッ、こういうことかよ!


 オレがヤツラを脱がせて、ヤツラは喜ぶって寸法かいっ!

 ていうか、これくらい予想しろよ、オレ!

 でも公開評価会で全裸禁止は前回の試験以来ずっと通達されてるから、信じてたんだよ!

 信じてたのに、騙されたッ!

 コイツらの変態性への理解が足らんかったぁっ!

 決して、オレはアイツらを好き好んで脱がしたわけじゃないぞ、来客のみなさんッ!


「素晴らしい!」

 言い訳しながら憤怒する中、客席側から声が上がった。来賓者の中で、魔法に長けたヤツらだ。この人たちは、コイツらがどんなヤツらか知らないから仕方ないと言えば仕方ないんだが……。

 その最中、各々の防御立方陣に魔力を補充されたのか、吹き飛ばしたはずのモザイク部分が修復されていく。その向こうでは依然として、素衣原初研究会の肌はさらされたままなのだが、視界を妨害してくれる防御立方陣は元通りだ。

 良かった。

 これで少なくてもオレは、イシャンの妙に綺麗な乳首を見なくて済む。ほんと、良かった……。


 しかし、おかしい……。オレの放った魔力弾は、防御立方陣を1枚だけ破壊できるぎりぎりのモノだったはずだ。それで服の一部が吹き飛んだのも変だし、破壊できたはずの防御立方陣の一部が修復されるのも妙だ。

 

 ――ああ、そういう魔法か。

 あまり深く考えなくても分かる。

 

 オレが素衣原初研究会ヤツラの新式魔法へ仕掛けられた細工を見抜くと同時に、来賓席からも声があがった。

 

「あれは……そうかっ! あの生徒たちの防御立方陣は、負荷を受けると使用者の衣服にダメージを受け流すのか!」

「いや、それでは意味が……む? 違うな。あれはただの作業着だが、充分な防御魔法を施し魔具とした鎧ならば耐えきれる。つまり、鎧と防御立方陣で分散してダメージを受ける仕掛けか?」

 さすが、招かれている来賓者たちも国の重要な責務を任される高官である。

 一発で、素衣原初研究会たちの魔法の原理と利点に気が付く。


 もっとも、そこまでアイツら考えてないだろうけどね。単に、敵にも脱がして欲しいだけだ。

 ダメージ分散は副次的な効果だろう。


「ふふふ。どうかね? ザルガラ君」

 モザイクの向こうでポーズを決めるイシャンが、自信満々にそんなことを言いやがる。モザイクのせいでどういう顔してるかわからんが、なんかムカつく。 


「どうかねもねーよ。アンタらの服を脱がした事実が、このオレの歴史に残っちまったよ。どう責任取ってくんだよ、イシャン先輩さんよ」

「仕方ない。研究会に入会してもらって責任を……」

「あ、やっぱ責任取ってくれなくていいです」

 そうだ、なかった事にしよう――。

 オレは現実逃避した。  


 さあ、昼過ぎはオレたちの評価会だー。過去は忘れて未来を考えよー。楽しみだなー。ガンバロー。


女の子が使うなら、いい魔法なのに……


あ、こういう防御魔法が一般的な世界観でひとつ書いて……ごめんなさい、ウソです。

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