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あまり好きになれそうにないはずの換金所から出たクロス達の足取りは軽い。
理由はその手に持つ袋に入っている物のおかげである。
はっきり言えば体感的には重い。
しかし心は逆に軽くなるのが金というもの魅力かもしれない。
たとえ、お金の流れが好きになれそうになくても、やっぱりそうなるのは人の性。お金がなければ生きていけないのも事実である限りは逃れられない道かもしれない。
「しかし、思った以上に良い値段が付きましたね」
ハイネも浮かれている。無理もない。
魔石は全部、下等な魔物とされるゴブリンからドロップした物だ。しかも、最後の戦いのときの物は回収する事よりもハイネの身を優先したため、拾ったのはゴブリンキングからくらい。通常なら換金しても大した額にならないと思っていたが、最後のゴブリンキングの魔石は期待を大きく裏切ってくれた。もちろん、良い意味でだ。
魔石の価格は色と透明度で決まると言うが、ほとんどの魔石が鈍い灰色だったのだが、それだけは灰色と黄色がマーブル状に混ざり合っており、非常に珍しい現象だと高値が付いた。
その額は一家族程度なら1年は不自由せずに暮らせる程らしい。うれしい誤算と言える。
「クロスさんが私の身を優先して、ほとんど拾ってないと聞いたときは足元に地面を感じる事が出来ませんでしたよ!」
「いや、さすがにあの状況で拾っている場合じゃないでしょ。それに後日拾いに行けば問題ないでしょ?」
その言葉は3人を俯かせた。どうやら何か認識が間違っているようだ。
「お主、ダンジョンと言うものを分かっておらん。ダンジョンは人間の血と魔石を食い続ける。それが宝珠が生み出した魔物のなれの果てであろうと『消化』してしまうのじゃ。そうしてダンジョンは成長する。人間と魔物が戦った残骸が栄養になるという事じゃ。だから古いダンジョン程、手ごわくなっていく。当然、それはダンジョンの王達も影響を受けて強さを増すのじゃ」
「ちょっと待て。じゃあ、回収は……」
「恐らく無理じゃな。もう既に食われていると見てよい」
つまりは1000個を超えたであろう魔石を栄養としてダンジョンに与えたようなもの。しかも消滅する運命のダンジョンに。
もし、ゴブリンキングの魔石が高値で取引できていなかったと思うと空笑いが漏れてしまう。
「クロス様。今回は知らなかったので仕方がありませんが、我が館も生活が楽ではありません。今後は『必ず』回収してください」
初めて見る強い態度のルルに、お金は怖い物である事を再認識させられる。
異神連中よりも、よっぽど厄介なんじゃないかと。
とにかく、ハイネに払う報酬のめどは立った事は幸いだった。
「それで、報酬についてだけど……」
その言葉が続けられない光景がクロスのに飛びこんでくる。
「捕まえたぞ! 異教徒の分際で俺達の町に入るとはとんでもねえ野郎だ!」
「この辺の最近の盗みもこいつにちがいねぇ!」
10件先の家まで届きそうな声を荒立てているのは軽装に身を包んだ同じ格好の2人組。その恰好からも町の警備をする役人である事は想像がつく。
「俺じゃない! 俺は今日、この町に来たばかりなんだ! 用が済んだら出て行くから放してくれ!」
役人に取り押さえられているのは少年。
明らかに裕福とは思えない服装に、首に付けられた金属製の首輪の様な物が光っている。
「なんだ、あれは?」
「あの首輪は……テスカポリオカの信者の印。この町では異教徒と言われている人達です」
「はんっ。人間達のくだらん認識祖語による偏見の象徴の言葉だのう。いや、異神達が教徒をそういう方向に誘導しているのか、それとも人間達が自分の都合の良いようにルールをしいてるのか。どちらにしても、異教徒どころか魔神である私がここにいるんだが……もごっ……なにっ……する!」
ハイネの言葉を否定する様に町の大来で、とんでもない事を口にするウォペの口を、ハイネとルルが封じ込めにかかる。
確かに人間の敵と言われる魔神がここに居ると聞いたら町中が大混乱になる。
そうなれば異教徒どころでなく、下手をすれば一緒にいる自分たちの身が危険である事は火を見るより明らかだ。
ウォペは一般的には低レベルと言われるハイネと、本当にただの一般人のルルに抑え込まれて、もはや抵抗する事さえ叶わない。外の世界での大幅な弱体はレベル15+一般人にすら対抗する事が出来ないという事だ。その姿を見ると本当に彼女が魔神だとは思えない。逆にウォペが苛められているかのようだ。
「ともかく関わらない事です! もう行きましょう!」
ウォペを羽交い絞めにして口をルルに塞がせたままで、この場を去る事を提案するハイネに鬼嫁という言葉が浮かんでくるが「断じて俺は婚姻したわけではない」と自分を戒める。その話が出れば必ず、ウォペとの婚姻話もついてくるのだから、こちらも危険そのものだ。
そんなドタバタ劇を繰り広げる4人の前に、1人の少女が膝を着き頭を垂れてくる。
「突然ですいません! 私達を助けてはもらえないでしょうか!?」
俺はその言葉に、また1つ厄介事に巻き込まれるのを覚悟したのだった。




