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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第4章 エルフとドワーフ
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篤志家ブトア

二話連続投稿します。

次話は12:00時に投稿します。

 他人の力で中位種リッチを倒し、区核コアを譲って貰い、一攫千金の大成功冒険者。――となったブトア。

 ということは説明せず、ア・ブンタン・トをワイルデューに紹介した。


「見違えましたね! やっぱり冒険に成功すると違うんだなぁー」

 ペランドーがブトアに純真な羨望の目を向けた。ちなみにペランドーはブトアだと説明しても、最初は信じてくれなかった。

 ウソでしょ? という反応だった。

 まあ、それは分かる。オレも信じられなかった。

 格好だけではなく、物腰から話言葉まで別人だったからな。オレもエイシアター連合の挨拶をされなければ、気が付かなかったかもしれない。


「ほう、それはそれは……。すごいのう」

 冒険に興味のないワイルデューでも、区核コアを手に入れることが如何に困難で、多くの幸運がいると知っているようだ。

 その目に驚きと感心の色が浮かんでいる。

 事実、ブトアの幸運は歴代冒険者で唯一といえるだろうな。これから先でも、こんな棚ぼたを得るヤツはいないだろう。


「え? こっちの話じゃ。ああ、しかし、すまんがちょっと取り込んでおっての」

 テューキーと念話していたワイルデューが、何やら言い訳を始めた。どっちに言っているのか分からない。

 すっかりワイルデューが1人で叫んでいる怪しいヤツだが、テューキー側がトラブルを抱えたままなのは事実だ。

 

「たぶんですが……。それに関係することだと思うのです。そちらの方々も呼んでいただけますか?」

 話し方が柔らかい。元冒険者とは思えないぞ、ブトア。

 服は着慣れていないようだが、冒険者らしさはすっかり消えている。


「こんな格好をしているのは、ちょっとした寄付活動をしているからです」

「寄付し回ってる金持ちがいるとは小耳にはさんだが……」

 やっぱりブトアだったか。

 にわか篤志家になったブトアは、照れながらカフェの席に座る。


「当初、冒険者のままの格好で寄付をするといったら、怪訝な顔されましたよ。一度は巡回兵まで呼ばれて……」

「そいつは災難じゃの」

 ワイルデューが髭を撫でながら納得した。荒くれものが寄付しに来たと言い、それが事実だろうと怪しいことこの上ない。裏でもあるんじゃないか? と思われたに違いない。


「それでこんな格好をしてしている次第でして」

区核コアを手に入れたとはいえ、よくそんな金あるな……」

 オレはブトアの金回りと気っ風の良さに関心した。

 身なりもそうだが、寄付をして回るなど相当余裕がなければできない。


「いえ、私も知らなかったのですが……。あの墓地からふんだんに魔力洩れがあるらしく、魔石がザクザク取れるそうで……。その権利も僅かながら、私にもあったのですよ」

「元々解放したら、その後手に入る解放区画の物品全般に権利あるからな。魔力もそのうちってことだ」

「そうだったようで……。いえ、ほんと2厘程度なんですけどね」

 謙遜しているが、僅かでも相当なモンだ。

 食うに困らないどころが、庶民としては贅沢な生活を続けられるほどだろう。

 昔は区画をまるごと丸ごと頂けた上に、郷士ジェントリの位まで貰えたのだから、それから比べれば、まあささやかといえばささやかだが。

 しかしまあ、すっかりブトアは金持ち然としてしまった。芝居がいつの間にか板についてしまったんだな、コレ。


「あ、私のことはいいんです。実はですね、孤児院への寄付をしていくうちに、どうも妙なことがありましてね」

「どういうことじゃい?」

 孤児院に関係するということで、ワイルデューが食いつく。


「まだ寄付し始めた頃……この格好ではなく、吊るしの服で寄付をしたときに、ある孤児院で変な反応をされましてね。品の良さそうな院長が、それは当然のような笑顔で『それであの子は、いつ回収にいらっしゃるんですか?』と、言われたんですよ」

「どういう……ことじゃい?」

 ワイルデューの声が低くなった。

 ドワーフのしかめっ面は、元ベテラン冒険者のブトアの緩んだ表情を引き締めさせた。


「たぶん、違う人と勘違いしたという感じでした。すぐに取り繕って……誤魔化されましたが、あれはもしかして人身売買かと……」

「その孤児院にすぐ案内せい!」

 ワイルデューはカフェの席から飛び降り、ブトアを無理矢理に引き立たせようとした。


「おい、ちょっと待ってくれ、ワイルデューさんよ。ブトアのおっさんが話してることは、大分前のはずだ。いま騒いでもしょうがない」

 剣幕激しいワイルデューを抑え、オレはブトアに説明の続きを求めた。


「こっちも気になったので、昔馴染み冒険者仲間を使って調べたのですが、売買の証拠はつかめませんでしたが、何人か足取りのつかめない孤児と、怪しい者たちのしっぽを掴みました」

 金が余ってるもんな。共同で商売するとかじゃ騙し取られる心配もあるが、仕事を回す分にはそんな事もない。


「皆さんはローイという少年を探しているようですが――」

「なにか知っておるのか! とっとと話をせん……か……」

 ワイルデューが小さい背で、大柄なブトアに攻寄る。だがブトアも歴戦の戦士だ。

 見た目は頑固オヤジ風のワイルデューでも、中身はまだ学生である。ブトアに気圧されて、語尾が尻窄みとなった。


「こっちの仲間があなた方に気が付いて、探って報告してくれたのです! ポリヘドラ様が恩じ……知り合いでなければ、こうして話を持ちかけたりしないところだっ! ……落ち着いて順番に話を聞いてください」

 さすがのブトアも声を荒らげた。古参の冒険者の声を浴び、怒鳴るだけだったワイルデューも大人しくなる。


「それで、ですね。ここはポリヘドラ様にお話した方が、何かとよいと思ったのですよ」

「……まあ、治安側にも知り合いはいるし」

 チラリとディータを見上げる。

 個人的には気に入らんとはいえ、王への伝手もないわけでもない。


「そんで? どれだけ調べてある?」

 そう問うと、ワイルデューは硬い表情で頷く。


「かなり調べてありますよ……」

「情報料は?」

 対価がいるのだろうと思って訊ねて見る。

 ブトアは金に困ってないだろうが、対価は金とは限らない。貴族としての便宜や後ろ盾。魔法使いとしての協力や魔具の提供など、いろいろと有形無形の対価がある。

 だが、ブトアは両手を振って固辞をした。


「まさか! いりませんよ! この国を去る前に、人の役に立ちたいだけで……」

「なるほど、ね。そりゃそういう気持ちの人間が、孤児院の闇を見たら気になってしょうがないわな」

 オレは感心した。

 いきり立っているワイルデューも、少しは自分を抑え始めた。ブトアの立派な心掛けに触れて、己の直情さを恥じ入っているのだろう。

 ペランドーは憧れるような目で、ブトアを見つめていた。何しろ公式には区核コアの解放者で、中位種リッチを倒した冒険者である。これで篤志家となれば、子供のペランドーが陶酔するのも当然だ。


「しかし、なんですね――」

 ブトアがふと呟く。


「お金の力ってすごいですね――」

「お、おう」

「そうじゃな……」

「そ、そうですね……」

 生々しいブトアの感想に、オレたちは同意する他なかった。


次話を12:00時に投稿します。

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