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支配下で支配人がダンジョンを支配する  作者: 雪ノ音
支配人達の宴
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次の景色

「みんな! ここはとりあえず逃げるぞ!」


 俺達はダンジョン突入していた。

 人狼である、ミストをパーティー加えて直ぐの事だ。

 先にタンドルのパーティーが突入していた為、かなり油断していたのは間違いない。彼ら討伐組が掃除していてくれるだろうと。


 実際に彼らは5人PTでレベルも全員が30を超えているという。こちらの戦力と比べるのも恥ずかしくなるくらいに冒険者としての差は大きい。

 しかし、彼らに続いて突入した俺達が、それが間違いだったと気づくのに時間は必要なかった。


 彼らは居なかった。正確には視界の遠くに居る。

 たぶん――彼らは突入して直ぐに逃げ出しのだ。

 それも仕方がない。

 ダンジョンの入口から突入を試みていたのは相手も同じだったのだ。

 視界に入ってきた魔物は前回のダンジョンでの魔物の集団に比べれば大した数ではなかった。

 問題はその種族。

 魔物の殆どがゲームや物語で目にする種族――竜――高位の魔物。

 魔法がある。獣人が居る。神が居る。だとすれば竜が居てもなんの不思議もないのかもしれない。

 窮地に迎えようとパニックさえ起こさなければ意外と人は冷静になれものである。


「くそっ! 今回もこのパターンかよ!?」


 そして――俺の出した選択はダンジョン内で逃げ回る事。

 もちろん館へ戻る事も選択肢だっただろう。

 しかしその選択は一時しのぎにしかならない。結界が破られて館に雪崩れ込んだ、こいつらと戦う事になる。ダンジョンから外の世界へ出すと言う最悪の事態を避ける為に、タンドル達も魔物を引っ張り出すように奥へ奥へと逃げているのだろう。


 残されている竜はタンドル達の逃走に着いていけなかった奴ら。

 見た目にも小さく一匹辺りの脅威が低いと見られる雑魚のみ。

 実際にサードアイで確認してもレベル10を超えるような敵は残っていない。

 数が少ないとは言えなくても強さ的には何とかなる相手『ライダードラゴン』。ただし、それは相手が『空を飛んでいなければ』の話。つまり相手は竜は竜でも飛竜である。


 現状、上空を飛ぶ敵を相手する手段がない。

 遠隔攻撃武器は誰も装備しておらず、ハイネは魔法が使えず、クロス自身が多少魔法が使えるようになったとはいえ、魔力零のハイネからブーストしている状態では、魔力は自身のレベル1による能力のみ。当然、実用レベルとは言い難い。


 だからこそ「みんな! ここはとりあえず逃げるぞ!」という選択。

 俺の選んだ選択に誰も反対はしない。返事もなく走り出す。もちろん逃げる方向は強敵を引っ張っていったタンドル達とは逆の方向。

 

「不味い……全く隠れられるような場所がない……!」


 このダンジョンは前回とは風景が違う。

 あそこを『草原と森のダンジョン』だったと評するなら、ここは『岩と山のダンジョン』。上空から視界を遮る物は少ない。


「クロスさん! このままでは状況は不利になる一方です! なんとかしないと!」

「今考えている! 今は逃げる事だけを考えてくれ!」


 希望の光など見えてもいない瞳と相反する様に希望に縋り付く言葉を吐く口。両方が自分の物である事が嘘のようだ。

 ただし、その現状が長く続く事はありえない。

 魔法が使えないとはいえレベル15のハイネ。そこからブーストしている自分。人狼であるミスト。この3人は体力にはまだ余裕があるが、ただの村人だったライブラには厳しい状況。殿をつとめるクロスからは特に、その様子が確認できた。


「もうダメ……です。お、いて、逃げて、くださっ、キャッ!」


 ライブラのギリギリで吐き出された言葉は最後まで続けられなかった。

 最後の言葉を受け止めたのは岩の大地。

 彼女は地面に向かったまま動きを止めたのだった。


「くっ! 抗戦するぞ!」


 これ以上の逃走劇は無理だと判断。

 こちらから先制する事は無理でも、仕掛けてきた相手にカウンターを仕掛ける事は出来るはず。


「ハイネは2人の護衛を! 俺が迎え撃つ!」

「分かりました! クロスさん、気を付けてください!」


 ハイネは新しく手に入れた武器を構える。

 それはアマルの館から拝借した刃付の鉄甲。

 彼女が過去と杖を捨て、格闘家としての自身の才能を正しく理解して選んだ未来。

 ただし、今回の敵は明らかに分が悪い。その選択でもっとも厳しい敵と言って良い。自然とクロスが前面に出るしかない。とはいえ、そのクロス自信もナイフとハーフブレード。今ほどハイネの魔法が失われたのを悔やむ事はない。


「す、いませ、んっ」


 落ち着きを見せない呼吸の中で謝罪を優先するライブラの優しさに応答している暇はない。


 飛竜達はハンターだった。

 こちらの攻撃が届かないギリギリの範囲までしか近寄らない。

 それは隙があれば攻撃に移る事が出来る行動。緊張状態を解く事が出来ない強者を狩るための弱者の持久戦法。こちらの弱点を見事に見透かしたやり方。


「このままじゃ、こっちがやられるのは時間の問題だ! 何か打開策はないのか!?」


 俺からの要望に応える声はない。

 圧倒的な力の差があるわけでのないのに、相性の悪さでここまでの窮地に陥るとは今後の良い勉強になったと思う。ただし、今後が訪れればだが。


「俺が残る! 3人は先に逃げてくれ!」

「1人で残るなんて無謀です!」

「ブーストのおかげで俺が一番能力はある! 俺が残るのが一番可能性を残せる! だからっ……」


 その言葉を最後まで続ける事は出来なかった。

 それは戦場が急激な変化を迎えたから。


「あれれ?? なんだか飛竜たちが引いていきますよ……? 何かあったのかな~?」


 緊張していた空気も感じさせない人狼娘であるミストの言葉は静寂が訪れ始めた場で響いた。


「外は夜だし、実はこのダンジョンにも夜が訪れるから……でしょうか?」


 ハイネの意見は俺も思った事だ。こちらの世界でも空を飛べる生き物は夜目が効かない種類も多いのかもしれないと。飛竜もその類ではないかと。しかしそれをミストの言葉が消し去る。


「いえ、このダンジョンに夜はありませんよ~? いつでも光に満ちているダンジョンですから~」

「そ、それじゃあ、あの飛竜たちはなんでいなくなるんですかっ!?」


 ようやく恐怖が薄れた事により、落ち着きを取り戻し始めたライブラが全員が心にある疑問を後押しする。


「長期戦になっても俺達には勝てないと判断した……いや、それはないか。あのままだったら間違いなく、やられていたのはこっちだ。だったら……」


 状況を検証する4人に答えを運んできたのは地面に伝わる振動だった。

 そして――全員が『それ』の近づいて来る方向へと向きを変えるのだった。

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