シックスシリンダー (挿絵アリ)
ついにアザナの(一部)秘密が明かされます!
エウクレイデス王国南西部。
冷たい風が吹き抜けるヒューリステクス平原。
良質な水源の乏しさに加え、交通が不便であるため迂回されることが多く、草原や森の開拓が進まず、人よりムジナの方が多いと言われるような辺鄙な場所である。
如何に大陸の中央に位置し、大国と名を馳せようとも、その土地の全てが等しく発展しているわけではない。
やはりある程度の格差が存在していた。
見渡す限り何もない。そう表現しても問題にならない平原を、のんびりと3頭の馬が進む。
騎乗しているのはアザナと、フモセ。それに護衛の騎士が1人。
アザナは草の香りを嗅ぎながら、馬上でぐるりと周囲を見回した。
この辺り一帯は、ポーヤ領の名産馬の放牧地となっている。遠くには馬の親子と見守る馬主の姿が見えた。
「あー、馬さんもやっぱりこういう草を食べた方が元気になるのかなぁ。うちの馬も草を食べさせたほうがよいのでしょうか?」
「そうでもないらしいですよ」
フモセが草を食む馬の親子を見て言ったが、アザナが否定した。
「飼い葉の方が少し発酵してるから乳酸菌もあって、整腸作用があるし、それがタンパク源となって筋力も上がるんです」
「にゅーさん? せいちょう?」
「こうして放牧するのは運動のためですね。夜は飼い葉をよく食べるようになるし、子供の馬も運動能力が上がります。カウボーイとかあの北軍とかも、生まれて間もない仔馬でも、将来は優秀な軍馬とするために、母馬の様子次第で行軍に連れ歩いたというくらいですから」
「かうぼーい? ほくぐん? ああ……はあ、そうですか。なるほどですね。優秀な馬には高い飼い葉と、広い土地がいるんですね?」
アザナのもたらす情報の一部に、よくわからない単語が混ざるなど日常茶飯事だ。必要な情報だけを掻い摘んで、フモセは納得してみせた。
説明を終えたアザナは、駆け出しては止まるという馬の親子を優しい笑顔で眺めていた。
「ここは……ボクの生まれ故郷を思い出しますね」
目を細め、遠いどこかを見る様子でアザナは感想を現した。
「……? ソーハ領にこんな広い放牧地などありませんが?」
一考したのち、フモセが首を傾げてアザナに訊いた。
ソーハの生まれた地は、領民全て合わせて2000人に及ばない。しかしながら山や岩の目立つ土地であり、同じ田舎ながら、このポーヤ領は似ても似つかない。
「ああ、そっか……。ええっと、そうじゃなくて、のどかな雰囲気が……ってことだよ」
「はい、確かにこの静かな光景は……似てますね」
言い訳のようにも聞こえたが、フモセは問い詰めるようなことはしない。
「はっはっはっ。坊ちゃまは、久しく王都の賑やかさに当てられてるからな。そのお気持ちも分からんでもないですよ」
護衛の騎士セタ・ライナーが、鋼の兜の中で声をこもらせ笑った。
セタはソーハ家の貴重な騎士である。なにしろ領地は勿論、家として小さい。多少、経済的に豊かになったとはいえ、召し抱える家臣はまだ少ない。
騎士を召し抱えるどころか、使用人の数すら絞っている。
彼はソーハ家にいる3人の騎士の1人だ。
セタは兜の面を跳ね上げ、鼻の上に真一文字に走る傷のある厳つい顔を見せた。騎士というより、歴戦の傭兵といった容貌である。
体格にも恵まれ、槍の技量も高く、アザナたち子供を守るにあたっては、ソーハ家でもっとも信頼できる騎士だ。
「そういえば、ポーヤ領は王国でも有数の名馬の産地。私も1頭、よい馬を買いたいものです。ふはははっ! 今回の謝礼に貰えませんかなぁっ!」
「無茶を言いますね、セタさん」
ソーハ家の台所事情を知るフモセは、セタの軽口に呆れ顔で返答した。
「そうか、無茶か! ふははははっ!! おおっと、こいつも怒っているな!」
セタの乗る馬が、自分に不満かと首を振って歯をむき出した。落ち着いてセタは手綱を緩めた後、改めて引き絞った。
「……あ、見えてきましたよ」
遠目の効くフモセが、遠く――平原の向こうを指差した。アザナとセタは手を頭上に翳し、フモセの差す方向に目を凝らす。
いつまで続くかと思われた平原に、小さな街があった。
「もう一息ですなぁ……。馬にはまだ余裕もありますし、足を速めましょう」
セタが先導し、アザナ一行は目的へと急いだ。
湯が冷めるほどの時間を経て、アザナたちは平原にぽつんと立つ街へと辿り着いた。
ヒューリステクス平原ポーヤ領ジョルジュの街。
背に深い森、三方に広大な平原を囲まれた寂しい街だ。
立ち並ぶ家々は低く小さい。砦を兼ねた屋敷こそ大きいものの、それが外に見えてしまうほど、街の作りが薄い。
申し訳程度の空堀と丸太柵に囲まれた街の門は、見張り台すらない冠木門である。向こう側に街がなければ、関所かと思えてしまうほど簡素だ。
「どちらの方かぁ?」
丸太柵に設けられた覗き窓から、門番がアザナ一行に問いかけた。
「こちらはソーハ家の長子アザナ。エッジファセット公の紹介にて、ポーヤ卿に招かれ参りました!」
「……伺っております。ようこそおいでくださいましたぁっ!」
アザナが名乗りをあげ、門番は何やら向こうで確認を取ってから関門の準備を始めた。
簡素な冠木門といえども、柱と門の厚みは相応にある。ギギ……と重くきしむ音を立てて、門が開け放たれた。
招かれ門を潜ると、平屋の木造家屋が点々と建つ街が広がっていた。
広いが薄い。
そんな感想をアザナたち3人は抱いた。
アザナは馬から降り、歩きながら街並みを良く眺めた。
木々の組み合わせで建てられる独特の家屋が、広い道を確保するように立ち並んでいる。
「この街並みと家の工法……。イズバみたいだなぁ……」
アザナが立ち並ぶ家々を見て、そんな事をいった。
「え? イズバ? ですか。それはいったい……」
「いやぁ、よくいらしてくれた。アザナ殿! あのアザナ殿が、まあ大きくなりましたなぁ。ソーハ卿は息災かな?」
イズバとは何か? と、フモセが問おうとしたが、アザナたちを出迎える者がいたためそれは中断された。
わざわざアザナを出迎えのは、領主ジョー・ポーヤ男爵だった。
ポーヤ男爵のトレードマークは口髭である。
左右にピンッ張った口髭の長さは、肩幅より飛びでている。まるで大型魚の尾びれが鼻の下についているかのようなシルエットであった。
「ナガオカ・ガイシだ……」
アザナはポーヤ男爵の口髭をみて、そんな言葉を溢した。フモセは、またかとそれを聞き流す。アザナは何か珍しい物を見ると、よくわからない表現や命名をする。
ポーヤ卿の前ということもあり、フモセとセタは謎発言を問い質さず礼に尽くした。
ジョー・ポーヤ卿はアザナの父と親しい。男爵はアザナが幼いころにソーハ領を訪れたことあり、その折に挨拶して一緒に馬に乗った程度の交流があった。
ポーヤ卿はアザナが大きくなったことを喜び、アザナはポーヤ卿の口髭が左右に長く伸びたことに驚いた。
「馬に乗ると、プロペラみたいに回りそう……」
髭を見ながら、そんな感想がアザナの口から洩れた。
「プロペラ?」
ポーヤ卿は単語の意味が分からず首を捻る。
「いえ、なんでもないです」
ポーヤ卿の疑問にアザナは笑顔で誤魔化した。
「まあ驚かれるの無理もない。この髭を見ましたら、どなたでもどうやって兜を被るのかと疑問に思うでしょう」
いや、そこじゃねーよ。と、アザナたちは思ったが口には出さない。
訝しがる3人を横目に、ポーヤ卿は家臣から差し出された兜を受け取ってわざわざかぶって見せた。
「兜の横から、これが……こう……出るようになっておりましてな」
一度はへにゃっと下に曲がった髭だったが、面当てを上げて頬から口髭を取り出して、横へと伸ばし整える。
そして面当てを降ろす。ちょうど髭が出るように半円の穴が、面当ての両側に開けられていた。ポーヤ卿は兜から飛び出す自慢の髭を撫でて見せた。
「……発掘ロボみたいだ」
アザナの小さな感想は、誰にも理解できなかった。
* * *
「やはりボクが呼ばれた理由は、蛍遊魔ですか」
ジョルジュ屋敷の応接間で、ポーヤ卿の説明を受けてアザナは静かに頷き言った。
「はい。エッジファセット公からお話を伺った時は、まさかアザナ殿が勇者だとは……」
「ボクは勇者みたいなモノですけどね」
アザナは謙遜するような事をいって、冷めかけたお茶に口を付けた。
勇者とは、古来種が作った統治システムの副産物である。
上位種と同じほど力を与えられながらも、管理するためではなく駆逐することを目的とした力が与えられている。
はるか昔、古来種は大陸のほとんどの生物を支配下に置いた。
いにしえの魔物や強大な魔物といえど、ほとんどの存在が古来種の支配下となった時代である。
現在では弱まったとはいえ、古来種の制御が残っており、ほとんどが遺跡の警備などに従事している。
オークやコボルト、ゴブリンといった亜人系魔物も、その影響下にある。
彼らは遺跡の周辺警戒として責を与えられ、未だに遺跡の周りに住む習性を持っている。
古来種の制御は絶対であり、遺跡から離れようなどと彼らは思わない。
絶対に‥‥絶対に、である。
だから村を襲う魔物などはいない。
古来種の制御を受けている限りは、だ。
例外的になんらかの理由で、古来種による隷属化を逃れた魔物がいた。
それは大陸最西の霊峰に住む古竜のように、『強かった』からという単純な理由もあれば、大敵者のように、地下深くなどたまたま目の届かない土地に住んでいたから、などという特殊な事情からであるだ。
ゴブリンなどありふれて矮小な存在でも、先祖が辺鄙なところに住んでいて、見つからなかった故に隷属を間逃れたなどの偶然もある。
古来種にとって、まつろわぬ者たち。
それが蛍遊魔である。
勇者とは蛍遊魔を駆逐するため、古来種が作った上位種である。
「それでボクが呼ばれるほどとなると、相当なことかと思いますが」
いくら蛍遊魔であろうと、ゴブリンや巨人程度ならばポーヤ卿の兵力でも駆逐できるはずである。
それができず、貴族の義務を果たせずに勇者――もどきに力を借りるなど、異常なことであった。
「ええ……それが……」
ポーヤ卿の立派なプロペラ髭が、アザナの目には心なしか下がったように見えた。
「相手はユニコーンです」
一角獣と聞いて、アザナたちは三様の反応を示した。
アザナは好奇心の目で驚き、フモセは物珍しさから驚き、セタはまさかという驚きだ。
魔物というより幻獣であるユニコーンは、瞬間転移や精神感応の能力を持つ。
敵意を察し、瞬間移動で逃げる。この連携行動が出来るため、捕まえるどころか目撃することすら難しい。
だが、そんなユニコーンには困った性質がある。
心清らかな乙女に弱い。
ふらふらと乙女に惹かれ、骨抜きになってしまう。
問題の相手が、馬なのに困った性癖を持つユニコーンと告げられ、流石のアザナも少し困った様子を見せた。
「ご存知の通り、ここヒューリステクスは馬の産地。大陸でも有数の駒場です。あのユニコーンは野生馬を従え、時には放牧馬まで群れに加えて森へと去ってしまうのです」
野生馬を捕まえることが難しくなるだけならまだしも、放牧していた馬まで連れていかれては堪ったものではない。
「ユニコーンかぁ。力技の通じない相手じゃ仕方ないね」
ポーヤ男爵領が如何に貧しいとしても、多少は強い蛍遊魔が現れても討伐できるだろう。
事実、ポーヤ騎兵団といえば、山岳騎兵に短弓騎兵と軽騎兵まで一中隊づつ、合わせて大隊規模で揃えていた。
これは有事の数字とはいえ、領地の規模からすれば過分な兵力だ。
騎兵団は騎士たちだけでなく、土地の馬乗り名手を予備下士官として取りたて部隊に組み込んでいる。
だが、この強靭な騎馬兵たちも、ユニコーン相手では分が悪い。
ユニコーンは一般的に孤独を好むというが、その姿と力に野生の馬は庇護を求めようとする。飼い馬であっても、ふらふらとついて行ってしまうころもあるという。
「たとえユニコーンでもご安心を! アザナ様は勇者なのですから!」
「ボクはもどき、ですよ」
フモセに褒めたたえられた勇者の顔が沈む。
「……まあ、なんとかなるかな? なんたって、今は赤い月だからね」
意味深長に言うアザナを見て、ポーヤは訝しがる。
「赤の月……まあ、確かに攻撃魔法は強力となりますが……」
「大丈夫ですよ、ポーヤ卿。今のボクなら!」
自信たっぷりなアザナの宣言を受け、ポーヤ男爵は「勇者とはそういうものなのだろう」と自分を納得させた。
* * *
「では私はここでお待ちしております」
騎士セタは、アザナとフモセの馬を預かって、森の入り口で待つこととなった。
馬がユニコーンに誘引されては、大事なソーハ家財産が目減りするため見張る必要があるからだ。
そして何より、セタは男である。
「じゃあ、行ってくるねー」
「よろしくお願いします」
アザナは元気に手を振り、フモセは軽く頭を下げてから森の奥へと進んでいった。
「ところでアザナ様。どうやってユニコーンを探すおつもりですか?」
林道から逸れて獣道を進みながら、フモセは先行するアザナに訊ねた。
「うーん。美しい乙女がいれば、ユニコーンはあっちからやってくるっていうし……。森の奥にさえいけばフモセがいるから待ってればいいのかもしれないけど」
「わ、わたしなんてとても! それより今のアザナ様のほうが、とってもきれいです!!」
美しい乙女と表現され、フモセは喜びながらアザナに称賛を返した。
「きゃーっ……なに言ってるのわたしー……」
とってもきれいと口走ってしまい、フモセは小さくなって赤くなった頬を押さえた。
「はいはい、ありがとう。置いていっちゃうよー」
慣れているのか、フモセをなんとも思っていないのか、アザナは称賛を気にすることなく、灌木を魔法で払いながら森の奥へと進んでいく。
残されまいとフモセは慌ててアザナを追った。
こうして2人は深い森を抜け、小さな泉のある広場にへと出た。
「へえ、幻想的だなぁ」
「人里近い裏森なのに、神秘的ですね」
広場に張り出す木漏れ日が降り、下草の上でモザイク状に踊っている。泉の水面でも、その光は妖精と見間違えてしまうほど、美しい踊りを披露していた。
「やあ、これは立派な姿だ」
光の踊りに見とれていたフモセに対し、アザナは振り向いて森の中に視線を飛ばしてそう言った。
フモセが異変に気が付き振り向くと、アザナの眺める方向に白い馬がいた。
ただの白馬ではない。
長く雄々しい一本角が額から伸び、見慣れた馬より二回りは逞しい体躯の白い馬。
ユニコーンだ。
自然と灌木と草が、白いユニコーンの歩みから畏れるように身を下げる。
広場に歩み出たユニコーンはアザナと対峙し、いつでもその角で突き殺すぞ、と言いたげな荒々しい鼻息を立てた。
『その姿……その力……。勇者か……』
アザナとフモセの脳内に、どこからかともなく魔法の声が響いた。
「これが……ユニコーンの精神感応!」
驚くフモセを下がらせ、アザナは一歩前に出る。
もう一歩、どちらかが前に出れば、アザナはユニコーンの角で刺し貫かれてしまう距離だ。
「ボクは勇者のつもりなんてないよ」
眼前の角ではなく、ユニコーンの瞳を見て、アザナは穏やかに言って見せた。
『勇者は古き支配者たちによって、そのように作られ、そのように操られているというではないか。あの支配下に下った魔物たちのように、定められた役割を演じる者であろう?』
「古来種の制御は受けてませんよ、ボク」
角の前で両手を上げ、否定してみせるアザナ。
余裕あふれる勇者を見下し、角を上に逸らせてユニコーンは嘶く。それは笑っているようにも見えた。
『……なにを馬鹿な』
ユニコーンは否定してみせたが、どこかで否定しきれないという声色で言った。
精神感応でも見抜けない何かが、目の前の勇者にある。ユニコーンは乙女の香りに対する欲望と、勇者の秘密に対して抱く好奇心を隠せない。
アザナはユニコーンの顎に向かって手を伸ばす。
まだ早い、とユニコーンは頭を逸らした。
ユニコーンのそんな仕草を見てアザナは小さく微笑み、すべてを語り始めた。
「確かに目が覚めた時、古来種に従えという声が聞こえてきた。あの声に従っていたら、きっと古来種にとって都合のいい勇者……。駆逐者になっていたと思う」
アザナの告白に、ユニコーンは好奇の耳を傾けた。
静かに聞く一角獣に向け、アザナは静かに真実を告げる。
「ボクを支配するには……、いや、ボクたち6人を支配するには、例え古来種の魔法でも、1人分相手の制御魔法じゃ足りなかったようだよ」
『1人分? 6人? おぬしは……』
「ボクはロシアンルーレットで生まれてきたんだ」
側頭部付近で、自らの人差し指を曲げて見る仕草。
およそこの世界にいる誰もが理解できないジェスチャーを、アザナはユニコーンの前でやって見せた。
『ロ、ロシアン?』
言葉もジェスチャーを理解できず、驚きの念話を発した。
「ボクは……、前世のボクは、極自然に生まれてきた存在じゃない。その世界の叡智を結集して設計され、それでありながら下手な数打ちをして6人の胎児となり、母体の安全を取って5人は邪魔とされて潰され、胎内でたまたま残った最後の1人。それがボクだ」
告白を聞いて、ユニコーンは精神感応がアザナに浸透していく感覚を得る。
理解しがたいこの説明が、アザナの中にある「秘密」を紐解くカギとなった。
『1人ではない、6人であり、そして作られた不自然な存在なのか!?』
「そう。ボクは他の5人から羨まれ、妬まれ、憑りつかれながらも守られて、今もこうしてこの場に生きている。キミの精神感応なら分かるはずだ。ボクがどういう存在か、を」
ユニコーンのつぶらな瞳が、アザナを真正面から見据える。
その視界がふらつく。
安定的な四足のユニコーンが、足をふらつかせ、真正面からアザナを見据えることができない。
「ねえ、ユニコーンさん。別にこの地を離れろとは言わない。出来たらボクについてこない? キミたち古来種の支配を逃れた者たちの隠れ里があるんだ。そこに案内するよ」
ユニコーンはアザナを理解して、屈服するほかなかった。
アザナの力は早々から優れていると悟っていたが、のちに得た秘密は単純な力とは比べものならない圧力を持っていた。
もう従わざるを得ない。
逆らっても駆逐してくることは無いだろうが、不利益を与えてくるのは間違いない。この地から追い出すか、力を奪うか、アザナは何らかの処置をしてくるだろう。
だが、アザナの提案を受け入れ、少しの不自由を甘受すれば、それほど悪いようにはされない。
精神感応力の高いユニコーンは、それを感じることができた。
それでも理解の及ばぬ何かがある。
アザナの精神はこの世界の範疇ではない。古来種とは違う、異種のなにかを持っている。
『……お、お前は何者……何者なのだ? 勇者ではないなら、なんと……』
従う前に、ユニコーンはそれが何かを確認したかった。
「ボクは自然に逆らって生まれて、文明に逆らって死んで、宇宙に逆らってこの世界で生まれ変わった。6つの魂を持つ者」
アザナは嗤う。
「勇者もどきをやっている正義の味方で、時々小悪魔。本性悪魔。蛍遊魔の駆逐者ではなく、旧世界の破壊者――」
アザナ「6つの魂を持つ者! シックスシリンダー!」
ザルガラ「中二病か?」
シュテン「お~、酒の名前かのぉ」
アザナ、ザルガラ「ダレ? あんた?」




