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支配下で支配人がダンジョンを支配する  作者: 雪ノ音
異界の空
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末路の先

 収監所へ続く道は吹き抜ける風を冷たく変化させる。

 それは体感的な物ではない。

 町の中心から十分過ぎる距離を歩いた、ある区間からの風景がそうさせる。

 

「ひどい……」


 顔面を塗装したのではないかというくらいに蒼く変化させたライブラが呟く。 

 その意見に俺も賛同する。

 ハイネも表情は変わっていないものの固い気がする。

 特に視線をその風景には向けまいとしている事は理解できた。

 つまりは単に現実から目を背けているだけだろう。

 残り2人のルルとウォペは変化を見せない。

 まるで町の中を歩いている時と変わりがない。


 今、俺達が歩いているのは処刑された者たちの晒す為の場所。

 この区間を進んだ奥に収監所がある。

 町の中心から、かなりの距離がある理由はこれなのだろう。

 なんと言っても見た目以上に『臭い』が人々の居住を拒んでいる。


 臭いの元は両脇に吊るされた罪人として処刑された人間だったもの。

 店で整理整頓された商品の様に、ここに来る人間達に『見せる為』に陳列された肉塊だ。

 その数は20体ほどか。

 人間だけではなく、明らかに背の小さな種族や人間の俺にはない物が生えた者までいる。

 もちろん、男と思われる遺体もあれば、女と思われる遺体もある。

 共通する事は満足に部位が揃っているものは見られない。いや、揃っていても原型を留めていない。

 それは単に処刑だけを行ったわけでない事を現す。

 

 ある者は指が全てない。

 ある者は皮膚を全て剥がされている。

 ある者は瞳の部分が陥没している。

 ここのあるのは者として扱われたのではなく、物として扱われた残骸と言った方が正解だろう。

 

「収監所っていうのは言葉だけで、処刑と拷問だけをしているような場所の様だな」

「いえ、収監はしていますよ。『1週間程度』ですが」


 やはり、ルルの口調に動揺は感じられない。人間らしさを欠如してしまっているかの様に。


「なぜ『1週間程度』なんだ?」

「処刑は毎週決まった日に行われるからです。ここの並んでいるのは先週分という事です」

「ちょっとまて。毎週って……裁判は行われないのか?」

「ここの収監所は異教徒専用です。異教徒に裁判などは必要ないからです。異教徒である事が犯罪なのです」

「でも異教徒の判定を、どうやって行うんだ?」

「分かる場合と分からない場合が当然あります。ですが例えば、この遺体の足の部分。異教徒が崇める存在の名が刻みこまれています。そちらの遺体は腕に入れ墨で。ライブラさんであれば首輪が証拠となります。そして、その証拠部分が残されていれば、後はどんな『やり方』で処刑しようと問題になりません。与えられた苦しみの量が多ければ多いほど、次の時世で正しい神の元に生まれ変われる言われています」


 平和な時代。宗教の強制もない。そして何よりも科学が中心の世界で生まれた自分には想像もつかない話。それは初めて本当の意味で異世界に来たという事を実感させられた瞬間だった。


「おれはこの『国』の人間じゃない。俺が間違っているかもしれない。だけど、納得は出来ない! 狂っているとしか考えられない!」

「クロスさま。納得できるかどうかは関係ないと思います。これがこの『国』の現実なのですから」


 その言葉に俺以上に動揺したライブラが座り込んでいた。

 無理もない。吐き気と怒りが込み上げた俺とは違う。

 彼女は物として扱われる立場側なのだ。

 そして捕まった少年は後一段上がるだけで、ここに並ぶ存在となる。

 この状況を見て正気で居られる異教徒の方が少ないだろう。

 つまりは異教徒として生きる事への絶対的な恐怖による脅迫と抑止力。


「すまないがウォペ。ライブラと2人で館に戻っていてもらえないか? 魔神と異教徒。ばれない様に出来るとは思うが、この惨状を見ると自信が揺らぐ。安全の為にも頼む」

「そうじゃな。どうやら、その方がよさそうじゃ。まあ、またアビスの奴に何か小言を言われそうじゃが、全て貴様の責任で構わないのぅ?」

「ああ、それで構わない。アビスが何を言っても気にするな。空いている部屋に案内してやってくれ」

「しかし……元魔神である私に、異教徒であるライブラか。とんでもない館になってきよったな」

「まあな。望んだ状況じゃないが……俺としては、それも『悪くはない』と思っている」

「なんと! それは私を嫁として認めたという事か!?」


 漫才の様に話す2人の会話をライブラが耳に入れている様子はない。それは会話の中で「元魔神」という言葉に反応しなかった事からも分かる。それは、これ以上は足を進めるのは難しい事を示している。


 結局、軽くならない空気に見切りをつけて、俺は手だけで「もう行け」と対応を拒否する姿勢と指示を出す。

 その対応に落ち込みながらも、ライブラを連れて素直に館へ向かうウォペ。

 もしかすると冗談だと思っていたのはこちらだけで、彼女は本気だったのかと思ったりもしたが、今はそれどころではない。

 ただ、こういう姿を見ると異神アビスよりも、ウォペの方が余程に親しみを感じる。いや、というよりも人間臭さすら感じる。異神と魔神。2つの神の違いとは――?


(異神と魔神について、もっと良く知るべきなのか?)


 1つの疑問を心に残しながらもクロスは収監所へと足を進める。

 連れ去られた少年と連れ去った役人、そして者を物へと変えた奴等も待つであろう収監所に。


 通り過ぎたはずの背後から自分達に語りかける、悲しい声の囁きが聞こえた気がした。その正体がただの風の音である事を願うのだった。

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