1章 エピローグ
今朝の体調はだけは、とても良いと言ってよかった。
短い時間だったと言え、久々の館のベットでの睡眠はそれほど効果を発揮した。
しかし、心労については最悪と言える状況だ。
22歳と言う若さで心労について考える事になるとは思いもしなかった。
原因は多数ある。
ルルの手当ての結果、ハイネの胸の傷は回復に向かった。
館で休めば回復効果の増幅するらしく、止血作業をするだけで難しい事ではないそうだ。
問題はそれ以外。
レベルドレインの魔法が精神まで蝕んでいた。
ナイフの持つ魔法無効化の力では完全に消し去る事が出来なかった。
その状況から脱するために『俺はレベル1』に戻った。
異神アビスは直す事は可能であると言った。
ダンジョンを攻略した褒美として願う事は可能だと。
ただし、魔神討伐をしてではなく、ゴブリンキングを倒しての攻略では功績が足りないと。
そして不足分は俺のレベルで補う事になった。
ドレインされた分のレベルを戻す事でハイネは回復するはずだと。
つまりは今回の功績で、その「レベル移行」をしてやるという意味。
その話に迷う事無く俺は頷いた。
結果、ハイネの命は助かった。
俺がレベル1になる事とハイネ自身はナイフの無効化の影響から『魔力を持たない魔女』となりながらも。
そう。俺はレベル1になり、ハイネは倒れる寸前のレベル15になっていた。
総合的にはレベルが上がっているのに、戦力はダウンしたという事。
しかし、後悔はしていなかった。ダウンしたものはアップすればいい。失うよりはマシだから。
そして、本当の心労の原因はこの後にあった。
目を覚ましたハイネの視界の眼に前にあったのは魔神ウォペの顔。
ハイネは引き攣るような悲鳴を上げた。
冷静さを取り戻した後に説明を聞いた彼女は驚きと怒りを見せた。
驚きはハイネ自身が意識を失っている間に、ウォペを館の住人として受け入れ、そのブースト効果を得てダンジョン攻略がなされた事。
怒りはウォペの口から漏れた、俺との婚姻について。
もちろん俺は全力で否定した。「大きな行き違い」だと。
納得しないハイネから、この後に突きつけられた責任問題が更に俺の心を蝕んだ。
「クロスさんは私の大事な下着を見た上に大事な秘密も知ってしまいました! 更には私を傷物にしたのです! こんな傷物の私を娶ってくれる男性がおりましょうか!? 責任を取って私を妻に迎える事を申し出ますっ!」
さすがに一日で2人からの婚姻話は強烈だった。3日間のダンジョンでの戦いを忘れてしまうくらいに。
本妻の座を巡る戦いは朝日が昇る少し前まで続いた。俺の意思と関係なく。
この日、一つ心に刻まれた事は「種族がなんであろうと女性は怖い」という事だった。
◇◇◇
ここは神々の集まる『光の間』と言われる世界のどこかにある空間の狭間。
何人もの影がそこで語らっていた。
もちろん、その影の正体は神に他ならない。
「アビスよ。なかなか面白い人間を召喚したものだな」
「十分に厳選したつもりですから、あの程度はやってもらわなければ困ります」
「しかし、初めて入ったダンジョンをそのまま攻略してしまうのは、かなりの異例だな」
「そうでしょうか? 過去にもなかった事ではないと思いますが?」
「いやいや、レベル1の支配人が、それを成し遂げるとは聞いた事がない」
「その通りだ。アビスよ。あり得ないと言っていい出来事だ」
「それに、あの支配人は魔神ウォペを館の住人にしたと聞いたぞ。これは大きな問題ではないのか?」
何人もの神に詰め寄られながらも、アビスのポーカーフェイスは崩れない。
「たかがレベル20そこそこの魔神など問題にするほどではないでしょう。それに十分なコントロール内ですからね。もう少し見物していて頂けると助かります」
神々たちはアビスの言葉に頷きを見せ、1人、1人、また1人と『光の間』から消えて行った。
最後に残ったポーカーフェイスの神は「まだまだ、これからです」という言葉だけを残し『光の間』と自身の姿を消し去った。
支配下で支配人がダンジョンを支配した。
ただし、物語はようやく1つの終わりを迎えただけだった。
おかしいですね。
当初の予定では主人公クロスがこんなにモテル予定はなかったのに……。
出来る男の特権なのでしょうか?
とにかく、次回は二章に入ります。
またもやレベル1でダンジョンに突入する事になるクロスに何が待ち受けるか楽しみにお待ちください。