レベルと強さと認識と
「我が巣ではやるわけがないだろう」がと言われ移動を余儀なくされた俺達は外に出ることになった。
そもそも何故、特訓なのかが流れが見えない。もちろん聞いた。返ってきた答えは「お前らの力ではウォペ殿をお守りする事が出来ぬだろうが!」という、あの魔人への思いが中心の行動だった。
どうやらウォペが『館の住人』になったという言葉を聞いたところで、この竜、クリカラにとっては俺達がウォペのしもべ程度にしか思っていないのだろう。
「クリカラ。あんたは、なんでそこまでウォペを崇めているんだ?」
洞窟(巣)での会話でも不思議に思っていた疑問。どう考えてもただの関係には思えない。
「うむ。よくぞ聞いた。クロス。お前もこれを聞いてウォペ殿を崇めるが良い」
聞いたら崇める事になるとは、それはそれで聞きたくなくなる。
しかしこちらの思いを知ってか知らずか、その大きな口を上機嫌に動かし始めた。
「我がまだ若かった頃の話だ。あの頃はダンジョンでなく、外の世界にいたのだ」
もう既に自分の世界に入っているようだ。その物語は止まらない。
その長たらしい話をまとめれば、こういうことらしい。
こいつは当時、知能も発達しておらず、ただ手当たり次第に食するのみの獣に近かった。人間達は被害を防ぐために退治しようと大勢による討伐に乗り出した。当然のように全員を返り討ち。しかしクリカラ自身も大きな怪我を負い死を覚悟した。そこへ手を差し伸べてくれたのがウォペ。最初は意識へ直接話しかけられ「なんだこの小娘の声は!」などと反発したらしいが、ウォペは何も気にした様子もなく笑いながら「助けてやる」といったらしい。
そこら辺は俺も何となく想像がついた。似た体験した記憶はまだ新しいから。
そしてこいつは、その誘いに乗ったらしい。いざとなれば食ってしまえば良い思いつつも。結局は、そんな考えは長くは続かなかったようだ。ウォペは無理矢理に外の世界とダンジョンを繋げたのだ。目の前に竜でも通れるだけの次元通路を作り出したのだという。それで悟るしかなかった。圧倒的な力の差、勝てないと。その後はウォペの元で治療してもらい学び成長したと。
言ってしまえば、飼いならされたという事。
その後もウォペの素晴らしい百選などという、名水百選ほどにどうでもいい話が続いたが半分聞き流していた。まともに聞いて、こいつの様にウォペ信者になったら堪らない。後ろで聞き入っているライブラが危険な思想に走らない事を願うばかりだ。
そして、計ったかのようにウォペの事を話し終わると予定の場所に到着する。案外、伝えきるまで到着する気がなかった事も考えられる。それほどクリカラには伝えきった満足感が溢れ出ていた。
「さー着いたぞ。ここなら余計な邪魔も入るまい。ウォペ殿の役に立てるように鍛えてやる!」
「あんたに鍛えてもらうためじゃなくて、このダンジョンでやる事があるから少ししか付き合えないぞ? 短時間でもレベルアップが可能なのか?」
正直なところ、頼んでもいない上にウォペの役に立つ為に等とは毛先ほどにも思っていない。
しかし、やはり自分たちの弱さは十分に理解している。今の状態では逃げる事の方が多くなる。それ以外の選択を増やす為にもレベルアップは必要と言えた。
「はっ? 何を言っている。レベルアップを手伝うなどと言ったつもりはないぞ。他者の命を奪わずして、レベルアップが出来るわけがないだろう?」
「えっ?」
「当たり前だろうが、我が貴様らのために獲物を準備でもしていると思ったのか?」
もちろん、俺の「えっ?」は獲物を準備していない事に対してではない。命を奪わないとレベルアップが出来ないという部分だ。
そう言われれば、ウォペと特訓をしたにも関わらずレベルの上昇がなかった。経験が足りないのかと思っていたが、どうやら違うようだ。
「今からお前たちには戦闘の基礎を教えるつもりだ。だから時間はかからん。言うなればステータスの上昇と戦闘の理解度アップ。下手なレベルアップよりも大事だぞ?」
なんとなく先ほどの言葉と合わせると分からなくもない。
昔の達人と呼ばれる剣士たちは、人を斬って初めて免許皆伝とされたという。それに似ている。つまり他者の生命を奪ってこそ経験となりレベルアップを果たせる。それまでの鍛錬や訓練はステータスの熟練と言ったところでレベルは上がっていないということだろう。
例えば、人の命を奪った事のある人間と一般人が殺しあったとすると、ほぼ確実に前者が勝つ。それは覚悟違いかもしれないが、レベルの違いだったのかもしれない。そう考えれば他者の命を奪うことがレベルアップというのは理解していないだけで、元の世界にも適用されていたルールなのかもしれない。
「俺たちの熟練度アップか……」
「そういうことになるな。とりあえずは二組に分かれて戦ってみろ。そうだな……ハイネとクロス。ミストとライブラ。そんなところだろ」
たまたまかもしれない。しかし何かを見抜いたかのような選択。
「もしかして、レベルが見抜けるのか?」
「お前、何も理解しておらんな。本当に支配人なのか?」
「面目ない」
前にハイネにも言われた事をクリカラにも繰り返される。やはり知識会得は今後の課題かもしれない。今回の冒険が終わってから考えよう。
「普通は自分の辿ってきたレベルくらい、ある程度は見抜けるぞ? まあ、我の場合は匂いでも見抜けるがな」
そこで頭に浮かぶ「犬かよ!?」等という突っ込みを俺は入れない。それを口にしてしまえばプライドの高いクリカラの事である。せっかくの特訓も流れる。下手をすれば怒りを買って何をされるか分からない。
そんな俺の努力を灰に変えるかのように、ハイネが「い……!」と危なく発言しかけた口を、ライブラが両手で塞いでいる。ナイスな判断である。
「それでクリカラから見て俺達はこのダンジョン内で、どのくらいの位置の強さだ?」
「まあハイネ以外は底辺。雑草だな。そのハイネでも下の中だ。4人でも1日も生き残れまい」
反論は出来ない。実際に助けてもらっていなかったらトロールにやられていた。一日どころか1時間も立たずにだ。
「それでアンタに訓練してもらえば、どうにかなりそうなのか?」
「誰にモノを言っている。死なない程度までに底上げしてやる。そうでなければウォペ殿の部下が減るではないか」
完全にウォペの部下として認識されている。とりあえず都合よく強化してもらえる事を利用しない手はない。この流れを継続させるべきである。
「じゃあ、その『ウォペ様』の為に宜しく頼もうか」
そして竜と一時的な弟子の訓練が始まったのだった。




