物語の順序
目の前の男『フォルネウス』を観察する。
態度がというよりも雰囲気がおかしい。
この感じはどこかで感じた気がする。
この世界に来てからの事だ。
「貴様も神なのか?」
そう、この感じは異神アビスや魔神ウォペに会った時に似ている。
「ほほう……。思った以上に勘が鋭いようですね。見た目はかなり人間どもに近い筈なのですがね」
確か見た目は人間だ。特に日本人である俺と似ている。
しかし、特徴が無さすぎる。特徴を言えと言われても丸刈りとニヤケ顔くらいだ。必ず人はどこかに特徴や弱点を持っているものだが、整いすぎていると言うのはここまで不気味だと実際に見ると分かる。
こいつに比べれば多少の感情を表に出していたウォペは人間らしく見えた様に思える。
「人間を真似るなら、表面だけじゃダメだぜ。俺じゃなくてもばれるぞ」
「そうなのですか。今後の課題といたしましょう。そうそう、ちなみに私はウォペ殿や異神達とは少々異なりますよ?」
「異なるだと……?」
その言葉を引き金に≪サードアイ≫を発動させる。
全てを見れるわけでないと覚悟はしていても、この不気味な男、フォルネウスの情報が少しでも欲しかった。
対象 『フォルネウス』
種族 『使徒』
レベル 『とても高い』
戦闘力 『不明』
使用魔法『不明』
スキル 『不明』
その他 『さざ波を誘う者』
(なんだ!? 不明部分が多すぎる! でも、フォルネウス……聞いた覚えがあるような?)
「今、私のステータスを覗きましたね? 私を気にして頂けてうれしい限りです」
「!?」
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。今回、君達はターゲットではありません。必要のない戦いはしない太刀なので」
使徒というものがなんなのか分からないが、本来は敵である事を宣言されたようなもの。魔神ウォペと同じだけの警戒の必要があると何かが警鐘を鳴らす。
「わ、私たちがターゲットではないのなら、今回のターゲットは何なのですかっ?」
「それはですね……例えば、君たちと同じウォペ殿を狙っているとしたらどうでしょう?」
「「はあ?」」
俺とハイネの言葉は見事に重なった。
ここまでの話の内容からもフォルネウスは敵なのだろう。
当然、それは魔神側の勢力を指すものだと思っていた。
しかし、魔神ウォペがターゲットだと宣言するという事は、別の勢力という可能性も出てくる。それは敵の敵は味方だと言っている事にもなる。
「フォルネウスと言ったか、お前は魔神側ではないのか?」
「それにお答えする事は出来ません。しかし、ターゲットが同じなら協力関係を気づけると思いますが、違いますか?」
フォルネウスは完全にステータスが見えないとしても、ウォペに近い強さを秘めているだろう。『レベル4と12』のパーティーの自分たちからすれば有難い申し出に違いない。しかし――
「そのターゲットが、いつこちらに向けられるかもわからない奴と協力しろと?」
「ええ、その通りです。ただ貴方たちに選択権が多く残されているとは思えませんがね」
確かにその通りだ。
その気になれば、いつでも俺達を殺せるはずだ。それなのに協力を申し出る理由が分からない。
迷う俺に向けられるハイネの眼からは、全て任せるという意思を感じる。
(元から可能性が低い道だったんだ。少しでも可能性が広がるなら……)
「分かった。お前の求める協力を聞かせてくれ」
「良い決断です。そうとなれば話は早い。私が提供するものはあちらです」
フォルネウスが指す方向に見えるものは……
「まさか……」
「はい。貴方が見たままのあれです」
そう。それは魔物の集団。
「あの魔物達は、お前が誘導したとでもいうのか?」
「誘導とは少々違いますね。支配下に置いていると言った方が良いでしょうか。ただ、他者の支配下の魔物を支配するのは、かなり労力が必要でしてね。油断すると支配権を取り返されないのですよ」
「そんな事が出来るのか!?」
(だとすれば……)
「おおっと、ダメですよ。私も今はあちらに集中しているとはいえ、それを放棄すれば貴方たちでは勝負になりませんよ。それに、私の力を抜きにウォペ殿に勝てますかね?」
その通りだ。悔しいが、確かにこいつに勝てる未来が来るとは考え辛い。勝ったとしても次は魔物達とウォペが待っている。
「なるほど、確かに選択肢は少ないな」
「でしょ? では話を続けましょうか。魔物達が現在、何かと戦っているのは貴方たちも気づいていますね?」
「もしかして、あれはウォペと戦っているのか?」
「正解です。本当に感が良い人間です。それでですね、貴方たちには背後に回ってもらって、ウォペ殿が弱った所で奇襲してもらいたいのです」
「まて、俺とハイネはレベル的に問題があるんじゃないか? 有効的なダメージを与えられるとは思えないが?」
全く通用するレベルではない事は、このダンジョンに入った時に経験済だ。あれからレベルも大して上がっていない。奇襲に成功したとしても効果を見込めるとは思えない。捨て駒の1つになるのが関の山だ。
「いえ、クロスさん。違います。私の知識が間違っていなければ、魔神ウォペは≪弱体していく≫はずです」
「どういうことだ?」
「その男が支配権を奪ったとしても、あの魔物達は魔神ウォペが生み出した事に間違いはありません。クロスさんが館の支配人であるように、魔神もダンジョンの支配者なのです。つまり、ダンジョン内の魔物の力が魔神の強さに直結していると言ってもいいくらいです」
「まさか……」
「はい。ウォペは自身の力であるはずの魔物を、自身の手で倒して、自身の力の源を消滅させているという自傷行為を繰り返しているのです」
なんという構図だろうか。
自分の味方であり、己の力であるはずの魔物に襲われるからと防衛する。それが自傷行為に繋がるとは悲劇的だ。そしてそれを生み出したのは目の前にいる『フォルネウス』。
「フォルネウス、1ついいか?」
「なんでしょうか?」
「この準備は『何時から』始めていたんだ?」
フォルネウスの口元が歪む。
恐らくは人間の真似をして、失敗した笑いの表情なのだろう。
本人が気づいている様には思えないが、それが尚更に不気味な雰囲気を生み出す。
「もう貴方なら気づいているのでしょう?」
答えとしては十分だった。
糸が繋がっていく。
魔神ウォペはダンジョンの入口で待っていたわけじゃない。こいつに魔物の大半を支配されて、逃げ出したのだろう。そして、最悪の場合は外に逃げる為にアソコに避難していたのではないか。それが魔神にとっては危険な賭けだとしても、選択肢として残す為に準備をしていた可能性は高い。
つまりは俺達を待ち伏せしていたのではなく、たまたま俺達がそこに現れただけなのだろう。
あの時、俺とハイネがウォペから逃がしてもらえた理由は、第三者の不確定要素による混乱を期待していたのかもしれない。
それが逆に敵対者に利用されている状況になるとは、魔神ウォペが可哀そうにも思えてくる。
「あそこに居る魔物達は、このダンジョンの全ての魔物ではないんだろう?」
「そうですね~。さすがに広いダンジョンの全ての魔物を支配下に置くなんて事は無理です。でも半数以上は居るはずです。元々、貴方の『前任支配人』が随分と弱らせていましたからね。もう少しで貴方たちでもどうにかなる状況が訪れるはずですよ」
ハッキリ言って気に入らない。
しかしフォルネウスの言う通り、それは一筋の光。ただ――
「それで、お前に何の得があるんだ?」
「それはですね。『ひ・み・つ』ですよ」
(クソが! 人間ぶりやがって!)
こちらの内心を読み取っているのか、こちらを見つめるフォルネウスの表情から作り笑顔が消えない。
しかし、どれだけ気に入らなくても、こちらの選択肢が少ない事が変わる事はない。
「ああああっ! 分かった! 受けてやるよ、その協力とやらをな!」
それは太さもわからない協力の糸が結ばれた瞬間だった。
異神アビス、魔神ウォペからの使徒フォルネウス。
知っている人は知っている。知らない人は知らない存在かな?
とりあえず、ここのダンジョン攻略も大詰めです。気を引き締め直さないと……