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支配下で支配人がダンジョンを支配する  作者: 雪ノ音
初めてのダンジョン攻略
5/46

熱と熱

 瞳を開けて視界に捉えたのは闇だった。


(死んだのか?)


 元の世界と異世界で、あの世に違いはあるのだろうか?

 神が目の前に居るような世界。天国だって地獄だってあると言われても信じられるかもしれない。


(じゃあ、この闇は地獄の入口だとでも……?)


 周囲を確認しようと体を動かそうとすると、肩から背中にかけて鋭い感覚が脳を刺激する。それは傷の痛みによる熱。


(もしかして生きているのか?)


 あの時、確かにうつ伏せだった。

 眼の前にあったのは地面だったはずだ。

 だが今はどうだろうか?

 背中に固い感覚がある。間違いない。仰向けで寝ている状態だ。


(捕虜にでもなったのだろうか?)


 それなら魔神本人が最初にそうしているはずだ。

 となれば、魔神側ではなく、異神側の勢力に助けられたという事になるが……

 あり得るわけはない。

 確かにハイネと2人でしかこのダンジョンには入っていない。

 しかし、あの状況で誰に助けられたと言うのだろうか?


 その答えを持つ人物は光を放つ杖を手に現れた。

 赤いフードと黒髪ショートの少女、ハイネだ。


「起きたのですね。よかった~。私を残して、そのまま消えてしまうかと思いましたよ~」

「消えてしまう? いや、その前にどうやって助かったんだ?」


 俺はゴブリン3匹を残して意識を刈り取られた。ハイネは魔法のチャージ中だったはずだ。助かった理由が、切り抜けられた理由が分からない。


「これが答えになると思います」


 フードから左腕を差し出してきた。

 その腕には手当の跡があった。

 ダンジョンに入る前に怪我をしていたなんて聞いていない。

 つまりはゴブリン達に受けた傷なのだろうか?


「勘違いなさらないでくださいね。これは自分で切ったのですから」

「自分で? どういうことだ?」

「あの時、リキャストするまでのチャージに、1分30秒も使っていては間に合わないと判断しました。なのでチャージのやり方を変えたんです」


 分からない。チャージのやり方を変えるのに腕を自分で切る理由が見えてこない。


「すまない。魔法に疎いんだ。腕を切る必要があったのか?」

「一般的ではありません。特殊な方法です。魔法と言うよりも呪に近い方法ですから」

「呪だって?」

「はい。杖に手から魔力を供給するには、初心者の私では時間が必要です。ですが、それを飛ばしてしまう方法があるのはあるんです」

「なぜ最初からそれを……」


 そんな便利な方法があるなら、俺が体を張る必要はなかったかもしれない。魔法だけで全てが事足りそうだ。


「そういうわけにも……。方法が方法なだけに、その後のリバウンドも大きいですから」

「リバウンドだって?」

「この左腕を自ら切ったのは、杖を血で覆うためだったのです」


 なんとなく読めてくる。自らの背丈ほどもある杖を血で染める。確かに大量の血が必要になってくるだろう。それはその後の体力低下を起こす。行動制限も出てくることだろう。ダンジョンに閉じ込められて、いつ出る事が出来るか分からない状況では致命傷。しかしそれにより――


「杖全体から血を通して魔力のチャージを加速させたわけか」

「その通りです。自らの命を削る方法。ゆえに呪として扱われ、下法といわれる術になります」


 人間は2リットル血を流すと危険と言われる。

 杖を覆うほどの血となれば、それはかなりの量だろう。

 体調が万全になるのは、このダンジョンに出た後になるかもしれない。


(なるほど、確かに戦力ダウンだ)


「つまりはリキャストを早く終えた事により、ゴブリン達を倒せたんだな?」

「いえ、残念ながら全部とは……。ボスと思われる個体だけは逃げていきました」

「でも2人とも生きている。それで十分だ」


 魔神に襲われ、魔物の群れと戦闘して、レベル1とレベル11の初心者2人が生きている。十分だ。これ以上の結果を求めるのは贅沢というもの。

 

 安心したおかげか、周りを見渡すだけの余裕も出てきた俺は、ようやくここが何処なのか理解する。


「ここは洞窟か?」

「はい。たぶん、あのゴブリン達の巣だったのではないかと。隠れるにも丁度良いと使わせてもらっています」

「なるほど、獣臭さはそれが原因か」


 そう、臭いのだ。人とは違った生物の臭いが残っている。

 その匂いが、匂いの主であるゴブリンを思い起こさせる。同時に戦闘で死にかけた状況をも甦らせる。


(無謀すぎた)

 

 奇襲が上手く行っただけに調子に乗りすぎて過信してしまっていた。もしハイネが術の使用を少しでも躊躇っていたら、2人ともここにはいない。


(次は必ず……!)


 そして、俺は一つの事を気づいてしまった。

 頭上にぶら下がる……違う。これは干されているのだろう。

 その可愛い可愛い、白い生地に青の水玉模様のそれに釘付けになる。


「これは……!?」


 ハイネもその視線の先に気づく。自らが干していたであろう。自身の履物に。


「見ないでください!!」

「えっ、いや、ごめん。というよりも何故……?」


 慌てて自らのそれを回収にして、フードの中に隠すハイネの顔はフード以上に赤い。


「いろいろあったからです! 仕方がないじゃないですか!?」

「いろいろ……?」


 魔神に待ち伏せされて、ゴブリンと鉢合わせして……他に何かあったのだろうか?


「だって、魔神ですよ! ま・じ・ん! そりゃ、ビックリしますよ!」


 つまり冷静に見えていたが、実は相当にビビッていて――


「も……漏らして……? もしかして、今って履いて……」

「バカー!!!」


 弱っているはずの魔女から繰り出された拳はゴブリンの棍棒よりも痛く、そして背中の傷よりも熱かった。

 能力の上乗せがなければ死んでいたかもしれない一撃により、俺の意識は再度刈り取られたのだった。

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