六話「もう一人の」
「うわやっべ、今のヤバいって当たったら即死じゃん」
「そこもっとスレスレで避けてもよかったんとちゃうん」
「や、流石に今のはないっしょ」
「お前ら真面目にやれ」
「…うる、さい…」
絶え間なく続く鋭い風切り音や複数の軽やかな足音と共に四人分の声が仄暗い迷宮に響く。
明らかにそれは正規ルートではなく、何処か鬱蒼とした道。
そこをまるで散歩でもするかのような足取りで立ちふさがる魔物を通り過ぎざまに切り裂いていく四人組。
内三人は昨夜サクと共にポーカーに興じたパーティメンバーであるアルク、ライズ、ミロ。
そしてもう一人、無表情ながらスリルがどうだと騒ぐ二人に眉をしかめる細身の青年がいた。
前髪の長いくすんだ灰色の髪は青年の右目を隠し、唯一除く左目は金。
耳は僅かに尖り、瞳孔は縦に切れている特徴的な瞳。
此方の世界で「言霊」と呼ばれる種族である。
全体的に着崩された服の腰には人の顔程の大きさのチャクラムが二つ下げられており、それが彼の使う武器だという事を示していた。
「サク、いないし…せっかくここ、見せようと、思ったのに」
「サク休む気満々だったからな」
「どんまいルーク」
どこかたどたどしい話し方で精一杯不満を表すルークと呼ばれた青年。
彼は例の「もう一人」のパーティメンバーだ。
今四人でこなしている迷宮の裏ルートの依頼を裏ボスと戦いがために受け、サクにここでしか採取できないという素材を見せようと張り切っていた彼は先ずサクがいないことに落胆を覚えたのは言うまでもないだろう。
ちなみにサクとの付き合いはメンバーの中では最も長い。
「無理やり、連れてこればよかったかな…」
ルークの薄く形の良い唇からぼそりと呟かれた言葉に内心思わず全員が突っ込んだ。
無理だから。と。
「ルーク、自分サクに見せたい素材あるんやろ!?ならさっさと攻略してこんな胡散臭いとこ出んで!」
何時までも湧き続ける魔物にとうとう痺れを切らしたようで苛々と叫ぶミロ。
彼にとってルークは仲間意識や信頼関係はあれどパーティの中で言うと最も話さないメンバーであったりする。
今現在も苦々しい表情でルークの背中をどつきまわしている。
ルークがサク以外にはあまり話しかけないのもあるが、ルークの本質であるミロにはない様々な意味での真っ直ぐさに居心地が悪く感じる節があるようだ。
そんな風に思われているとは欠片も知らないルークは今日も相変わらず無表情を貫くが。
「…わかった。じゃあ、裏ボス…行こう?」
「裏ボス絶対強ぇし楽しみ」
「おい、さっさと進め」
ミロの苛立ちまぎれの言葉に戦い(掃除)の動きを一瞬とめた面子はその数秒後三者三様に納得してみせ、と同時に各々休みたいのなら最短ルートを制覇してしまえばいいという判断に落ち着いた。
最終目的地である裏ボスの部屋を先程よりも幾分かあがったペースで目指すことになった。