遺題継承
今年で11歳になるバトという少年は、葡萄孤児院の正式な孤児の中でもっとも若い。
10年前の王都騒乱時、父親は市民兵として参戦し貴族連合軍の傭兵から門を守り戦死し、母親はその後まもなく苦労がたたって病死。
こうしてバトは生後1年経たずして孤児院に預けられた。
アマセイが独自に引き取った不正規な孤児と違い、正式な戦災孤児である。
葡萄孤児院内の掃除を終えたバトは、一休みしてから玄関から出て外にいる子供たちに声をかけた。
「そろそろみんな戻って来いよーっ!」
明かりが灯されない、まだ薄暗い夕食前の時間。
バトは外で遊んでいた葡萄孤児院の年少組を呼び集めた。子供たちの大部分は、素直に倉庫を改装した孤児院の中へと戻っていく。中には渋る子供もいたが、そういった小さい子も年長者に促され、屋内へと戻って来た。
室内に戻る子供たちに対し、未だ外で運動を続ける子供たちもいた。
木剣やら木槍を持った子供たちが、立派な鎧を着た騎士の指導の元、打ち込みの練習をしている。
その練習風景は、見る者が見れば未熟すぎて動きはお遊びの範疇であろう。
しかし子供たちの誰もが、いずれは過酷なる訓練と知っている。だから真剣に取り組んでいた。
中でも、ゴーレム部品の出来そこないと被った少年が、必死の形相で木剣を振るっている。相手にされている少年が可哀想なくらいだった。
「よーし、休憩後、軽く走って終了だ!」
年配の騎士がそう言って手を叩き、打ち込みに夢中となっている子供たちを止めた。中には白熱しすぎて、その指示が届かない子供もいる。
そんな子供には軽くゲンコツが落とされ、年配の騎士から周辺警戒の大切さを注意された。
「よし、お前らは汗を拭いて、後片付けをしてからこい」
指導をする騎士は、いつも夕食のご相伴に預かっていく。指導料の内だから当然なのだが――。
「アマセイさぁん。夕食の手伝い、なにかいたしましょうかぁ」
下心のある騎士は、その心中を隠さず裏口へと回っていく。
いつも見る成人男性の姿なので、子供たちもその姿を見て特に反応を示さない。男女の機微に慣れ過ぎている孤児たちだった。誘拐事件後、集められた孤児たちもすでに慣れているようで、葡萄孤児院の孤児たちと同じ反応である。
「よう、バト」
休憩していたローイが、バトに気がついて手を上げた。ローイは先日の誘拐事件以来、別の孤児院からきた少年だ。
よそ者ということもあって、当初はバトと衝突したが、今ではすっかり仲良くなっている。
「あれ? ローイは士官学校へ行くの?」
屋内で勉強をしているはずのローイに声をかけられ、バトは驚きの声をあげた。
ローイは成績優秀で、魔法学園に行けると誰からも目されてる少年だ。その彼が、なぜ騎士から指導を受けているのかバトにはわからなかった。
「いや、体力作りだよ。図形と計算ばかり見てたら、頭がオカシクなるよ。だから今日から混ぜてもらうことにしたんだ」
「ああ、そうか。あはは、たしかに頭がオカシクなるよなぁ」
――ローイが優秀すぎて、バトの頭がオカシクなる。
頭の出来も、顔の作りも、余暇に騎士の指導を受けられる才能に当てられて、頭がオカシクなる。
「でも、良かったな。孤児でも受け入れてくれる制度が学園にあって」
「ただでさえ高い競争率が、もっと上がるだろうけどね」
バトの心配をよそに、ローイは不安要素を口にしながらも余裕の様子だった。
もうため息も出ない。
バトがそんな風に悟れた態度を取れるのも、ザルガラのお陰だった。
『友達だからって、隣りのヤツと同じ色に染まってまで、みんな仲良くお手々繋いで学園に行く必要はない』
バトはその意見に救われた。
孤児たちの全員が、製図も計算も得意というわけでもない。体内にある魔力量だって、少ない子の方が大多数だ。
街士どころか火男程度の魔力もないバトだが、算術くらいなら余裕でできる頭の良さがある。しかし複雑な計算となるとお手上げだ。
算術が得意だから、難しい計算も出来るだろうと周りから期待されたが、彼はすでに限界を感じていた。
魔力が低くも入れる魔具製作科も学園にあるというが、バトがそこへ入学するとなれば尋常ならざる努力がいるだろう。
対して、誘拐事件に巻き込まれ救出された子供たちは、みな優秀だった。
元葡萄孤児院の子供で、太刀打ちできるのはフミーくらいだ。
そんな中、バトも無理に頑張れば、学園に入学できたかもしれない。だがついて行く自信はない。
そもそも入学できなかったら?
他のみんなが入学する中、バト1人だけ試験に落ち――。
そんな光景を想像して、ゾッとする。
あの時、アザナという少年が教えてくれた授業は分かりやすかった。バトだけでなく、あまり勉強が得意でない孤児たちも、簡単な図形ならいくらでもかけるようになった。
だからといって、アザナに教えて貰いながら高度な図形に挑戦したとしても、バトにはそれが出来るとはとても思えなかった。
何人かの孤児たちも、そう思っていたに違いない。
だというのに、みんな学園に入学できるという空気‥‥、熱狂‥‥、勘違いと浮ついた熱気が怖かった。
流されて、みんなで魔法学園に入学しようという流れに、水を差した少年がいた。
ザルガラ・ポリヘドラだ。
彼の皮肉めいた発言によって、人にはそれぞれ将来目指す場所があると指し示した。
優秀な学園の生徒たちや大人たちは、ザルガラの発言を聞いて反省し、孤児たちに学園を目指せと期待することは無くなった。
彼の発言は、悪くいえば場を冷めさせる言葉だったが、良くいえば熱狂についていけない子供たちを救う言葉だった。
いや……救う言葉というより、バトたちにとって逃げ道を作る言葉だった。
ザルガラは誰もに目指す場所がある、という言葉の中に見えない逃げ道を作ってくれた。
『魔法学園もいいけど、ぼくは商人になりたいです。小さい頃からの夢なんです』
数人の孤児たちが学園や、士官学校を目指すと言い出す中、バトと大半の孤児たちは手に職を求めた。
頑張れば誰でも手が届きそうな目標を夢と称して、逃げ道へと駆け込んだ。
アマセイは、それを良い事だと言ってくれた。
そして幸いにも、援助してくれている商会が孤児院の隣りにあるような環境であったため、すぐさまバトはその手伝いを始めた。
もちろん、荷物持ちや倉庫整理程度だが――。
バトは騎士の指導を受けていた孤児たちの後片付けを手伝い、夕食を終えるとすぐに商会の建物へと出向いた。
「ウイナルさん。よろしくお願いします」
「よし、とっとと行くぞ! やっとデカイ商会抱えてるところの紹介受けられたんだ! こいつを持て、バト!」
出かける準備を終えていたウイナルは、荷物持ちのバトがくるとすぐに出かけるぞ、と慌ただしく商会のドアを開いた。
バトは商会に数歩入っただけで、荷物を押し付けられすぐに出かける形となった。
ウイナルはバトの目から見ても、あまり褒められた人間ではない。
仕事がないと酒や博打にうつつを抜かし、アマセイには下品な言葉を投げかけ、孤児には暴言を吐く。
孤児院に出入りする大人たちの中でも、ウイナルとは特別孤児たちからの心証が悪い大人である。
しかし、営業となると彼には目を見張る才能があった。
誰相手にも物怖じせず接し、商売になると思えば、醜い心を隠して「誰だ、この人?」と思えるような社交的で紳士的な顔を自在に付け替える。
特に面識のない貴族相手にも、他の貴族から、もしくは門番や使用人からというあらゆる手を使ってでも顔を覚えてもらい、そして顔を繋ぎ続ける。
ウイナルのそんな特技は、バトにとっては自分の性格にも合うし、そして何より手の届く立派な目標だ。
バトは痩せ薬以外の雑多な商品――痩せ薬を販売するにあたって、薬師との軋轢を回避するため無駄に購入した物――が入ったカバンを抱えてウイナルの後を追う。孤児への配慮がないウイナルは、子供の足に歩調を合わせるなどしない。
そんな不親切極まりないウイナルが、貴族街の区画へ向かい道すがら、チラリと振り返って呟いた。
「近いうちに、俺は独立するから。バト……、お前もこい!」
「え?」
一瞬、ウイナルが何を言っているか理解できなかった。
バトが呆けた顔しているので、説明してやろうという顔でウイナルが語り始める。
「つまりだな、最初はベデラツィの奴から株を買い戻そうと思ったが、株だけあってもあのウマい商売のタネになる薬の権利は買えない。だから、ベデラツィには薬作りと元売りをしてもらって、俺が販路を広げるってわけよ」
「は、はあ」
「もう、俺のバックにつくお方も決まってる。まあベデラツィの奴も儲かるが、痩せ薬に専念してもらって、こっちは身軽に手広くやるってわけだ。だからお前も来い」
ざっくりとしすぎた説明だった。理解など到底できないバトだったが、それでも実感できることがあった。
商人への道が開け始めていることを――。
とても逃げ道などとは言えない苦難の道だろうが、それでも魔法学園への進学などと比べたら現実的で手の届く目標である。
逃げるためではない。バトはこれが自分の進むべき道だと信じてウイナルの背を追った。
* * *
バトがウイナルと共に営業に出かけた後、夕刻ながら孤児院を訪れる者がいた。
訪問者は玄関ロビーで、アマセイによそよそしく挨拶をする。
「……では、確かに」
大工姿の青年は、少し気恥しそうな顔でアマセイから支払いの金が入った革袋を受け取った。
「不思議な物ですね……。こうして自分がアマセイさんから仕事の代金を貰うなんて」
じっと革袋を見つめて、受け取っていいはずの報酬を、受け取っていいかと悩む大工の青年。
彼は葡萄孤児院の出身で、今は一人前の大工として働いている。
倉庫の改修で仕事を立派な終えた彼は、この金を受け取る権利がある。だが、古巣の……憧れていた女性から仕事の報酬を貰うということに抵抗を抱いていた。
青年の思いを見透かしているアマセイは、安心させる穏やかな微笑みを見せる。そして見とれている青年の手を、革袋ごとを不意に握り締めた。
「当然ですわ。あなたは立派な仕事をしてくれた職人なんですから。ここで育ったのは確かですが、あなたがその技術を振るえるのは葡萄噴水区画の職人の元で、何年も頑張って得たからなのですよ」
大きく育てたのは孤児院――ひいてはアマセイだが、大工として対価を得るための技術はここで得たものではないと言い切った。
この言葉を聞いて、突き放された気持ちになり青年は目を伏せた。
2人の思いがなんであろうと、そして仮に青年が多少の採算度外視をし、さらに例えばアマセイが多めの金を革袋に入れていようと、技術の対価はあって然るべきだ。
こうして青年はこの対価を得ることで、もうアマセイの庇護下でないことを改めて実感した。
2人は互いに礼を言い合う。
そうしてアマセイはとうの昔に巣立った一人前の青年を見送り、青年は恋慕を思い出にして帰路についた。
去っていく青年を、玄関先へ出て見送るアマセイ。その彼女に近づく影があった。
「いやぁ、いいもんだねぇ。冷やかしにきたら、これまた感動的な場面を見せてもらった。演劇場でやれば金でもとれるんじゃね?」
青年の姿が闇の向こうへ消え去ったのを見計らい、夜の虫の声を打ち消してザルガラが暗がりから姿を現した。
「ポリヘドラ様……」
アマセイは気が付いていたのか、ザルガラを見ても驚く様子はなかった。
「アンタみたいな男誑しでも、孤児院でそれっぽくやってりゃぁ育ての親だ。胸張って出会う男を片っ端から骨抜きにする気分はどうだい、アマセイさんよ」
皮肉たっぷりなザルガラを横目に、アマセイは去っていた大工の青年の見えない背を見つめていた。
「今の私の気持ちを一言で表すなら……」
闇に眼を向けたまま、アマセイは呟く。
「嫉妬――」
「あん?」
予想外の発言を聞いて、ザルガラは顔を顰めた。
「彼は優秀な大工さんのところで修行して、いまではあちこちで立派な家を建ててるんですよ」
「ふ~ん」
急にアマセイが何を言い出したのか理解できず、ザルガラは素直に聞き役に回った。
「確かに私は彼を育てましたが、これから彼は大工の棟梁さんとして技術を継いでいくんです。いずれは結婚して子供ができるでしょう。そしてその子はたぶん、父となった彼を見習って大工となるでしょう」
黙って聞くザルガラだが、なにかを察してチラリと背後の藪に視線を飛ばした。
そんなザルガラの仕草に気が付かず、アマセイは告白を続ける。
「悲しい事に途絶えた継承もあります。でも、ずっと続いて繋がって栄えていく子供たち。長生きしていると、そういう場面をいつも見ることになりました。いつも見せつけられるそこに……そこの誰にも、私の『なにか』を継いでいる子はいない」
目の前の女性から複雑な思いを吐露され、ザルガラは難しい顔をするしかなかった。
「エルフですから、去っていく人たちに残されていくことは……まあ慣れてます。ですが、辛いものですね。誰も私を継いでいない。――私が能無しゆえに」
自嘲するアマセイの横顔を見て、ザルガラは肩を竦めてみせた。
「でもまあ男誑しはぁ、なかなかじゃ……」
皮肉を言おうとしたザルガラだったが、その声は小さかったために続くアマセイの声にかき消される。
「きっと、これからのみんなは凄いでしょうね。ワイルデューさんのドワーフの技術に、グッドスタインさんの事務処理、ベデラツィさんとウイナルさんの商いの仕方、ベルンハルトさんの料理を手伝ってる子もいます。そしてアザナさんや貴方のような魔法……。いっぱい、有能な人から受け継いで、ずっとずっと未来に繋がっていくんでしょうね」
「あー……あー、うん」
重いアマセイの言葉を受けて困ったザルガラは、曖昧な返事をして頭を掻いた。
「私の『なにか』はなに1つ繋がらずに……。ああ、そうでした。あなたの言う通り男誑しは得意ですね。唯一の特技です。でも自分でそれは嫌い。きらいでいやでキラいで、嫌いでイヤなのに、それでも胸張って男の人に縋って孤児を育てている良いエルフをやってます」
「あー、そうか。うん」
ザルガラはどうしてこんなことになったんだ、という顔で視線を泳がせた。そしてやたらと藪の中を気にしている。
「私はみんなを育て上げても、誰も私を継ぐ人はいないんです」
唇をかみしめるアマセイ。
いたたまれなくなったザルガラは、困り顔で懐から小さな包みを取り出した。
「さっきよう……、あーなんていったかなぁ、あの子。まあ、アレだ。ここのガキの1人がコレをくれた」
困り顔のまま袋をアマセイに投げ渡す。
受け取ったアマセイの手の中で、勝手に袋が開いてクッキーが顔を出した。
「お前さんの焼いたクッキーそっくりなクッキーだ。焼いたのはお前ンところのガキだぜ」
「でもこんなもの……」
ザルガラの言わんがごとを察したアマセイは否定しようとした。
「おいおい、ガキが一生懸命焼いたモンを、オマエがこんなものなんていうなよ。それはどう考えてもオレの台詞だぜ」
しかしザルガラはそれを赦さない。
「さっきの大工んところで修行してたって言うアイツさ。タバコ袋を持ってたよな? あれってさ、いったい誰からタバコの吸い方を教わったんだろうな」
今度はアマセイが、何を言っているんだろうと訝しがる番だった。
さっきまで困り顔だったザルガラが、調子を取り戻したように皮肉に歪んだ笑みを顔に貼りつかせている。
「大工の棟梁か同僚か? 酒の飲み方を教わっているだろうな。女遊びだって、意外にやってンじゃねーか? とにかく金稼ぎや職や生き方だけじゃない。タバコの巻き方、吸い方、ブレンドの仕方、酒の飲み方、酔いの覚まし方……」
ザルガラも、そうだった。彼は前の人生で、ターラインからタバコの吸い方を教わった。
「ポリへドラ様……」
しばらく会ってない友人を思い出すザルガラの横顔。アマセイはそこに大人の姿を見つけた。
「タバコの吸い方とかよ、巻き方とかさ、あとブレンドの仕方などなど……。意外と家それぞれとか各々の吸い方があるモンだ。我流でくそ下手なタバコの吸い方で、マズいマズいとかいいながら吸うヤツだっている。そういったのも立派な技術だ。そして親や友人から習ったやり方を守ってたけど、いつかそれから離れてうまくやろうと自発的にいろいろ手をだして、ついには自分なりのやり方を得る。いつまでも同じモンを継承し続けるってのも変なもんさ」
これ以上、なんといったらいいかわからないといった様子で、ザルガラは投げ渡したクッキーを指差す。
「それからしたら、このクッキーの焼き方も充分な技術の継承さ。間違いなく受け継がれていくよ、あのガキのガキのそのまたガキに。で、悲しいけど、いつかそれも変わっちまう。そうして見えなくなっても、ちゃんと基礎となって受け継がれていくよ」
「――さすが、貴族様は違うのですね? 私たち庶民とは」
アマセイが恐れ入ったという目で、優しくザルガラに降参の声をあげた。
「人を守ることで、文明とか文化を途切れないようにするのも、オレたち貴族の仕事なんでね。じゃあ、クッキーは預けて置くぜ。どうせあんまりオレは好きじゃねーし、それ」
ザルガラはそう言い残し、なぜか元来た道……藪の中へと戻って行った。
なぜか藪を掻き分けるザルガラ。そんな彼に声をかける小さな影があった。
「なにやってるんですか? ザルガラ先輩」
植木の陰に隠れていたアザナが、アマセイに気が付かれぬようザルガラへ批難の声をあげた。
「合図はまだかと……ぼく、準備して待ってたんですよ」
物陰に隠れていたペランドーも、ごそごそとお化けの扮装のまま出てきて不満の声をあげた。
「できるか、こんな空気でっ! いくらオレが暴れん坊万歳な生き方でも、少しは空気を読むってーのっ!」
アマセイが孤児院の中へ戻って行ったのを確認してから、ザルガラは2人に向かって小声で怒鳴った。
「ちぇ。せっかく、ザルガラ先輩と初めて一緒にイタズラできると思ったのに」
「あの空気の中でイタズラするとか……オマエ、悪魔かよ?」
「だいたい、こんな子供だましでアマセイさんを驚かせて、精神的にマウント取ろうというザルガラ先輩って子供みたいです!」
「こ、子供じゃねーよ、ケンカ売ってるんのか? あ……子供か、オレ」
一度は否定したザルガラだったが、なにか1人で納得している。
そんなザルガラに向かって、なにか妙な構えを取るアザナ。
「このうっぷんは、そのうちザルガラ先輩で返しますね」
「悪魔だなっ!」
怖気を誘う笑みに向かって、ザルガラは悪魔と断言した。
「だめですか?」
アザナが上目遣いで訊ねる。
「ダ、ダメだな」
目を逸らすザルガラ。
「そうですか、わかりました」
「やけに素直だな」
ザルガラはホッと胸を撫で下ろした。
「と、いうわけで今からアマセイさんを脅かしてきます」
「おい、バカやめろ! 完全にタイミング外しているじゃねーか!」
「なんですかっ! アマセイさんを庇うんですか? や……裾を引っ張らないでください、エッチ!」
「え、えっちってなんだよ! な、なんでそうなる!」
「アマセイさんへのいたずらを止めるなんて……もしかして、ザルガラ先輩もアマセイさんの色気に騙されたんですか?」
「そそそ、そんなつもりじゃねーよ」
すっかりアザナのペースに巻き込まれいるザルガラだった。
ペランドーは2人の様子を見て、おろおろとするばかりだ。
そんな様子を、タルピーとディータが悠遊と壁の上から眺めていた。
『……あれ、ザル様がいたずらの標的になってますよね?』
からかわれっぱなしのザルガラを冷たく指差し、呆れたようにディータは呟いた。
『ザルガラ様って、攻められ弱いよねぇ。ダンスするとリードされそう』
ダンスで例えるタルピーは、もう興味を失ったとばかりに壁の上で踊りを再開した。
手元で踊り始めたタルピーを頭をしばらく見下ろしたあと、ディータは小首を傾げて自分なりの答えを導きだした。
『……つまり、ザル様が受け?』
短編これにて最後です。次回より長編入ります!
ちなみに劇中のクッキーは、孤児院の女の子が初恋を隠し味にして作った物です。それを女に渡すとか……。
今回、二つの話を1つに纏めたので長くなってしました。短編二つくらい後回しにしましたし――。
ザルガラパパ「わしらカット?」
ザルガラブラザー「ひでぇっ!」
ザルガラママ「別に……」