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ルービス妃


 ルービスとトーマンは馬車に乗り込んだ。

「どこへ行くの?」

 乗り込みながら、馬車の装飾のきらびやかさに目を奪われる。どこも金色に輝き、座席のクッションは羽毛のように柔らかく弾力もある。布も美しいビロードでできていて、いつまでも触っていたくなる。ルービスは自分で質問しておきながら、馬車に心まで奪われ、トーマンの答えを聞きそびれた。

「なんですって?」

「城ですよ」

 トーマンは一言で答え微笑んだ。だが、その言葉はルービスにはのみこめない。

「・・・え? どこって?」

「城ですよ。宮殿といったほうがいいかな?」

 トーマンはさらに柔らかな表情で答えた。

「あなたはチュチタ国の第三王子 ディーブ・アンドルーの妻となったんだ」

「・・・・」

 ルービスは絶句してトーマンの浅黒い顔をまじまじと見つめた。

「どういうこと? どういうこと? …王子?」

「第三王子です。聞いたことはあるでしょう、ディーブ王子です。ルービス妃」

 再び絶句して、ルービスは馬車を見回した。このような豪華な装飾は見たことがない。だがしかし、なぜここで王子なのか。

「驚いただろう。嬉しいかい?」

 トーマンの質問にルービスは口を開け、しかし言葉は出せず、やはりトーマンを見つめるしかなかった。

 しばらく馬車に揺られ、ルービスは外の景色を見ていた。国の中心部に向かっているのだろう。すでにビビデの街をでているらしく、街並みはルービスのなじみないものだった。

(あの塔から遠ざかっていく)

「嬉しいわけない。これはいったい何の冗談? こんな・・・こんなことあるはずない。王子がこんなふうに結婚するなんてありえない。ふざけないで!」

 突然しゃべりだし、興奮して右手を振り回し、痛みを思い出した。左手をさすっていると、そこにトーマンの手が重なる。

「薬をつけておきましょう。アンラッキーでしたね」

 軟膏を塗り、包帯を巻きつける。馬車に乗り込んだ時から用意がされていたらしい。ルービスが落ち着くのを待っていたのだろう。手際よく手当をしてくれるトーマンを見て、ルービスの心は落ち着いてきた。

「お願い。本当のことを教えて。私はどうなるの?」

 トーマンは道具を片付けると、ゆっくりとルービスに向き直った。

「私も、あの方も、真実しかいいません。よろしいかな、ルービス妃。あなたは今回、一世一代の大勝負に失敗してしまわれた。チャンスは与えられた。与えられたのです。・・・なにか後悔があるのですか? 未練が?」

 トーマンのまっすぐな眼差しから、目をそらし、ルービスは下を向いた。

「なぜ王子があの場にいたのかは、確かに疑問に感じるでしょう。あれは役人の仕事です。だが、それは私にもはっきりと告げられたことではないので憶測になってしまう。そういったことは申し上げられない。だが、間違いなくこのことはラッキーだったと言えましょう」

 ラッキーという言葉にルービスは顔を上げ、驚いた。トーマンは満面の笑顔だ。

「しかし、あなたは非常にユニークだ。兵になりたいなんてよく言ったもんだ。王子の妻になることが嬉しくないだって? とんでもないことだ」

 最後には声を上げて笑い出す。

「なにがそんなに可笑しいの?」

 ルービスもつられてニヤニヤしながら、ふと乗り込んだ時の疑問を思い出した。

「これはなにでできているの? 生きているの?」

 あまりに心地よいすわり心地のため、ふと口をついた言葉だったが、トーマンはそれを聞いてさらに笑い続けた。

「こ・・混乱しているのよ。一度にいろんなことが。・・・そう、私は後悔なんてしていない。未練もない。覚悟はしていたんだから。・・・ただ、予想外だったのよ」

「人生は予想外なことだらけですよ、ルービス妃」

  トーマンは浅黒い顔をルービスに近づけ言った。


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