五話「裏」
ほぼほぼ説明回。
そもそも「裏」とは何なのか。
その答えは人によって様々な方向に富むが、唯一誰もが理解し、口にする事がある。
つまりは「表」と背中合わせの社会だという事。
表に住み、生きる人間でさえも「裏」の存在は公に容認しないだけであって頭では理解している。
表が日の当たる場所ならば、裏は所詮濃い闇が立ち込める場。
「正しく」生きる生き物に富むのが「表」ならば、「堕ちた」生き物に富むのが「裏」
そんな社会は当然のように「表」のように上手くはいかない。
法律もなければ人権など以ての外、人は毎日死ぬ上に殺し合いも日常茶飯事。
もし死んだとしても「裏」に堕ちるような生き物は「表」での立ち位置など高が知れている、正しく弱肉強食の世界。
子供、老人、女、たとえ生まれたばかりの赤ん坊だろうが関係なく全員が平等に、狡猾に生き延びる術が求められる。
表から堕ちて来たばかりの者は示し合わせたかのように全員で口を揃え、あれでも表は此処に比べると十分に甘かっのだと言う。
では、「裏」の人間が「表」の世界に手を出せばどうなるのだろうか?
表は裏よりも甘い、ならば裏での弱者が表の強者になれるのではないか。
そう考えた者は勿論複数に及んだ。
表で強者を握り、弱者を見下す自身の未来予想図に身が震えるほどに歓喜を覚えるが、それを実際に成しえた者は片手で足りる程の数しかいない。
何故か。
その限りなく低い確率の最もたる理由であり原因にあがるのが……サク達の所属する、「裏ギルド」
ギルドの紋様をとって周囲から「黒蛇」と総じて呼ばれ、恐れられる組織は何処を探してもここだけであろう。
自分たちに不都合な、それこそ今の多少歪んだ裏表のバランスを崩されそうになれば蝋燭に灯った火を消す程度の認識で人を簡単に始末出来る謎に満ちた組織。
「黒蛇」はそれこそ秘密だらけの組織という認識が高い。
仲間内の絆も強く、へらへらしているように見えて大抵が仲間第一の奴らが集っているからだ。
つまるところ、ギルド面子の不利になるような情報は墓まで持っていくようなタイプばかり。
全員程度は違えど利己主義で生きている上、中には根本から歪み切っている者もいるが「黒蛇」だけは裏切らないのだからその結束の固さがうかがえる。
サクに言わせてみれば一組織といっても基本「裏切らない」という事のみを守ればいいのだからかなり息がしやすい居場所らしい。
ちなみに内の仕組みはよくある冒険者ギルドと大差はない。依頼が多少物騒なだけという話だ。
「え、迷宮の隠しルート攻略?」
「そ。わざわざ難易度たけぇ依頼とったんスよアイツ。ホント意味わかんねー」
…至って「表」にもありそうなものもあるが。
「絶対そこ裏ボスいるやろ」
「しゃーねーだろ、もう受けちまってたんだしよ」
「アイツ明日〆る」
カジノの帰り道、明日の依頼は不参加するとメンバーに言い渡したサクに向かってぐちぐちと不満を漏らすライズの白く少し癖のついた髪を宥めるように撫でてやればがぐりぐりと頭を擦りつけてくるのをサクは苦笑して受け止め、思う存分に甘えさせてやる。
頻繁に会話に出てくる"アイツ"は今頃明日対峙できるあろう迷宮の強敵に胸を躍らせているのだろう。
「まー、頑張れ」
「うわっ他人事」
「明日は睡眠をひたすら貪る予定、だから他人事であってるでしょ」
お土産話よろしく、と耳に心地よい軽快な笑い声を交えて言ったサクも他と違わず何処までも自分本位だった。