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審査


 中庭では男たちがドーナッツ状に集まっていた。その輪に混じるように輿のようなものがあった。一面が布で覆われていて中の様子は窺いしれない。その輿の前には、妙な帽子の男と同じ恰好をした人が二人立っている。

(中にいる人が審査をするんだろうけど・・・。ずいぶん仰々しいな)

 ルービスは輪の外側から様子を見ることにした。

「さっそくはじめよう」

 案の定、輿の中から男の声がした。老人ではない、思ったより若い男の声だ。

身を乗り出したのだろうか、布にシルエットができた。

「まずはその女性に尋ねたい。君は一体なんの目的でやってきたのだ?」

 一斉にルービスに視線が集まる。ルービスは声を張った。

「力を認めてもらい、兵に加わりたいと思っている」

 周りの男たちはそれぞれに何かを囁きあい始めた。

「・・・門での騒ぎは上から見させてもらったよ。なかなか筋がある。私も君の噂は聞いていたから、今回も来たら是非その腕を見せてもらいたいと思っていたんだ」

「それはどうも」

「だが・・・。兵に加わる・・・? 本当に兵になりたいというのか? それは必要のないことだ。この国の風習に曲がる。諦めてもらうほかない」

「私は役に立つ! 今までとは違った戦力になるはずだ」

 ルービスはまっすぐにシルエットの男を見つめた。まさか外に出るための一つの手段とは言えない。だが、ルービスにとってはその手段が一つしかないのだ。

「何度でも来る! 決して諦めない! だが、もし兵になり、役に立たないとなれば、おとなしく女としての義務をはたそう。約束する。チャンスがほしい」

「・・・なるほど。毎回騒がれても困る。では、チャンスを一度だけ与えよう。ここにいる男たちと同等に審査を受けるんだ。戦いに勝てば私が責任を持って兵士の役につけてやろう」

 オオッという喚声が上がった。役人たちもあわてている。

「だが・・・、戦いに負けたら兵になるのも諦めてもらおう。その時は私の妻となってもらう。依存はないな?」

「・・・勝てばいいんでしょう、問題ない」

 ルービスは緊張した面持ちで前に進み出た。

「相手は・・・そうだな、黒い布を頭に巻いているそこの青年だ。女に勝てば何も問わず成人として認めてやろう。情けをかけずに挑め」

 再びワアッと喚声があがった。ルービスは黒布を巻いた男を見てはっとした。

(タオス!)

 それはタオスだった。

 タオスも青ざめながら前進している。ルービスは唇を噛んで剣を抜いた。

「合図を!」

 役人が笛を鳴らすと、二人はじりじりと間を詰め始めた。周りにはタオスを応援する声しかない。

(タオスは速さに弱い。できるだけ速く攻撃して隙が出たところを突かなければ)

 ルービスは静かに右に回り始めた。

(ルービスは絶対に速さで攻めてくるはずだ。その前に移動できないように追い込まないと。さっきの男は力で追い詰めた。ルービスは力に弱いんだ。力で攻め込もう)

 タオスはそれ以上動かずにルービスの動きに集中した。

 今まで対戦した中ではほぼルービスに勝ったことのないタオスではあったが、今は事情が違う。負ければルービスを失うばかりか、町中の・・いや国中の笑いものになってしまう。成人なんて認められるわけがない。今回も、これからも。

(今までは本気で挑んだことはない。だけど、今日は、今日だけは勝つんだ。そして自分の嫁に迎えると、頼むんだ。そうだ、その権利はあるはずだ。そうしてルービスを守るんだ!)

 二人がなかなか剣を交えないため、周りからヤジが飛び始めた。

(ルービスはオレが討ってくるのを待っている。それをよけて速さで勝負するつもりだ)

 タオスは隙だらけの態を作っているルービスを目に前に、体が動くのを必死でこらえ、ルービスはルービスでタオスがなかなか仕掛けてこないことに苛立ちを覚えていた。

(ふう、このままではだめだな)

 タオスが大きく息を吐いたそれを見逃さず、ルービスが素早く前に進みうってきた。

「!」

 タオスはあわててルービスの剣を受け止め、力一杯返した。ルービスは一・二歩下がり、再び歩み出た。タオスが力で剣を交えれば、ルービスはどうしても後退するしかないらしい。

(そうだ、このまま力で攻めれば!)

 タオスが大きく剣を振り上げ力をこめようとすると、ルービスは待ってましたとばかりにタオスの懐に飛び込んできた。

「アッ!」

 タオスはそのまま急いで退いた。

(そうか! これであの役人も負けたんだっけ、気を付けなければ!)

 タオスがそんなことを考えているうちにも、ルービスの細々した攻撃が始まった。ルービスの攻撃は一つ一つの振りに力を入れず、細かく四方から攻め立て、相手の息が切れたころを襲う。

(どうにかしてこの攻撃パターンを変えなければ)

 タオスはルービスの剣を受けながら、自分がルービスのペースに乗せられてしまっていることに焦り始めていた。一方ルービスは剣を交えながらもフットワークまでつける落ち着きぶりで、タオスが形勢を変えるために突いてくる力のある振りも体でかわしてしまう。こうなってくるとタオスに勝ち目はない。力のある剣を剣で受けてこそルービスの体勢が崩れるというのに、体でかわされては

話にもならないのだ。

(だめだ・・・このままじゃ負けてしまう)

 タオスは息を乱した。その時をルービスが見逃すはずはなかった。ルービスの剣が鋭くタオスの急所を狙う。

「クッ!」

 タオスは奇跡的に寸前でそれを止めた。剣と剣ははじけて両者退く。

(右手が・・・)

 タオスとの勝負で息を乱したことのないルービスだったが、今回だけは荒く弾んでいた。それは右手の負傷からだった。ルービスの右手はしびれていた。役人と剣を交えた時にすでに痛めていたのだ。これ以上長引いては使い物になりそうになかった。


<続く>

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