四話「パーティ」
「ビット」
「あー…コール」
一つのテーブルを占領して淡々とチップを積み上げていく異様に目立つ外見をした四人組。
言わずもがな、サク、アルク、ライズ、ミロだ。
傍から見れば何処までも淡泊、静かで面白みのなさそうな試合だが、見る者が見れば顔を青ざめさせ、縮み上がりそうな程のスピードで激しい応酬が繰り広げられている。
要するにイカサマ。
目に見えない速度で淡々と色や数字、記号までもが変わっていく各自の手札。
例え同じ仲間だといえども容赦はしないスタイル。シビアだ。
「っと…誰もレイズしてへんやん。はい、全員こうかーい」
「げっ、サク…ストレートフラッシュできんじゃん」
「どやぁ」
勿論、イカサマである
「そういうてめぇもフルハウス揃うじゃねぇか」
「いやー、頑張ったんだけどさァ」
勿論、イカサマである
「ミロは…ってうっわ、コイツやりやがった」
「ロイヤルゥー」
「果てしなくウザい」
勿論、イカサマである
「お前ら真面目にやろうとか思えよ」
「ちゃっかりロイヤル一歩手前まで揃えてる人に言われたくねぇし」
勿論、イカサマである
まともなヤツがいねぇ。勝負の行く末をちらちらと窺っていた者たちの心の声が重なった瞬間だった。
「やっぱポーカーはこうでないと張り合いあらへんわ」
「それはお前の基準がおかしい」
「だァって雑魚ばっか相手しててもつまんねっしょ。返り討ちにして嘲笑うのも愉しいっちゃ愉しいけどさぁ」
「あー…わかるかも」
「!?」
相変わらずなライズをもうコイツだめだと呆れたように見るアルクの横でぽそっと呟かれた言葉。
思わず目を剥いて勢いよく全員がそちらに視線を向ける。
視線を集めた当の本人は自分が先程吐いた言葉はそんなに衝撃だっただろうかと疑問を抱きながらも眠そうにくあっと欠伸を零していた。
「あー…せやな、今日はこのまま宿帰るか?」
なかったことにされた。
「俺はどっちでもいいかなー…つーか明日から数日ギルドに顔出さない予定だし。パーティ依頼こなしてもいいけど俺抜いといて」
「えー、こねぇの?つまんね」
「てめーはソロで毒大蛇でも適当に狩っとけ」
「ひっでぇ」
軽口を叩き合いながらテーブル席を立ち入り口とは真反対にある出口へと向かう。
しつこく追いかけてくる無数の視線をスルーしつつ入ってきた時と同じような重厚な扉から外へ、夜の街へと足を運んだ。
「サっちゃんこーへんのか。んなら明日の迷宮はサっちゃん抜いた四人か?」
「おい、あいつ忘れてやんなよ」
「えー?あいつって誰やったっけ??」
「ばーか」
あからさまに残りの一人の存在を忘れたフリをするミロ。
ちなみにその残りの一人も含めたこの5人は裏ギルドが有する代表的なパーティの一つだ。
アルクがリーダーを務め、さり気なくサクが率いるこのパーティは戦闘力は勿論、様々な分野でハイスペック。
しかし、だ。もしそのハイスペックさを除いたとしても必ず裏の世界に住む者なら誰しもが思い浮かべることができるであろうパーティ。
曰く、ギルドの依頼をこなす際は全員が必ず動物を模った和風の面を被っている。
曰く、パーティの詳しい素性はギルド長を除いて誰も知らない
曰く、情報を探ろうとすれば勘付かれ、その者は人知れず姿を消す
曰く、裏ギルドの「役目」を最も忠実に果たしているパーティであり、最も自由に好き勝手やっているパーティである。
と。