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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第4章 エルフとドワーフ
102/373

暗躍、大失敗(7日ぶり、3度目)

本日は二話投稿しています。

前回は11:00時に投稿しましたので、読み飛ばしにご注意ください。

 ラルゴゲイ・タ・サスピ子爵は、事が上手く回らずにイライラとしていた。

 騎士団としての仕事も切り上げ、屋敷に帰ると使用人に傅かれる中を苛立たしく廊下を闊歩した。

 宮殿の着替えの間を模した【鋏の部屋】に入り、使用人に外衣を脱がされながら、サスピは堪らず怒号の独り言を放った。


「ええい! 平民のまとめ役風情の巡回局めがっ! 白柄組を釈放せよなどと、毎日毎日忌々しい!」

 サスピ子爵は真犯人を知っている分、さらに巡回局が忌々しく思えた。思い通りにならない相手が、思わぬ行動で邪魔をする。

 許せないと不機嫌を振り撒く主人の姿に、使用人は涼しい顔をしているが内心はひやひやとしていた。

 苛立ちじっとしていないサスピから、サーコートを鎧で傷つけぬよう脱がす使用人の技は流石の一言である。


「まさか自分のところの部下を犯人に仕立て上げるとは!」

 しかも主計を専任する十人隊長クラスである。そこらの犯罪者は平民ではない。

 確かにグッドスタインは協力者だ。

 サスピは「仕立て上げる」と言っているが、犯人というのもあながち間違いではない。


 白柄組が放火に使った証拠の発火装置として、軍用の可燃物をグッドスタインに偽証拠として用意させた。

 その用意させた発火装置そのものを、自宅に置いたままグッドスタインは自首をした。

 しかもご丁寧に、白柄組に冤罪を被せるため、第二騎士団がつかまされた偽証拠は「偽物」であった。可燃物は軍用のそれではなく、工業用のアルコールだった。

 白柄組が「川港の荷を預かっていた」と言い訳すれば、通ってしまう程度のありふれたものである。

 まったく証拠にならない。


「下っ端とはいえ内部の人間を、犯人にするなど悪辣にもほどがある!」

 冤罪を被せるという悪事をしているサスピが、巡回局を差して悪辣などと称するなど笑いごとのようだが、彼からすれば自分に都合に悪いことは皆卑怯で、悪辣で、生意気で、不遜で、不埒! ――なのである。


 しかし困った事に、グッドスタインは実際に共犯者であり、あながち巡回局のでっちあげでもない。

 重ねてグッドスタインは孤児院の資金を流用したと自白している。これが動機となって、証言に信憑性を与えている。

 白柄組が犯人であるという証言と証拠を用意してあったが、グッドスタインという自白者がいれば、その証言と証拠が精査されかねない。

 

「あんなヤツに声をかけよって、あいつらめ……。いっそ白柄組を精査される前に釈放すべきか、それとも押し通すか……」

 想定外であったため、拙速な判断は難しいところである。かといって引き延ばせば、ボロが出かねない。

 着替えを終えたサスピは居間へと移動して、使用人の用意した茶をあおった。この子爵は見た目によらず酒に弱い。

 茶と甘い物で苛立ちを抑えていると、家令が恐れながらとやってきた。


「旦那様。ベデラツィ商会の者が参りました」

「お、そうかそうか! 通せ、通せ!」

 待ちわびていたのか、サスピは食べていた菓子を皿に放りだして立ち上がった。

 何しろ今話題の痩せ薬だ。商会に買いに行って、すんなり買えるものではない。

 使いを出して前金を渡し予約をして、そこからまた数日ほど待ってやっと届けられる人気商品である。


「はい。それから商会の者ですが新参のようでして、ご挨拶も兼ねていらっしゃっているようです。もちろん、商会手形は確認しておりますので、従業員の確認は済んでおります」

「む、そうか。まあ今はいろいろ人手がいるんだろうな」

 売れに売れているやせ薬だ。ベデラツィが1人で商会を回すにはどう考えても無理がある。

 慌てて従業員の1人や2人、増やしても不思議ではない。

 身支度をしてから応接室に向かうと、身なりは商人らしいが、どこか緊張感のない男が待っていた。

 立場をよほど理解しているのか、男は応接室で立ってサスピの到着を待っていたようだ。

 男は締まらない顔の割に、形式に則り丁寧に頭を下げた。


「お初にお目にかかります。サスピ子爵様。勇猛かつ聡明な、かの騎士団大隊長とお会いできる古来種様の差配と、子爵様の威光に感謝いたします」

 礼を尽くす男――ベデラツィ商会に、雇用されたウイナルである。

 サスピ子爵が葡萄孤児院の事件に関わっていると知らず、虎口に飛び込んだ形だ。


「おお、オマエがベデラツィ商会の者か?」

 一方、サスピはウイナルの顔を知らない。

 工作を行ったのはモノイド子飼いの小男であり、ウイナルが名乗らなければサスピも気が付きようもない。

 しかし……初対面で自己紹介はつきものだ。


「はい。ウイナル=ベデラツィ商会のウイナルです」

 共同で経営するいう意味で連名で商会名を言ったが、サスピ子爵はそれを意識せず、ウイナルという名を聞いて首を傾げた。


「ウイナル……どこかで聞いたな」

 サスピ子爵は迂闊だった。

 直接会ってないとはいえ、利用した相手の名をすっかり忘れていた。


「光栄です。以前も貴族様方々のお仕事を賜っておりましたので、その折、聞き及んでおられたのかと」

 ウイナルもまた迂闊であった。

 偽証行為をしたにも関わらず、治安責任者の1人に会いに来るなど自首するようなものだ。

 しかも悪事の大元である。気が付かれたら、この場で口封じに殺されていたかもしれない。


「ふむ、そうか。そういうこともあるか。で? 持ってきたのか?」

「はい。こちらがご所望の薬にございます」

 ウイナルが差し出した箱を、サスピはひったくるように受け取って鼻息荒く蓋を開け放った。中には、丁寧に並べられた青く艶やかな錠剤が18粒。


「おお……。これが……これがそうか。これがあれば……。この私も昔のように……」

 サスピ子爵は今でこそ醜く太った中年だが、昔はフランシス・ラ・カヴァリエール男爵と並んで【王都の華騎士】と呼ばれていた。

 それも今は昔――。

 今のサスピ子爵とて、自分がなぜモテないかを知っている。

 恰幅の良さは金持ちの印だが、古来種信仰の強いエウクレイデス王国の美醜基準では低い。


 ベデラツィ商会の痩せ薬を聞いたときは、これこそ好機とすぐに手を尽くして商会と連絡を取った。そしてやってきたのはこのウイナルであった。

 

「ぐふふふ……。この私とて痩せれば、まだまだフランシスのヤツには負けんぞ。フランシスを失脚させ、騎士団団長となった暁には、王都の娘たちをキャーキャーいやんばかん、そこはバストなのぉ~。――と言わせてやるぞ!」

 気持ち悪い発言に、ウイナルは笑顔を引きつらせた。

 それに気が付いたのか、サスピの鋭い視線が飛ぶ。

 無礼がバレたかと、ウイナルは身を固めた。


「この薬、もっと用意できんか?」

 サスピはウイナルを責めるつもりはないようだ。しかし、無茶な要求をしてきた。

 薬製作はベデラツィ1人で行っている。

 とてもすぐ用意できる物でもなく、予約が詰まっていて融通できる物でもない。


「え? 申し訳ありませんが、生産量が限られ……」

 困ったウイナルは、畏れながらと断ると――。


「倍額……いや、三倍払おう!」

「かしこまりました! 明日にでも!」

 サスピの要求に、ズバッとウイナルは回答した。

 

   *   *   *


 さて――こうして、その日の深夜。

 差額分を懐に入れようと計画し、ウイナルはベデラツィの睡眠時間を狙って、地下の痩せ薬製作所に足を踏み入れた。


「さてこの辺りのはず……」

 まるで秘密の工場である。

 入り口は偽装されており、見た目では気が付かない仕掛けが施されている。

 材料を持って入った事のあるウイナルは、入り口の偽装解除法を知っていた。ドアノブ代わりの壁石を押し込んで回し、静かに開く入り口から秘密工場へと忍び込む。

 漏斗ろうととタンクが複雑に絡み合った魔具に、動力としていくつもの魔石がはまり込んでいる。

 そして心臓部ともいえる中心の台座に、輝く胞体石が収まっていた。


「材料はこれでいいのか?」

 ウイナルは魔具の扱いどころか、薬の製法すら知らない。商品を左から右に流すだけのウイナルに、魔具の仕掛けを知る能力はない。


「まあ見様見真似でなんとかなるだろう」

 適当に材料を用意して、目分量で魔具の中に投入した。順番ですらうろ覚えだ。

 しかしそれでも魔具は、健気に薬を作ろうと悪戦苦闘し始めた。

 やがて魔具は青い錠剤を吐き出した。

 艶やかな青――というより、どこか毒々しい青色だ。


「なんか、色が違うような……。ま、いっか!」

 自分が飲むんじゃないと、ウイナルはその錠剤を箱へと大切に収めた。

 見た目に拘るウイナルらしく、梱包は丁寧である。

 

 翌日――。

 他の貴族へのお届けの合間に、サスピ邸を訪れたウイナルは、密造した薬を家主へ手渡した。

 またまた慌てて蓋を開けるサスピ。

 さすがに色が違う薬を見て、少し怪訝な顔付きである。


「どことなく……色が違うようだが?」

「サスピ様が量をお求めのようなので、特別に効果の高い薬を用意させていただきました」

 もちろん、ウソである。

 

「そうか! 特別製か!」

 そんなウソをあっさりと信じるサスピであった。


   *   *   *


 数日後――。

 王都騎士団の団長室で、威厳もなく床に座り、こうべを垂れるラルゴゲイ・タ・サスピの姿があった。


「すいません、すいません……。私が悪いんです……。本当にすみません」

 憔悴しきった表情で、ひたすら詫びる言葉を並べるサスピ子爵。


 この第二騎士団大隊長の異様な姿を見て、引退間近の老齢な騎士団団長はひたすら困惑し、第一騎士大隊隊長フランシスにどうしたものかと問う視線を飛ばした。

 流石のフランシスもこの事態に当惑しており、「いや、私ではなんとも――」と目で答えた。


「騎士団の大隊長でありながら、悪事に加担してすみません、すみません。同僚を貶めるため、アポロニアギャスケットの間者と繋がってすみません、すみません……。白柄組に冤罪を被せるため、偽証を用意しました……すみません、すみません……」


 聞かずとも、つぎつぎ自白していくサスピ子爵。

 事態を重く見て、団長室にいるのは老団長とフランシスの二人だけである。

 サスピの自白が本当ならば、騎士団どころか王城から城下、国家まで大騒ぎとなる問題だ。

 一貴族の悪事では済まない。

 ましてや王族近習の者が、アポロニアギャスケットの間者だったと分かったばかりだ。

 そのアポロニアギャスケット共和国と関わったとなれば、並の事件で収まらない。

 

 サスピ子爵の首どころか類縁まで沙汰が降り、騎士団とて他人事と捨て置くわけにはいかない。

 とにかく今の通常ならざるサスピ子爵は、騎士団にとっても迷惑な存在である。

 彼が本当に反省し、心を入れ替えているとしても――だ。


「人気の薬を無理言って横から買いました。すみません、すみません……。王都の孤児拉致の手助けをしました。すみません、すみません」

「あー、サスピ卿。あとはなにをなさったのですか?」

 自動的自白オートマチック・コンフェッションを続けるサスピに、フランシスはやけっぱちで質問してみた。


「先月、キンダイドーナツで棚に並んでたドーナツを全部買い占めたのは私です……。すみません、すみません。妻のお気に入りのカップを勝手に使って、割ったのは私です……。すみません、すみません……。夏の道化の日イベントの行列で横入りしました。すみません、すみません……」

「いや、そういう事は聞いていない」

 サスピがどうでもいいことまで自白し始め、フランシスと騎士団長は当惑するばかりだった。


「すみません、すみません……。遅くなってすみません。すみません、すみません……」

 その日、栄光ある騎士団舎で、いつまでも謝罪の言葉が吐き出され続けた――。


   *   *   *


 王都のどこか……。

 薄暗い地下室でモノイド=マルチは小男の報告を聞いて叫んだ。


「サスピ子爵が自首をしたっ!?」

 あまりにあまりな報告に、モノイドは部下の小男を蹴飛ばすことすら忘れた。それほど、小男の報告は常軌を逸脱していた。


「え、ええ。まったく不可解なことでして。調べて見たところ……使用人いわく……。ベデラツィ商会の痩せ薬を飲んだ途端に様子が変わり、その日の夜には騎士団本部へ出向いて自首をしたと。今は取り調べを受けているのではないでしょうか?」


「えーとちょっとまって? ベデラツィ商会ってあのザルガラが関わってるところ? ウイナルが逃げ込んだという?」

「はい」

「……そいつ。ウイナルって人間は最初からザルガラと繋がっていたんじゃない?」

 モノイドの推測を聞いて、小男はハッとした顔を上げた。


「ま、まさか! で、ですが……言われて見れば……」

「つまり、こっちがウソの証人として用意した人物が、ザルガラの息のかかった商人に保護されて……」

「その商人からサスピ子爵が薬を買い付けていて、飲んだら性格が変わったように……」

「その薬が普段と違っていて……」

「普段と違う薬を飲んだら、別人のようになったサスピが自首したというわけですか?」

「ええ。それからついさっき、東区では、ザルガラの一派が行方不明となっている孤児を捜索していて……」

「しかも以前から我々の行動を調べていた篤志家とザルガラが接触しましたが……」

「その前に、妨害しようと金で雇った見張りを、あの第一騎士団団長フランシスの娘が一蹴……」

「そのフランシスの子飼い人狼が、孤児を救出して……」

「そういえばあのフミーという孤児がいる孤児院に、数日前に接触してたわね……」

「我々の目標を知っていたと? モノイド様はお考えで?」

「ええ。だって人狼が追跡に利用した孤児の持ち物を、どこからか持ちだしたというし……」

 ……モノイドと小男はしばし見つめ合う。

 まさか、まさか、まさかという考えてが口から出て、お互いが否定しきれない。むしろ同意し、納得してしまう。

 恐るべしザルガラ・ポリヘドラ!


 あまりの事にモノイドと言葉を失って、薄暗い地下室でただ茫然とするばかりだ。

 どれほど時間が経っただろうか?

 推測を重ねていたモノイドが、ぽつりとつぶやく。


「白柄組となかなか接触できなかったのも……」

「……ザルガラ・ポリヘドラが関わっていたのかもしれませんね」

 白柄組に関しては憶測だが、ここまでザルガラ・ポリヘドラが関わっていては、邪推の1つもしてしまう。


「あ、あとそれから……」

「まだ何かあるの!」

「巡回局と第一騎士団……。ならびにフランシス子飼いの人狼がモノイド様……、いえマルチ・プルートの捜索しています」

「なんでよ! どこで私がマルチの身体を奪ったと知ったのよ!」

 実情はザルガラの紹介で、ベルンハルトが娘マルチの捜索を頼んだだけである。

 ただの家出人捜索だ。

 単に巡回局の余った人員と、フランシスが娘ヴァリエに気を使って家臣を捜索に出しているだけである。

 そんな細かい事情など知らないモノイドたちは、今までの推測からザルガラがモノイド=マルチを捜索していると勘違いした。 


「わ、わかりません。で、ですか捜索を続けているの確かでして」

「ど、どう考えても、包囲網が狭まってるじゃないっ!」

 モノイドはマルチの身体で震えあがった。


 ――思い出す。

 吸血鬼としての身体を、霧どころか塵以下の形に分解された時の事を。

 あり得ない初めての経験だった。

 不死者の王として君臨する上位種吸血鬼が、吸血鬼ではなくなる恐怖……。

 棺桶に戻っても、もはや吸血鬼として復活はままならない。


 いまのモノイドは高い魔力を持っているが、存在は吸血鬼のそれではない。肉体はマルチであり、能力はレイス(亡霊)である。レイスとは肉体をなんらかの形で失った、不死者や魔術師のことである。

 吸血鬼とは程遠い存在の中位種未満である。


 当初はザルガラに復讐しようと考えていた。

 だが、魔法の能力が負けているのみならず、暗躍ですら後手を打ち始めていた。


「モノイド様。ここは王都からの撤退をお考えになられては?」

 小男が畏れながらと提案した。


「な、なにを言い出すの! 古来種様の肉体はまだ集めきっていないのよ!」

 モノイドには任務がある。

 古来種の中には、この次元、この世界に戻ろうとする一派がいる。還御古来種パンデモニアと呼ばれる彼らは、モノイドたち一部の上位種に、この世界での肉体を用意させる任務を与えた。

 古来種のほとんど――真っ当な古来種は、この世界に関わることを是としていない。

 帰還など尚更だ。

 還御古来種はこの世界に舞い戻って、再び支配者の位に収まろうとしていた。

 これは古来種の法に照らし合わせると違法行為にあたる。

 他の古来種が還御古来種を取り締まるためこの世界に戻れぬように、【霧と黒の城】に保存されているこちらの肉体を破壊した。

 しかしこのままでは還御古来種も肉体がないため、代替品として最上の人間たちを用意した。

 それが孤児たちだ。

 10年後、還御古来種たちがこの世界に戻った時、孤児たちは成長しきってちょうどよい年齢となっている予定だ。


「アポロニアギャスケットに戻っても、新しい代入用の肉体入手は難しいし――」

 モノイドは思い悩み頭を抱えた。

 アポロニアギャスケット共和国には、ろくな孤児院がない。庶民の孤児など、勝手に生きて勝手に死ねという状況である。

 それはそれで孤児を手に入れやすいというメリットはある。しかし孤児院に保護されてない分、能力の高い孤児を探すのが難しい。その上、健康状態が怪しい。

 後々の成長に影響し、10年後まで生き残らないことも考えられる。

 かといって、アポロニアギャスケットの貴族の子に手を出すのは難しい。

 いくら上位種だったモノイドでも、多くの貴族の恨みを買っては活動が難しくなる。 


 モノイドが純血血盟の盟主デ・ルデシュ候を暗殺したのも、横からアポロニアギャスケットで集めた大切な孤児を掠め取ったからだ。

 孤児を集めていた組織の末端は、孤児を大切な古来種の肉体候補と知らなかったため、買い取りに高額を提示したデ・ルデシュ候に横流ししてしまった。

 純血血盟への報復を思い出していた小男が、とある推測にたどり着き、モノイドに報告する。


「そ、そういえば……純血血盟の末端にクラメルという兄弟がいましたが……。あれもザルガラの息がかかっていたのでは?」

「言われて見れば……。内部情報を探るために、ザルガラが送り込んだということなの!」

 まったく勘違いの上に、見当違いな推測である。

 血盟側がクラメルを誘ったと2人は知っているにも関わらず、それを忘れて答えを出してしまった。

 ザルガラを警戒するあまり、思考が飛躍してしまっている。


「ディータ姫で王の狂気を誘い、体制を弱める計画もザルガラの手で潰されたわけだし……もしかして……」

 モノイドの思考が渦を巻き、ひどく混乱して深みに嵌る。

 すべてモノイドの思っているようなことではない。

 だが、理由をつけるとすべてザルガラが先に回っているように思えた。


「仕方ないわ! 現状が悪化する前に、孤児を連れてアポロニアギャスケットに撤退するわ!」

「はっ!」

 モノイドの決定を受け、小男が素早く準備に走った。

 この急な撤退を、ザルガラが読んでいない事を願いつつ――。


 



 無論、ザルガラがそんなこと想定してるわけがないのだが。



久々の勘違い回です。

今回「いろいろ沢山のことが、怒涛の勘違いに繋がる」というのをやってみたかった。

数話どころか、前回の章についても勘違いが重なってます。

劇中では描きませんでしたが、前章で遺跡の古来種寝所にザルガラいたのも偶然じゃない、とモノイドは勘違いしてます。


一話に纏めると長い、ボツネタも入れる。など、いくつかの事情で二話連続投稿となりました。

重ねて更新も遅くなり申し訳ありませんでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 幽霊の正体見たり枯れ尾花というやつですねぇ...
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