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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第4章 エルフとドワーフ
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捜索者たち

お盆で帰省中に執筆投稿しようと思ってたのですが…やってしまいました。

ノーパソの充電アダプターを忘れてしまって何もできませんでした。

投稿が遅れてすみませんでした。

「よう、アザナ。わざわざこのオレを呼びだして……、用事ってなんだ?」

 長期休みを明日に控えた日の放課後、オレはアザナに呼び出されて時計塔の天辺に顔だした。

 そこには風のイタズラで、髪を乱され困っているアザナがいた。

 小動物のように目を細めていたアザナは、オレに気が付き髪を抑えて向き直る。

 

「こんなところに呼ぶってことは……」

「決闘とかじゃないですよ、ザルガラ先輩。わざわざ来てもらってありがとうございます」

 そんなことだろうと思っていたが、アザナに改めて否定されてしまった。 

 いつかアザナに決闘を挑まれるようになりたいとは思うが、どうも巡りが悪い。 


「それにほら……」

 アザナの差す視線を追うと、隣りの校舎からこちらを伺うベクター教頭の姿が見れた。


「あんの教頭、学園の警備魔法陣使ってオレたちをいつも監視してやがんな」

 恐らく警備用の魔法陣を、オレたちの監視に使用しているのだろう。なにかとすぐに駆けつけてくる理由は、他に考えられない。

 学校施設をオレたちの監視につかうとは忌々しい。

 だが本来の使い方だし教頭は正規の管理者側なので、オレたちはつべこべ言えない。

 その内、アザナとの決闘方法を考えないといけないな。


 遠目でベクター教頭に監視される中、アザナが深刻な顔で話し始める。


「遠隔操作できるゴーレムの研究をイシャン先輩に警告されましたが、ザルガラ先輩はどう思いますか?」

「あん? 質問が不明瞭」

 少し意地悪に言い返す。事実、何を聞きたいのか分からない。 


「すみません。ボクは、このままゴーレムの研究を続けて大丈夫なのでしょうか? 他の人に相談するのもちょっと難しくて」

「……むう?」

 どういうことだ?

 ――いや、ちょっと待てよ?

 しばし考える。

 もしかしてこれは……。

 まさかと思うが……。

 思考が巡る。オレの脳に負荷がかかる。

 この状況ってまさかもしやもしかしてもしかしたならばもしったならば!


 オレは今、アザナから相談されてるのか!?


 この推測にいたり、脳髄で魔力弾が弾けたような衝撃を覚えた。


「……あー、確認だが。これはオマエは何か悩んでるわけだな。ゴーレムについて」

「はい」

「で、オレに意見を求めてる、と?」

「そうです」

「……わかった」

 手が震える。心と声が上擦る。

 今まさオレは、アザナから相談を受けていた。

 ――よし、浮かれてないで、真面目に考えよう。

 なんとも嬉しいが、いや嬉しくない。頼られているという優位性を噛み締め、アザナの質問について考える。


 今回、ゴーレムを研究するにあたっては理由があった。

 オレは他人事のように浮かぶディータの横顔を見上げた。


『?』

 そうだ。コレが理由。このよく分かってないような顔をしているディータ姫の仮初の身体として、だ。

 オレが想定していたのアザナが作り出した遠隔ゴーレムではなく、亡霊レイスが人間に憑依するかのような憑依型ゴーレムだった。

 確かに遠隔ゴーレムでも、ディータは街の散歩くらいできるし、物理的に人間社会に関われる。

 しかし憑依型と違って、オレからディータ自身は離れられない。オレの肉体に残る高次元物質を借りて、こうして存在しているわけで、遠隔操作の場合だと本体はオレの近くにいることになる。

 自由に行動できるわけではない。

 となると――。


「姫様のことを考えたら、別に遠隔操作に拘る必要はないな」

「そうですか……。それも、そうですね」

「どうしても、遠隔操作で研究したかったのか?」

「そういうわけでもないのですが、イシャン先輩の話を聞いてみて、内心では完璧兵士という方向で研究もしたくなった気持ちもあるんです」

「へえ……」

 ちょっと意外だったな。

 てっきり戦争で利用されることで悩んでいたと思ったが、そうでもないらしい。

 だが、アザナの気持ちもわかる。

 イシャンの発言は警告を多く含んでいたが、研究気質のアザナやオレからすると完成像であり【方向性の示唆】でもあった。


「あ、でも貴族連盟に目をつけられるのはちょっと困ります。そういう政治的なことに関わりたくないんで」

「その気持ちもわかるわ」

 俺も政治的なことは苦手だし、出来れば関わりたくない。この点はアザナと意見が一致している。 

 前回の人生でも、アザナは好きに生きようとしていたし、どんどんと王国内部に取り込まれていくのに嫌気がさしていたように見えた。

 

「やりたいけど、やりたくない、か」

 オレなりにアザナの意見を纏めてみた。するとアザナはこの言葉で理解してくれて、嬉しそうな顔で頷いてきた。


「そうです。遠隔ゴーレムは研究したいのですが、貴族連盟や軍の仕事はしたくないです」

「そうなるっていうと、課題でやらないって手もあるが? 趣味でうちうちの研究にしておけばいいんじゃねーか?」

「それも考えましたが、そうなると時間的な問題が……」

 アザナが困って額に指をあてる。オマエ、そんなにハードスケジュールなのか?

 そういえば細かい商売に商品開発などしているようだし、なにかと忙しいのかもしれない。


「それなら、直接的に遠隔ゴーレムを課題研究するんじゃなくて、遠隔操作に付随する魔法や補助的な魔法を研究すればいいんじゃね?」

「っ!」

 オレは適当に意見を言ったつもりだったのだが、アザナはそんな簡単な事にも思い至ってなかったようだ。


「そうですよね! 基軸技術ばっかりじゃなくても、付随技術を先に研究しておけば後々、遠隔操作ゴーレムの性能向上になりますもんね! さすがです! ザルガラ先輩!」

 オレの手を取り、ぴょんぴょんと飛び跳ねるアザナ。

 戸惑う――。


「そ、そうでも……」

 それほどでもないと思うんだが、実際、そんなもんだろう?

 研究なんてものは――。


 と、ここでふと思い当たる。


「もしかしてお前、見据えた対象にまっしぐらって性格か? 1つの研究仕上げないと、次が思い付かないとか?」

「え? そんなザルガラ先輩みたいな性格してますか、ボク?」

「オレはそんなにまっしぐらじゃねーよ。回り道だってするぞ!」

 反論すると、アザナがえー? っという顔をしてみせた。


「ボクの場合は性格的な問題じゃないですね。ほら、あんまり研究対象をあっちこっちしてると、お金も資材もたりなくなっちゃうでしょ」

「ああ、そういう理由ね」

 この説明は合点がいく。ゴーレムの資材だって、作ってもらうと金かかるしな。自分で作るとなると時間が問題だ。

 

「しかし、オマエ。金はともかくそんなに時間がないのか? 商売に手を出してるとは聞いたが、どうせエッジファセット任せなんだろ? もしかしてなにか副業でもやってるとか?」

 疑問に思って訊ねて見ると、やけに真剣な表情でアザナはオレの手を離して視線を下に向けた。


「どうした?」

 問いかけると、しばしの間を置いて、うつむいたままのアザナが口を開く。前髪で隠れて目は見えない。

 口だけがゆっくりと動く。


「先輩……この間、ザルガラ先輩は二度目の人生って言ってましたが」

 ユールテルの古来種事件の時の話か。

 そういえば最後だと思って、そんな事を言ったな。


「ああ、言ったな」

 オレはそろそろ話さないといけないか、と思う。信じてもらえなくても、アザナには知っていて欲しいような気がする。

 どうやって説明しようかと考えていたら、アザナが先に語り始めた。


「実はボクもザルガラ先輩に隠していること……いえ、誰にも話していない秘密が……」

 アザナが何かを告げようとした、その時――。


「あー、いたよ! いたいた!」

 明るくそれでいてトゲのある可愛い声が飛んできた。

 アリアンマリだ。

 続いてぞろぞろと、ユスティティアにフモセとヴァリエの取り巻きたちがやってきた


「……アザナ様。今、何を……彼に伝えようと?」

 秘密という言葉を聞いていたのか、階段を上り終えたユスティティアが、それをまず訊いてきた。


「い、いや……【ガリウム】……じゃなくって、【イーコール】の秘密をどう説明しようかなーって」

 アザナは誤魔化そうとしたのか、ゴーレムの関節部や駆動に使う金属を話に出した。確かに【イーコール】は魔法使いに取って独自技術の塊。

 そこに秘密があって当然という代物だ。


「そうですか……」

 質問は引っ込めたようだが、ユスティティアの目には疑念が残っている。


「アザナ様はここで……」

「あ、そうそう!」

 残りの取り巻き2人も質問しようとしたが、アザナはわざとらしく大声を上げて誤魔化した。


「みんなも聞いてほしいんだけど、ボク! 今度はこれを研究しようと思うんです!」

 と、いってアザナは懐からボールのような物を取り出した。


「これはですね、この間見つけた魔胞体石を利用して作った魔具で、地下の魔力プールに回線を繋いで一定方向に伝達できるんです。これを中継器として使えば郊外でも低空飛行艇ミドルクライマーを飛ばせます! ゆくゆくは古来種全盛時代みたいに、王国全土を繋げられるようにしたいんです!」

 手のひらに載せたボールに、アナザが魔力を注ぎこむ。すると、ゆっくりとボールは舞い上がって、正20面体陣を投影し、ぐんぐんを魔力を蓄え始めた。


「地下の魔力プールから魔力引っ張ってきてるのか? これ」

「ええ。一個、古来種の遺物を潰しちゃいましたけど」

 なるほど。地下の魔力プールに接続できる部品を取り出して、このボールに組み込んだわけか。

 ついでにこれは遠隔型ゴーレムを、王都から外に出して稼働させる手助けになる技術となるだろう。

 しかし魔力プールに接続できるような高価な遺物を潰すとは、これじゃぁ金が足りなくって当然だ。

 こいつ、ほんと懲りないな。だが興味が湧く。


「ふ~む。接続方法は古来種の残した遺物と同じだが……。あ、テメー。これオレの【天空の8つ玉】使ってるじゃねーか」

「応用しただけですよ」

 確かに機動重視というより、姿勢重視という作りだが、納得がいかなかった。


「……お2人とも、何か隠していませんか?」

 険しい顔付きのユスティティアが、オレたちに食い下がって来た。


「「ぜんぜん、なんにもないよー」」

 ハモった。

 

   *   *   *


「わぁ、屋根ってあういう風に出来てるんだぁ」

「ほう……、これは……。ほう……。ふ~む」

「見て見て、猫! 猫ちゃんが屋根に登ってる!」

 王都東区へと向かう低空飛行艇の中、ペランドーとワイルデューとテューキーが並んで座って……座ってないな。長椅子ベンチシートに膝を乗せ、窓に張り付き艇内に尻を向けている。

 まさに、かぶりつきという姿だ。


「速いですねー」

「下手に飛行魔法使うよりいいですね」

 ヴァリエとフモセも、やはりかぶりつきで外を見下ろしていた。

 子供とはいえ5人も被りつきだと、1つのベンチシート全部を、エンディアンネス魔法学園の生徒が占拠している事態となっている。

 幸いにも長期休みになっていうので、学園指定マントを着用していなかったり、私服だったりしているので、学園の生徒たちと他の乗客には気が付かれてないようだ。


「まったく、ガキどもが。何が楽しいんだがか。……ん? もしかしてこの魔胞体陣、バランサーなのか?」

「そうみたいですね。風で揺れても出来る限り、客室を水平を保つようになってるみたいです。解体してみたいですね」

「触れそうに……ないな」

「客室取り外さないと、全部露出しないみたいですねー」

 オレとアザナは外にかぶりつきのガキたちと違い、外側ではなく浮遊魔具側にかぶりつきだった。

 浮遊魔具は球形のタンクで、空気風船の親玉みたいな形をしている。低空飛行艇は球形の浮遊魔具を中心にし、「Π」型の箱を嵌めた姿をしている。

 左右が客席で、前部が操縦席だ。


 オレたちは左の客席箱に乗り、お子様たちは左の席に座りかぶりつき。オレたちは右側に座りかぶりつき。

 だが、お外でよろこぶお子様とは違うんだよ。

 ディータも外を眺めているが、まあアイツは外そのものが珍しい段階だし仕方ないが……。

 タルピー。オマエはなんで浮遊魔具の上で踊ってるんだ?


 さて……、なんでこの7人で飛行艇に乗っているのかというと、なんだかんだといろいろあって、オレとアザナは共同研究することとなった。

 火事で葡萄孤児院が燃えたと聞き、テューキーが「私たちの共同研究に参加しましょう!」と提案し、アザナたちはそれに乗った。

 何かと問題のある葡萄孤児院が無くなってしまったので、オレが断る理由が無くなってしまった。

 ユスティティアは反対したが、なぜかアリアンマリが反対しなかっため、取り巻きも限定的だがオレの参加を認めた。

 もっとも前回の共同研究を反対してたのはユスティティアだけらしい。しかも強くは反対してなかったという。

 そのユスティティアとアリアンマリは都合が悪く、今回はいない。 


 やがて低空飛行艇は、東区の中央発着場に到着した。

 着陸と離陸が特に安定している低空飛行艇だが、残念ながらその分、上下運動は緩慢だ。安全だがトロい。

 のんびりとした着陸後、オレたちは並んで飛行艇から降り立った。


「これだけ集まれば、テューキーたちの課題が学園で一番になりますね!」

 テューキーが小さな胸を張って言った。

 ぶっちゃけ、このメンツの中ではオマエが一番研究に寄与しなそうだがな。

 とはいえ、コイツがなぜか中核になりつつある。なんだかんだで副生徒会長。人を引っ張る力がある。

 もしかしたら、まとめ役には向くかもしれない。

 オレは従う気はないがな!


「さてと、ローイはどこに行ったんじゃろうな」

 ワイルデューは地図を広げて、別の孤児院にいった少年の名を口にした。

 アザナの研究課題に協力するにあたって、溝隠ロベリア孤児院だけでなく、他の孤児院にも仕事を頼もうということになった。

 そこでワイルデューが、ローイという少年の名を出した。

 なんでも人間にしてはかなり手先が器用で、しかも高い計算能力を持っているという。


 テューキーとワイルデューは、課題提出のため共同研究者の名を明記させるが、共同研究者の権利は放棄するという。

 今後、オレとアザナの研究が金を生み出すとしても、2人の取り分は葡萄孤児院の再建と溝隠ロベリア孤児院の運営に回して欲しいそうだ。

 見上げた精神だね。

 オレは頂くけどね、パテント料。


 ――というわけで、よい条件ということあり、アザナもオレも協力は歓迎した。

 優秀なローイの移転した孤児院にも協力を仰ごうと……なったのだが、どういうわけかロベリア孤児院の院長がローイの行き先を教えてくれないのだと言う。


「では、計画通り手分けしますか」

 アザナとその取り巻きはテューキーと組み、オレとペランドーはワイルデューと組んで男チームとなり、これから東区の孤児院を調べ上げる。


「じゃあまずはここからかのぅ」

 ワイルデューが指差す孤児院は、発着場から近い。中央に戻っていく形で調べる。


「ボクたちは通りの向こうから調べますね」

 アザナたちは大通りの向こうから探す。王都の外縁部へと向かう形だ。


「しゅっぱーつ!」

 テューキーの号令一下、オレたちはローイの捜索を開始した。

 慣れない東区を歩きながら、離陸していく低空飛行艇を見送りつつ考える。

 ローイの行き先を教えないのは、ロベリア孤児院の院長がなにか気を使っているのかもしれない。もしかしてローイって子はどこぞの貴族のご落胤とかで、足跡を消しているのかも。

 孤児院暮らしの履歴を消すため、どこかの家で厄介になっている……とすると、孤児院を虱潰しにする捜索法が無駄といえた。

 もしかしたらローイだって探して欲しくないかもしれない。

 だが、テューキーたちが探したいようだ。この辺は、好きにさせるほかない。

 どっちでもオレに不利益は無いしな。


「この辺はごちゃごちゃしてるのう」

「東は古い開発地区ですからね」

 ワイルデューとペランドーは地図と格闘していた。オレも不慣れなので、なんとも助言できない。10年後の記憶と混じっているせいもあって、余計な混乱を招くだろう。

 東区はとにかく発展している。人も多い。西区にはない施設も山盛りだ。しかも古来種の街に、建国時の古い街、そこへ新しい街が重なって出来ている。

 そんな複雑な道に苦労しながら探し回るが、幸い孤児院は東区ではたったの4つだ。二手に分かれてるし、半日で捜索は終わるだろう。


 と、考えていたが、事はそう簡単にはいかなかった。


 連絡と小休止を兼ねてオープンカフェでお茶を飲んでいると――。


「なに! 見つからん?」

 テューキーと念話で連絡を取ったワイルデューが、信じられんと唸り声を上げた。


「こっちの二か所ともおらんかった! どういうわけだ! ローイはどこにいった? 在籍の履歴は……ないだと! そんなはずなかろう! ちゃんと調べたのか!? ……わし? わしの方はちゃんと調べておるわ! 貴様と一緒にするな!」

 もしかしてオレの予想がアタリか?

 青筋立てて怒鳴るワイルデュー。おそらく念話先のテューキーも怒鳴っているだろう。

 念話は王都の施設を中継しているのだが、便利そうで便利ではない。

 魔法の波長も合わせられるほど付き合いが長く、信頼できるような相手でないと、念話は通じない。そうでないと、通じても一方通行になる。

 ――なんだ。やっぱ、仲がいいな。コイツら。


 将来、人間側が波長を合わせなくても、魔具側で波長を合わせる発明品をアザナが作るのだが、それはまだまだ先だ。


「……なに! しかも不審者に絡まれただと! なんじゃそれは!」

 不穏な事を言うワイルデュー。


「ワイルデューさん。どういうことだ? アザナ側に何があった?」

「……いや、テューキーのヤツは、よくわからん事をごちゃごちゃいいおってな。なんでもローイ探しをしていたら、妙な者たちがローイ探しを止めるようにいってきたようじゃが」

 どういうことだ?

 念のため、タルピーに目配せした。

 気ままに踊っていたタルピーだったが、オレの意志をくみ取って、真剣な顔で周囲に警戒の目を飛ばす。


「それで? ふむ……ぶん殴って吐かせただと! なにをしておるか! ……殴ったのはヴァリエ嬢? 言い訳するな! 副会長だろうが! 下級生を抑えんかい!」

 ああ、ヴァリエって見た目と違って、結構攻撃的だからなぁ。

 しかしバカな襲撃者だ。学園の生徒を襲うなんて……。って、みんな私服かマント無しだからわからんが。


「それでなんといっていた? ……金で雇われただけ? 情報無しか? ローイのことは聞いたのか? ……名前だけ聞かされた? ええい! そいつらを殴って締め上げんかい! 雇い主を見つけろ!」

 おいおい、ワイルデューさんよ。さっきと言ってることが違うぞ。 

 などと内心突っ込んでいたら、タルピーがオレの肩を突いてきた。ぐお、痛ぇな。また16連打かよ。


『ザルガラさま! 誰かこっちにくるよ』

「オマエの指は小さいから痛いぞ……」

 文句を言いながら振り返ると、いかも金持ちといった男が、穏やかな表情でオレたちのテーブルへ向かってくる。

 南方で見られる上等な布を身体に巻き付ける衣装は、あまりその中年男に似合っていない。異国の服装には詳しくないが、着慣れていないとオレでも見て取れる。 


 ワイルデューは念話中。ペランドーはケーキに夢中。ディータはカフェの厨房に夢中。

 警戒を高めるほど、この男から危険を感じないが――。


「この姿では分かりませんかな? なにしろ寄付1つでも見た目が重要でしてな」

 金持ち風の男は、そんな事をいってオレたちのカフェ席の前に立った。

 ここで、やっとワイルデューとペランドーも金持ち男に気がついた。

 悪意は見て取れない。

 というか、オレはこの男を知っているような――、ダレだったかな?


『あ、ザルガラさま。この人、アレだよ! あの人だよ!』

 指示語だけじゃわからん、タルピー。はっきりしろ


「ダル・シャローム(健やかな三角ですな)。前の青の月ぶりです。ポリヘドラ様」

 金持ち男は布を纏めたような被り物を取って、エイシアター連合国の挨拶した。

 挨拶を見てなのか、被り物を取ったからなのか、タルピーが男の正体に気が付く。


『思い出した! ブトアだよ!』

 あ、そうだ。顎髭剃ってるけど、コイツはブトアだ!

 遺跡の区核コアを手に入れたア・ブンダン・ト。

 異国の貴族のような身なりのよい姿をしたブトアがいた。



森野熊さんから素敵なイラストを頂きました。活動報告にありますので、ご覧になってください。あの彼もいます!


再登場のブトアですが【ジャジャジャジャジャックポット】にも挿絵を追加しました……が、髭そっちゃったんですよね。口髭は残ってますが。


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