表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
支配下で支配人がダンジョンを支配する  作者: 雪ノ音
異界の空
27/46

それぞれの意思

「クロス。お主、今の話を聞いて感じるところはなかったのかのぅ?」

「感じる? つまり十分な代償を払えるという事か?」


 ここまでの話から考えれば、目の前の少女が出来る事と言えばステータスを観る事が出来る事くらい。しかも、それは俺自身のスキル『サードアイ』よりも低い能力である事は判明している。当然ながらこちらの利益に叶うはずがない。


「この女の力は貴重。使い方次第じゃ。もちろん、そのままでは使えるとはいえんがのぅ。例えば、お主がダンジョンに出かけている間も人材登用に従事してもらう事が出来る。これは大きいぞ? お主は館から遠くに出かけるのは難しい立場じゃ。つまりは登用できる範囲が限られてくる。しかし、彼女がその役目を担ってくれれば優秀な人間を広域から集める事も可能じゃ。更にダンジョンでも戦いに集中する、お主と別に全員の状況を把握していられる後衛が居る事はパーティーの安定にもつながるぞ?」


 言われてみれば確かにその通りだ。自分の弱点を補う事が出来る。

 しかし、そこには問題が最低でも2つある。


「その話は、あくまでもこの子が『館の住人』になる事が必要になってくる。しかも、明らかに戦った事もないような人間を引き入れる事はどうなんだ? 更に問題はレベルさえも見抜けないんじゃ状況把握も無理だろ?」

「はぁぁ……。お主は抜けておるのぅ。私の知識が間違っていなければ、自分自身がレベルが上がった時に観れる部分が増えたのではないのか? となれば、この女も同じように観る力が昇華すれば同様の事が出来る可能性は十分にあると思うがのぅ。それに『館の住人』になるかどうかは、お主が決める事ではない。この女が決める事じゃろ?」


 スキルの昇華。レベルアップにより確かに自分も観える範囲も内容も増えた。魔法やスキルが昇華するように彼女の力もそうなるのは、ほぼ間違いない。しかし――


「この子を戦いに巻き込むのか? 助けてやるから戦いに身を投じろと言うのは本末転倒じゃないか?」

「私は構いません。それが条件だと言うのであれば受け入れます。どちらにしても私達には行くところなんてありませんから……」


 俺の迷いは本人により振り切られた。

 特に「行くところがない」という言葉を吟味する。

 少女たちはこの町の人間ではない。そして質素と言うレベルを超えている服装。異教徒が危険を冒してまで町に入ってきたのは、それなりの事情があるという事。


「本当にそれでいいのか? 館の住人というのは命を失う危険もある。ここにいるハイネも俺も危険な目にあったばかりだ。役人に捕るよりも厳しい状況になる可能性もあるぞ?」

「クロス様。それはどうでしょう?」

「どういう意味だ?」

「この町で役人から逃げ出すのは、命を賭けるだけの必要があるという事でもあるのです」

「まさか……処刑されるとでも言うのか?」


 ルルから返答はない。しかし、強い視線と無言が十分な答え。


「たかが異教というだけで殺されるなんて事があるのか?」

「では、クロス様の『国』ではそのような事がなかったのですか?」


 その言葉に速答出来ない。

 確かに自分が住んでいた『国』では、そんな事は行われない。しかし、どうだろうか?

 歴史の中では信じる神の違いにより処刑どころか戦争すら起きている。国じゃなく星という単位で考えれば現在も同じことが起きている。つまり違いはない。同じだ。

 歴史が変わろうと、土地が変わろうと、もう1つの世界であろうと、争いの基準は思想の違いと異物への嫌悪感。

 

「いや……俺の勝手な思想だ。忘れてくれ」


 違う返答を期待していたのだろうか。

 ルルの瞳から一瞬、光が消えたようにも見えた。

 ただ、どうにも忘れられそうにない、その光景はしばらく脳裏に残る事になるのだった。


「やはり、難しいのでしょうか。支配人様……」


 役人と揉めるだけでなく、命のやり取りが顔を覗かせる状況にクロスへの不安が増してきたのだろう。

 もはや自身の言葉では説得が難しいと諦めかけたように少女は伏し目がちになっている。


「なぁ、クロスよ。お主、代償や利益とか申しておるが本当はそんなもの求めておらんじゃろ? 本当は助けたくてウズウズしておるくせに周りの事を気にして遠慮しすぎじゃ。リーダーは、お主じゃ。お主が決めればよかろう。他の2人はどうかしらんが、私はついていくぞ?」


 そうだ。俺一人なら、ここまで迷う必要もない。

 ウォペはともかく、ハイネもルルもいる。十分な力があるとは言えない現状で無謀な行動に消極的になっていた。

 しかし、命を賭けた冒険は出来るだけ避けたい。ダンジョンだけで十分だ。

 それに1人とはいえ、ルルには帰る場所がある。

 ハイネだってあるだろう。

 もちろん俺も元の世界に帰る事を諦めたつもりもない。

 つまり、天秤のさじ加減を大雑把には出来ない。


「やっぱり危険は……」

「あああぁぁぁ! お主は! そんな女々しい奴を旦那にした覚えはない!」

「いや、旦那になったつもりは……」

「だまれっ! 頭を使わんか! お主は力での解決しか考えておらんじゃろ!? さっきの換金所で、この町の常識を見てきたのではないのか! 今必要なのは、お主の決断とハイネからの了承だけじゃ!」


 ルルは関係ないのか? ハイネの了承? 町の常識? 換金所?

 そこでウォペの言わんとしている事が繋がり始める。


(そうか! 難しく考えすぎていたんだ!)


「ハイネ! 報酬の支払いをもう少し待ってもらってもいいか!?」

「それがクロスさんの決断に必要なら構いませんよ」

「ありがとう。ハイネ」

「ようやく理解できた様じゃの。しかし私にお礼がないのが気に入らん」


 素直にウォペに感謝するのは癪に障る。放置するのが一番だ。


 しかし参考になったのは事実。

 あの少年は異教徒だからと捕まった。

 それを処刑するのは異端だから、目障りだから、邪魔だから。

 役人たちの行動は、そこに恨みがあるからではない。

 異物をただ排除しようとする行為。それが処刑と言う結果であるだけ。

 異物に価値があるなら、捨てるような真似をするわけがない。

 そして、この町でお金は権力であり、必要な物。

 イコール――


「ああ、理解出来たぞ。『金の出番』だ。つまりは『金で解決』って事だろ?」


 ようやく出た答えはウォペの口元に笑みを生む。納得の答え、正解だったという事だ。


「じゃあ、とっとと、その糞みたいなルールに風穴を空けに行こうか。おっと、その前に君の名前をまだ聞いていなかったな?」


 そんな事すらも聞かずに行動だけ決定してしまった状況に、自身がどれだけ精神状態が曲がっていたか分かる。

 そして目の前の少女も同じように名乗るのを忘れていた事を、今ようやく気づいたように瞳を大きく覗かせている。


「私は……ライブラ。今、この時をもって貴方にお仕えする事を誓う者です」


 それは金と言う滴で役人とルールという岩盤に穴を開ける為に動き始めた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ