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支配下で支配人がダンジョンを支配する  作者: 雪ノ音
異界の空
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出会いへの道

 ギルドに到着したクロス達を待っていたのは、ある意味で道中の予想を裏切る結果だった。


「えっと……アビスの館の支配人のクロス・ロード様ですね? 先日頂いた募集に5人の方の応募が届いてますよ」

「えっ!? そんなにですか?」


 女性人3人からの厳しい話を聞いて、零の可能性も考えていたのに5人は多いと言ってよかった。

 ただし人間とは悲しいもので予想以上に良い結果が出てしまうと、それはそれで不安を感じてしまうものだ。


「支配人交代直後にダンジョン攻略という記録的なスピードでしたから、それだけに大きな注目を集めたようですね。実際に応募があったのも今日の朝に集中しております。えっと、こちらが応募用紙になります。ご確認ください」

「ありがとうございます。では少々お借りします」


 受付嬢から手渡されたのは人数分である5枚の用紙。

 そこには応募してきた5人の情報が記入されていた。

 つまりは、これを見て判断しろという事だろう。


「私にも見せいー!」

「いえ、次の攻略は私とクロスさんで行くんです。優先権は私にあるはずです!」


 道中、息が合うところも見せていたが、元魔女と元魔神の2人は基本てきに折り合いが悪い事は間違いない様だ。

 それを冷静に窘めて提案をしようとする一番若く小さなルルが、一番大人びて見えるかもしれない。


「あのねぇ、優先権とか考えてないから。とりあえず時間はあるし、ゆっくり吟味しよう。まずは――」


 1人目

 種族  『ドワーフ』

 職業  『戦士』

 得意武器『片手斧』

 レベル 『13』

 一言  「力には自信があります」


「「「「 普通すぎる 」」」」


 見事に4人の言葉は揃った。

 面白味はないが無難。

 メンバーに1人いれば便利ですよ的な位置取りとも言えるかもしれない。


 2人目

 種族  『人間』

 職業  『剣士』

 得意武器『剣全般』

 レベル 『10』

 一言  「将来有望!」


「「「「 自称! 」」」」


 自分で将来有望と言っている人間ほど怖い事はない。

 今後もこの剣士に雇い主は現れないかもしれない。


 3人目

 種族  『ハーフエルフ』

 職業  『精霊使い』

 得意武器『無し』

 レベル 『7』

 一言  「夜のアフターも……」


「「「 この字体とコメント 」」」

「女じゃな」「女性ですね」「不潔です」

「「「 却下! 」」」


 俺の意見など受けてくれる様子もなかった。

 ハーフエルフなんて世の男性の憧れの存在。

 是非とも……やめておこう……。女性人3人の眼が怖い。


 4人目

 種族  『ケットシー』

 職業  『シーフ』

 得意武器『ナイフ』

 レベル 『2』

 一言  「いざ、冒険に旅立たん!」


「うむ、ケットシーか……」

「可愛いですよね」

「シーフが1人いると冒険が楽になると言われています」


 ようやく、まともな意見(?)が出た気がする。

 ただ、ケットシーというと猫のような亜人だと思うのだが、どうにもイメージが湧かない。特に最後のルルからのシーフを、お勧めするような言葉は気になった。


「二足歩行猫=ケットシーってイメージで間違ってない?」

「そうですね。猫ほど小さくはないですが、間違っていないと思いますよ」

「それじゃあ、シーフって何をする職業なんだい?」

「ダンジョンで手に入るアイテムの鑑定、管理、ダンジョン外での売買交渉にも長けているとも言われています。ただし、レベル2というのが気にかかるところですね」


 確かに1人いれば役には立ちそうだ。しかし、ルルが心配する様に『レベル2』は厳しいと思える。

 こちらがレベル的に心配のないパーティーなら問題にならないかもしれない。

 ただ今の状況では微妙と言わざる負えない。


「ルルの言うとおり、自分の身を最低限守れる奴でないと難しいな」


 5人目

 種族 『ノッカー』


「あれ? 種族しか書かれてない。どういう事なんだ?」

「ああ、その方はですね……」


 俺の疑問に答えるように受付嬢が言葉を挟む。何やら事情があるのようだ。


「あそこです。戻ってきました。書いている途中でトイレを我慢できなくなったみたいで……」


 何やらハイネに通じるものを感じるが気のせいだろうか。

 俺の心配を余所に5人目の応募者は応募用紙を持つ俺に気付いたように駆け寄ってくる。

 容姿は相当に若く見える。

 ルルも幼く見えるが、そのルルよりも頭一つ分は低い。ショートの栗色の髪が更に幼さを強調している様すら思える。問題は性別。幼さのせいなのか、中世的すぎる顔立ちからはハッキリと判別が出来ない。故に出てくる感想は――


(まだ子供じゃないか?)


「これはこれは支配人さま! 僕は貴方様がその手に持つ応募用紙にある人物、ノッカー族のノエルと申します。貴方のお噂はお聞きしております。『スリーデイズ』『ラッキースター』『常識の破壊者』。出来るならば、僕もその字名の下に加えてもらえる事を願います」


(本当にそんな字名を付けられているのか?)


 俺の疑問は当然。

 こちらに召喚されて4日程度で大層な名前を付けられるとは思っていない。

 きっと盛られているのだろう。


「支配人さま。戸惑われるのは仕方がありません。ですが、変わったばかりの新人支配人が、たったの3日間でダンジョンを攻略したと言う評判は、この町中の噂になっておりますよ。色々な噂が飛び回るのは当然の結果ですよ」

「そうなのか?」


 自分の知らない所で噂だけが大きくなっていく事が、これほどに気持ちが悪いものだとは初めて思い知った。


「さすが私が見初めた男!」

「私の未来の相手として頼もしい呼び名です!」


(でもレベル1だけどね……)


「えっと、君の情報が未記入で困っていたんだけど、残りの分も教えてくれると助かる」

「かしこまりました。職業は『自然師』 得意な武器は『ボーガン』になります。レベルは『5』 少々ですが『仙術』も使えます」


 もちろん『仙術』なんて分からない。

 職業の『自然師』ですら未知なのだから。

 その心情を見透かしたようにルルが口を開く。


「『自然師』とは精霊族だけが就く事の出来る職業です。私も知識しかありませんが、自然の色々な物を意のままに操る事が出来るらしいです。その力は伝説級のレベルになれば山を1つ動かす事も出来るとか。そこにいるノエルさんのレベル5で、どこまで出来るかは分かりませんが魔法使いに近いと思って頂くと分かりやすいかと。ただ『仙術』については余りに使える者が少なく、気に関する力としか聞いておりません」

「すごいですね。そちらのお嬢様の説明でほとんど当たっています。たぶん、実際に見てもらわないと分かりにくいとは思います」


 遠まわしに試しで雇ってくださいと言う言葉。

 見た目と違い、油断のならない相手である事は分かった。


「まてっ! 私から大事な質問がある!」「あ、私も私も!」


 既に俺には、その質問の内容が読めてきた。


「「君は男の子なの!?」」


(やっぱりか……)


 ハイネとウォペは選択の基準がずれ始めているが、訂正する勇気はなかった。

 ノエルからの返答に安心を見せる2人の姿に、恐妻家という言葉が脳裏をよぎったも仕方がない事。


 結果的に、この日は保留と言う形にしてギルドを後にしたのだった。

 内心、面白そうな力を持っていそうな、ノエルを雇う事になるかもしれないと予感を心に残しながら。

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