追跡
休む事無くダンジョンの入口であり、出口である地点を目指す。
魔神や魔物にやられてしまえば、永遠に休めるのだ。
逆に無事に脱出が出来ても、やはり休める。
どちらにしても同じ結果なら今は休む時ではない。
とはいえ――
「確認しておこう。俺がレベル4でハイネが12。ブーストを計算に入れても、16と12のパーティーだ。武器は俺はハーフブレードとナイフ。ハイネの方は杖による炎魔法以外は使えないんだな?」
「そうですね、使用して効果があるレベルは炎魔法だけですね」
「それは上手く巻き込めば、複数に効果を与えれるんだったな?」
「ただし範囲を広げればそれだけ、1匹に与えられる効果は減少します」
「つまりは牽制レベルに威力を落とす事になるが、広範囲に切り替えるなんて事も可能なんだな?」
ここからは複数との戦いではなくなる可能性がある。
先ほど見かけた集団は少なく見ても1000体を超えている。
最悪の場合はそれらを相手に立ち回る事も考えなければならない。
その時に有効なのは10の敵を行動不能にする事もよりも、こちらへの集中攻撃を回避する事が大事。つまりは死なない為の戦いを続ける事が必要になってくる。
「状況によっては防御に徹するという事ですね?」
「そうなる。ただし一番の目的は脱出だ。戦いを回避出来るなら、それに越したことはない」
「出来ればそれが一番ですね」
もちろん、そんな状況は限りなくゼロに近いだろう。
考えられる事は魔物達が集合して外の世界に攻める準備をしている可能性だが、これはハイネが、あの魔物達だけでは無理だと否定していた。
しかし、その場所に魔神『ウォペ』が居ればどうだろう?
本来は居城に居るべき奴がダンジョンの出入り口に居座っているのだ。結界をウォペが破壊した後であれば、あの集団たちは外へ流れ込むのではないだろうか?
それは館の崩壊に繋がる。イコール、俺自身の命も危ないという事だ。
「出来れば魔神ウォペと合流する前に何とかしたいが……」
「でも、私達とほぼ同レベル魔物1000体を相手に、普通のやり方でどうにかなるとは思えないのですが……」
当然だ。
しかし、そのまま合流される事は不味い。
指を加えて待っていれば不利になるのは簡単に予想はつく。
「とにかく、今は奴らに追いつく事だけを考えよう」
その後、速度を上げた2人の間には呼吸音のやり取りだけが続いた。
ダンジョンの入口近くにたどり着くまで。
数時間後――魔神ウォペと魔物達は同じ場所に存在していた。
つまり、幸か不幸か、2人は追いつく事が出来なかったという結果になったのだった。
◇◇◇
日は暮れかけていた。
ダンジョンの中だと忘れてしまいそうになるほどに、見事に夕焼けが空を染め上げている。
それはこれから訪れる闇の時間に訪れる、俺とハイネの未来を暗示するかのように赤く紅く朱く。
「間に合いませんでしたね……」
「ああ、腹をくくるしかない。魔神と1000体の魔物を同時に相手する事になりそうだ」
森の陰から眺めると、魔物達が入口のある草原を埋め尽くすように広がっている。
あれと魔神を同時に相手するという事は、ほぼ間違いなく俺達の死を意味する。
このまま傍観したところで、いずれは同じ結果は訪れるであろう事は予想がつく。早いか遅いかだけの話――のはずだった。
「クロスさんっ、おかしいですよ! 魔物達の様子が異常です……というより、あれは何かと戦っていませんか?」
ハイネの言葉の通り、魔物達は何かと戦闘を繰り広げているようだ。
ただしそれが何なのか、ここからでは良く見えない。
「どういうことだ? 俺達の他にも誰かがダンジョンに入ってきたという事か?」
「これほどタイミング良くですか?」
その通りだ。
昨日からの状況から考えれば、魔物達は今日準備を始めたとは思えない。今、冒険者が入ってくる事に対しての準備だというのは無理がある。もしそうでないとしても、いくらなんでもタイミングが良すぎる。
しかし疑問に対しての答えが出るのは予想以上に早かった。
「ちょっと待て。魔物達と戦っているのが冒険者だとしても、あれは圧倒的すぎないか?」
魔物と対峙している側は魔法を使っている。それは理解できた。
ただ魔法力が圧倒的すぎた。
1つ放たれる度に魔物達が数十人単位で消滅していく。
その威力はハイネの魔法とは比べ物にならないだろう。
そして何よりも、たぶん――1人だ。
「ものすごく強いですね……あれなら、もしかすると全部倒しちゃうんじゃないですか?」
「あははははっ! 全部ですか!? それはあり得ませんよ! それは自殺行為です!」
ハイネ問いに答えたのは俺ではなかった。
いつの間にか、俺達2人の背後に立つ1人の男。
そいつは――
「ああ、申し遅れました。私は『フォルネウス』と申します。以後お見知りおきを」
この状況に似合わない、まるでパーティーに参加しているかのような笑顔を浮かべて、その男『フォルネウス』は自己紹介をしてきたのだった。




