予定は未定の未来形
ロビーに集合したのは異神アビスを除いた5人。
そして現状の説明を口にしたのは、いつもは積極性を見せないルルだった。
「先ほど、アマルの館から救援の依頼が届きました」
「救援だって? どういうことなんだ?」
何となく想像がつくものの、初めて聞いた言葉を確実に理解する必要がある。それは最初のダンジョンで学んだ、ある程度の慎重さ。
「あの館の『支配人』と主力の『住人』は現在、毒に侵されているそうです。どうやら管理するダンジョン内で受けた攻撃が原因らしいのですが、動ける状態ではないようです。しかし彼らの館はダンジョンからの脅威に今も晒されています。誰かがダンジョンに入り魔物を駆逐して弱体する必要があります」
「ちょっとまて。なんでダンジョンがそれ程の脅威になるまで放置されていたんだ?」
俺からの質問に返答しようとするルルは、いつもと違い重い表情にも見える。
「あの館の現在の支配人は世代交代したばかりです。前支配人は私の父の親友でもありました。残念ながらダンジョン内で命を失い、今の支配人に交代したのが1年前。彼も頑張ってはいたようですが、ギリギリの状態で何とか留まっている状態だったようで……。今回は支配人本人と主力の住人が倒れた事で崩壊の危機にある様です」
ルルは彼と言った。そこに一瞬の親しみを感じた。
つまり、現在の支配人はルル自身の知り合い。
「それで俺達に救援を求めてきたのか? でも俺達では大した戦力になれるとは、とてもじゃないが思えない」
現状の総戦力は4人。
しかも魔神であるウォペを他の館へ連れて行くわけにはいかない。
残りは3人。
加わったばかりのライブラは低レベル。
残りは2人。
俺とレベル15のハイネ。
どこか吹っ切れたような表情を見せつつはあるが、今は魔力のない元魔女である事を考えると、その力は悪い意味で未知だ。
それは自分だけの考えではなく同じである事の証拠にメンバーの視線はルルに向けられ、その返答を待ち構えている。
「今回は状況が状況なだけに、このアビスの館以外にも救援が出されている様です。恐らく、こちらは討伐隊としてではなく、他の役目が準備されていると思います」
親交があった館同士であれば、このアビスの館も支配人の交代は伝わっているはずである。
そう考えればこちらの事情にあった役目が用意されていてもおかしくはない。
ただし、その説明から考えると複数の支配人が顔を合わせる事になる。
自分以外の支配人など知らないに俺としても良い経験になる事は間違いない。
「俺としても他の支配人に会ってみたい。今回はその話に乗ってみるのもいいかもしれないな。ウォペはどう思う?」
「うむ。役割というのが少々気になるが、お主にとっても良い経験となるじゃろう。悪くはないと思うぞ」
「俺と同じ考えか。ライブラはどうする? 俺達は君の弟を助けたとは言えない。来る事を強制はしない。着いてこないからと、ここから追い出す気もないから安心して答えてほしい」
ライブラは強制的に連れて行かれるとでも思っていたのだろう。
予想外の言葉に戸惑いながらも一口、水を含んだ様な仕草を見せると口を開いた。
「確かにここに弟はいません。ですが、クロスさんたちに助けに行って頂いた事は間違いがありません。それに弟が無事なら帰ってくるのを待つ為にも、この館のお世話になりたいと思います。もちろん私だけが何もせずに待つつもりもありません。冒険に出て成長する事で自身と弟の身を守れるようになりたいのです」
瞳には決意のような輝きが見て取れる。
それはきっと彼女なりに悩んだ答えなのだろう。
「君がそう言ってくれるのなら、冒険者として君を見る事にする。ダメだと思ったら言ってくれ。さっき言った通り冒険に出ないからと追い出すつもりはない」
「ありがとうございます。そうならない様に頑張りたいと思います」
問題はもう一人の方だ。
一度折れてしまった彼女が100%気力が戻っているとは言えない。
しかし――
「私はクロスさんが、それでいいと思うならついていきます」
彼女は俺の瞳の迷いを拭うように、こちらからの言葉を待つ事無く意思を表す。
「君の力は確かに必要だ。でも……本当にいいのか?」
「はい。クロスさんの言葉を信じる事にしたんです。『私を置いていかない』『一緒に進んでやる』って言ってくれた事を」
ハイネの言葉を聞いた女性陣は一斉に顔を染め上げる。
「お主! そんな事を言ったのか!?」
「お2人は、そういう仲だったんですね」
「クロスさん……随分と大胆な告白を……」
それぞれから向けられる視線と言葉が痛い。
発言した事は否定できないが完全なる大きな勘違いである。
「ちょっと待ってくれ! ハイネ! なんで1部分だけ取り上げるんだ!?」
「一番、心に響いた言葉を取り上げただけです。私の心の底まで響いたんです。ポッ」
「いや、最後の『ポッ』は可笑しいだろ!?」
「浮気か!? 浮気なんじゃな!? どうなんじゃ!?」
夜のカーテンが降ろされた世界で、小さな光を灯すように4人の女性と1人の支配人の声が響く。それはまだ頼りない三日月の様な光だった。




