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支配下で支配人がダンジョンを支配する  作者: 雪ノ音
支配人達の宴
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縁の糸

 随分と深い眠りに落ちていた気がする。

 瞼を開ける前から鼻に届く炊き立てのコーヒーを入れるような香りが脳を刺激する。

 もしかすると元の世界に戻った?

 いや、最初から夢だったのかもしれない。

 しかし脳が覚醒するにつれて「では、そのコーヒーは誰が入れているのか?」と疑問が浮かぶ。

 更にベットではありえない程の硬さが背中を刺激している。

 唯一、頭の部分だけに感じる柔らかさ。


(おかしい)


 現実を受け入れる為に重い瞼を持ち上げる。


(どこだよ? ここは?) 

  

 どこかの洞窟だろうか。

 光の量が少ない。

 どうやら背中に感じていたのは岩だ。

 そして頭の柔らかさの原因は目の前にある人物が答え。

 黒髪と黒目を持つライブラ。彼女の膝枕だった。


「あっ、クロスさん気づかれましたか?」

「あ、ああ……えっと……ここはどこなんだ?」

「はい。その前に体を起こしてもらえないでしょうか? 少々膝が痺れてまいりました」

「あ、すまない!」


 実はその気持ちよさを、もう少し味わっていたかった。

 何よりも改めて近くで見るライブラが可愛いかった。

 フードに隠れて分かり難いが、お人形のような表情は見る者の心を惹きつける。多少見とれていたとしても仕方がない。

 それらの気持ちを剥ぎ取るように体を起こす。

 そして現実がここにある事を実感した。

 

「まず現在、私達が居る場所なんですけど、あの竜の巣です」

「竜の巣だって?」


 その言葉を理解する為に再度、辺りを見渡す。

 やはり洞窟だ。ただし、この規模を洞窟と言っていいのか分からない。

 体育館程度なら楽に収まるくらいに広い。

 その幅や高さが恐らく出口まで続いている。

 この規模なら、あの竜でも問題なく出入りが出来る。

 なるほど、確かに竜の巣だろう。

 俺の表情から十分に理解したと感じ取ったライブラは口を開く。


「クロスさんが倒れた後に、私達はあの竜の背中に運ばれてここへ連れてこられました。ここなら他の魔物が入ってくる事はないと。この漂う匂いが魔物達の苦手なものらしいです」

「このコーヒーの様な匂いがか?」


 そういわれれば南米の方ではコーヒー豆の匂いは死者を追い払う効果があると言われている。この匂いはそれに近い効果をもたらしているという事かも知れない。


「私も初めて知りました。ですけど確かに私の観る力で確認しても周囲に魔物は見えません」


(えっ?)


 彼女は確かに『観る力』でと言った。

 俺は『サードアイ』の劣化スキルだと勝手に思っていたが、どうやら違うようだ。彼女のスキルは対象者が見えていなくても観る事が出来るという事だ。

 しかし今、それは後回し。確認する事は多く残されている。


「それでハイネとミストは?」

「ミストさんは周辺捜索に行きましたよ。ハイネさんは、あの竜に連れていかれました。運ばれている最中に背中を汚したとかなんとか」

「また『やった』のか……」


 もう既に予想はついている。

 彼女はまたやらかしたのだろう。その姿が簡単に思い浮かんでしまうのが少々悲しい。

 あの竜もここまで運んできたのだ。屈辱を味わされたとはいえ、簡単に処分するようなことはすまい。それだけ竜の言葉にはウォペに対する強い気持ちを感じた。


「たぶん、大丈夫ですよ。あの竜さんは役人たちよりも怖さを感じませんでした。きっと優しい人ですよ」


 俺の考えと同じように問題がない事を客観的に口にするライブラは、ハイネよりも精神的な部分は強いのかもしれない。ただ優しいとか、人という部分は理解しがたいが。


 とりあえずは現状の再確認をする。

 ここは竜の巣。

 ミストは探索に出ている。

 ハイネは竜からの説教タイムか?

 現状、誰も欠けていない。


 俺の体の状態は?

 正直、体中が痛い。しかし動くのに問題があるほどではない。骨に異常がある様子もない。外傷も見当たらない。恐らく内臓にもダメージないだろう。軽傷と呼べる程度である。意識を失ったのは過労によるところが大きかったのかもしれない。


 ただし、やはりスキル『ブースト元』のハイネが元々魔女だった事が耐久力に大きく影響しているのだろう。ウォペが『ブースト元』になった時に比べると足りないと言っていい。違った人間から恩恵を受けたからこそ感じた、必ずしもレベルだけに目を向けてはいけないと言う教訓。


 考え出すと今後の事に頭が痛くなる。

 自身のレベルアップ、ライブラやハイネの強化、上位の仲間の募集、どれも早急に解決しなければ今後も不安定な冒険を続ける道をあるくことになるだろう。

 

「まずは全員の集合を待ってから、今後の予定をつくらないとな」


 集合するという事は、あの竜とも合流となる。

 あちらからの質問は多そうだが、こちらからも聞きたい事は山ほどある。

 最悪は敵となる場合もあるが現状から予測すれば、かなり低い可能性と思われた。

 それどころか、協力者になる可能性も零とは言えない。といっても流石に、あのサイズの竜が『館の住人』というのは無理があるだろう。一時的な友好関係で構わないのだ。


 そして俺の心を見透かしたように巣の主の帰りを伝える震動が洞窟に響いた。

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