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月夜の逃避行

作者: 蘭 雪香

私の中ではとても暗い作品となっております。

なぜこんな暗いものを書いたのか作者の私自身謎ですうふふ。


楽しんで読んでいただければ幸いですっ。

人の理を犯すものだと、誰かが言った。

禁忌。禁断。禍々しい。汚らわしい。

そんな言葉を、人々は私達に羅列する。


そんなこと、私はどうでも良いの。

誰に咎められようが、蔑まれようが、好奇の目に晒されようが、どうでも良い。

ただ、貴方さえ居てくれれば。



「ねえ、何読んでるの?」

何もすることもなく、暇をもて余し部屋の中を意味もなくぐるぐると周っていた私は、ふとぴたりと足を止め、椅子にだらしなく座り、机に頬杖をついて読書に耽る彼に話しかけた。

「南総里見八犬伝」

彼の、いたってシンプルな――読書の邪魔をしたためか、少し不機嫌そうな声色のオプション付きである――返答を聞いて、私はほう、と息をつく。


読んだことは無いけれど、名前は知っている本だった。

確か、日本史の教科書に紹介文が載っていた気がする。いや、現国だったっけ。それとも古典?

それすら覚えていないけれども、まあ、知ってる。


私が何の教科書だったかなあ・・・・・と考えていると、彼が読書を中断して、こちらを見上げ、首を傾げた。

重力に従って、彼の耳にかけていた髪がさらさらとこぼれ落ちる。

絹糸のように艶やかな彼の髪は、女子の私としては憧れで、毎回目を奪われる。


「知ってるの?南総里見八犬伝」

「名前だけは。すごく古いお話だよね、確か」

そう言うと、彼は方頬を持ち上げた。

彼の歪んだ微笑は、彼をより魅力的に見せ、私は一瞬息を止める。

艶やかな髪だけでなく、まるで人形の様に端正な顔立ちをしているだなんて、少し憎たらしい。


「犬とね、人間のお姫様の間に子供が八人出来て、そいつらが悪と戦う話だよ」

彼はそう言って、ふふふ、と笑う。

後に南総里見八犬伝を読んでみて、あれは随分はしょった粗筋だったな、と思ったけれど、当時はただただ、彼の皮肉った微笑みを見つめ、きょとんとしていた。


「人間と犬の間に、子供が出来たの?」

「そう」

「ふうん・・・・・・」

彼が熱心に読んでいる気持ちが、少し分かったような気がした。


「私達と、似てるんだね」

「そう。これは御伽噺だけど」

「私達の世界も、物語だったら良かったのかもね」

くすりと笑って私が言うと、彼は真顔になり、そうだね、と呟いた。

「・・・・・・本当に、そうだったら良かったのに」


全てを捨てた私達を、一体どれだけの人が良しとしてくれるだろう。

誰も居ないかも知れない、そんな奇特な人は。

御伽噺でしか存在しないのかも知れない。

けれども、私は彼に「うん」とは言わなかった。

ただ、ぽつんと言った。


「・・・・私はこのままずっと、歩き続けるよ」

貴方が一緒に居てくれる限り、私は。

「ずっと、ずっと」

誰かの物語でも、夢でもない。これが、私達の現実なのだから。


「ずっとだよ」

「・・・・・うん」

自分に言い聞かせるように言う私を、彼はゆっくりと引き寄せた。

彼の腕の中で、私はゆっくりと目を閉じる。

後悔なんて、ないの。

私は、貴方が居てくれれば、大丈夫。

それだけで、最高に幸せだから。


「大好きだよ、ずっと、ずっとね」

彼の優しい声色が、すうっと空気に溶けて、私の頭に広がる。

閉じた瞳から、一筋の涙がつう、と落ちた。


「ずっと、一緒」

「うん」

「離れないでね」

「うん」

「・・・・・私は、もう・・・・・・・・・」

「うん」

「他には、何も望まないから」

「うん」

「だから・・・・・・」


消えないで、最期まで。

その言葉は、声にはならなかった。

嗚咽が漏れて、上手く喋れなかった。

とてもとても、怖かった。

彼が、そのまま消えてしまいそうで。


彼は、私を抱いているのと逆の手で、私の髪を優しく梳く。

「・・・・・大丈夫だよ」

彼の掠れた声を聞いて、また涙が溢れた。

「・・・・・・うん」


私と彼は、永遠に一緒。

最期まで、離れない。

だって、好きなんだもの。

誰がなんと言おうと、それは変わらない。

「約束だよ」

そう呟いて、目を開ける。


彼の今にもふわりと風に溶けて消えてしまいそうなほど儚げな微笑を見て、私は――。

気だるげにぽっかりと浮かぶ青白い月だけが、窓から私達を覗き見て、不気味に煌々と煌めいていた。



楽しんでいただけましたでしょうか。


皆さまに色々と想像していただける曖昧なものにしたくて、ヒロイン達にあえて名前は付けませんでした。

「彼」がどんな存在かも明かされていません。

正直私も何者なのか分かりません。←

「彼」は異形のもので、儚い存在、ということを意識して描きました。


実は、元々この小説は「理」という言葉を使いたくて見切り発車で何もイメージすることなく書き始めました。

その結果がこのような作品と成って驚いております(笑)


このお話が、皆さまのお気に召したことを願って。



ここまで読んでくださって有難う御座いました!!

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