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支配下で支配人がダンジョンを支配する  作者: 雪ノ音
支配人達の宴
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戦場の支配者

 前に進めば進むほど、相手に近づけば近く程、意識を集中すればするほどに圧倒された。

 少なくても今まで戦ってきた相手は元の世界でも見られるサイズだった。

 どれだけ大きいと言っても動物園で見たキリンや象程度。

 しかし実際に人間タイプの魔物から、軽く3階の窓から眺められている様な状況は上下感覚が狂う位に違和感を覚える。


 それに常に見上げながらの戦闘は全ての動作を一歩遅らせる原因となる。

 何しろ足元の確認何てしている暇がないのだ。

 平坦とは言えないダンジョンではバランスを保つのは難しい。

 

 そしてこちらの状況など、お構いなく相手からの攻撃は振り下ろされた。

 ただ上から下へと蠅を叩き潰そうとするかのような張り手。


(遅い!)


 予想通り。

 ゴブリンキングと同じ程度の知能を想像させる攻撃。攻撃力が高くても当たらなければ意味がない。そして前回とは違い勝つ必要はない。あくまでも目的は逃走する為に隙をつくる事。


 ぶおーん、ドーン!


 風が巻き起こる音と地面を震わせる右腕からの振り下ろされただけの攻撃が、交わした後ですら背筋に冷たい物を流れさせる。


(これを何度も交わし続けるのか! ちょっとしたジェットコースター並みだな!)


 相手に攻撃を交わされた事による驚きは見て取れない。そう――交わされるのは想定済と言わんばかりの涼しい顔をしている。


(格下に軽く交わされたのに、なぜ?)


 疑問を感じつつも次の上からの攻撃に備える。

 もう一度、同じ右の腕を振り下ろすのか? それとも左の腕からの攻撃なのか?



 しかし、それが間違いだと気づくいたのは、自身が壁まで弾き飛ばされてダメージを受けてからだった。

 トロールは振り下ろした腕を、そのまま『横に掃っただけ』だった。

 上からの意識しか持っていなかった俺は避けたはずの右腕からの予想外の攻撃を、あっさりと、この身に受けてしまったのだ。

 そこでようやく、トロールを敵として戦っていると思っていたのは自分だけだった事に気付いたのだ。

 相手は邪魔な虫としか考えていない。そうである。人間が飛び回る蠅を敵と認識するわけがない。この大きな相手は戦っているという認識すらない。


(ま、まずい!)


 体が意識に追いつかない。

 自身の過ちを正す為の行動へと移せない。


 そして――普通の人間ならば自力では飛ぶ事が無理と言われる程の距離を俺は弾き飛ばされた。

 当然、そこから生まれる衝撃は借金取りの様に遠慮なく肺から空気を奪って行った。

 失ったものを求めるように地面に縋り付く。

 手に感じる物は岩しかないと言うのに、見えない大切な物を取り返す様に求める。


 それをあざ笑うかのように害虫退治者の足音が近づいて来る。

 視線を上に戻さなくても分かる。弱った虫に止めを刺しに来たのだと。

 これまで本当の意味で格上の相手と戦ってきていない。

 ウォペ。完全に遊ばれていた。

 ゴブリンキング。理性が無くなっていた。


 だから格上との戦いを侮っていた。

 遊びとハンデを持っている敵と戦っただけだというのに完全に勘違いしていた。――「何とかなるかもしれない」と。

 その結果が今の状況を生み出している。

 つまり圧倒的なレベル差の現実がこれである。


 クロスさんっ!


 俺のピンチに正気を取り戻したのだろうか? ハイネの悲しい叫び声が聞こえた気がした。

 酸欠により意識が薄まり体の感覚が弱い。

 自覚はないが思考も混濁しているのかもしれない。


(心配するなよ。ハイネ。置いていかないって言っただろう?)


 しかし、現実に引き戻す現象が俺への脅迫の様に正確に伝わる。

 ――震動。


 それが近づくと共に強くなる逃走本能とは裏腹に、ダメージから回復する様子のない体が恨めしい。


(クソッ! うごけ! 動くんだよ!)


 心の声と逃走本能だけが大きくなる。




 そして――震動が止まった。

 見上げなくても分かる。

 トロールは俺に止めを刺せる距離に来たのだろう。

 後は無慈悲に叩き潰されるだけだ。

 しかし攻撃が来ない。


(もしかして、死んだと気づかないくらいに一瞬で殺された後か?)


 俺は自分が死んでいない事を確認するために地面から視界を上げる。

 

 トロールは思ったより近づいていなかった。

 離れていると言った方が良い。なのに止まっているのだ。

 しかも――俺と同じように顔を上に向けて。


(どういう事だ? 何か空にあるのか?)


 徐々に回復し始めた体に鞭を打ち、トロールの視線の先を追いかける。


 見上げた空には1匹の鳥が飛んでいた。

 尾が異常に長い鳥、足が4本ある鳥、見る者を引き付ける何かを持つ鳥。

 だが――


「なんだ? 俺の眼の感覚が狂っているのか?」


 思わず言葉が漏れる。

 言葉の通り、自身の眼を疑うのは仕方がない。

 距離感が掴めない。

 かなりの距離が離れている様にも見えるのに近くにも見える。

 もし眼が狂っていないのならば、この大きさに対する違和感は何だと言うのだろうか。


 全ての疑問はその鳥からの鳴き声が、いや――それは吠えた――誰もが認識する強者の声。

 ファンタジーの世界や小説の物語で聞いた事がある存在に重なり、思わず言葉が口から洩れた。


「古竜≪エンシェントドラゴン≫……?」


 飛竜やトロール以上に存在感を示した強者は戦場を『支配した』

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