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支配下で支配人がダンジョンを支配する  作者: 雪ノ音
初めてのダンジョン攻略
14/46

戦線

 ハイネからの言葉の暴力は思った以上に厳しかった。

 馬鹿だの、おかしいだの、裏切り行為だのエトセトラ……。

 この世界の常識も倫理観もよく分からない俺からしてみれば、使える者は何でも使う生き延びる為の選択肢だ。何を言われようとも生き残らなければ何の意味もないのだから。

 幸い、彼女は一通りの言葉を口にすると渋々ながらも俺の願い通りの行動へと動いてくれた。

 その行動とは――


「プロメテウスの力、フレイムシャワー!」


 彼女の魔法は戦場の意識外からの攻撃。

 戦場に居る誰もが意表を突かれて回避する暇すらも与えられない。

 フォルスウスの奴が狙っていたであろう、戦場が拮抗している絶妙なタイミング。そこへ割り込む完璧な奇襲。




 彼女の魔法は俺の指示通りに『魔物の軍勢』へと浴びせられた。

 威力は決して高いとは言えない。

 だが牽制と足止めを目的とした攻撃は見事にその役割を果たしていた。

 それをゆっくりと見る事もなく、俺は魔神ウォペに向かい走り出す。

 ウォペも戸惑う魔物と同じく、状況が掴めずに見た目だけが派手な魔法の花に見とれていた。

 おかげでウォペに気づかれた時には、既にその隣に並ぶように立つ俺が居た。


「よお、久しぶりだな。魔神ウォペさんよ」

「貴様は……館の支配人ではないか!?」

「覚えていてくれたとは驚きだぜ。おっと、敵意を向けないでくれ。あんたと戦うつもりはない」


 自分たちを圧倒して、遊び道具の一部の様に構えていた、あの時の余裕があるようには見えなかった。


「どういうつもりなのだ? 今のタイミングで不意打ちをすれば、致命傷とは言えずとも、それなりのダメージを見込めたはずだが?」

「言っただろう。あんたと戦う気はないって」

「フォルネウスの事だ、貴様も私への武器として利用しようとしたのではないか?」


(奴の名前が出たという事は、俺が予想していた通りの状況か)


「時間がないからな。手短に行こう。俺は奴みたいな男が大っっっ嫌いだ! だから一時的に協力体勢を取らないか?」


 その瞬間の表情はフォルネウスの様な作った表情ではない。神秘的ともいえる、その両目を大きく見開き、目の前の俺が言っている事が理解出来ないかのように固まる。見事な驚いた顔だ。


「時間がない! どうなんだ!?」

「ふ……ふは、ふはははははっ! 面白い! 貴様面白いぞ! 貴様のような支配人を聞いたこともない! 魔神である私に、支配人であるはずの貴様が協力を申し出るとはっ! いいだろう! 貴様の話に乗ってやる!」

「いい返事だ。こっちはアンタほど強くない。だから、しっかり支援を頼むぜ?」

「分かっている。貴様が前線に立て! お前の言うとおりに私は支援に専念しよう。倒す事よりも生き残る事を最優先で行こうじゃないか」

「それでいい! なら、さっそく行ってくるぜ!」


 協力を約束したとはいえ、相手は魔神だ。完全に信用したわけではない。背中を預ける事に不安がないと言えば嘘になるだろう。数日前には殺されてもおかしく相手だったのだから。


 ただし、その気になれば何時でも殺せる相手を不意打ちで殺すような相手には見えなかった。

 フォルネウスに比べれば随分とマシに見えた。一時的に背中を預けられる程度には。

 だから俺は背後を気にせず全力で走り出す。


 魔物達の方は拡散する魔法の炎幕から解放されようとしていた。

 やはり被害はない。奴らも意表を突いただけのコケ脅しの攻撃だとでも思っていただろう。幕の向こうから人間が飛び込んでくるまでは。


「いざ、参る!」


 魔神の居城から、この場所に戻ってくるまでに考えていた事がある。自分はブーストで上がったステータスを理解してないのではないか? 底上げされた力を出し切れていないかもしれないと。


 何故なら、今まで頭の中のイメージが元の世界に居た時のままだった。それは自分自身の体を動かしているというだけの感覚。

 だが、違うのではないか?

 この体には『格闘家の素質』を持つ、『レベル12』のハイネの力も流れている。でも、その力を本当に引き出せていたのかと。そう、この体はもっとやれるはずだと。それは引き出す事が出来るはずだと。


 視界が捉えるは炎幕の切れ目。

 飛び込んだ先に居るコボルトは身動きもとれず固まっている。

 当然だろう。意表を突かれただけでなく、ここまではウォペから魔法攻撃の一辺倒だった状態から、ここに来ての接近戦を挑まれているのだ。

 準備が出来ているわけがない。


 止まっている的に正確にハーフブレードを胸に差し込む。体重を乗せた刃は鞘に収まるように吸い込まれた。

 もちろん、そこで走ってきた勢いを殺すつもりはない。

 体を縦へと前転する様に動き、同時に刃を引き抜く。

 1人殺されても、まだ魔物達は状況を理解していない。

 着地した場所の隣に居る、リザードマンの首筋に魔法を帯びたナイフが突き刺さる。――まだスピードを殺すわけにはいかない。


 更に駒の様に回転して近くのゴブリン達を切り刻む。

 次はナイフを突き立てる。

 次を切りつける。


 イメージは某時代劇で暴れる将軍様。

 一人で何十人もの相手を切り捨てていく、あの無双の光景。


(まだだ! もっと早く! もっと強く戦えるはずだ!)


 もちろん、魔物達もやられてばかりではない。

 十も数えないうちに状況に対応し始める。

 たった一人で飛び込んできた愚かな人間を、その数の暴力で圧殺しようと囲みを作り始める。

 囲みが完成してしまえば武器がなんであろうと、強さが自分達よりも多少上であっても結果は魔物達の有利な状況。


 ただしそれは本当に、こちらが一人であったなら。

 囲みを完成させない様にウォペの魔法が邪魔をする。

 ハイネが意識の分散と連携破壊を狙い魔法を打ち込む。

 即席のパーティにしては上出来である。


 少しづつブーストに体が馴染んでいくのが分かる。

 例えば、アクション映画を見たからといって、見ていた人間がに同じ動きが出来るかと言えば出来るわけがない。

 綿密な計算と予行練習を重ねて、時には仕掛けすらも駆使してアクションの映像を作り出すのだ。

 それを普通の人間が見よう見まねで出来てしまう程度では、映像に迫力も魅力も生まれるわけがない。


 しかし、今の自分にはそれが出来るのだ。

 イメージのままに体を動かせる。

 水の流れの様に途切れる事無く攻撃を繰り出せる。

 それは意識と体がシンクロしていく感覚。

 そして――急激にレベルも上がっていく。

 

 強くなっていくのを感じる。

 相手は100近い集団だ。

 普通なら勝てるわけがない。

 ただ今は、ハイネとダンジョンの王である魔神ウォペの支援が後押しをする。

 ゲーム感覚で言うならパワーレベリング状態。

 2人が自分に不利な状況を排除してくれる。

 それは戦いが進めば進むほどに俺に有利な状況になっていく事を示す。

 魔物達はその数を秒数を数えるように減り続けていった。


 あまりに上手く行き過ぎていたのだ。

 3人が3人共に、このまま行けば戦いの終わりは見えていると勘違いしていたのだと思う。


 だからこそ、戦場に上がる背後からの悲鳴と乾いた物体が大地に落ちた音が聞こえるまで、それに気づかなかったのだ。


 そして戦場に切れるような風が流れた。

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