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支配下で支配人がダンジョンを支配する  作者: 雪ノ音
初めてのダンジョン攻略
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異神と魔神

 ここは馬鹿らしいくらいに広大な草原の広がるダンジョン。

 知らない人間が見れば、どこかの田舎で見た覚えがあると感じるくらいに、その眼に入ってくる姿はダンジョンとは思えない、のどかな風景。


 ただし、この場所で起きている状況は静かな時間とはかけ離れている。


 手の届く場所を自身の体よりも大きな炎の塊が通り過ぎていく。

 しかし、それに視界を奪われている場合ではない。放った奴は次の準備を整えている。

 相手との距離は30mはある。

 とてもじゃないが詰め寄って阻止出来る距離じゃない。


 俺の右手に握られているのは剣と呼ぶには少々短い、ハーフブレードと呼ばれる部類の武器。こんなもので何とかなるような状況でもない。


 反対の左手にも武器は持っているが、残念ながら右の得物よりも更に短いナイフである。不思議な青白い光を身に纏っている刀身が魔法の武器である事の証拠。

 これが魔法無効化の効果を持っている防御重視の武器と言えるのだが、さっきの様に範囲の広い魔法となれば、無効化するレベルを超えている事は間違いない。刀身以上の範囲魔法は無効化できないと言う、微妙な性能。


 つまり回避するしかないのだ。


 現在、危険な状況ではあるが自己紹介をしておこう。

 俺の名前は『十文字 道夫』、この世界では『クロス・ロード』と名乗っている。

 何時間か前までは近代社会で会社員として生活していた。

 ただ、ちょっと運が悪く巻き込まれた一般人。


 そんな俺の目の前で、魔法による攻撃を仕掛けてきている奴は『魔神』と呼ばれるダンジョンの主。名前を『ウォペ』と名乗っていた。討伐すべき目標であるが、逆にやられてしまっては何の意味もない。


 ここまで聞いた人間なら想像が出来るだろう。

 俺は『レベル1』である事に。

 弱体化しているダンジョンであり、レベル1の自分が経験を積むには丁度良いと、ダンジョンを管理する館の異神『アビス』から聞いていたのだ。

 そのつもりで来てみれば、この状況である。


「くっそがっ! どこが経験を積むには丁度いいだっ!?」


 アビスの奴だって、予想していなかったのかもしれない。

 ダンジョンの入口に付近に、主であるはずの魔神ウォペが隠れているなど。


 ダンジョンへ突入すると、見た事があるような風景に釣られて草原へと歩み始めた、あの時、入口を塞ぐように背後にウォペは現れたのだ。

 最初に思ったのは、なぜこんなところに紫色のロングヘアーを揺らす、露出の多い服装の美女が居るのかと言う戸惑い。

 しかし奴は名乗るだけ名乗ると、こちらの困惑すらも楽しむ様に攻撃を仕掛けてきた。そして今に至る。


「クロスさんっ! ここは一旦逃げましょう! あちらに見える森に!」


 冷静に後退を促すのは、このダンジョンに来る前にうちの館に冒険者としてきたばかりの『ハイネ』だ。

 黒髪のショートヘアの幼さ残る、可愛いと言って差し支えのない少女である。

 大きな赤いフードにすっぽり包まれている姿だけでも、彼女が魔女である事は想像がつくだろう。

 彼女も冒険者としては初心者らしいのだが『レベル11』である。

 つまりは基本的には俺よりも強い。

 俺が『支配人』としての『権限スキル』がなければだが。


 この権限スキルは自分が管理することになった館に招き入れた人物の能力をコピー、そして己の力の上乗せするという、ちょっと聞くと、ぶっ壊れにも思えるスキル。自分の成長はもとより、コピー元のレベルアップも上乗せ出る。相手が最初から高レベルであれば初期で無双出来そうな予感さえしていたが、実際はそれほど上手くいかなかった。


 理由はダンジョンを管理する館が他にも存在したからである。


 冒険者に選択肢が与えられている。当然ながら立ち上げ早々の館の支配人などに見向きもしない。誰もが生存率の高い未来を選ぶものだからである。


 そんな中で同じ初心者のハイネと出会えただけでも奇跡といえる。

 彼女が居なければ自分は本当に、ただのレベル1だったのだから。


 ただし、その奇跡も一瞬で吹き飛んだのだ。

 最初の相手がダンジョンの主であり、魔神である『ウォペ』との出会いは悪夢。

 今生きているのは相手が遊んでいるからだと思われる。

 先ほどから紙一重とは言わないまでも、こちらが回避できてもウォペには近寄れない程度の攻撃を繰り返しているからである。

 つまりは完全に舐められている。

 実際に低レベルだから仕方がないとは思うが。

 

「奴が簡単に逃がしてくれるか!?」

「分かりません! でも勝てる見込みのない状況で、それ以外の選択がありますか!?」


 ない。あるわけがない。力の差が明白であれば、強者から弱者は逃げるしかない。それに当然、ここは奴のフィールド。ウォペの支配下のダンジョンだ。そんな簡単には……


「おっと、逃げるつもりかや? かまわん、かまわん。私がここに居る限りは逃げられないのじゃから。ちょっとくらい時間を与えてやろう。それで私をもっと楽しませておくれ」

「何のつもりだ! 何か企んでいるのか!?」

「企むも何も、人間が苦しむ姿は美味だらかのぅ。せっかくだから十分に堪能しないと勿体ないじゃろうが?」

「クロスさん! ここは奴の気が変わらないうちに行動に移すべきです!」


(それしかないか……)


 こちらはレベル1とレベル11。

 館の『支配人』である俺にはステータスを見抜くスキル『サードアイ』で相手の力も確認済。ただ、得られた情報は情報と呼べるもので無かった。



対象  『ウォペ』 種族『魔神』

レベル 『とても高い』

戦闘力 『とても高い』

使用魔法『多数』

スキル 『不明』

そのた 『ダンジョンの守護者』『偉大なる仲介人』



 具体的な数字も力差も不明確。

 ただ、ステータスが分からなくてもダンジョンを守る『魔神』である限りは、このダンジョンで最も強い存在である事は間違いない。


「分かった! ハイネ、逃げるぞ!」


 返事を待つまでもなく、入口とは反対にある森へと走り出す。

 背後から攻撃を受ける可能性はあるが、そんな事をするなら最初から魔法を当ててきているはずだ。

 敵に対して、こういうのは奇妙な感じではあるが、ウォペの遊び心は十分に信用出来ると感じている。それが良い意味か悪い意味なのかは別として。


「あっはっはっはっ! 良い良い! 決断が早いのはきらいじゃないからのぅ! 私は待っておるから何時でもくるのじゃぞ~!」


 とても敵とは思えない再来店を促すような声に、今は何の抵抗も出来ない。

 彼女は強者で俺たちは弱者なのだから……。


 こうして俺とハイネは最悪のダンジョン生き残りバトルをスタートさせたのだった。

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