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三話「カジノ」

昼、人々の賑やかな声が行き交い、明るい雰囲気で満ちていた街は夜になるとガラリと全てが変わる。

行き交う人々も、交わされる声の調子も、彼方此方で頻発する酔っ払いの喧嘩も全て「夜」の顔に。

サクからしてみれば陰の多い此方の空気の方が慣れ親しみやすい上に、息もしやすい。

豊満な肢体を艶やかにくねらせる美しい娼婦が男をひっかける声、酔いが回り顔を真っ赤にして道の真ん中で怒鳴り合うだみ声、明らかに怪しい身なりの者。



その雑踏の中を二人は連れだって歩きある場所を目指す。

煌びやかで咽かえるような甘い匂いで充満する花街を抜け、たどり着いたのは数々のカジノが立ち並ぶ通り。

市民でも手が出せる、比較的まともなカジノ。

素人という名のカモを待ち受けるハゲタカのような奴らが集まるカジノ。

常連しか集まらず静かに賭けに興じるお上品なカジノ。

そして裏社会にも精通する見るからに危ないカジノ。

ちなみにサクとアルクが現在進行形で向かっているのはその危ないカジノである。

そこへ夕飯を食べに行く感覚で仲間から誘われ遊びに行くのだから彼らも相当ヤバい分類に入るであろうことは間違いないであろう。

本人たちは至って真面目だが。



ド素人や金に目がくらんだ奴が手を出し、出す手を間違えれば酷い大火傷どころかその命まで掻き消えてしまうであろうカジノは二人にとっては既に通い慣れた場所。

軋む重厚な扉を押せば途端に賭けに興じる声が溢れだす。煌びやかなシャンデリア、細やかな装飾の施された賭けのテーブル、ふかふかと足が沈む程柔らかいカーペット。



「盛り上がってんねー」


「あぁ…派手にやってんな」



入り口付近で店内を見渡せば、ある一か所のテーブルが異様に目立っていた。

普通ならば賭けのめりこむ者たちの必死な声が騒がしい筈の場所でそこだけ音がないのは明らかで。

柔らかい床に転がり苦し気に呻く、腹にかなり脂ののった中年の男性が二人の視界に嫌でも目に入る。

二人はそれが誰の仕業なのかを目にしたその瞬間に把握し、一方は間延びした覇気のない声で、もう一方は微かに呆れが混ざった声で言葉を交わす。




「あっははは、なーおっさん、もう終わりなワケ?つっまんねーイカサマしやがってさァ、ココで小賢しいイカサマだけで勝てる訳ねェだろバーカ」


「嘗めとった相手に這いつくばらされるんってどんな気持ち?若造にボッコボコにやられてホンマ無様やなぁ、アンタみたいな雑魚が来るような場所やねいねん、嘗めてもらったら困るわぁ」



人を心底嘲笑い愉しむ声と特徴的な口調で笑い交じりに毒を吐く声。

恐らくその声の持ち主たちは本当に愉しそうにその顔に笑みを張り付けて嘲笑っているのだろう。

いとも簡単に表情の予想がついてしまうのは何よりもその二人とアルクとサクの付き合いが長い証。


今日も元気そうで何よりだ。


そっとその大きな片手で自身の額を抑えるアルクを横目にサクはそれこそ視界の先で愉悦に酔う彼らと同じように楽し気に笑う。

裏ギルドの中でも特に目立つ問題児二人が発する揶揄の声だけが響いたテーブルに到着を知らせるべく近づくサクとアルク。

テーブルに近づくと共に視界に入りだすのは這いつくばる親父の背中を長い脚で踏みつけカラカラと笑う白い髪と血のように赤い目が特徴的な蜥蜴の亜人。

そしてその隣に立ち、薄らと口の端を吊り上げるニット帽と前髪で口元以外が隠れた青年。

予想通りの奔放さにアルクが小さくため息を吐き、それを見たサクがニヤニヤ笑うと弾かれたように此方に視線を向けた二人組。



「お、サク待ってた。あとアルク」


「サっちゃんやん!あと人外」


「圧倒的アルのおまけ感」


「うるせぇ」



頭を掴んでこようとするアルクの手を慌てて躱し、サクの元へ歩み寄ってきた二人にひらりと手を上げる。

蜥蜴の亜人がライズ。ニット帽関西弁がミロ。

サクに声をかけ、何処となく嬉しそうに歩み寄った姿は先程さんざん他人を嘲笑っていた者とは思えないほどの変わりよう。

その姿にえー…と微妙な顔になる周囲、蹲って呻く親父を背景に会話を交わすサク達。


シュールだ。



「サっちゃん折角ココ来たんやし、俺と勝負やで」


「あー…うん、んじゃポーカーね」



ミロからの誘いに乗ってテーブルにつき、俺も俺もと纏わりついてくるライズにカードを渡し、やりたそうに視線を向けてきていたアルクもきっちり巻き込んでゲームを開始した。




ちなみに床とお友達になっていた親父はいつの間にか回収されていた。



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