すべての馬は同じ色?
エンディアンネス魔法学園の長期休業も、半ばを過ぎた頃――。
夕暮れ時のアンズランブロクール家で、失意のイシャンを励ます父ヘリウスコーがいた。
「立てっ! 立つんだイシャンっ! お前は脱げば出来る子だっ!」
ヘリウスコーはおよそ励ましとは思えない励ましの言葉を、半裸のイシャンに向かって投げた。
「羞恥心。この言葉が私を掴んで離さないのです……父上」
息子が返す言葉は、とても弱々しかった。
イシャンは上半身裸ながらも、ズボンに手を掛けたままの状態である。普段、自宅では全裸でリラックスしている彼が、脱ごうとして脱げないでいるなど異様な光景であった。
「そうか。……それが今のその無様な姿ということか」
パンツに勲章という無様な姿で、イシャンの姿を憐み見るヘリウスコー。
そんな2人の元に、ガシャリ、ガシャリ……と、鋼鉄が掻き鳴らす重いリズムが近づいてきた。
「良いじゃありませんか、あなた。イシャンも深刻に考えなくてよいのですよ」
ガシャリと音が立ち止まり、こもる女性的な声が優しくイシャンたちにかけられる。
ズボンを脱げず膝をつくイシャンが振り向くと、そこには立派な鎧が侍女を従えて立っていた。
現在の王国で使用される動きやすい鎧より、さらに重厚な鋼鉄の完全鎧。今では旧式となった重騎兵の鎧である。
「……母上」
イシャンは鎧を見上げて、それを母と呼んだ。
「さあ、イシャン。みっともない格好をしてないで、早く服を着なさい」
「あー、ユーリカ。しかしだなぁ……。苦しんでいるのはクリエンスではない。イシャンなのだぞ」
ヘリウスコーは困ったと顎をなでながら、重装鎧妻ユーリカに次男クリエンスの名を出して庇った。
「ええ、クリエンスは立派になりましたわ。ですからイシャンの教育も、やはりこの母である私が……」
「いや、もうイシャンは大きいのだ。イシャン自身がイシャン自身のまま大きくなって乗り越えるように……」
「時には変わる事も必要ですわ、あなた。イシャンは履けば出来る子です」
息子の教育方針で、積極的に意見を交わすアンズランブロクール夫妻。
肌色と鋼色の対比が、なんとも激しい夫婦であった。
「世界には毒と危険と視線が溢れています。さあ、イシャン。あなたも服を……出来ればクリエンスのように厚着をなさい」
ユーリカは次男の名を出して、イシャンに服を着るように促した。
今年で18歳になるアンズランブロクール家の次男クリエンスは、父ヘリウスコーの政務が忙しいこともあって、母ユーリカが手塩にかけて幼年期を育てた経緯がある。
そのため父に似ず、ユーリカのようにクリエンスは日常生活も重装備で過ごす。
『母上のしつけにより、いついかなるときもご婦人にお茶を誘われたら正装で受ける!』
そう言って同級生の誕生会に重装鎧姿で出かけてしまい、道中でも同級生の家でも通報されたクリエンスである。
まあ……そんな鎧の中で汗臭くなっている次男はともかく、いまは三男イシャンの問題だ。
ユーリカが顎で指図すると、控えていた侍女がどこからともなく盆にのせた重苦しい服を出し、失意のイシャンへと差し出した。
ザルガラが嫌がらせで【極彩色の織姫】で着せたような、時代遅れのダブレットにトランクスホーズという厚着の貴族服だ。
「いや、母上には申し訳ないのですが、クリエンス兄上のようにご婦人方から避けられるのは、男としてなんというか」
「いや、脱いだら脱いだで普通のご婦人に避けられるがな」
なにやら自覚のあるヘリウスコーが、イシャンの意見を否定した。
「あなた。それでは好いてここに嫁いだ私が普通ではないと?」
「ユーリカ、待て。いやそういうわけではなくな、イシャンの思うようなことではないという意味であってだな」
「よくわかりませんわ、あなた」
「つまり、アレだ、その、こうだ。わかるだろ?」
「つまり着た方がいいというわけですね?」
「なぜそうなる!」
普段、ヘリウスコーとユーリカの2人は、いろいろと仲良く議論しあう仲である。
やれ、重装備の方が鎧や服に防御魔法をかけられるだ。
やれ、それは油断を招くから常時戦場の心構え裸でいるべきだ。
やれ、常時戦場ならば自宅日常こそと安心して寛げるように鎧だ。
やれ、家では寛げない……と、ヘリウスコーが発言してしまい、そんなに私と一緒にいるのが嫌なのですか――とアクロバット空中戦のような論争を繰り広げ始めた。
「これは、一度誰かに相談すべきかもしれないな」
ある意味で仲の良い両親たちだけに頼らず、自ら模索する道を選んだ。
* * *
「……って、わけであのアマセイの鼻をあかそうって作戦よ」
オレは葡萄公園区画とスラムの狭間にある秘密アジト内で、ペランドーと悪巧みをしていた。
否、悪巧みをしているのはオレだ。ペランドーは聞いているだけである。
話を聞き終えたペランドーは、大げさにため息をついて見せた。
「アジトでゴーレムの秘密の素材作りするのかと思ったら、そういうイタズラの作戦だったの?」
「イタズラじゃねーよ。どっちが主導権を握ってるか、あの女にはっきりと教えてやるんだよ」
「でもこれってイタズラだよ……」
いまいち乗り気でないペランドー。
まあコイツの性格じゃ酷ってもんか。
誰か騙すか唆すなど、ペランドーには似合わない。
そうペランドーを内心で評していたら――。
「お邪魔させてもらう! 相談があるんだっ! ザルガラ君!」
「センパイ、風が入ってくるからドア閉めて」
アジトのドアを開け放ち、上半身裸のイシャンが踊り込んできた。
「……なぜだろう。帰れって言われるより冷たい隙間風のような辛辣さがある……」
イシャンは寒そうな背中を見せてドアを閉めた。
「というか、イシャン先輩。なんでオレたちのアジトを知ってるんだ?」
「ああ、アザナくんから聞いてな」
「アザナのヤツめ……どさくさでアジトを探しあてただけでなく、言い広めやがって」
「……秘密のアジトじゃなくなっちゃったね」
アジトがだんだん知れ渡っていることを悲しく思い、ペランドーが残念そうな目をして言った。
「さて、ザルガラ君。ペランドー君も良かったら聞いてくれ。実はちょっと君たちに個人的な相談事があってね」
「ほう……」
相談を持ち込まれるほどになったかぁ、このオレも……。
これはもうイシャンが裸だからと準友人に配してはいかんな。
まずはイシャンを椅子に座らせて、話を聞くことにした。
「で、相談って……どんな問題があったんだ?」
オレが問うと、イシャンは自分の身体を抱くような仕草をして見せ、額を押さえた。
そして仰々しく言う。
「脱ぐか、死か。それが問題だ」
「いや今、脱いでるじゃねーか」
オレが上半身を指差して突っ込むと、イシャンは違うのだと髪を振り乱して叫ぶ。
「すでに決死の覚悟だ! これでも羞恥心で死にそうなのだ!」
なに!
死ぬ覚悟で脱いでるだと! あのイシャンが?
なかなか事は重大そうだ。――イシャンにとっては、だがな。
こうして膝を突き詰め、イシャンの相談に乗る事にした。
「とりあえず使い捨て衣服とかどうだ? 脱ぎたくなって我慢できなくなったら、使い捨てなら脱ぎ棄ててしまって構わないだろう?」
「それはあまりに資源の無駄だろう。贅沢な全裸だ。というか、地味に服を着せようとしてないかね、ザルガラくん?」
「全裸なのに贅沢とか哲学だな」
ち、バレたか。ちょっと提案が雑すぎたな。
「ああ、そうだ。あれだ。ザルガラくん、アレを教えてくれないか?」
なにか思い出したのか、イシャンを手を叩いて要求してくる。
「あれって?」
「モザイクだったかな? アザナくんがモザイクと言ってたあれだ」
「モザ……? ああ、【ガラスと光のレンガ職人】か」
オレはモザイクというアザナの表現を思い出し、その魔法をイシャンに教えた。
優秀なイシャンは、新式の立方体陣をじっくりと見る。そして立方体陣の中に描かれている術式を、すぐに解読して会得した。
「ふむ、複雑かと思ったら術式を重ねて繰り返しているだけなのだな……よし、使ってみよう。【ガラスと光のレンガ職人】」
模倣された立方体陣が投影され、魔力が注ぎ込まれるとすぐさま魔法が発動した。
「おお! うまくいった!」
イシャンの身体が光のモザイクに包まれ、どこから見てもなんだかわからないモザモザな感じになった。
「これはこれで凄いけど、これで街を出歩くのも凄いね」
ペランドーの適確な表現に、オレは無言で肯くほかない。
「そうそう! これこれ! ひゃっはーっ、全裸だぜーっ! これだ、これなら羞恥心を感じずに脱げる!」
モザイクと呼ばれる光のブロックから、イシャンのパンツとズボンが投げ捨てられた。
ん?
いま、パンツが先に出てこなかったか?
貴族らしからぬことに、山賊のような舌を出す下品な笑顔をし、モザイクの向こうで踊りながら要求してくるイシャン。
「これでリハビリテーションを続ければ、またいずれ人前で脱ぐこともできるようになるだろう! ありがとう! ザルガラくん」
「あー、うん。気をつけて帰ってくださいな」
よほどうれしいのかイシャンは、アジトの階段を駆け下りて曇天の外へと飛び出していった。ちょっと心配になったので、窓からイシャンの狂乱する様子を眺めていたら、どこからともなく白馬が蹄を高鳴らして駆けてきた。
「ひゃっはーっ!! ここまま街へ繰り出し、ごぼぉーーーっ!!」
アジトの通信塔の玄関から飛び出してイシャンに、その駆ける白馬が激突した。
「きゃぁっ!」
鞍どころか鐙すらないその裸馬の背に、旅姿のフモセが乗っていた。
激突の衝撃で振り落とされないように、白馬の首に必死に抱き付いている。
嘶く白馬。
なんでここにフモセが?
アザナが近くにいるのか?
「あ、あの馬、角がある?」
ペランドーが指し示す馬をよく見ると、確かにあの白馬……角があるぞ?
「まさか……一角獣?」
「すごい! み、見に行こうよ! ザルガラくん」
「おお、そうだな」
本物のユニコーンか確認するため、オレとペランドーは塔から降りて外に出た。イシャンを心配してないが、まあアイツくらいになると常に魔法で身を守ってるから大丈夫だろう。
オレたちがイシャンに駆け寄ろうとしたその時、光の粒子をまき散らして、颯爽とアザナが空を飛んできた。
「大丈夫ですか?」
アザナは白馬に乗ったフモセを追ってきたのだろう。
倒れるイシャンを見つけて、アザナが治療を始めようとして……。
「やだっ! なんでまたイシャン先輩は全裸なんですか! しかもモザイクでっ! わあ、撥ねられた後ってこともあって、なんだかオグリッシュなものを隠すテレビ映像みたいだ」
「テレビとかオグリッシュってのが何のことかわからんが、イシャンが全裸なのはいつものことだろう……」
「まあ、そうなんですけどね。あ、こんにちは、ザルガラ先輩」
「おう、ところでこれは……」
挨拶もほどほどに、フモセの乗る白馬について訊ねようとしたら、その白馬が嘶きと共に強い思念波を送って来た。
『おかしい……。ここにはとりわけ清らかなロイヤル溢れる乙女な気配がするのに、こんな醜いものが!』
ユニコーンの乙女の気配発言を聞いて、首を捻りながらペランドーが周囲を見回す。
「男しかいないよ、ユニコーンさん」
『なんてことだぁっ! 今、ここにいる娘は背のフモセだけかっ!』
男ばかりだと嘆くユニコーン。
このユニコーンってヤツは、どういうわけか清らかな乙女に惹かれて、ふらふら迷い出るっていうが……どうやらその伝説は本当のようだ。
家柄的に、さまざまな魔獣に詳しいイシャンはぶっ倒れてる。仕方なくアザナにユニコーンの事を聞くことにした。
「なあ、アザナ。このユニコーンなんだ? あとなんでここにいる?」
「ええ、大した話ではないのですが、ウニウニがですね……」
「待て。ウニウニってなんだ?」
『我の事だ』
ユニコーンが自分の名前だと念話で言った。
「ネーミング拒否していいんだぜ、ユニコーンの旦那」
『ウニウニ。いい名だ……』
うっとりとした口調でユニコーンが、与えられた微妙な名を褒めた。
しょせんは有蹄類か。センス悪いな。
「ウニウニはね、お父さんの知り合いのポーヤ卿のところにいてね。いろいろあって仲良くなったんです」
「はぁ、まったくオマエってヤツはビックリ箱だな」
どういう事情でどういう経緯があったか省かれてるが、おおかたアザナのことだ。
いつの間にかユニコーンを懐柔したのだろう?
あれ?
ユニコーンって乙女以外には懐かないんじゃ……?
「それでボクの実家に帰る前に、ちょっとエンディアの屋敷に立ち寄ったら、このあたりに来たらとても清らかな乙女の気配がするって、勝手にこっちに走って来たんです」
「そうか、それを追いかけてきたってわけな」
もしかしたらユニコーンのヤツは、フモセに懐いたのかもしれない。
『まったく。アザナには騙された。乙女の誘いと思ってついてきてみれば、今は男などと……』
「あははー」
ユニコーンの愚痴を、アザナが笑って誤魔化した。
もしかしてこのユニコーン……、アザナを女だと思ったのか?
ユニコーンには精神感応があると聞くが、気がつかなかったのだろうか?
もしかしたら、アザナがユニコーンをおびき寄せるため、なにか魔法で偽装したのかもしれないな。
しょせん、有蹄類か。
『このあたりからロイヤルな乙女の気配が漂ってきたと思って、急いできたというのに……。とんだ無駄足だった。ええい、乙女分を補充せねばっ!』
ユニコーンはそう言って、背から降りたばかりのフモセの尻に頬を撫でつける。
「いやー、や、止めてッ! や、やだぁ……」
スカートを捲られ、白いパンツの上から執拗に尻を撫でられるフモセ。
必死にスカートを抑えるが、ユニコーンのデカい顔はすでにパンツに接触しているのであまり意味はない。
ペランドーは視線を逸らしてるが、そっちはイシャンが倒れてるぞ……。大丈夫か?
しかし、あの変なユニコーンの言うロイヤルな乙女とは?
もしかして――と、ロイヤルな乙女の意に思い当たったオレは、肩の上にふわふわ浮かぶディータを見上げた。
眼前で赤いドレスがひらひらとし、覗く滑らかな華奢な足が目に悪い。
『……私のこと?』
ディータが高度を下げ、オレの肩に顎を載せて尋ねた。
ロイヤルって言うんだから、たぶんそうだろうな。
いかに精神感応に優れる幻獣ユニコーンでも、高次元な存在であるディータを感じることはできるが、見ることはできないようだ。
『乗馬でな、すりすりクンカクンカ……。硬くなった尻はな、クンカクンカ、こう、ホガホガ、揉みほぐさなくてはな、いかんのでな、ああ~乙女の香りじゃぁ~』
「や……やだぁ、もうっ……」
変態馬から逃れようと、泣きながらあちこちを逃げ回るフモセ。だが相手が悪い。
ぴったりとユニコーンに貼りつかれ、尻を徹底的に撫でまわされている。
「おい、なんだこの変態馬。助けてやれよ、オマエのとこの使用人だろ?」
「ボクも困ってるんですよー。強く怒れないの良い事に、ここに来るまでボクも何度、撫でられて……」
頬を赤らめ、尻を撫でられたことを告白するアザナ。
「な、なにっ!? ア、アザナのし、尻をだと? この有蹄類、ふざけやがってぇっ!」
このうまけしからん!
いくら勘違いしていたとはいえ、男の尻を撫でるとかどういうことだっ、この奇蹄目ッ!?
オレが怒りを露わにすると、涙目で頬を赤く染めたアザナが困ったように訴えた。
「油断すると胸も揉んでくるんですよ、ウニウニって」
さらにおっぱい、ぷるんぷるんだと!?
ちくしょう! チクショウッ! この畜生めっ!
「た、助けてくださいよー、アザナ様ぁ~」
『逃げるな、こら。もっとよく揉ませんかっ! おお、パンツが捲れて地肌と感触の差ががまた……』
精神感応で先手先手を取るユニコーンに敵わず、フモセがどんどんとマズいことになっていく。
「さすがにそろそろ止めたほうがいいんじゃないか?」
「え……だって、止めると変なことしてくるんだもん。ウニウニって」
「オマエのペットと女だろうが……」
なんか怒りがどこかへ霧散してしまう……。脱力系だな、あの奇蹄目。
「……何しにきたんだ、このバカ奇蹄目」
呆れるオレに気が付いたのか、ギンッとガンを飛ばしてくるユニコーン。
この隙に解放されたフモセは、アザナに泣きついた。
『ロイヤルな乙女の尻を撫でにきたのだ!』
「……ひでぇユニコーンもいたものだ」
『しかし残念ながらいなかったがなっ! さあ、フモセよ。もっと撫でさせろ!』
「おいおい、止めてやれ。つか帰れよ、もう!」
アザナもフモセも怯えているので、オレが間に割って入る。
『そこをどけ、人間のオスめ!』
やはりコイツは、男が嫌いなのだろう。
ユニコーンはオレに鋭い角と目を向けてくる。
「そろそろ勘弁してやれ。フモセのヤツが嫁に行けなくなっちまう」
『ならばロイヤルな乙女に高鳴ったこの気持ち! どうすればいい!』
「……あー、えっと。興味ないが念のため聞くぞ、奇蹄目。ロイヤルな乙女がいたら何をするつもりだ?」
『決まっているっ!』
ガバっと前足で地面を蹴り、雄々しく挑みかかるポーズを取るユニコーン。
『撫でたりクンカクンカしたり、撫でたりクンカクンカしたりするんじゃぁっ!』
「幻獣改め害獣だろ、コレ」
ちょっとカッコイイポーズで、そういうこと言うな、奇蹄目。
オレの侮蔑が聞こえていないのか、ユニコーンは陶酔するかのような念話で語りだす。
『まずはロイヤルな乙女の尻を背にし、重みと柔らかさを堪能したのちは、乗り疲れて硬くなったその尻を、降り立ったところでナデナデして揉みほぐす……。どれだけ大切なことか、どんなにすばらしい事か。フッ……人間のオスにはわからんだろう……な、ん? ば、バカな!」
理解も同意もできない変態発言を重ねていたユニコーンが、オレにガンを飛ばして嘶き叫ぶ。
『ひひーんっ! ありえん! このトカゲの親分みたいな少年から、ロイヤルで清らかな乙女の気配がする!』
「トカ……おい、ちょっと傷ついたぞ、奇蹄目の親分」
『なぜだっ! リザードマンのお、おぬし、……じつはその姿で女ということはないか?』
「ねーよ。それからリザードマンとか言い直して、さらに心清らかとかいうな、奇蹄目!」
失礼かつ心外この上ないな。
『信じられん……しかし、乙女の気配は……たしかにある……だが……うう~む、気が進まんが、己が直観を信じてみて、一度尻を撫でれば判然とするか? 不本意だが、ちょっと撫でさせろ!』
「オレも不本意だから、オマエも直観を信じるな、見たままを信じろよ、変態奇蹄目っ!」
尻を抑え、たじろぐオレ。このオレがビビって後ずさりするとは……手ごわいな……、このユニコーン!
なにげに、アザナもペランドーもオレから離れている。は、薄情なヤツらだ!
『ロイヤルな乙女ェ……』
鼻息荒く近寄ってくるユニコーン……。
キモイし怖い。
「くるなっ! 近寄ったら殴るぞ、奇蹄目!」
『ふふふ、できるかな?』
「ああ、やってやるぜ! まっすぐ行ってぶっ飛ばす!」
まっすぐ行ってぶっ飛ばす!!
『ばかめっ! 精神感応を持つわたしにそんな単純な攻撃が、ぶぅっらっああぁぁぁぁっ!』
一歩も動かないオレの右手が、ユニコーンの眼前に突如現れて鼻っぷしにめり込む!
拳には防具を兼ねて平面陣を貼り付けあるので、まあまあのダメージがユニコーンに与えられただろう。
『ぐぐぐ……な、なんだその手はっ!?』
首を振って、めまいから回復しようとするユニコーン。
「ふふん、オレの右手は特別製でね」
変態有蹄類を蔑む目で見下し、高次元を通して右手を引き戻す。
確かにまっすぐ走って殴ったら、心を読まれてるオレの攻撃は避けられただろう。【王者の行進】で突撃したって、瞬間転移されるのがオチだ。
だが、オレの右手は高次元を移動する特殊な力を持っている。
まっすぐオレ自身が移動して、殴ってくるだろうと思ったユニコーンにとっては、想像だにできない奇襲攻撃である。
『こうなったら、お前から漂うロイヤルな乙女の気配……何としてでも尻を撫でまわしまくって、この鼻と頬で確認してやろうっ!』
「おい、やめろ!」
なんだコイツッ!
今までで、一番オレに実害がある変態だぞ!
本気でやりあうと、いろいろ面倒な相手だ、ユニコーンってヤツは。
特に読心に近い精神感応。次に短距離瞬間転移。
この2つだけで、コッチは後手に回らざる得ない。
『ふぉおおおおおおおおおっ! ぶひひひーーーんっ!!』
警戒しオレが尻込みしているいたら、突然と興奮し始めたユニコーン。
何事かと思ってよく見れば、いつの間にかユニコーンの背の上で、タルピーがゆったりとした踊りを舞っていた。
『お、おおー。なんか情熱的な乙女の心を背に感じる』
興奮するユニコーンの背で、いい場所を見つけたとばかりに、唯我独尊で縦横無尽な踊りを披露するタルピー。
『お、おふう~……。な、なんだ? この乙女の尻を背に乗せるのとはまた違う、背徳的なリズム衝撃……。まるで乙女が背の上で踊っているかのようだぁ……』
実際に踊ってるんだけどな。
「よし、踊れ踊れタルピー」
『はーい! くるくるくるる~~!』
囃し立てると、タルピーは喜んで踊りの回転を速めた。
『ぶひひんっ! これはまさに背中で乙女Dance朝までfeverだぁっ!』
「なあおい、アザナ」
なにやら満足げなユニコーンを指差し、オレのところへ戻って来たアザナに訊ねる。
「……コレで、いいのかな?」
「当人が満足ならいいことだ」
目を細め、アザナは鷹揚に頷いて言った。
ウニウニはメスです。
まさかのここでガールズラブタグ回収。
信じて送り出したユニコがあっという間に変態メンバー入りです。